第5話 戦いの火蓋
「す、すご……!」
皆と酒を飲んだ次の日、この町の商人ギルドの受付に申込書を提出した。
そして時は流れ当日、とある商人が主催するというバトルロイヤルの会場に来てきた。
人がたくさんいるが、このうち多くは参加者ではなく観客だ。
観戦するだけでなく、誰が勝つか賭けることもできるようだ。
観客は、先に詳しいルールを聞いて、賭ける者を決めているのだという。
気絶など、戦闘不能になったら負けのこの戦い。
彼らは俺たちの見た目を知らないまま賭けているが、誰に賭けるかを決めるにあたり、種子をいくつ食べたかと、種子による異能の種類が戦闘向けであるかどうかが重視されているので、フィジカル面が分からなくても賭けられるらしい。
つまり、フィジカル面で優れた相手にも、異能で逆転できる可能性が充分にあるということだろう。
──俺はまだ、1つしか食べてないけど……。
ロザリーは、『私も1粒しか食べたことがないけれど、大抵1粒だけだから大丈夫よ』と言っていたけれど。
フィジカルでも弱いのに、種子も1粒で、とてもじゃないが安心できる状況ではないだろう。
人の多さにも圧倒されて、焦りと緊張感は強まるばかりだ。
ここにいる観戦者たちは、誰に賭けたのだろうか。
「それにしても心配だな、賭けている観戦者と戦う参加者が一緒になるって。トラブルとか大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょう。見なさい」
ロザリーが指し示す先を見ると、青い服を着た者が何人もいることに気がついた。その青い服に見覚えがあった。
「あ、商人ギルドの……!」
「商人ギルドから派遣されているようね。運営関係者がこんなにもたくさんいるのだから、すぐに対応できるでしょう」
「うーん、この前みたいな人に絡まれなければいいな」
「確かにね。まぁあんな物騒な者はそう多くないでしょう、面倒事に巻き込まれないように気をつけましょう」
奥には古そうな円形の建物が見える。あそこで戦うようだ。
辺りにはテントが並んでいて、ついついきょろきょろしてしまう。
「ここで皆さん、飲食をしたり、休憩したりするんですよ〜」
「うわっ!?」
「えっ」
突然後ろから肩をぽんと叩かれて話しかけられ、ふたりして反応する。
何事かと思ったら、サーニャが微笑みながら立っていた。
「あらあら、びっくりさせてしまいましたか。
私も露店のスタッフとして参加しておりまして、ハーブパイとハーブティーを売っているんですよ〜。よかったらどうぞ」
「まさかサーニャさんもいるとは思わなかった……」
「朝早くに家を出たと思ったら、そういうことだったのね」
「あらあら、お伝えするのを忘れていました〜」
──伝え忘れることある!?
にっこりと微笑まれ、誘われるがままに彼女のテントへふらりと足を運ぶ。
テントの中には、先程と同じ青い制服──商人ギルドの方々もいる。
さまざまなメニューがあり、よくわからないままハーブティーのうちのひとつを頼む。
「闘技場近くには練習場になっているテントもありますから、ぜひ行ってみるといいですよ〜。参加者なら誰でも入れますから」
そう言いながらサーニャが渡してくれたハーブティーを、礼を言って受け取りながら考える。
「そっか……行ってみようか」
「そうね。まだ時間はあるのだわ」
少し休憩してから席を立ち、他のテントより一回り大きなテント──練習場へと向かった。
「とはいえ、勝負前にあまり切りたくないんだよな……」
「まずはこの短剣を使いこなす練習からすれば良いのだわ」
俺は、ロザリーの作った氷の短剣を、藁の的に刺す。
攻撃された時にどのように避けるかを考え、跳ぶ動きなんかも練習していた。
大きめにバックステップすると、どんっと背中に衝撃が走る。
「痛ってぇ!」
「あっ、すみません!」
慌てて振り向いて謝罪すると、長身の赤髪オールバックの男と、160cm台前半くらいのやや小柄な金髪の男がいた。
前者は深紅の斧を背負い、後者はロングソードを背負っている。
「お前ぶつかってんじゃねぇぞ」
「やめろギル」
金髪の男が静止すると、ギルと呼ばれた赤髪の男は舌打ちした後に黙る。
「も、申し訳ないです!」
「……悪かったわ」
ロザリーも一緒に謝ってくれた。
「構わない。これは元からよく吠える」
「てめぇこれって誰のことだよ!」
「お前以外に誰がいる。行くぞ」
「ってめ、覚えてやがれ!」
──あ、嵐のようだった……!
「ごめんロザリー!一緒に謝らせてしまって」
「ま、仕方ないわ」
──ああああぁぁ俺何やってるんだ!!
──それに、こ、この人たちとも戦うんだよな?
──俺なんかが生き残れる気がしない……!
──でも、後には引けない……!
「お、俺、やってやる!少しでも足手まといにならないように!」
「そんな勢いよく言うなら、もう少しかっこいい台詞になさい。──勝つわよ」
ロザリーは、呆れながらも小さく笑う。
俺は、自信に満ちたその台詞に、ほんの少し頷くだけで精一杯だった。
「ここで、勇敢な参加者の紹介です!」
青い制服を着たギルド職員が、参加者たちの紹介をしている。
──み、みんな強そうだ……!
──勢いで参加しちゃったけど、俺なんかやっぱり場違いだよな〜!
──にしてもロザリーはすごいなぁ、堂々としてる。
「9番!リンゼル・ギルバートペア!」
指し示されたのは、先程のふたりだ。
「最後10番!シューマ・ロザリーペア!」
俺たちが指し示され、拍手が鳴り響く。
俺は高揚感と緊張が入り混じり、それを隠すようにへらりと笑って小さく手を振る。
「それでは詳しいルールを発表いたします!
これから各ペアに、シールを6枚ずつ配ります!」
手のひらの半分くらいのサイズの、星のシールが配られる。
「こちらを、1名につき3枚ずつ、必ず背中に貼ってください!
このシールを他ペアから奪い、より多くのシールを持っていたペアの勝ち!
ご自身が奪ったシールは、ペアの背中に貼ってください!」
ぺたぺたとお互いに貼り合っていく。
ロザリーは俺の背中の低めの位置にぺたぺたと貼った。
「どこに貼ればいいんだこれ!?」
「あなたはどこでもいいわ、好きな位置に貼りなさい」
そう言われ、ロザリーの背中に、翼を避けてぺたりと貼る。
「失格行為は、背中以外の位置に貼り付ける・参加者以外に暴力を振るう・空を飛ぶ・地面に潜る・闘技場から出る・客席に立ち入ること!
力の種子による能力は存分に使っていただきたいのですが、差が出すぎては面白くありませんからね!空を飛ぶことと潜ることは、禁止とさせていただきます!」
──空を飛ぶの、禁止なのか!
ロザリーをちらりと見ると、少し嫌そうではあるものの、
「仕方ないわね」
と小声で呟いた。
ルールや失格行為など、紙には詳しく書かれていなかった。
手書きだし、俺が元いた世界のように丁寧に記載したり、注意書きを小さな文字で書いたりはしないものも多いのだろう。
「また、気絶や死亡など、戦闘不能状態になったら脱落、ペア両名が脱落した時点でそのペアは敗北とします!」
これは書かれていたことだが、改めて"死亡"という言葉を口頭で聞かされると、その重みに息を呑んでしまう。
「脱落時点で残っていたシールは我々が回収し、脱落させた方のものにはなりません!
1位のペアが複数いらした場合は延長戦となりますが、制限時間までに誰のシールも剥がれず、かつ脱落者がでなければ、全員敗北で優勝者は無しとなります!
そのため、シールをどんどん奪ってくださいね〜!」
──そっか、なら様子を見つつ、誰も攻めなかったら俺たちが攻めなきゃいけないってわけか!
ロザリーを見やると、クールな真顔でまっすぐ前を見ていた。
慌てて俺も背筋を正し、まっすぐ前を見る。
──そうだ、俺はやるんだ!
──種子がほしいのも、俺の誇りを掴むのも、俺ひとりじゃない。
──契約したからとはいえ、ここまで助けてくれたロザリーが俺のペアなんだ。
──だから俺は、もう後に引けない。
背中が、燃えるように熱くなった気がした。
「さぁ、それでは皆さん、準備はいいですか?
開始まで……5!4!3!」
客席もまた、カウントダウンを唱える。
数字が減るたび、俺の心拍数は増えていく。
「2!」
「1!」
──俺は、やらなきゃだめだ!!やってやる!!
「スタート!!」




