第55話 水瀬とデート 買い物編
ブックマークありがとうございます!
更新の励みになります!
昼食を取り終えた俺たちは、近くにあったショッピングモールへと移動してきていた。
さて、ここから美彩への誕生日プレゼント選びに本腰を入れるとしますか。
「お兄さん、美彩さんはどんなプレゼントが喜ぶと思いますか?」
隣で歩く水瀬が問うてくる。
その問いに対して、俺はサラッと受け流すように応えた。
「さあな、プレゼントならなんでも喜ぶんじゃないの?」
「もう、もう少しちゃんと考えてくださいよー」
「とは言ってもな、俺が何をプレゼントしても喜ぶんだよ、アイツ。だから物でも食べ物でもなんでも喜ぶんじゃねぇの?」
「あぁ、美彩さんってブラコ……。んんっ、美彩さんってお兄さんのこと大好きですもんね」
「言い直さなくていいから。というか、もうほとんど言ってるし」
確かに、美彩はブラコンだ。
それは俺が断言する。
でも改めて第三者、しかも妹の同級生から指摘されると、なんかこそばゆいな……。
咳払いをして、俺は脱線した話を本筋に戻す。
「だから、俺のプレゼント選びは参考にならないんだよ。むしろ、水瀬さんの方がアイツの欲しいもの知ってるんじゃないのか?」
「知らないから、こうしてお兄さんを誘ったんじゃないですかー。第一、美彩さんはあまり自分のことを話さないですし……」
「……」
今のは配慮に欠ける質問だった。
昼食を取る前に話をしたばかりなのに、どうして俺はこうも余計なことを口にしてしまうのだろうか。
とりあえず、水瀬に謝ろう……とした、その時だった。
胸の奥で、なにかが揺らいだ。
似たような感覚をどこかで……あぁ、そうだ今日花音たちと帰っていた時に感じたあの感覚だ。
嫌悪感とも安心感ともつかない、あの曖昧な感覚。
でも、今回は違う。
嫌悪感でもなければ安心感でもない。
……不安感。
そう、感覚は似ているのに、そこに住まう感情は全くの別物なのだ。
だけど俺は、未だその正体に辿り着けないでいる。
「……お兄さん? どうかしましたか?」
気がつけば、隣で歩いていた水瀬の足は止まっていた。
どうやら、考えることに耽てしまったらしい。
「あぁ、なんでもない。それより、悪かった。さっきのは配慮に欠ける質問だった」
「別に気にされなくても大丈夫ですよ! 美彩さんからお兄さんがノンデリカシー人間だって聞いてますから!」
「うっ、妹よ……」
自分のことは何も話さないのに、兄のことはペラペラと……帰ってまだ家にいるようなら説教コースだな。
「でも、大丈夫です——————」
水瀬はそう言って、聖母のような微笑みを浮かべながら言葉を紡いだ。
「——————本当に困った時は、なんとかしてくれる頼れる兄だって。そう美彩さんから聞いてますから。だから、困った時は全力で寄り掛からせてもらいますね!」
「…………そうかよ」
「はい、そうします」
俺は頬をかきながら水瀬から視線を外した。
……まあ、今回は説教コースはなしにしてやろう。
そして俺たちは、再び歩み始める。
「ところで、お兄さんは今までどんな物を送っていたんですか?」
「お菓子だな。アイツ、死ぬほどお菓子大好きだから」
「なるほど、美彩さんはお菓子が大好きなんですね……」
うわ言のように呟いているが、きっと心のメモにでも取っているのだろう。
本当、友達に恵まれて良かったな。
「食べ物以外をプレゼントしたことはないんですか? そうですね、例えば……」
水瀬が言いかけて、俺たちは一つの店に視線が止まった。
——————ランジェリーショップ。
女性層をターゲットにした店が、ちょうどそこにあったのである。
彼女は酷く慌てた様子で、俺の前に割り込んできた。
「ち、違いますっ! 違いますからねっ!? たまたまそこにあっただけで、別に深い意味はありませんからね!?」
「分かってるから、ちょっとは落ち着けって。てか、水瀬さんが慌てるのおかしくない? 慌てふためくなら、むしろ俺の方だろ」
「…………言われてみれば、確かにそうですね。なんで私が慌てているんでしょう」
「だろ? ちなみに下着はプレゼントしたことないぞ」
「でしょうね!」
顔を真っ赤にしながら、水瀬が一人で歩いて行ってしまう。
言わずもがな、俺はその背中を追いかける。
隣に並び、しばらく言葉を交わさないまま歩み続けた。
それからどのくらい経っただろうか。
ふと、彼女が立ち止まった。
「なんか、良い店でもあったか?」
「い、いえ! ちょっと気になったと言いますか……」
そう言って、水瀬は興味ありげに店の中をマジマジと見ていた。
俺も倣って店の中を見てみる。
どうやら、俺たちが立ち止まったのはハンカチ専門店の前だったらしい。
てか、今時そんな専門店とかあるのな。
「……とりあえず、寄ってみるか?」
「え? 良いんですか?」
「今日はプレゼント選びに来てるんだろ? だったら、俺のことは気にせず別に好きに入ればいいんじゃねぇの?」
「いえ、そういうことじゃなくて」
「そういうことじゃないのかよ」
変なこと言った俺が恥ずかしい思いしただけじゃん。
そんな俺のことなんか気にせず、あっけらかんとした様子で彼女が問うてきた。
「美彩さんへのプレゼントでハンカチって、どう思いますか? やっぱり、変ですかね……」
「別に、気持ちがこもってればプレゼントに変とかないだろ。それに——————」
そして俺は、水瀬よりも先に店に向かって一歩踏み出した。
「——————アイツは、貰ったプレゼントをぞんざいに扱う奴じゃねぇよ」
「……そうですね」
そして俺たちは、ハンカチ専門店へと入っていく。
品揃えが良く、水瀬から美彩へのプレゼントは意外にもあっさり決まった。
計四つ選んでいて、その内の二つは色違いだった。
……この件は何も触れないでおこう。
多分、いやきっと、そういうことだから。
購入を終えて店から出ると、彼女は深々と頭を下げてきた。
「付き合ってもらってありがとうございました。助かりました」
「一々お礼を言うことじゃないだろ。それに、俺は何もしてねぇよ」
「いえ、そんなことありませんよ。一人だったらあれこれ悩んで、何も決まらないまま当日を迎えていたと思いますから」
水瀬が呆れるように笑う。
本当の本当に、友達に恵まれて良かったな。
「次はお兄さんの番ですね! どこに行くか決まっているんですか?」
「あぁ、毎年行ってるところがあるんだ。品揃えも豊富で今年もそこで選ぼうかなと」
「そうなんですね! ぜひ私にも教えて欲しいです!」
「……見て驚愕するなよ?」
「どんなところへ連れて行こうとしてるんですか……」
そんな他愛もない話をしながら、俺たちは再び歩み始めた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今回とも、よろしくお願いいたします!




