第37話 どうやら、拒否権はないらしい。
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「……なんでここにいるんですか」
生活指導室に入って開口一番に発した言葉がそれだった。
それもそのはずだ。
ここは高校であり、企業ではない。
にも関わらず、その人は何食わぬ顔で足を組み、優雅にコーヒーを嗜んでいるのだ。
しかも、対面に座る生活指導の先生と担任は、当たり前のようにその人と談笑をしている。
……待って、状況が全く分からん。
「なんで世一にぃがここにいるの!? 仕事は!?」
右隣にいた花音が取り乱したようにその人に問いかける。
だよな。やっぱり俺、何も間違えてないよな。
世一さんは手に持っていたコーヒーカップを静かにテーブルに置くと、悠々と俺たちの元に歩み寄ってきた。
「とりあえず、一旦落ち着こうか。それに花音、呼び方が前に戻っているぞ? ほら、これからの呼び方はちゃんと教えてあげたじゃないか」
「学校であんな呼び方できるわけないでしょ!」
「ふふ、随分と可愛いところがあるじゃないか。まあ、何事も慣れるまでに時間はかかるものだからね。でも、俺としては早く慣れてもらいたいけどな!」
そう言って、高笑いしながら定位置のシートに戻っていく世一さん。
……いや、気持ちわるッ!
実の妹にそんなこと言えちゃうあたり、流石の気持ち悪さとしか言いようがない。
てか、花音から送られてくる視線が物凄く痛いんだけど……。
この状況で視線を合わせられる奴は、一体どのくらいいるだろうか。
うん、絶対いない。いるはずがない。いてたまるか。
とりあえず、右隣の花音は見えてないことにして話を先に進めるとしよう。
「それで、なんでここにいるんですか。ちゃんと理由は説明してもらえるんですよね? というか呼び出したこの三人、この前の件と何か関係ありますか?」
「さすが、察しがいいな。雅春君、先日俺が言ったことを覚えているかい?」
「もちろんです。これからが大変、って話ですよね?」
「そうだ。その件で少し話があるんだ」
花音と桜花はそれぞれ顔を見合わせて「何か知ってる?」「いや、知らない」と会話をしているかのように意思疎通を取っていた。
もしそうだとしたら、俺の中で疑問が残る。
「なんか、二人は知らなさそうな感じですが……」
「当たり前じゃないか! だって君だけが大変な思いをするのに二人に話す必要性が一体どこにあると言うんだい?」
「……すみません、今なんと?」
「え? 君だけが大変な思いをするのに二人に話す必要性はないだろうと、そう言ったんだが?」
「良かった、聞き間違えではなくて安心しました」
いや、良くはないか。
どうやら、俺だけ事態は最悪とのことらしい。
……となると、やっぱり二人が俺と一緒に呼び出された意味が分からん。
しかし、その答えは意外にも早い段階で世一さんの口から開示された。
「雅春君、君には二人と一緒に部活動を新しく立ち上げてもらうことになった!」
「……はい?」
聞き間違えか?
今この人、部活をやってもらうって言ったか?
てか、何で部活?
疑問符を浮かべる俺の左右で、二人がキャンキャンと吠え出す。
「聞いてない! 世一にぃ、私聞いてないよ‼︎ 私、絶対にやらないから!」
「良い! 凄く良いと思います‼︎ なんの部活やるのか決まっているんですか!?」
「ちょ、桜花さん!? なんでそんな乗り気なの!? 部活動なんてそんな面倒くさいこと……」
花音はそう言いかけて、続く言葉を決して吐かなかった。
血の繋がっていない俺にだってひしひしと伝わってくる。
世一さん、表情は笑顔だけど感情は絶対零度の如く凍てついてやがる……。
とにかく、その凍てついた感情を少しずつ溶かしていかないと。
「こ、これからが大変って、部活を始めるから大変になるってことですか?」
「何? 君も花音と同じことを言うつもりなのかい?」
俺を見つめる世一さんの目がギンッと鋭くなる。
その目は、他所様のお子さんに向けていいものではありませんよ。
「で、でもさ世一にぃ。理由はきちんと説明してもらわないと納得できないと言うか……」
世一さんの顔色を伺いながら、震えた声で恐る恐る尋ねる花音。
花音、良く言ってくれた。
お前の犠牲は、絶対に無駄にしないぞ。
誰にも悟られないように心の中で敬礼していると、なぜか俺の左から声が上がった。
「え、ひさるんに青春して欲しいからじゃないの?」
「セ、セイシュン? オレニ?」
「何でカタコト? まあ、それはいいとして、そう難しい話じゃないと思うよ?」
「桜花君の言う通りだ」
そう言って、目の前に座っていた世一さんがシートから立ち上がる。
そして、俺の方に歩み寄って来ながら言葉を綴った。
「雅春君、俺が前に青春の話をしたのを覚えているかい?」
「え? あ、あぁ、はい。覚えてます」
「あの時、君はこう言ったよね。学生の抱える制限が青春たらしめる何か特殊な力を秘めているかもしれない、と。言ったよね? 言ったよね?」
「は、はい。言いました……ね」
今にも唇が触れてしまいそうな距離に世一さんの顔がある。
とてもじゃないけど、世一さんの意見を肯定しただけとか言える状況じゃない。
花音は花音で、完全に目を背けてやがるし。
おいこら、こっち向け。
これお前の兄貴だろ。妹のお前がなんとかしなくてどうすんだ。
必死に視線を送っても、目を逸らされているから俺の思いが届くことは決して叶わない。
なんか、左は左で頬を赤く染めてるし……。こいつ、絶対変なこと考えてるよ。
てか、教師共! 何見て見ぬふりして茶啜ってんだ! さっさとこの状況から助けろよ!
でも、何となく察してしまった。
多分この二人、世一さんに何か弱みを握られてる。
理由は、言うまでもないだろう。
「部活動は学生にとって制限だ。だから部活動は、青春たらしめる何か特殊な力を秘めているかもしれない。君はこう言った。間違いないね?」
いや、そこまでは言ってない。
言ってないけど、コクッと頷いておく。
「なら、部活動やるよね? 立証、しちゃうよね?」
あまり興味ないけど、コクッと頷いておく。
「よし、それじゃあ決まりだ! 放課後、この生徒指導室に集合してくれ」
「あ、いや、この部屋は部活動での使用禁止で……」
「え? 何か問題でも?」
「あ、い、いえ……。何でもありません……」
世一さんの眼光で一瞬にして萎縮する先生たち。
さっきまでの和やかな雰囲気は、もう見る影もなかった。
隣いる花音はというと、両手で顔を覆っている。
「もう、これ以上はやめて」と言わんばかりに……。
こうして俺たちは、強制的に部活動をすることになった。




