第17話 これが巷で噂の……
「——————なあ、ちょっと良いか」
一限目が終わり、俺は机上に教科書やノートを広げたまま後ろを振り返った。
相変わらず、花音はニッコニコのスマイルを俺に向けてくる。
だが榊曰く、花音は俺に対して殺意の視線を送っているらしい。
多分、俺が見てないところでやってるんだろうなぁと容易に想像がつく。
不幸中の幸い、一限目はちょっかいかけられなかったけど、もし花音が本気でシャーペンとかを背中にぶっ刺してきたら……と考えただけでも総毛立つ。
とりあえず、大ごとになる前に原因の究明と解決に専念ねせば!
「なんで怒ってんだよ」
「……」
「おい、ちゃんと言葉にしないと伝わらんぞ」
「……ナンデダトオモウ?」
「はい?」
「ダカラ、ナンデオコッテルンダトオモウ?」
「いや、分からないから聞いてるんじゃん」
「ナンデダトオモウ?」
めんどくせー。これが巷で噂の「私がなんで怒ってるかわかる?」ってやつか。
正解するまでエンドレスで続くとかなんとか……。
クソッ! 花音の前の席じゃなかったら今ごろこの場から逃げ出していたのに!
二時限目開始まで、残り一五分程度。
ひとまず、心当たりがあることから順に答えていくしかない。
「お前をおいて、榊と遊んだこと……か?」
ゴクリと固唾を呑む。
そして花音は、笑顔のまま両腕を大きく使って頭上で丸を作った。
よかった、どうやら一問目で正解できたらしい。
「ソレモアル」
「その答えはせこいだろ。なんだよ、それもあるって」
「セコクナイ。ジッサイ、ダレモオコッテルリユウハ、ヒトツトハイッテナイ」
「確かに……って、なんで俺も納得してんだよ」
思わず、自分の発言に自分でツッコミ入れちゃったよ。
てか、怒ってる理由あと何個あるんだよ。
残りの数言われても、正直答えられる自信ないぞ。
「なあ、答え教えてくれよ。本当に怒ってる理由分かんないんだって」
「……はぁ、仕方ないなー」
やれやれと言った様子で、花音は自分のスマホ画面を俺に見せてきた。
すでにLINEが起動されており、トーク画面には俺の名前が表示されている。
「これがどうしたんだよ」
すると花音は、俺のことを睨みつけながら画面の一点を指差す。
指先には「既読」の表示がされていた。
あぁ、なるほど。花音のやつ、既読無視したことに対して腹を立てていたのか。
だが、これだけは言わせていただきたい。
「既読無視したことについては謝る。本当にすまん。だけど一つだけ弁明させていただきたい」
「はい、どうぞ」
「実は俺のLINEとかコミュニティ全般は妹が全部管理してて、だからお前からLINEが来てたのも今の今まで知らなかったというか……」
「で?」
「で? っていうのは……?」
「だから、なに?」
「えっと……」
わっかんねー。
女心わっかんねー。
もうやだ、今すぐ家に帰りたい。
そして諸悪の根源に、どうしてLINEが来てたことを教えてくれなかったのか問いただしてやりたい。
てか今更なんだけど、なんで喧嘩の内容が彼氏彼女みたいな感じになってるの?
別に付き合ってるわけじゃないのに、俺が咎められる理由とは一体……。
でも、今それを口にしたら本気で刺される気がするので黙っておく。
「そんなデタラメな嘘、信じると思う?」
「そんなこと言われても、全部事実なんだよな……」
「じゃあ証明して見せてよ。今日の放課後、マサくん家で話し合いね」
「……分かったよ」
これ以上、何を言っても聞く耳を持たないだろうから渋々了承した。
とりあえず、諸悪の根源である妹の口からきちんと説明してもらおう。
「マサくん。昨日榊くんと遊びに行ったから、そのお詫びとして今日の昼休み一緒にご飯ね」
「お詫びってなんだよ。別に今日の放課後一緒にいるわけだし、それに昼休みは先約が……」
「は?」
「いえ、なんでもありません」
「ふふ、最初からそう言えば良いんだよ♪」
花音は、機嫌良さそうに鼻歌を口ずさみながら窓の外を眺め始める。
そして俺は、脳内で頭を抱え始める。
さあって、困ったことになったぞ〜。




