第18話 やはり俺は陰キャだった……
四時限目を終えて迎えた昼休み。
俺と花音は、桜花と一緒に人気のない校舎裏のベンチで昼食を取っていた。
本来であれば、俺と桜花の二人で昼食を取るはずだったのだが、アクシデントに見舞われて花音も一緒に昼食を取ることになったのである。
花音の噂の件で、少しでも情報収集できればと思っていたんだが、状況が状況なので仕方がない。
もちろん桜花には事前に相談しており、話があると言っていたのにも関わらず快く承諾してくれた。
相変わらず性格が完璧すぎるので、後々が凄く怖いんだが……。
その一方、花音の方はというと桜花の昼食同席には露骨に嫌そうにしていた。
こちらは相変わらず性格が腐っていて、凄く安心した。
だが、俺が無理を言って聞いてもらっているのもあったので、花音には事情を説明してなんとか桜花の同席を許してもらった。
そう、花音は嫌そうにしていた……はずだったんだけど……。
「えぇ!? ひめのんってそうだったの!? アタシてっきりもっとグイグイいくタイプかと思ってたよ!」
「ふふん! こう見えて私、慎重派なんだよね〜。ちゃんと相手を分析して、それから……って感じなんだよね〜」
「相手を分析って……。すごいね、アタシにはできないや……」
俺をよそに、めっちゃ恋愛トークで盛り上がってた。
席順も右から桜花、花音、俺の順番。文字通り蚊帳の外である。
花音さん、あなた数時間前までは全然乗り気じゃなかったですよね?
ちなみに、俺的にはあなたの言う慎重は臆病の裏返しかと思うのですが。
とはいえ、花音に俺以外の友達ができるのは喜ばしいことだ。
なんせ、放課後恒例のカフェタイムに付き合わなくて済むようになるからな!
手始めに、俺は二人の関係がより良いものになるようにこの場の空気となろう。
「ねぇ! ひさるんはどう思う?」
「………………………………俺?」
「そりゃそうでしょ。この場に私とマサくんしかいないんだから」
永い沈黙の後に返事する俺に対して、花音が呆れたように溜息を吐く。
いやいや、いきなりニックネームでひさるんって呼ばれても、どこの誰ですかって普通なるやん?
てか、ニックネームがキラキラしすぎてて普通に恥ずかしいんだが……。
「——————それで、ひさるんはどう思う?」
桜花の純粋無垢な瞳の熱に当てられて、俺はついきょどってしまった。
「あ、ぇっと、ご、ごめん。は、話、聞いてなかったわ……」
「うっわ、声上擦ってんじゃんキモ。私の時と全然反応違うじゃん」
おいこら、キモい言うな。余計なこと言うな。
しょうがないだろ。なんというか、キラキラしすぎてて話しづらいんだよ。
クソッ! 裏の顔があるかもしれないと分かっているのに、なんで俺は桜花に対してこんなにも弱いんだ!
とりあえず、これ以上の失態の傷口を広げないためにも、俺は平然を装って再度桜花に問うた。
「そ、それで、何の話だった?」
「……マサくん、何で地面に向かって話てるの?」
「こっちの方が味わい深いだろ?」
「うん、何言ってるの?」
うん、俺も自分で何言ってるのか分からないわ。
てか、俺のことはいいからさっさと話を進めてくれー!!!
その雰囲気を感じ取ったのか、桜花がクスクスと笑いながら俺の問いに応じた。
「ほら、来週合宿講習あるじゃん? それで行き先が栃木ってことについて、ひさるん的にどう考えてるのかなーって意見聞きたくてさ!」
特に、何も考えておりません。
別に行き先が栃木だろうが、群馬だろうが、山梨だろうが、どこでも変わらんだろうよ。
てか、いつの間に恋愛トーク終わってたん?
さっきまで恋愛トークに花を咲かせていたと思うんだけど……。
ガールズトークってこんな感じなの?
マジで話聞いておかないと、知らない間に一人置いていかれるぞ。
「マサくんは私と同じタイプだからな〜。多分何も考えてないと思う」
「失礼な。ちゃんと考えてるわ」
「えぇー。本当にー?」
すみません、嘘です。
花音と同じ扱いをされるのが嫌で嘘吐きました。
ちなみにこの問い、正解とかあるのだろうか。
分からない。陰キャの俺には、あまりにも会話のレベルがハードモードすぎる。
花音だったら適当に話を合わせとけば済むけど、桜花は花音と雰囲気含めて性格が全然違いすぎる。
仮に、俺が桜花に対して「はっ倒すぞ」と言ったとしよう。
……その先どうなるかなんて、容易に想像ができるよね。つまりは、そういうことだ。
俺が桜花と話す際に気をつけるべきは、言葉選び。
ひとまず、俺の見解を一言一句注意しながら慎重に述べてみることにしよう。
「まあ、これは一個人的な意見だから真に受け止めて欲しくないんだけど、それでもよければ……。そう、あくまで参考! 参考程度に聞いてくれたらいいかな。あ、でも、別に大した内容じゃないから聞き流してもらっても構わないから、受け取るか受け取らないかは二人に任せるよ」
「無駄に前置き長いな」
そして俺は、一回咳払いをしてから言葉を綴った。
「合宿講習の目的は、第一に学年全体の親睦を深めること。あとは些細な校外学習程度だと俺は考えてる。だから、行き先が栃木だろうが、群馬だろうが、山梨だろうが、正直どこでも変わらんと思ってるんだが……」
ずっと地面に語りかけているから、彼女たちがどんな顔をしているのか分からない。
花音ぐらいなら見ることができるんだが、花音の方を向いたら視界に桜花が入ってくる。
だから俺は、彼女たちの方を向くことができない。
果たして、正解か、不正解か——————
「——————なるほど。言われてみれば、確かにひさるんの言うとおりかも!」
桜花は納得がいったように、両腕を組んでうんうんと頷いていた。
良かった、変なことは口にしていなかったようだ。
ホッと胸を撫で下ろす俺に、花音がめちゃくちゃ肩を揺らしながら話しかけてくる。
「なになになに〜? マサくんにとって合宿講習は親睦会だったのか〜。そんなにお友達が欲しいの〜?」
「いや、俺は友達を欲してないし、合宿講習で親睦を深めるつもりは毛頭ない」
「あれ!? ひさるん、さっきと言ってることが違うよ!?」
「当たり前だ。さっきのはあくまで学年全体の目的を伝えただけで、一個人がその目的に沿えるかどうかは別問題だからな。つまり、親睦を深めることは俺の目的ではないってことさ」
「屁理屈めんどくさっ。まあ、マサくんのその気持ち少し分かるかも」
「ひめのんは何か目的あるの?」
「んー。私は肝試しかなー」
「なんか目的の解釈変わってない!?」
「違くないよ? 私のだって立派な目的だもん。それに肝試しはね——————」
桜花さん、あなたなかなか良いツッコミをしますねー。
花音はボケるのが好きだから、二人は良い漫才コンビになれるかもしれない。
それを隣という特等席から眺める俺——————実に最高じゃないか。
俺はこの二人の可能性を夢見て、一人黙々と残りの昼食を食べるのだった。




