第46話 いや、そうにはならんだろ
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家に帰るなり、俺は天を仰いだ。
なぜなら、俺の平凡が消え去ったことが確定したからだ。
玄関先に揃えてある二足の革靴。
一足は美彩ので間違いないが、もう一足は正直誰のか知らん。
問題なのは、誰のものなのかじゃない。
ここにあること自体が問題なのだ。
「とりあえず、部屋の中に入ってみないことには分からないか」
俺は靴を脱いで家に上がり、通路奥の扉を引いてリビングへと入る。
そしてびっくり。
一人は美彩だったのだが、もう一人知らない美少女がそこにいた。
ダークブルーの長髪に銀色のティアラカチューシャを付けた女の子。肌はきめ細かく、何より色白い。
雑誌モデルをしていると言われてもおかしくない逸材が、俺の家のリビングで優雅に紅茶を啜っているのである。
誰か、状況の説明を求む。
「あら、お兄様。お帰りなさい」
「お帰りなさい、じゃないだろ。これは一体どういう状況?」
「見ての通り、ティータイムです」
「いや、それは見たら分かるわ。俺が言いたいのは、そう言うことじゃなくてだな……」
すると、目の前にいた美少女が身体をこちらに向けてペコリとお辞儀をした。
「お邪魔しています。美彩さんと同じクラスの水無川水瀬と申します。お兄さんの話は、美彩さんからよく伺ってます」
「あ、あぁ……。これは、どうも……。多分、良い話ではないよね?」
聞き返すと、水瀬は視線を泳がせていた。
こいつ、マジで何言ったんだ?
「ええっと、お兄さん。名前は……」
「あ、あぁごめん。俺は久山雅春。って言っても、あまり接点持つことはないだろうけどよろしく」
「そ、そんなことはありません! 大事な親友のお兄さん。これからよろしくお願いします!」
そして水瀬は、再びペコリとお辞儀をする。
こんな礼儀正しい子が、こんな美彩の友達なんて……コイツに弱みでも握られてんのか?
ともあれ、簡単に自己紹介を終えたことだしさっそく本題に入るとするか。
「んで、なんでここにいんだよ」
「す、すみません! すぐに帰ります!」
「あ、いや、水瀬さんに言ったわけでは……」
「お兄様いけませんよ? 初対面の女の子にそんな乱暴な言葉遣いは」
「俺はお前に聞いてんだけどな?」
そんな俺と美彩のやり取りを見ていた水瀬が、すこぶる気まずそうな雰囲気で口を開いた。
「えぇっと、美彩さんが家に美味しい紅茶があるから一緒に飲みましょうって私を誘ってくれて……。えっと、ここって美彩さんの家じゃ……」
「違うな。正真正銘、久山家だ」
それを聞いた水瀬がキッと美彩を睨む。
ちなみに、美彩は終始ニッコニコだった。
お前のその態度は、どう考えてもおかしい。
「すみません、すみません! 勝手に紅茶を飲んでしまって、本当にすみません!」
「水瀬さんが謝ることじゃないよ。多分飲んだのってコンビニとかで売ってるやつだと思うから大丈夫だよ」
「いや、お父さんが海外の出張行った時に買ってきた紅茶とか言ってたよ?」
「お前は黙っとけ。てか俺の家なのに俺が知らないってどういうこと?」
まあ、紅茶好きじゃないから別に良いだけどさ……。
でも、そんな事情も知らずに水瀬さんの顔色がどんどん青ざめていく。
「ど、どどど、どうしましょう……。そんな貴重な贈り物を私、勝手に……」
「いや、俺あんまり紅茶好きじゃないから飲んでくれていいよ」
「そうです。お兄様は紅茶が飲めないので、全部飲んでも問題ないですよ?」
「お前は反省しろ」
俺と美彩が話をしていると、水瀬さんが制服の袖口をクイクイッと引っ張ってきた。
「あの、お兄さん。私に何かお詫びをさせてください」
「いや、別にいいって。本当に飲めないから」
「ダメです! 私の気が済まないんです!」
「と言われてもな……」
話が終わった今、早くこの場から立ち去りたかった。
というのも、彼女——————水無川水瀬の戦闘力が強すぎるからだ。
ルックス、声色、性格……どれを取っても男を虜にするには十分すぎる武器だった。
だから妹の友達にデレデレする前に、何としてでもこの場から離れなきゃいけないのだが……さて、どうしたものか。
水瀬を納得させつつ、この現状から逃れる方法は………………あっ思いついた。
「そしたらさ、水瀬さんにお願いがあるんだ」
「はい! 私に任せてください!」
「女の子の気持ちについて、詳しく話を聞かせて欲しいんだ」
瞬間、さっきまで賑やかだったはずのリビングから音が消えた。
……あれ、何か変なこと言ったか? 言ってないよな?
すると美彩が、哀れむような視線をこちらへ向けてきながら後に言葉を綴った。
「あの、お兄様? 初対面の女の子にそのようなお願いをするのはちょっと……」
「え、ダメなの?」
「ダメ、と言いますか……。言いにくいのですが、シンプルに気持ち悪いです」
「言いにくいんじゃねぇのかよ。がっつり罵倒してんじゃねぇか」
「わ、わ、私なら大丈夫です! ちょっとビックリして驚いただけです!」
それ、二回驚いてるけど大丈夫?
まあ、全力でフォローしてくれてるんだろうけどさ……」
「それで、どうして水瀬さんに恋愛相談を?」
「いや、恋愛相談じゃなくてだな……」
そして俺は、ポケットに仕舞い込んでいた一枚の紙切れを二人に見せた。
紙切れの真ん中には『私と桜花さんに話しかけるな☆』と書かれている。
……そう、花音からもらった例の手紙だ。
「別に仲が悪くなったわけじゃないんだけどさ、急にこの手紙を渡されたんだ」
「あー、これは完全に嫌われてますねー」
「もう、美彩さん。適当なこと言っちゃダメですよ」
コホンッと咳払いをした後に、水瀬さんが再び口を開く。
「多分……というか、私だったらなんですけど、好意のない人に星マークだったりハートマークは送らないです」
「……というと?」
水瀬は、少し言葉を選ぶように視線を落としてから俺の後に言葉を綴った。
「別に嫌われてないと思います。この文面からして、何かしらの問題に巻き込まれている。その問題にお兄さんを巻き込みたくない。でも突き放して嫌われたくないから可愛らしいマークを付けた、って感じだと私は思います」
「……面倒くさ」
次の瞬間、俺の頭にチョップが振り翳された。
「お兄様、そんなことを言ってはダメですよ。この差出人、花音さんなんでしょう?」
「なぜ分かった?」
「お兄様にちょっかいをかけるのは、決まって彼女ですから」
「決まってはないけどな」
ともあれ、やっぱりあの二人に話を聞かない限りは巻き込まれている問題とやらも見えてこない。
明日二人と話すためにも、まずは我部をどうにかする必要がある。
さて、どうしたものか……。
「お兄様、花音さんのことが好きなのですか?」
「唐突になに。アイツはただのクラスメイトだよ」
「そうですか。花音さんのことになると一喜一憂してるので、てっきり好きなのかと」
「いや、それだけでそうにはならんだろ」
そう、アイツはただのクラスメイト。別に恋愛感情はない。
なのに、どうにも落ち着かない自分がいたのはなんでだろう。




