第40話 事件は、まだ終わらない。
顧問との顔合わせを無事終えた俺は、世一さんを連れていつものカフェへと来ていた。
この場に花音と桜花がいないのは、俺が二人に声を掛けなかったからだ。
要は、二人にこれから話す内容を聞かれたくなかったから意図的に呼ばなかった。
「んで? 俺に何を聞きたいのかな?」
注文して運ばれてきたアイスコーヒーをストローでかき混ぜながら、世一さんが愉快そうに問いかけてくる。
もしかしたら、俺が呼び出した意味を見透かしているのかもしれない。
それでも、俺は声を上げる。
でなければ、俺の中にある疑問が解決することはないから。
「世一さんがしてること意味が分からないです。この部活動を立ち上げるという選択が、正直俺のためになってるとは思えません。だから、その先を知りたくてお時間をもらいました」
「何を言ってるんだい? 全ては雅春君のためさ」
「確かに、世一さんの言う通りで俺のためを思ってなのかもしれません。でも、その結果はあくまでも副産物でしかない。本当の目的はその先にありますよね?」
部活動を立ち上げて俺に青春を送って欲しいからだとか、部活動を立ち上げる上で必要になる協力者集めのための話し合いだとか、きっと俺のためを思ってじゃない。
これらは、あくまでも本当の目的から派生した事象にすぎないのだ。
そう、これらは全て——————
「——————花音のため、ですよね? 違いますか?」
その問いかけと同時に、世一さんはアイスコーヒーに口をつける。
それからしばらくして、アイスコーヒーから口を離した世一さんは頬杖をつきながら言葉を放った。
「君は本当に賢いな。俺的にはボロを出していないつもりだったんだけどね」
「いえ、ボロは出てましたよ。部活動会議の時、世一さん言ってましたよね? 「活動内容については学校側とすでに打ち合わせ済みなんだ」って。そもそも学校側と交渉するのに、他所の子の俺を本題としていかないですよね? もし仮にそうだったとしても、学校側は公正な立場上、俺の意思確認もなく勝手な判断はしないでしょうし」
「……雅春君、将来は探偵にでもなったらどうだい?」
「名案ですね。そしたら多くのリア充を地獄の底に突き落としてやりますよ」
「性格悪っ!」
「いやいや、流石に冗談ですよ〜」
「いや、全然冗談には見えなかったけどな……」
冗談ですよ? 本当ですよ?
こんな爽やかな笑顔を浮かべる人間が、そんな酷いことするわけないじゃないですか〜。
それともなんですか?
俺が爽やかな笑顔浮かべるのが、胡散臭いって言いたいんですかね?
もし、そうなら……そうですかって感じ。
そんなことを考えながらニコニコしていると、世一さんはわざとらしく咳払いして話を本筋に戻した。
「それで、君はその事を知って何か問題でもあるのかい?」
「まあ、俺に問題はありません。でも、花音に問題が起こるのは世一さんも分かってるはずです」
「そうだね。花音と雅春君が仲良く一緒の部活をするということは、イジメ事件による二人の被害者加害者関係を否定することになる。君にイジメの矛先が向かなくなる代わりに、何かしらのきっかけで花音がまたイジメられる可能性は捨て切れないだろうね」
「そこまで分かっていて、今の事実を捻じ曲げる意味が分からないです」
だってそうだろう?
今の事実を貫けば、イジメの矛先は俺の方でコントロールできる。
コントロールできれば、それに応じた対策を講じることも可能だ。
そうすれば、花音がイジメられることもない。
何一つ問題ないはずなのに、目の前にいる世一さんはそれら全てを否定する。
なぜ? 意味が分からない。
頭の上に疑問符を浮かべる俺に、世一さんは短絡的に応えた。
「前にも言ったと思うが、雅春を助けたい。ただそれだけの話だよ」
「それで花音がイジメられて良い理由にはなりませんよ?」
「もちろんだとも。だからこれが最善策なのさ」
「……話に矛盾があるようですが」
「矛盾なんてないさ。雅春君、人が共通して恐れる存在って一体何だと思う?」
「えー。ゴキブリとかスズメバチとか熊とかですかね?」
「なんか思ってた答えと違うけど……まあいい」
そして世一さんは、人差し指を立てて言葉を綴る。
「人はね、力の存在の前では臆病な生き物になってしまうんだよ。見える力、見えない力。世の中の力の種類は様々だけど、人は力の前では為す術もないんだよ。だから、君たちには部活を通して力をつけてもらうってわけさ」
「……なるほど。ちなみに、日常相談部で何の力をつけるのが目的ですか?」
「それは教えられないな。仮に教えたとしても、今は実感を持てないと思うぞ?」
よく分からないけど、そういうことらしい。
日常相談部だから、相談力とか?
それとも部活動を始めることで仲間意識を高める、団結力とかか?
色々考えるけど、やはり俺の中で答えは出ない。
でも、この事実だけは確かだ。
事件は、まだ終わらない。




