第54話 水瀬とデート 昼食編
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やばい、死にたい……。
ひょっとしたら俺は、二度とデートをしない方がいいのかもしれない。
水瀬と二人でカフェに入ることはできたのだが、俺は足手まといにしかならず、結局彼女が店を調べるところから予約まで一人でやってくれたのである。
本当、年上として情けない……。
「何とか席につけてよかったですね!」
「あ、あぁ……。これも全て水瀬さんのおかげだね」
「そんな! 私なんて店を調べて予約ボタンをポチッと押しただけですよ!」
それすらできなかった人間が目の前にいますけどね。
とりあえず、注文ぐらいは俺がやらないとな。
このままだと、本当に年上としての威厳が立たない。
「水瀬さん、注文決まった?」
「はい! このパンケーキにしようかなと!」
そう言って水瀬は、メニュー表のパンケーキの写真を指差す。
……なんか、色んなフルーツが載っているパンケーキで、しかもデラックスパンケーキって書いてあるんだけど……。
こんな細い身体に、このパンケーキが入り切るとは思えない。
てか完全に偏見だけど、昼食にパンケーキってまさに女子って感じだな。
「凄い量だけど、食べきれるの?」
「え? 食べきれるわけないじゃないですか。お兄さんとシェアして食べようと思って!」
「いや、初耳なんだけど……」
「そうですね、今言いましたから」
ニコニコと微笑む水瀬に、俺は何も言い返せなかった。
年下とはいえど、相手は女子だ。
恐らく……というか、きっとモテない陰キャ成分が見えないところでドバドバ分泌されているんだろうな……。
そんなことを考えていると、水瀬さんがテーブル隅にあったテーブルチャイムに手を伸ばす。
そうはさせるか!
俺は素早い動きで、テーブルチャイムを隠すように手を覆いかぶせた。
「待て、注文は俺の仕事だ」
「いや、別にそんなことはないと思いますけど……」
「いや、俺の仕事だ」
「別に気にしなくていいですよ? 今日は私のプレゼント選びに付き合ってもらってるんですから、これぐらいは私がやりますよ?」
「いや、俺の仕事だ。……俺に仕事をさせてください、お願いします」
そう、これは水瀬に気を遣っているとかじゃない。
さっきから言っている通り、これは俺のプライドなのだ。
普通に考えてみてほしい。
妹の友達に何から何までやってもらう妹の兄って……ダサすぎだろ。
妹の立場を守るためにも、俺はここで仕事をしなければならない。
俺の心境をようやく悟ってくれたのか、彼女は一歩引いた感じで言葉を綴った。
「そ、そこまで言うなら……。お願い、してもいいですか?」
「おう、ちなみに飲み物は紅茶でよかったか?」
「え!?」
突然、前触れもなく水瀬が声を上げた。
周りのお客の視線が、必然的に俺たちの方へと集まる。
何、一体どうした。
「急にどうした。もしかして紅茶じゃなかったか?」
「い、いえ、紅茶にしようと思ってたんですけど……」
「ならいいじゃん。なんだ、急に声を上げるからびっくりしたわ」
「それは、こちらのセリフですよ……」
「なんで水瀬さんがびっくりするんだ?」
「いえ、なんでもありません……。紅茶はストレートでお願いします」
「りょーかい」
変な水瀬。
よく分からないまま、俺はテーブルチャイムを押す。
しばらくしてから店員さんがやってきて、俺は仕事を無事完遂することができた。
ひとまず、ミッションコンプリートだ。
「お兄さん、ありがとうございます」
「いやいや、水瀬さんにしてもらったことに比べれば大したことないよ、本当に」
「何が偉いかなんて、正直関係ないと思いますけど……」
「いやいや、滅茶苦茶大事だろ。威厳というか、尊厳というか……」
「ふふっ、別に心配しなくてもその辺りはとっくにないですよ? 美彩さんから色々と聞いてますから」
……おぉ、妹よ。
先日から思ってたけど、お主は水瀬さんに俺の何を話したというんだ……?
気になる……けど、自分で墓穴を掘るような真似をする必要はない。
だとすれば、話は簡単だ。
名誉挽回、これに尽きる。
ここからは『頼れる友達のお兄さん』像でいこう。
それから間もなくして、俺たちの手元に商品が届いた。
……マジでパンケーキでけぇな、おい。
「お兄さん、ちょっと待ってください! パンケーキの写真を撮るので……」
「はいよ」
SNSにアップ用の写真を撮っているのだと思われるが、水瀬さんを知る人からすれば「この量一人で食べるの!?」ってなると思う。
俺だったらそう思う。
写真を撮り終えたのか、彼女がナイフを取り出してパンケーキを切り始めた。
パンケーキの上で零れ落ちそうになっていたフルーツソースが、ゆっくりと皿の上に落ちていき……あ、仕事取られてた。
何か、何か名誉挽回できることしないと……。
「……ちょっと、お兄さん。少し落ち着いてください」
ナイフを手にしたまま、水瀬が笑いを堪えるように口元に手の甲を押し付ける。
何、何がそんなにおかしい……と思考を巡らせたところで、俺はようやく気が付いた。
……なんか、左右の手を幾度となくにぎにぎしてるんだけど。
とりあえず、俺は左右の手の謎現象を解いた後、膝の上に置いてから彼女に問うた。
「何か、お手伝いすることは……」
「そうですね、そしたら大人しく見ていてくださいね!」
「……はい」
そして俺は、パンケーキが切られている様を黙って見つめていた。




