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無い内定、異能有り〜没落悪魔と自罰の力〜  作者: 有明アンリ


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第2話 力の種子と異世界と

「それにしても、異世界に行けば能力をもらえるのか?」

「それについては説明するのだわ。そうね、まず何から説明しようかしらね」


そう言って、ロザリーは少し考えた後、話し始める。


「まず、あなたの世界にはなくて、こちらの世界にはあるものがあるの。そのうちの一つが、"力の種子"よ」

「力の種子……?」

「えぇ。どのような者にも、何かしらの能力がある。

ただ、それに本人が気づけず育てられなかったり、活かすには小さな力だったりする場合もしばしばある。

また、あなたが今いる環境においては、使いどころがあまりない──という場合もあるでしょう」


ロザリーは続ける。


「そんな多くの者にとって救いとなったのが、力の種子。

これを食べることで、食べた者の能力・素養を土壌として芽吹き、強化や拡大を行って、食べた者をいわゆる異能持ちにしてくれる」


俺にとって突拍子もない話だが、ロザリーは淡々と説明を続ける。


「たとえば暗記と美術の能力が土壌となった者は、手をかざせば瞬時に文字や絵、さらには目の前の景色まで記憶できるようになったらしいわ。

他にも、気質や知力の高さなどの"魔法適性"が土壌となった者もいる。

その者は、魔力と魔法知識を得られ、人間なのに道具を使わずにあらゆる魔法が使えるようになったとか」


──魔法とかもあるのか。ますますとんでもない話だ。

──それに、俺なんかではきっと、そんな強い力は出ないだろうな。


ロザリーは、じっと俺の目を見つめていた。

俺の小さな黒目など、彼女のアーモンド状の大きな瞳に呑まれてしまいそうである。


「ていうか、身体の中に植物が生えるのって、その、大丈夫なのか……?」

「力の種子が生まれたのは10数年前。それの効果は次第に広まり、今では、これから行く『ロストリア王国』という国の半数以上の人間が食べたことがある。食べ過ぎにだけは気をつけないといけないけど、数粒食べたって問題ないわ」

「そ、そうなのか……?」


ロザリーは、こくりとうなずく。


「あなたがまだ気が付かなかったあなたを元に、種子が育つ。

あなたが気づいていなくても、あなたが育てていなくても、この種子が芽吹けば、それだけであなたは強くなる。食べる価値はあるでしょう?」

「それだけで……で、でも、ほとんどの人が食べてるなら、

俺が食べたって向こうの世界ではみんなと同じになるだけじゃないのか?」

「でもあなたはたとえ今何もなくても、優れた土壌、つまり素養を持っている。あなたが種子を食べれば、更なる種子や富、地位や名声を手に入れられる可能性が、他の方よりも高い。

──だからこそ、この本に視線が誘われた」


たしかに、この本を選んだのは俺だ。

だが、そんなまさか。


「種子を食べることに意味や価値を見出すような素養のある者こそ、よその世界からこちらの世界に来る意味がある。

だからこそ、素養のない者や、私たちが求めていない者は、この本を発見しにくいようになっているのよ」


──俺なんかに、地位や名声が?

──もう馬鹿にされなくていいのか?もう何の役にも立たない存在ではなくなるのか?

──もう、否定に苦しまなくていいのか?


「ねぇ、力を持ってやり直したいのでしょう?誇りを持ちたいのでしょう?

ならばさっさと契約して、私に魂を捧げなさい。

そうすれば、能力も新しい環境も、あなたにあげる。

それでもなお、願いは残り1つある」


俺は思わず黙ってしまう。

俺はきっと愚かなのだろう。分かっていても、俺は──!


「……分かった。契約、する!」

「話が早くて素晴らしいわ。じゃ、契約しましょ」

ロザリーは、俺が契約することが当然かのようなさらりとした反応で終わらせ、

手を虚空にかざして出した契約書と黒いペンを、俺に差し出した。


「さ、書きなさい」


契約書はよくわからない文字で書かれていたが、不思議と意味を理解することができた。

俺はごくりと唾を飲み込み、震える手を心の中で押さえつけてサインをする。


「こ、これで、いいか?」

「ふむ……良いでしょう。契約成立ね、シューマ。あなたの魂と引き換えに、願いを叶えてあげる」


ロザリーは黒手袋をつけた手をかざす。すると、紫の魔法陣が俺の下に描かれる。


「さあ、この世界ともお別れよ。準備は良いわね?」

「あ、あぁ!」


覚悟を決めたのか、考えることをやめたのか、自分でもわからぬまま勢い良く返事をしたその直後、魔法陣が発光し──

俺は、光に包まれ、呑まれていった。




「なっ……!?」


俺は思わず、目を見開いて辺りを見渡していた。


──ここがロストリア王国か……!?


「ここはロストリア王国。その中の、私が拠点としている、人間たちの町よ。

ふふん、あなたからしたら新鮮な景色かもしれないわね」

「あ、あぁ、めちゃくちゃ新鮮だ!」


あたりには大きな運河が広がっていて、手漕ぎ船や帆船が、人や荷物を運んでいる。

運河沿いであるこの石畳の道には、レンガ造りの建物が並ぶ。遠くを見れば丘があり、丘の上には何やら荘厳な建物が建っているように見える。


「ほんと、すげぇ〜〜!はは、本当に来ちゃったよ俺……」


隣を見ればロザリーの角は、黒い無地のキャスケットで隠されていた。

氷の翼はそのままのようだが、いつの間に帽子を被ったのだろうか。


体の感覚に違和感を覚えてふと下を見れば、

俺の服もまた、黒いシンプルなチュニックに変わっていた。

ワインレッドのズボンと茶色いブーツも身にまとっていて、全く覚えのない服装になっている。


「気がついたかしら。これは私からのプレゼント。

今後この世界で活動するために、目立たなさとかっこよさも考えて選んであげたのよ、感謝なさい」

「なるほど……!そうか俺本当に新しいとこに来たんだな!この服で新生活を始められるんだな!すごいな、ありがとうロザリー!!」

「えっ、べ、別に構わないわ」


俺がはしゃいでいると、ロザリーは少し困った様子で目を逸らす。


「そ、そんなんで照れるの?もしかして案外ちょろ」

「うっうるさいわね!それより──少しこちらへ」


ロザリーは一瞬の動揺の後冷静に戻り、翼をたたみながら運河から離れ、人気のない細い路地へと俺を誘導する。


「な、なんだよ」

「これをあなたに」


ロザリーは小声でそう言って、俺に、何かの種をこっそりと1つ渡す。


「約束の、力の種子よ。これを丸呑みなさい。そうすればこの世界で、あなただけの力が目覚める」


真っ黒で細長い種だ。形はひまわりの種に似ている。

俺はそれを受け取り、まじまじと見つめながら困惑混じりの笑みを浮かべる。


「こ、これがそうなのか!ていうかなーんでそんなこそこそとしてんだよ」

「早く。奪われる」

「奪われるって」


人気のなかったはずの路地で、ずんずんとこちらに近づく足音が聞こえ、俺は後ろを向く。


「うおっ!?」


俺よりずっとガタイのいい大男に掴まれそうになり、

俺は咄嗟に種を握りしめつつかわす。


「怪しいと思ってついてってみれば、やっぱりアレ持ってやがるだろ。寄越せ!」

「くっ、邪魔が入ったのだわ」


俺は慌てながらも後ろに跳んで距離を取る。

突然の敵意に俺は、逃げるしかできなかったのだ。


「飲んで!!」


少し前まで落ち着いた、どこか冷たさを感じる声だったロザリーが、今は大きな声で必死に訴えている。


「させるか!!」

「ぐっ!!」


慌てて種子を口に含んで飲み込んだ直後、それを止めようとした男のパンチが頬に飛んできた。

痛みに呻きながら、俺は地面に倒れ込む。

顔面からも、地面に擦れた腕からも痛みが走る。


「くそっ!吐き出せ!!」


地面に伏した俺を蹴る大男の脚に、ロザリーが黒手袋をつけたまま手をかざす。

氷の翼は勢いよく開かれ、手には水色の淡い光をまとっていた。


「ちっ」


男の下半身がすぐさま凍らされる。


「お前も宿り人か、ガキ」

「えぇ。そう珍しいことではないでしょう」


そう言ってロザリーは、男の下半身に触れる。


「私は凍らせたものを操れるし、破壊もできる。

次私たちに絡んだら、私はあなたをすぐに凍らせて破壊する。覚えておきなさい。それじゃ」


ロザリーが俺を引っ張って起こして立ち去ろうとすると、


「ハッ、でも所詮1粒くらいしか食べたことがないだろう!

っはは、はははは!」


男は素手で簡単に脚の氷を握りつぶす。

鋭く尖った氷だが、全く痛そうにしていない。


「なっ!?」


俺は思わず声を上げて隣のロザリーを見やると、忌々しげな顔をしていた。


「俺の皮膚はこの程度ではびくともしねぇ!多少の痛みなんざ感じねぇし、やり返せるだけの力もある!

俺は"狂戦の宿り人"だからな!!

しかも3粒も食ってるからパワーアップしてんだ、そこらの奴に負けるわけねぇんだよ!!」

「大丈夫、仕留めるわ」


ロザリーが氷の大鎌を出し、跳躍。

男はそれを掴もうとし、ロザリーは氷の翼で飛んで避けている。

俺がいなければ、俺なんか見捨てれば、飛び去れるだろうに。


一方の俺は、何もできない。

異世界に行ったって、俺はただへらへら笑って、

異世界の町に呑気に驚いて、蹴られたら地面に伏すだけの──

何もできない、弱い男。


──俺のせいで、お前のせいで、動け、動けよ、何で動けないんだよ、お前のせいで、お前のせいで!!


思考未満の何かが凄まじい勢いで脳内で流れ、吐き気をもよおすほどだ。

早くこれを言葉にしたいが、そんな余裕があるはずもなく。


恐怖と惨めさが心を支配したその時、何かが変わったのを感じた。

頭が覚醒し、クリアになる。体内に何かが根付き(・・・)、留まる感覚。


──俺は、何もできない?

──本当に(・・・)


そんなことが浮かんだその時、俺は痛みを感じながら立ち上がり、反射的に、血が出た腕を突き出していた。


シュバッと音が鳴り、俺から出た深紅の紐が大男の両脚を拘束した。


「な、なんだこれ!?なんかすごいの出た!?」


反射的に動かしただけだったので、俺自身が誰より驚いてしまった。

大男は突如足を取られたために、びたんっと転んでしまう。

俺が呆気に取られていると、


「今のうちに逃げるわよ!」


ロザリーは翼を水色に淡く光らせ、低く飛びながら俺の手をつかむ。


「待て!!」


大男の声が聞こえ、俺たちは振り返らずに逃げ続けた。

手繰られないよう、俺は手で紐を切る。


「はぁ、はぁ、これが、俺の、力……っ」

「あなた体力なさすぎでしょう」

「走ってねぇ奴に言われたかないけどな!て、てか、はぁ、はぁ、なんか走ってる疲れだけじゃなくて、ふら〜っと、すんだよなぁ」


息を切らしながら話していると、ロザリーが立ち止まる。


「な、なんだ!?」

「あぁ、あなたの種子がどのような力になったのか、鑑定してもらうべきね」

「鑑定!?まだ移動するのかー?俺もうふらっふらだ〜」

「早く行くわよ」

「ていうか、誰に見てもらうんだ?」

「この町を主な拠点としている、力の種子の知識も持つ

──園芸家よ」



「ん〜、今日は何かが起こりそうな予感がしますね〜」


小さな小屋の前の大きな庭で、たくさんの花に水をやる。


「この花……もうすぐ咲きそうですね」


どうかその『何か』が、良い出来事であるようにと願いながら。

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