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11 あみだくじの結果

「涼しいな~」

 俺は扇風機の目の前に陣取りながらそう呟いた。

 民宿の縁側で本を読む修は、お前なあ……と呟きながら、

「こっちに風が来ないんだが」

「そっちには風鈴があるだろ」

「風鈴で涼めないだろ」

 やれやれ、と呟きながら俺は扇風機から離れる。すると、今度は修の所まで涼しい風が届いた。

「それにしても、女子の方は何やってんだ」

 今こうして民宿の今でくつろいでいるのは俺と修だけである。他女子三人組は、一緒にお風呂へ入っている。

 てっきり民宿だから狭いもんだと思っていたら以外にも広く二、三人程度なら一緒に入れる程だ。それに、木造で檜の匂いが香る。そういう訳で女子三人が先に入らせてと言ってきたので、先に入ることを譲った(もとより譲るつもりだったので一向に構わない)ので、俺と修は次に入るのを待っている最中だ。

「そういえば、こんなものを貰ったんだが、聡」

「貰ったって何を? つーか、誰から?」

 誰からについては完全に想像は出来ている。だが、とてつもなく嫌な予感がするので、クッション代わりになるものが欲しい。詰まる所、心の準備をしたいのだ。

「提供者は淡島先生だ。ほれ、貰ったものはこれだ」

 内心を理解していながら、簡潔に述べる修を睨みつけた、しかし、あまり意味はない事が分かるので、渋々俺は差し出してきたものを受け取った。

 受け取ったものは、商店街の壁に貼り付けられているA4サイズのチラシだった。そのチラシに書かれていることを見ると、

『超絶怖いお化け屋敷! 今夜限りの開園!』

 と大きくタイトルが書かれていた。

「お前が海岸に行っている時に誘われたんだけどさ、行かないか」

 あの時淡島担任が近づいて来ていたのはそれが理由なのか。いやまあ、それは良いとして、

「なあ、俺の弱いものを知ってるか?」

「えーっと、お化けだっけ」

 コクンと頷く。

「俺はそのお化けに対しては弱いんだ。なんでわざわざそんなとこに、自分から向わなきゃいけないんだ!」

 泣くようにそう言う俺を、修は笑いながら見る。その笑みがどういった感情のものなのかは、言うまでもないと思うので割愛する。

「そんなに行きたくないのか?」

「行きたくないな! 行くならお前らだけで行ってくれ!」

 言葉を強くしながら告げる。

しかし、その程度で引き下がる修ではなかった。

 修は額に手を当て、やれやれと言わんばかりに首を横に振る。そして、メガネのレンズの奥の瞳に、性格の悪いものを宿しながら告げた。

 さながらそれは、悪魔の囁きの様だった。

「本当に良いのか? すごく楽しみにしていたぞ、駒村さん」

「うっ……」

 俺は言葉を詰まらせる。

 ――前にもなんかこんなことがあったような……。

 と先日の鮫島先輩とのやり取りを思い出した。

 そして、俺に対してこれは有効だと思った修は、畳み掛けるように言ってくる。

「そうか。駒村さんの思いを無下にすると言うなら止めない。断ってくれ」

「だ~~~~~~っもう! 分かった、行くよ! 行きゃいいんだろ!」

 わしわしと頭を掻きながら、そう宣言する。

「そうか、来てくれるか。いや、良かった駒村さんが悲しまなくて」

 何が良かっただ。奥歯をぎしぎしと言わせながら鋭く睨みつけるも、明後日の方向を見て無視している。

「まったく……」

「お前はやっぱりお化けより、駒村さんに対して一番弱いな」

「そうだな」

 目に見えない生き物より、目に見える悠姫の方がずっと俺は弱いらしい。

 本当に悠姫には弱いな。

 なんでかね。




 ここが砂漠という訳ではないが、夜の砂漠は寒いと聞いたことがある。それと同じ様に昼との気温差の所為でやはり肌寒く感じる。海から吹く冷たい風が肌に当たると、さらに体温が下がる。

 俺はTシャツ一枚で外に出てきたことを、いまさらながらに後悔していた。

 それもこれも、上手く修に脅迫された所為で、お化け屋敷に行くことになったからだ。

 俺は両の手で肌をこすり、体を温める。が、身体をこすっても体温上昇など、微々たるものだ。仕方がなく俺は気を紛らわせるために、懐中電灯を持って前を歩く修に尋ねた。

「まだ着かないのか?」

 もうかれこれ薄暗い海辺の道を、三十分は歩いている。誘ってくれた淡島担任には感謝はするが、近くにバスも駅もないので、もう少し交通の便とかを考えてから誘ってほしい。

「もう少しだ」

「マジか。寒くて敵わないから、さっさと帰りたいんだけどな」

 修の言葉に対して、俺は本音を述べる。それだけ寒いのだ。

「お化けが怖いからじゃないのか?」

「それもあるな」

「さっちゃん先輩って、お化けが苦手なんですね! 意外と子供っぽいところがあるんですね」

「ふむ、確かに意外だ。君の弱点は、駒村くんだけかと思っていたが」

「そうですよね」

 そう言えばこの二人は、付き合いは長いがこう言ったことは話したことがなかった。驚かれても無理はないか。

 つーか、悠姫に弱いと言うのは、皆思っていることなのか。

「まあな。お化けは苦手なんだ」

 まあ、それはもう良いと感じる。

 悠姫や桃花たちの楽しみにしている様子を見ていると、お化けが怖いだなんていうことも馬鹿らしく思えてきたからだ。それに、せっかくの旅行だ。苦手な物でも少しぐらい足並みを揃えることをしないとな、とも思う。

 しかし、足並みをそろえた結果が寒さに震えている訳だが。

「うぅ……寒い」

「だから、上着を着たらって言ったのに。ほんと、さっちゃんは馬鹿だね」

「ヘイヘイ、馬鹿で結構だ」

 適当な返事をする俺に、悠姫はあーだこうーだ、と文句をぶつけて来た。妙にキーが高い所為で頭に響く。

 あーもう、うるさい。

「ふーんだ。そんな態度を取るんだったらいーもん」

「何がだよ?」

 今回はどんな弱みを握っているんだ、と思いながら悠姫を見る。

 悠姫は口の端を持ち上げながら、肩掛けバックの中に手を突っ込み何かを取り出した。

「寒いだろうと思って、これ持って来てあげたのになー」

「おい……それって……」

 眉を眉間に寄せながら、悠姫が取り出したものを凝視する。

 それは薄手のパーカーだった。そして、ただのパーカーではなく、俺が今回の旅行に持ってきたものだ。

 俺は瞼を瞬かせ、首を捻る。

 ――何で、お前が持ってんの?

 と思いながら。

「悠姫……それどうしたんだ?」

 恐る恐る尋ねる。

 その問いに悠姫は即答した。

「え? どうしたもこうしたも、さっちゃんのバックから頂戴してきたんだよ」

「……、」

 ペシン、と無言のまま俺は悠姫の頭を軽く叩いた。叩かれた悠姫は、頭を押さえながら睨みつけてくる。

「さっちゃん、叩くなんて酷いよ。折角、持って来てあげたのに」

「その事には感謝する。けどな、人のバックの中を勝手に漁るな」

 見られるとまずいものはないけど、無断で人の物を漁るのは良くない。が、そんな常識が通じるような奴じゃないことも分かっている。

「親しき仲にも礼儀ありだろ、悠姫」

「親しき仲の人が困らないように持って来てあげたんだけど、さっちゃん」

「ぬっ……」

 痛いところを突かれ、言葉を詰まらせる。

 俺の様子を楽しそうに見る悠姫。彼女の表情は見たいものが見れた顔で、実に満足気だった。

 そんな彼女を見ているとさらに怒りが増すが、それとは別に何故だか嬉しさもわいてきた。

悠姫が喜んでいる。からかわれていることは分かっていても、喜んでいる姿を見ると嬉しいと思う。明確な理由は分からないが、多分悠姫が笑っているからだ。

なんくなくでも、そう思える。

「悠姫」

 さっきまで怒りをどこかに置いた俺は、悠姫の名を呼ぶ。

「まあ、なんだ。今回はお互いさまってことで、目を瞑ってやるよ。だから、そのなんだ……ありがとうな」

「うん。どういたしまして」

 そう恥ずかしがりながらも言葉を交換して、俺はパーカーを受け取り羽織った。

 少しだけ檜が香る。

 そして、寒さが和らいだ。




「さてと、二人ずつ分かれなさい」

 あれから十分ぐらい歩いてから、俺たちは目的地に辿り着いた。その先で淡島担任は俺たちの輪の中に、自然に混ざりながら言った。

「なんで、淡島先生が仕切ってるんですか? あと、何でここに居るんですか?」

 思わず連続でツッコミを入れてしまう。

 俺の問いに淡島担任は、それがねーと口を濁しながら答えた。

「ここのバイトもやってたんだけど、あまりにも本気でお客を驚かすからいいよって言われちゃってね、暇なのよ」

「やっぱり、ここのバイトやってたんですか」

 やっぱり、そう言うことだったのか。一円でも多く稼ぎバイト代をはずんでもらう為に、俺たちを呼んだのだ。

 まったく、恐ろしい人だ。生徒まで利用しようとするのだから。いや、まあわかってることなんだけどね。

「呆れましたよ、淡島先生」

「さっちゃんに同意するよ」

「俺もだ」

「私もです」

「そうだな、松原くん」

 そんな反応に淡島担任は、酷いわねぇと呟きながら、

「それは二の次、一番は旅行に着た教え子たちに楽しんでもらいたいから誘ったのよ」

 ちょっと待て。二の次ってことは、そういった思いもあったってことだよな。この人良いこと言いながら、認めてるよ。

 などと考えていたが、いつも通り無駄だと思うので黙っておく。

 まあ、旅行に着た俺たちに楽しんでもらいたいという気持ちは嘘ではないだろうから、無粋な真似はよしておこう。

「でも、どうやっても分かれる? じゃんけんか?」

「いや、心配するな。あみだくじを作ってきたから」

 用意周到な奴だな、と素直に思う。実際、修はこう言ったことに対しては手際が良い。だから俺は、近江祭の準備で手が回らない時には修にクラスのことを任せている。

 クラスには他にも付き合いの長い奴はいるが、修はまた別格だ。話しや趣味で気も合うし、俺にとって修は一番の親友だ。

 ホント、頼りになる奴だよ。

「さて、名前を書いていってくれ」

 そう言われ、俺たちはあみだくじに、順に名前を書いて行った。

 最後に修が名前を書き、折り畳んでいる部分を開く。そして、修は開いた部分に懐中電灯の光を当て、ペアの名を呼んだ。

「えーっと、俺と桃花のペアと淡島先生と鮫島先輩ペアで、聡と駒村さんのペアだな」

 修と桃花は別として、淡島先生と鮫島先輩のペアは異様だ。ある意味の強者同士のペアだもんな。

 どうやらペアである悠姫も同じようなことを思っていたらしく、難しい顔をしていた。

「そう思うよな」

「うん」

 クスクス、と笑い合う。

 変な所で以心伝心するもんだな。

「よろしくな」

「こちらこそ」

 俺と悠姫はそう言葉を交換して、お化け屋敷の受付へと向かった。


「細工が上手ですね、真鍋先輩。まあ、そのおかげで上手くいったんですけど」

「まあな」

「君はそう言うことに関しては天才的だな」

「ほんとよねー。さすがアタシの教え子よ」

「どうも。お褒めいただき光栄です」


 そんな声が聞こえてきた。

 でも、何の事だかさっぱり見当がつかなかった。

 はて、細工とは何のことだろう。

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