エピローグ
二十歳になった。
あれから三年の月日が流れた。
悠姫がいなくなってから少し寂しいと感じる時もあったけど、騒がしい友人たちのお蔭か少しだけで済んだ。まあ、今でも鮫島先輩たちは騒がしく、時々遊んだりするときはおおいに困り果てている。
しかし、あの日皆のお蔭で踏ん切りがついたことには、今でも心の底から感謝している。
あれからの日々。色々と頑張った。自分にできることを模索しながら、そのための土台となる学校の勉強を本当に頑張った。
でもその日々の中で、時々は星空に手を伸ばし色々と考える。
今、どこまで近づけただろうかと。
偶に悠姫と連絡は取ったりするが、彼女との会話は実にいつも通りで、あまり変化を感じさせないものだ。
だから、自分が今どの地点にいるのかさっぱりで、時々不安になるときもあった。それでも、どれだけ時が流れ、街並みが変わろうとも、大事な思いを抱き――持ち続けているおかげで見つけた夢を叶えることが出来た。
そして、俺は画家になった。
特に絵に関する才能があったわけではないが、自分が得意としていることを生かして人を魅了できる絵を今は描いている。
これが俺の出した答えだ。
悠姫を追うために――追いつくために――隣に並ぶために出した答えだ。
でも結局の所、追いつけたかは分からない。
手は伸ばした。
走り続けた。
それでも分からない。
だから、これから確かめに行くんだ。
「えっと、出口はこっちか。それで、荷物は何処だ?」
俺はフランスのとある空港に降り立っていた。日本からの結構な長旅だった。いやー飛行機には何度か乗ったことはあるけど、まだあの浮遊感には慣れない。
「あった、あった、さてと行きますか」
俺は荷物を持つと、空港の中にあるカフェに向った。
ふと、歩く途中、外の景色を眺める。外はすっかり夜になっていた。掛けられている時計を見ると、午後九時を過ぎていた。
カフェが開いているかどうか不安だったが、遅くまでやっているカフェなのか店員がいた。カフェの中に足を踏み入れると、まだ待ち人は来ていなかった。なので、俺はあいている席に座り込むと、適当に飲み物を店員に注文した。もちろん、日本語じゃなくてフランス語でだ。
「疲れた~」
長旅による疲れた息を吐きながら、俺は店の奥に引っ込んでいく店員の後姿を眺めた。そして、店員が見えなくなると次に店に飾られているポスターにも目をやる。いくつかのポスターを眺めている中、ふとあるポスターに目が留まった。
それは、演奏会のポスターだった。
別にそのほかにも演奏会のポスターなんていくらでもあるが、そのポスターは俺にとっては特別なものだった。
――駒村悠姫 演奏会
と書かれているのだから。
――大した奴だな。
と素直に思った。
やっぱりアイツは前に進んでいたのだと思わされた。いよいよ、追いつけたのかどうか分からなくなってきたが、それでも俺は背筋を伸ばし、前を向いた。
最大限の努力はやったのだから、自信を持つしかない。
そう言い聞かせながら。
そんな時だった。
「久しぶりだね、さっちゃん」
横合いから懐かしい声を掛けられた。
その声の持ち主はもちろん悠姫である。
俺の待ち人とは悠姫だ。
「よう、久しぶりだな、悠姫」
俺は立ち上がると、悠姫と握手を交わした。
見た目は少し大人っぽくなり、三年前にはまだ残っていた子供らしさと言うのは少しなりを潜めている。けれど、それでもこの握った手の温もりは変わらなかった。
それが妙に嬉しくて――とても嬉しくてたまらなかった。
やっぱり、変わらないものがあるのだと思ったから。
「さて、少し座って休めよ。俺もお前も来たばかりだから、休みたいからさ」
「うん。そうさせてもらうよ」
頷くと悠姫は、俺の目の前に座り込む。
そして、俺たちは色々と話し合った。
最近あったことや、鮫島先輩たちのことを色々と話し合った。
「それで、さっちゃんは私に追いつけたの?」
一通り話し終えた悠姫は俺の顔を見ながら尋ねてきた。
俺は少し頬を染めながら、
「ま、まあ、なんだ。さっきまで色々と不安になってたんだけどさ、はっきり言うよ。追いつけた」
俺は旅行鞄からある物を取り出す。
筒状の形状をしたそれの、先の方の蓋を取り中の物を丁寧に出した。そして、悠姫に見せる。
「これって……」
「ああ、結構有名な絵画の賞状だ。まだ、これ一枚しか取れていないけどさ――追いつけたと思うよ」
「うん、そうだよ。さっちゃんは追いつけた。これ一枚しかって言ってるけど、十分すごいことだよ」
俺は素直に、
「良かった。やっと、追いつけた」
と言葉を漏らした。
「うん。おめでとう、さっちゃん」
「ありがとうな、悠姫」
賞賛の言葉を掛けられると、素直に嬉しかった。
――本当……やっと追いつけた。
自分がやってきたことがようやく、実を結んだのだと確信できた。
「さてと、行きますか」
「そうだね、行こう」
追いついた喜びを噛みしめ、俺たちはカフェを出た。
今回、フランスに来たのは約束を果たすためと、純粋に旅行をしに来た。本当は悠姫とは明日会うことになっていたのだが、すぐに会いたいとのことでわざわざ遅い時間に悠姫には来てもらった。
正直な話、今夜止まる宿までの道が分からないので、道案内にしてもらえることはありがたい。こんな時間だと、バスももう動いていないだろから。
「ねえ、さっちゃん?」
「どうした?」
言葉を掛けてきた悠姫に言葉を返す。
すると、悠姫は満面の笑みを浮かべ、空を見上げながら言った。
「空が綺麗だね」
「ああ、そうだな」
見上げた先では、あの日と同じくらいの輝きで星が光を放っている。
とても綺麗だった。
素直にそう思う。
「どこに行っても変わらないな、星空ってのは」
「だよね」
悠姫は嬉しそうに呟く。
――そうか。
悠姫はこれを見せたかったのか。
どこに居ても変わらない星空を。
俺は笑みを浮かべると、悠姫の手を握った。触れると同時に悠姫も強く握った。そして、お互いに何も言わなかったのに空に向って手を伸ばしていた。
「私もさっちゃんも届いたね」
「ああ、手を伸ばせば届くだ」
悠姫に向って、自分に向って、あの星空に輝く彦星と織姫の星に向って俺と悠喜はそう言った。
願えば叶う。
手を伸ばせば届く。
きっと。
三年前のあの日。
俺と悠姫、それに支えてくれた皆はそれを知っている。
だって、三年前に話したお互いの手をまたこうやって握ることが出来たのだから。
あの二つの星に願えばきっと叶う。
この握った手と手が何よりもそれを証明していた。
終わり
皆さんは星空に向かって手を伸ばしたことがありますか?
僕はあります。
嬉しい時、辛い時、何でもない時でも手を伸ばしたことがあります。
一体何なんでしょうね?
手を伸ばせば何が変わるのか、それは多分気持ちの問題です。
手を伸ばせば、自分はここにいる自分はまだ前に進めると思っているのでしょう。あの星たちのように輝けると。
答えが曖昧ですね。説得力にも欠けると思います。
でも、それで良いと僕は思います。
たとえ曖昧でも、信じられること、願いを祈れる場所があれば良いと思います。
さて、最後なのでこの作品について語りましょうか。
この作品に登場するキャラクターの全員は、今まで私が登場させなかったキャラクターばかりです。
聡と悠姫、修と桃花、淡島先生と鮫島先輩にしても、これまで描いてきたキャラクターとベ―スは一緒でも、ベクトルが違います。
そうですね、同じ海洋生物でもタコとイカが違うと言えば分って頂けると思います。
そういうわけで、全くの別物のキャラクターなのです。
ですが、違うキャラクターを描いていても愛着というの湧いてきました。 本当に良いキャラクターたちばかりです。
キャラクターの話の続きになるのですが、今回の主人子である聡は僕によく似ています。よく、キャラクターは作者の一部が反映されるといわれますが、聡に関して言えば自己投影がほとんどです。
鮫島先輩が言っていたように、物事に対して『傍観者』のように振る舞っておきながら、行動自体は物事の中心にある。僕はこういったことが多いです。友人にも、立ち位置がよく分からないなと言われたことがあります。
なんていうか、視点と行動が反比例しているとでもいえばいいのでしょうかね。
そんな人間です。
でも、最後の彼と僕は違います。
彼は『追いつくから、行って来い』と言いましたが、果たして僕はそんなことを人に向かって言えないと思います。他作品の主人公も同様に、多分背中を押すようなことを言えないと思います。
しかし、そこがこの作品の核でありテーマになっています。
いわゆる、この物語というのは曖昧な距離の正体を知って行動し、その過程で主人公がヒロインの背中を押す物語です。
ですから、これは背中を押し追いつく物語です。
そのテーマが少しでも皆さんに伝わったら作者冥利に尽きます。
さて、この作品はこれで終わりです。
ですが、僕の中にはもやもやとしたものがあります。
せっかくここまで愛着がわいたキャラクターですから、別のキャラクターを主人公にして物語が書きたいなというものがあります。(具体的には桃花を主人公にして描きたいです。実は漠然とプロローグだけはあります)
でも、ここできれいに終わらすべきですよね。多分、『書いちゃえば』と言われれば書いてしまうと思いますが。
ここは、よく考えて結論を出したいです。
さて、もう一つ。
この物語を作ろうと思ったのは、もともと友人が『恋愛ものを作れば』という言葉がきっかけでした。具体的なコンセプトを『七夕』にしたのも活動報告でも書きましたが友人(別の)です。
ですから、友人たちには感謝しなくてはなりませんね。
ありがとうございます。
さて、そろそろ幕とさせていただきます。
最後まで読んでい下さった皆様、そして、途中まで読んで下さった皆様に最大限の感謝をこめて、読んで頂きありがとうございました。
それでは、また別の作品で。




