第43話 何かがおかしい……
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何かがおかしい……。
その違和感に気が付いたのは、一夜明けた翌朝のことだった。
普通に起きて、普通に朝食をとり、普通に身支度を整えて、普通に学校へ登校する。
それから普通に下駄箱で靴を履き替え、普通に教室へ向かい、普通に自分の席に着席する。
そう、これが俺の普通だ。
いや、俺以外の人も大体はこんな感じで普通の日常を送っていることだろう。
しかし、そんな至極平凡だった俺の日常は崩壊の危機を迎えていた。
その理由……というか、原因は目の前に座っている彼女の存在だ。
花音でなければ、桜花でもない。
俺にとっては奇妙な客人——————我部香凜その人だった。
無論、我部とは一度たりとも会話を交わしたことがない。
なのに、それなのにだ。我部は悠々とした態度で俺に語りかけてくるのである。
一体、こいつは何を企んでいるのだろうか。
「——————ちょっと~、話聞いてる~?」
考える隙を与えないと言わんばかりに、我部が俺の額を小突く。
そんなことをされるほど、仲良くなった記憶はないのだが……。
とりあえず、俺は我部との会話を適当にあしらうことにした。
「はいはい、聞いてないよ」
「ちょっと~、そこはちゃんと聞いてるって言うところでしょ~? ひさっちマジでオモロイ~」
「オモロクはないだろ。本当に聞いてないからな。聞いてないことを聞いてないと言って、それがオモロイわけがない」
「言ってること酷すぎてウケルわ~」
「はいはい、そうだな」
そんなどうでもいい話をしているところへ、俺の後ろの席の住人、姫柊花音が登校してきた。
だけど、やはりおかしい……。
ウザ絡みをしてきてもいいはずなのに、今日はそれが一切ない。
我部がいるから人見知りを発動しているのか……と思ったけど、その考えを改めた。改めざるを得なかった。
なぜなら、遠くからこちらの様子をチラチラと窺う彼女——————桜花春の姿が目に入ったからだ。
桜花の性格上、俺と我部が話をしていても気を遣って話かけないという選択は取らないはずなのに、今日に限って話かけてこない。
やはり、何かがおかしい……。
何が二人を変えたのか……と言われれば、間違いなく昨日の我部から持ち掛けられた相談とやらが絡んでいるとしか考えられなかった。
一旦状況を整理して、相談内容を推測してみよう。
まずは我部が相談を持ち掛けたメンバーについてだが、ご存じの通りで花音と桜花の二人だけだ。
俺には相談内容を聞かれたくなかったのだろうか、席を外して欲しいというオーラが我部自身から満ち満ちていたので、その意を汲み取って俺は颯爽と帰宅した。
さて、この状況から察するに考えられるのは二パターンある。
一つは、前述の通りで俺には聞かれたくなかったということ。
もう一つは、男子には聞かれたくなかったということだ。
そして今朝、我部はなぜか執拗に俺に話しかけてくるし、相談を承った肝心の二人はというと俺と我部の間に割って入ってこようとしない。
まるで、二人の空間を邪魔しないようにと言わんばかりに……。
いや、もしかしたら俺に対しての申し訳なさの現れなのかもしれないな。
状況を一つずつ整理していくにつれて、我部が二人に持ち掛けたであろう相談内容が見えてきた気がする。
あぁ、俺にとっては最低最悪の相談内容だ。
——————恋愛相談
今置かれている状況を、恋愛相談という言葉一つで片付けるのは容易だ。
合点もいくし、それ以外の内容で今置かれている状況を作り出すのは正直考えられない。
だが、これはあくまで今置かれている状況のみを指しての話である。
そう、一つだけ不可解な問題が残るのだ。
我部香凜は、榊健斗に恋愛感情を抱いていたのではないのか?
前提として間違えていたのだろうか。
いや、そんなことはない。ありえない。
榊と話をする我部のあの表情は、第三者が見ても明らかだった。
それに、合宿講習の肝試しのペア決めの際にも榊とペアになれるように桜花にお願いして不正を働いていた。
決定打と言えるほどの証拠がテーブルの上に揃っている。だから、間違えるはずがない。
だけど、現実はそれらを否定している。
……完全にお手上げだな。あとで我部のいないところで二人から相談内容とやらを聞くしかない。
やろうとしていることは不正行為だが、我部も一度不正行為をしているのだから文句を言われる筋合いはない。
やられたくないのなら、自分もやるなという話だ。
それからまもなくして予鈴のチャイムが鳴り、「また後でね〜」とだけ言い残した我部は自分の席へと戻って行った。
今がチャンス!
「なあ、我部のことなんだけど……」
と、後ろを振り返りながら言いかけたところで、俺の額に何かがぶつかった。
その何かの行方を追って視線を下に落とすと、そこには四つ折りにされた紙が落ちていた。
差出人はというと、紙の方に向かって顎をクイクイと前後に動かしている。
読め……ってことだよな……。てか、口頭で言えば良くね?
そんなことを思いながらも、俺は紙を拾い上げて四つ折りを順に直していく。
あ、なんか書いてあるわ。
『私と桜花さんに話しかけるな☆』
…………………………え?
完全に思考が停止していた。
いや、内容も勿論ビックリなんだけど、それよりもこの最後の星マーク。
なんというか、星マーク単体は可愛いはずなのに、前文との組み合わせのせいで圧的な何かを感じてしまう。
なんか、怒っていらっしゃる……?
しかも、文から察するに桜花さんも怒っていらっしゃるっぽい……?
え、じゃあ二人が俺に話しかけてこないのって我部は関係なし?
そもそも、俺なんかしたっけ⁇
「久山〜。HR始めるから前を向け〜」
「すみません」
いつの間にか教室に入ってきていた担任に注意され、俺は仕方なく身体を前に向ける。
そして天井を仰ぎながら深呼吸をし、誰にも届かないようなか細い声でボソッと呟いた。
「……やっべ、マジで意味が分からん」




