第14話 噂の出所
「いや〜。まさか久山の方から放課後に遊びに誘ってくれるとは思わなかったよ〜」
放課後、隣で歩く爽やか陽キャの榊が微笑む。
すると、その時廊下にいた女子生徒たちの視線が榊に釘付けとなっていた。
やはりイケメンスマイルは、女子界隈ではかなり需要があるっぽいけど、俺にとっては男がただ笑ってるだけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
「てか、遊びじゃなくてお前に聞きたいことがあってだな。だから、これは決して放課後に遊びに誘ったとかではない。用がなければ速攻家に帰ってベッドの中にダイブしているところだ」
「えぇ〜。昼みたいに榊って呼んでくれよ。お前呼びだと、なんか距離あるみたいで嫌じゃないか」
なるほど、こいつも花音と一緒で人の話を聞かないタイプか。
まあ、実際距離あるからお前って呼んでるんだけどな?
お昼の時は、榊と花音が二人同時にいたからお前呼びが使えなかっただけだ。別に他意はない。
というか、その不貞腐れた感じ出すのやめろ。
そういうのは異性に需要があるだけで、同性からしたら普通にキモい。
「呼び方なんて、正直どうでもいいだろ。それより、お昼に言ってた話があるっていうのは花音の噂のことについてだろ?」
「……久山、凄いな。よく分かったな」
「人間不信なめんな。他人からの視線や感情には人一倍敏感なんだよ」
「返答に困る言い方をするなよな……」
返答に困る言い方をしてるんだよ。
お昼時、確かに俺は榊が近づいてきた意図を正確に汲み取った。
ただ、それは人間不信が理由じゃない。完全に直感だった。
一限目終了後の小休憩にて、俺は榊に『孤高の一匹ぼっち』の噂の出所が花音でないことを明らかにした。
その際に、榊は何かを言いたげの様子だったが、俺はあえてあの場では彼の発言を冷たく切り捨てた。
そうすることで、第三者から見れば話はそこで打ち切られたように錯覚させることができるからだ。
だから俺は、すぐ近くにいた噂の出所であろう主犯に見せつけた。
そしてその後、榊が俺にコンタクトを取ってきた。
完全に想定外だったが、榊が人類が鼻で笑っちゃうくらいしょうもない内容を俺の元に持ってきた時、噂関連のことだろうとすぐに直感した。
榊が余所余所しかったのは、俺に対してじゃない。花音に対してだ。
人類が鼻で笑っちゃうくらいしょうもない内容というのも真っ赤な嘘。
実際のところ、近くに花音がいたから榊はその場凌ぎの嘘で乗り切ったにすぎない。
だから俺はあの時、大それた嘘を吐いてまで花音の気を逸らそうとした榊の話に興味を示したのである。
まあ大前提として、榊のことを信じても大丈夫なのかっていう問題はあるけど、そこは問題ない。
最悪の事態に陥った場合に備えて、秘策はちゃんと自分の中で隠し持っているから——————。
「それで、どこで話をしようか」
「そうだな、とりあえずこの喧騒から離れたい。静かな場所でゆっくりできるところがいい」
「そしたら、学校近くのカフェとか……」
「そこはダメだ」
「え、なんでさ」
「そこにはアイツがいる可能性が高い」
「あぁ……」
瞬時に俺の言葉の真意を悟った榊が、バツが悪そうに頬をかく。
となると、花音が行かなさそうなところをチョイスするしかない。
花音が行きそうにないところといえば……。
「ファミレスとかはどうだ? そこだったらアイツも多分いない」
「よし、そしたら近くのファミレスに移動しようか」
そして俺と榊は、ファミレスへと移動を開始した。
◆◆◆
「単刀直入に聞く。榊は誰から噂を聞いたんだ?」
学校から少し離れたファミレスに到着するなり、俺はアイスコーヒーを片手に榊に噂の出所を問いただす。
ちなみに、学校から離れたファミレスをチョイスしたのは万が一に備えての保険だ。
花音や他のクラスメイト、それに容疑者に見つかったら面倒くさいことになることは間違いないからな。
そして榊は、グラス一杯に入ったコーラを一口飲んだ後に口を開く。
「僕が直接噂を聞いたのは、我部だよ。我部香凜、ほら廊下側二列目の席の前から三番目の……」
「いや、さすがに俺のこと馬鹿にしすぎじゃないか? ……いや、もしかしなくても馬鹿にしてんのか?」
露骨に俺から目を逸らす榊。
うん、間違いなくこいつ黒だわ。
てか、こんなに人をナチュラルに馬鹿にできるなんて、もしかしてこいつが真犯人じゃないの?
そんな俺の疑念を掻き消さんとばかりに、酷く慌てた様子で榊は言葉を綴った。
「そ、そんなことよりも! 今後の方針について語ろうじゃないか! 僕としては噂がこれ以上広まらないようにしたいんだけど……」
「そんなことよりも? お前、まさかさっきのをそんなことで済ませるつもりか? ナチュラルに人を馬鹿にして、それをそんなことで済ませるとか正気の沙汰じゃないぞ?」
「……悪かったって」
「分かればいいんだ、分かれば」
でも、な〜〜〜〜〜〜んかその不服そうな顔が引っかかるんだが、まあそこは俺の寛大な心で許してやろう。
とりあえず、俺は逸れてしまった話を本筋に戻す。
「今後の方針についてだったな。まあ、現状維持じゃねぇの? 我部も正直どこまで知ってるかも分からんからな。実害が起こって初めて主犯が発覚するもんだし」
「実害が起こってからって……。久山、それ本気で言ってるのか?」
「本気も本気、ちょー本気。俺たちが下手に動けば警戒されかねないからな。憶測で誰かを吊し上げて、もしそれが冤罪だったらどうすんだよ。はっきり言って死刑もんだぜ?」
「それは、分かるけどさ……」
榊の気持ちはよく分かる。
実害が起こってからでは、全てが手遅れなのだ。
そんなことは榊に一々言われなくても、俺の方が痛いほどよく分かっている。
だが、今の俺たちができることはほとんどない。
あくまで現状維持——————情報収集と交換しかできないのだ。
「さっきも言ったが、今は現状維持だ。実害が起こるまで放っておくわけじゃない。ただ、いつも以上に目を光らせておくだけでいい。しかも入学してからまだ四日しか経ってないんだ。期間が浅いゆえに無策に動けば、こっちが痛い目に遭うだけだからな」
「まあ、そうだよな。とりあえずは姫柊さんの近辺を見張っとけばいいんだな?」
「……まあ、そういうことだな」
一瞬、あの変態兄のことを思い浮かべてしまった。
もしかして、俺たちのこれからやろうとしてることって、あの人と同じなんじゃ……。
「…………いや、まさかな」
なんか、思いつきの答えで腑に落ちてしまった自分が恐ろしすぎる。
いや、そもそもこれまでの前提仮説を全て否定しなければこの答えには辿りつかない。
この仮説だけは絶対にありえない。というか、絶対にあってはならない。
そして俺は、乾いた喉を潤すためにアイスコーヒーを一口飲む。
何でだろう。いつも以上に酷く苦味を感じた。




