第41話 一人目の相談者
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世一さんとの話し合いから一夜明けた放課後、俺はいつも通り帰り支度を始めていた。
教科書をバッグに詰め込み、チャックを閉じ、バッグを持って颯爽と帰宅する。
十数年続けてきた日課だ。
もし帰り支度大会が存在するのなら、間違いなく優勝できる自信がある。
そんな俺の帰り支度スピードについて来れる奴などいるはずがない。
そう、いるはずがないのである!
「ひさるん、ひめのん。部活行こー!」
そう言って俺の行く手を阻んだのは、桜花という名の一人の少女だった。
こいつ、万年帰宅部だった俺の帰り支度スピードを上回るというのか!?
いや、そんなことは天地がひっくり返ってもありえない。
となると、考えられる可能性は二つだけだ。
「桜花、お前部活やってたことある?」
「え、急になに。ないけど……」
「なら、HR中に帰り支度するのはフライングだぞ。先生が許しても俺は許さないからな」
「えっと、これ何の話?」
「よく言うだろ? 負けられない戦いがここにあるって」
「いや、意味分かんないけど……。そんなことより! 早く部活行こ‼︎」
俺の大事な戦いをそんなことで片付けられちゃったよ。
全く、面倒くさくなったら適当に遇らう癖は直していただきたいものだ。
それはともかく、部活かぁ……。
そして俺は、何事もないかのように桜花の横をすり抜けていく。
「ちょっと! 一緒に行こうよ!」
「悪いな。今日は歯医者の予定があるから部活休むわ」
「……それ、運動部の人が部活休む時によく使う口実じゃん。どうせ行かないんでしょ?」
「いや、マジであるんだって!」
「ふーん? 本当かなー?」
もちろん、嘘である。
自慢ではないが、人生一度も虫歯になったことがない。
でも、桜花はその真実を知らない。知る由もない。
なら、このまま押し通させてもらうぞ!
「本当に歯医者なんだって。俺だって本当は行きたくないんだよ? でも、やっぱり行かなきゃダメじゃん? だから、行く選択しかないんだよ」
「……そっか。それじゃあ明日、領収書持ってきてね?」
……領収書?
え、部活休むのにそこまでする? 必要なくね?
困惑する俺に、桜花はさらなる追い打ちをかけてくる。
「ほら、電車通学して遅刻したら遅延証明書を学校に提出するでしょ? あれと同じだよ」
「おな、じ、か? 理由の重さが全然違うような気がするんだが……」
「なら、会社を病欠で休む時、受診証明書を提出するでしょ? あれと同じだよ」
「いや、それは会社によって違うのでは? というか、俺たち社会人じゃなくて学生……」
「つまり、遅刻にしろ病欠にしろ何かしらの証明書か必要なんだよ?」
あ、全然聞いてないっすね。
聞いてないのも、きっと俺の本心を見透かされているからだと思われる。
その証拠に、桜花の目が語っているんだよ。
「ほら、他に言いたいことがあれば言ってみてよ」って。
でも、これだけはハッキリ言わせていただきたい。
言ったところで、まともに聞いてくれないですよね?
選択肢を提示されているようで、最初から選択肢など存在しないのだ。
なら、仕方ない。
少々面倒くさいけど、部活行くしかないかぁ。
そう覚悟を決めたところに、異議ありと言わんばかりに花音が勢いよく挙手する。
「私! 部活を早退します!」
「「……はい?」」
俺と桜花の声がハモった。
うん、そうなるよね。
だって、意味分からないから。
「……えっと、ひめのん? 早退ってどういうこと?」
「休みがダメなら、早退ってことにすれば大丈夫でしょ? 部活に一度は出席してるわけだしね」
「お前……、天才か?」
俺にはそんな発想なかった。
私的には素晴らしい提案だと思うが、当然桜花的にはそうではないらしい。
「全然天才じゃないから! ただの屁理屈だから‼︎ ひさるんとひめのんさ、そんなに部活に行きたくない……?」
露骨に落ち込む桜花を前にして、俺は平静を装うことができなかった。
別に桜花に限った話じゃない。
女子にこんな暗い顔をさせて、平静を装っていられる男子など存在しないでしょって話だ。
もし仮にそんな男子が存在するのなら、そいつはきっとサイコパス野郎に違いない。
「別に行きたくないとかそういうことじゃないんだ。ただ、運動部でもないのに毎日部活する必要あるのかなと思っただけで……」
「毎日って、今日でまだ二回目だよ? それにアタシたちの活動を周知してもらうためにも、やっぱり部活は毎日やるべきだと思うんだよね!」
「……まあ、その意見には一理あるな」
「でしょ?」
でもそれって、社会一般的に言うところの営業だよな?
部活内容が部活内容なだけに、相談欲を促すような営業はしなくても良い気がするんだが……。
それに相談とか占いとかの類いは、営業者側が知らないところで勝手に周知されていくものだ。
以上の点から、俺は本日の部活動を欠席いたします……なんて言ったら、きっと怒られるだろうな(笑)。
「……何で笑ってるの?」
「あっ、いや、ちょっと思い出し笑いをな」
「この状況で? マサくんってやっぱりちょっと変だよね」
「天地がひっくり返ってもお前にだけは言われたくない」
「ほぅほぅ、私がいつ変だったのか教えてもらおうじゃん?」
「例えば、出会って早々急にカフェに誘って来たり、カフェ店内で急に大声で叫んだり……他にもあるけど、まあそんなところか」
「ふーん? それ、そういうキャラ設定だったから変だっただけで、本当の私は変じゃないから」
クールな感じを醸し出しながら花音が言い放つ。
……何その言い訳、最強かよ。
確かに、今までの自分は仮初の姿で本当の自分とは違うと言われれば、それ以上のことは何も言えなくなってしまう。
よし、今度から俺も乱用させていただくとしよう。
「と・に・か・く! 二人とも、部活行くよ!」
「で、でも、私は部活を早退で……」
「そんな言い訳が通じると思ってるの? ひさるんに通じてもアタシには通じないから!」
「……」
なんか、花音がジッと俺のことを見つめてくるんだけど……。
まあ、言葉にせずとも何となくその意図は理解できる。
だから、俺はその言葉を花音に代わって口にしなければならない。
「……部活、行くか」
「よし! それじゃあ行こう!」
「チッ、マサくんが雑魚すぎる」
「とりあえず舌打ちはやめろ、舌打ちは」
そして俺たち三人が部室へと足先を向けた——————まさにその時だった。
「……ねぇ、ちょっといい?」
深刻そうな表情を浮かべながら俺たちに話しかけてきたのは、茶髪ロングヘアのザ・陽キャ。
制服は相変わらず着崩し、ピアスまで開けている問題児。
そう——————我部香凜だ。
意識的に、俺は身構える。
「かりりん? どうしたの、何かあった?」
「かりりんって、なんかのお菓子じゃん……」
ボソッとツッコミを入れたら、桜花に無言で足を思いっ切り踏みつけられた。めっちゃ痛い。
かりりんと聞いてかりんとうを思い浮かべたのは、きっと俺だけじゃないはずなのに……。
「……何かあった?」
「ううん! 何でもないよ‼︎ それより、どうかしたの?」
「実はね、はるっちたちが相談部を立ち上げたのを聞いて、それでウチ、相談したいことがあって……」
その言葉を聞いた桜花の瞳が、キラキラと輝き出す。
桜花は我部の両手を取り、言葉を紡いだ。
「本当に!? 私たちでよければ全然話聞くよ! それじゃあ、早速部室へ行こう!」
「あっ、ちょっと待って! その前に……」
何かを言いかけたと思ったら、今度は俺の方をチラチラと見てくる。
多分、いやきっと、この場にいる誰もが我部の言いたいことを悟っていた。
そして、なぜか俺と目が合った花音はというと、まるで「は? マジで?」と言わんばかりに目を大きく見開いている。
だから俺は、空気を察してすぐさま二人に言葉を返した。
「んじゃあ、俺は先に帰るから」
「え! いや、ちょま……」
花音が何かを言い終える前に、俺は足早に教室を出た。




