第6章
五十嵐先輩は私に、一緒に住んでくれないかと頼まれた。
そして、一緒に今は住んでる。
私が壊れないようにと、毎日抱きしめてくれるんだ。
「理沙、変わってきたね。」
そう言われたのは、一緒に住んでから、1ヶ月たった日だった。
「そうかな?」
「うん」
五十嵐先輩の笑顔をみていると、自然に笑顔になれるんだ。
気づいたらまた、私は恋をしていたんだ。
「理沙、今日学校で何かあった?」
毎日きいてくれる、優しい先輩。
「ううん、何もないよ。」
でも、優しいところは、亮も同じだったから‥どこか、まだトラウマはある。
もちろん、私は女子から嫌われていた。
「何、あの子五十嵐先輩といるからって調子にのってるよね。」
「そうそうッ!母親死んだから、五十嵐先輩同情でもしてんじゃないのー?」
ケラケラ笑いながら通り過ぎる女。
“同情”その言葉は、私の深い深い闇の心に突き刺さったんだ。
「ちょっと。」
五十嵐先輩が、さっきの女に話しかける。
「い、五十嵐先輩!!」
「お前らさ、自分の事大好きみたいで、バカ丸出しだねっ」
笑いながら五十嵐先輩は続けるんだ。
「何も知らねえ奴が喚くな。心ブス。」
そう言い放つと、そのまま五十嵐先輩は、どこかへ行ってしまった。
女たちは怒りながらも、図星をつかれたように去っていった。
私を気にしてくれたのかな?
そんなわけないよね。
昼休み。
私は屋上へ向かったんだ。
「五十嵐先輩!」
「待ってたよ、理沙。」
とても眩しい笑顔を見せてくれる五十嵐先輩は、どこか遠い存在のような気がした。
「理沙ー、」
「なんですかー?」
「今度遊びに行こーよ」
「いいですね」
わたしは先輩に笑顔を見せたんだ。
その時はしっかり心から笑えた気がした。
「やっぱ理沙は笑顔が一番だね。」
わたしの何十倍もの眩しい笑顔を向けてくる先輩。
「じゃあ理沙、明日どこいきたい?」
「え、映画!」
わたしがそんな事を言うと思っていなかったのか、五十嵐先輩は驚いた顔をしたんだ。
「じゃあ、明日理沙んちに迎え行くから。」
「うん」
久しぶりだ。遊びに行くのなんて。
その日の帰り道は、いつもと足取りが違った。
――‥ピンポーン
ガチャッ
「おはよう理沙。」
「おはようございます、五十嵐先輩。」
「あー、敬語とかいらないからね?」
「は‥うん!了解」
そういって、先輩のバイクに跨がった。
映画館に着くと、あまり人はいなかった。
「なにみる?」
「感動するやつ!」
「理沙泣くじゃん。」
「絶対泣かない!」
上映後、
「ユキナとマヤがあああ。」
「ほら、やっぱ泣くじゃん、理沙。」
「ユキナが‥ユキナが死んじゃったんだよ?!」
「フィクション」
「ユキナああああああ」
「たくっ‥」
やれやれ、といった表情で、五十嵐先輩は背中をさすってくれた。
少し落ち着くと、
「理沙、お腹すかない?」
「すいたー。」
「そこのレストランでいい?」
「うん。」
わたしと五十嵐先輩は、一緒にレストランへ入っていった。
「コーヒー2つと、ミートソーススパゲティ、あと、理沙なにたべる?」
「カツ丼‥。」
五十嵐先輩はクスッと笑った後、
「以上で。」
「では、ご注文を繰り返します。コーヒーがおふたつ、ミートソーススパゲティがおひとつ、カツ丼がおひとつ、以上でよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。」
「カツ丼て」
「今はそんな気分なのー!」
「はいはい」
五十嵐先輩は、あきれたように笑っていた。
食べ物が食べ終わると、五十嵐先輩と、レストランを後にした。
自動ドアを出た瞬間だった。