12 繋いだ掌の
修たちに背中を押されるように、俺と悠姫は最初にお化け屋敷――というより、地形を利用したお化け屋敷へ一番初めに入れられた。
地形を利用したと言うことがどういうことかと言うと、ある程度舗装された木々の生い茂る道をアトラクション化したものと言えば分るだろうか。建物自体をアトラクション化するのではなく、その地域一帯をアトラクション化したと言った方が分かりやすいかもしれない。
正直な話、随分と手の込んだお化け屋敷だと思う。
何と言うか気合いの入り方が違うのだ。一日限りだと言う理由も、何となく分かる。
ちなみに手の込みようは、途中途中に白い煙を漂わせるくらいだ。
「さっちゃん……怖いよ」
「実は、俺も」
お互いに同じことを思いながら、二人仲良く指定された道を歩く。
どこからか口裂け女や魍魎にふんした人たちが、現れることは分かっている。しかし、本物だろうと偽物だろうと、お化けはやはり怖い。
「つーか、悠姫は楽しみにしていたんじゃないのか」
きょろきょろと周りの様子を確かめながら俺は尋ねる。多分、スタッフさん方からは挙動不審な客だと思われていることだろう。
「楽しみにしていても、怖いものは怖いよ」
「あのなあ……」
どこか矛盾したような回答に俺は脱力しかけた。
「わ、私だってお化けが怖いんだよ」
「楽しみにしてたから克服したと思ってたんだがな」
実は悠姫もお化けと言った類は苦手なのだ。
てっきり克服していた物だと思っていたのだが、そうではないらしい。まったく、怖いものを楽しみにするとはどこか矛盾しているように思えたが、それだけ彼女が今回の旅行を楽しもうとしているということだ。
――強情というか勇敢というか……何だろうな。
素直に大した奴だと思う。
「あのさ、さっちゃん?」
「なんだ」
悠姫は上目づかいで、俺の様子を窺うように見てきている。頬を恥ずかしそうに染めていることも分かる。
いつも太陽の輝きを宿す双眸に今は、僅かに言葉では言い現わせれないような思いが宿っているように見えた。近い言葉があるとすれば、懇願や期待と言ったもののように思える。
長年の勘から、それくらいは分かる。
「手をさ……繋いでいいかな?」
「え?」
目を見開き驚く。
単純に驚いているのだ。何か頼んでくると言うことは分かっていたが、想像もしていなかった方向の願いだったためである。
「え、とダメ……かな」
ずっと固まったままの俺に、悠姫はうるんだ瞳とかすれた声で尋ねてくる。オイオイ、そんな顔で見られたら断れないじゃないか。それに、断る理由もない。
「別に良いぞ。ほら」
「うん、ありがとう」
俺は悠姫が差し出してきた掌を握る。
握った掌は温かく、優しさに包まれている感じだった。それと同時に懐かしさも感じる。
昔のことだ。幼かった頃こういう風に手を繋いで、近くの公園まで一緒に歩いた。あの時も、こういった温もりや思いを感じた。
――変わらないものか。
先日、悠姫の事で心が揺らいでいた時、自分が悠姫に対してどんな思いを抱いているのか分からなかった。けれど、こうして手を繋ぐと分かる。
分からないものあるが、こうやって変わらないものもあるんだと。
まあそれはさておき、
「な、なんか恥ずかしいね」
そう恥ずかしかった。
「そうだけどさ、何で言ってきたお前が恥ずかしがってんだ」
悠姫は何かを誤魔化すかのように笑いながら、
「あはは、別に良いじゃん、さっちゃん」
「ああ、そうですか。でもさ、何で手を繋ぐんだ?」
恥ずかしさを紛らわすために尋ねる。
了承はしたものの、そこら辺の理由はさっぱりだ。まあ、尋ねても堪えてくれるとは思わないが。
「もしかして……嫌だった、さっちゃん?」
「そういう訳じゃないけどさ。なんとなくだよ」
「そっか……嫌じゃないんだ……良かった」
「……?」
悠姫の独り言のような呟きに俺は首を傾げる。呟く彼女の横顔は、恥ずかしさから朱に染めている理由とは別に、嬉しさと言ったものが宿っているように見えた。
はて、良かったとはどういうことなのだろうか。
「何でもないよ。手を繋いだ理由はね、こうしてないとさっちゃんに置いてかれそうだからだよ。ほら、さっちゃん怖がりだしね」
「お前もだろ」
「さっちゃんの方が怖がりだよ」
そんなちょっとした楽しい小競り合いを起こしながら、俺たちは歩き続けた。
そして、たびたび現れるお化けに驚きながらもどうにか、ゴール地点である神社へとたどり着いた。
「さてと、ここにこの札を置けば終わりだな」
「そうだね。早く、札を置いて出よう」
「怖いんだろ。まあ、俺もだけどな」
俺は札を神社の賽銭箱の近くに設置されている箱の中に置いた。
そして、そのまま出口に指定されている場所から出ようとした時だった。
「呪ってやるー!」
いきなり神社の本堂の戸が開き、大声を上げながら体中を包帯巻きにした男が現れた。そして、本堂から俺たちを追うように走り出す。
完全に油断していた俺と悠姫は、表情を恐怖一色に染め叫んだ。
『ギャーッ!?』
二人して包帯男に追い駆けられながら、一生懸命逃げた。
その間、手をずっと繋いだままだった。
そう、ずっと。




