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オープニング

(スタジオ全体が青白いLED照明で照らされている。壁面にはデジタル回路基板の模様、天井からは0と1の数列が流れ落ちる。背景には「歴史バトルロワイヤル」のネオンロゴが輝く)


(舞台袖のスターゲートから、光の渦が巻き起こる。その中から、透明なタブレット「クロノス」を手にした一人の女性が現れる)


(20代の可憐な女性——あすか。濃紺のジャケットに身を包み、LEDのアクセサリーが光を反射している。彼女は優雅に中央の立ち位置へと歩み、カメラに向かって微笑む)


あすか:「皆さん、こんにちは」(クロノスを胸の前で軽く掲げる)「私は物語の声を聞く案内人、あすかです。歴史バトルロワイヤルへようこそ!」


(あすかの声は明るく、それでいて知的な響きがある。彼女はゆっくりと観客席を見渡すように視線を動かす)


あすか:「この番組では、時空を超えて歴史上の偉人たちをお呼びし、現代の課題について語り合っていただきます。今日のテーマは——」(クロノスを操作すると、空中にホログラムが浮かび上がる)「『サイバー攻撃への備え』です」


(ホログラムには、データと統計が次々と表示される)


あすか:「2024年、日本で報告されたランサムウェア被害は222件。これは過去最高水準です」(データが赤く点滅する)「そして、この数字は氷山の一角に過ぎません。報告されていない被害を含めれば、実際の件数はその何倍にもなるでしょう」


(あすかは一歩前に出て、真剣な表情になる)


あすか:「9月29日、アサヒグループホールディングスがランサムウェア攻撃を受けました」(ホログラムにアサヒのロゴと被害状況が表示される)「国内6工場が製造停止、商品の出荷がストップ。数週間にわたって業務が麻痺し、お歳暮商戦にも影響が出ました。そして——」(画面が切り替わる)「その1ヶ月後の10月19日、今度はアスクルが被害に遭いました」


(実際のニュース映像に切り替わる)

アサヒグループホールディングスの工場が映り、「製造停止」のテロップ

アスクルの記者会見。深々と頭を下げる経営陣

「ロハコ」のサイト画面に「システム障害発生中」の文字

無印良品の店舗で困惑する店員の姿


あすか:「法人顧客約600万件、個人顧客約1000万アカウントに影響。無印良品やロフト、西武・そごうといった取引先企業も巻き込まれました。まさに、サプライチェーン全体を揺るがす事態です」


(あすかは深く息を吸い、観客を見つめる)


あすか:「皆さん、考えてみてください。企業のシステムが止まれば、何が起きるでしょうか?」(指を一本ずつ折りながら)「商品が届かない。サービスが使えない。給料が払えない。取引先も困る。そして——社会全体が混乱に陥る」


(あすかはクロノスを再び操作する。ホログラムに「備え」という文字が大きく浮かび上がる)


あすか:「では、企業はどう備えるべきなのでしょうか?」(三つの選択肢が表示される)「最先端のシステム技術力でしょうか?それとも、危機管理の組織力?あるいは、企業の使命感という文化?もしくは——」(四つ目の選択肢が加わる)「これら全てを統合するマネジメント?」


(あすかは微笑み、クロノスを高く掲げる)


あすか:「この問いに答えるため、今日は時空を超えて4人の巨人をお呼びしました!数学の天才、戦場の指揮官、経営の神様、そしてマネジメントの父。彼らが一体どんな答えを出すのか——さあ、歴史の扉を開きましょう!」


(あすかがクロノスに触れると、スターゲートが激しく光り始める。スターゲートから、数式——「∫」「Σ」「∂」——と光の粒子が噴出する。まるで数学そのものが形を成したかのような光景)


あすか:「最初の巨人は——20世紀最高の天才数学者、ジョン・フォン・ノイマンさんです!」


(光の中から、黒いスーツ姿の男性が颯爽と現れる。知的な眼鏡をかけ、少し早足で歩いてくる。その目は鋭く、すでに何かを計算しているかのようだ)


あすか:「コンピュータの父であり、ゲーム理論の創始者。IQ300と言われた頭脳で、あらゆる問題を数学的に解決してきた方です」(ノイマンが中央に到着する)「ノイマンさん、サイバー攻撃も数学で解決できますか?」


ノイマン:(軽く手を挙げて、やや早口で)「やあ。もちろんだ。サイバー攻撃は実に興味深いゲームだよ」(指を動かしながら)「攻撃者Aと防御者D。それぞれの戦略をマトリクスで表現し、ナッシュ均衡を求める。そうすれば、数学的に最適な防御戦略が導ける。簡単なことだ」


あすか:(微笑んで)「なるほど、さすがです!では、あちらのお席へどうぞ」


(ノイマンはテーブル左手前の席に着く。すぐにホワイトボードとペンがないかキョロキョロと探し始める。スタッフが小さなホワイトボードを手渡すと、満足そうに頷く)


(スターゲートから、今度は海の波音が響き、日本海軍の軍艦——戦艦大和——のシルエットが浮かび上がる)


あすか:「第2の巨人は——太平洋戦争を指揮した連合艦隊司令長官、山本五十六さんです!」


(光の中から、海軍の礼装に身を包んだ男性が現れる。背筋がピンと伸び、落ち着いた足取り。その佇まいからは、戦場を生き抜いた者の風格が漂う)


あすか:「『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』——この名言で知られる組織のリーダーです。真珠湾攻撃という史上最大の奇襲作戦を成功させた情報戦の専門家でもあります」(山本が中央に到着する)「山本さん、サイバー攻撃は現代の情報戦でしょうか?」


山本:(姿勢を正し、低く力強い声で)「その通りだ。サイバー攻撃は、現代の真珠湾攻撃だ。姿なき敵が、予期せぬ方法で襲ってくる」(ノイマンをちらりと見て)「技術も重要だが、最後は人間と組織の力で守る。それが戦場の教訓だ」


あすか:「実戦経験に基づくお言葉、重みがありますね。では、こちらのお席へ」


(山本はテーブル右手前の席に着く。ノイマンと向かい合う形になる。二人は一瞬、視線を交わす。ノイマンは興味深そうに山本を観察している)


(スターゲートから、温かい電球の光が広がる。その中に「National」「Panasonic」のロゴが浮かぶ)


あすか:「第3の巨人は——パナソニック創業者、経営の神様こと、松下幸之助さんです!」


(光の中から、シンプルなスーツ姿の男性が現れる。穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと歩いてくる。その表情には、人生の全てを見てきたかのような深みがある)


あすか:「わずか二畳から世界企業を築き上げた方です。『企業は社会の公器』という信念で、顧客・取引先・社会全体への責任を説かれます」(松下が中央に到着する)「松下さん、サイバー時代においても、企業文化が最も重要だとお考えですか?」


松下:(穏やかに微笑んで、関西弁で)「ありがとうございます。いや、技術も組織も大事やと思いますよ」(ノイマンと山本を見て)「お二方のおっしゃることも、ごもっともや。でもな、それを使うのは人間やということを、忘れたらあかんと思うんです。企業が何のために存在するのか。その心が一番大事やと、私は思います」


あすか:「心——素敵なお言葉ですね。では、こちらへどうぞ」


(松下はテーブル左奥の席に着く。ノイマンの隣になる。松下は優しく微笑みながらノイマンに会釈する。ノイマンは少し戸惑いながらも、ぎこちなく会釈を返す)


(スターゲートから、書籍——「Management」「Innovation」「TheEffectiveExecutive」——が舞うように出現する。知識そのものが形を成したかのような光景)


あすか:「そして最後の巨人は——マネジメントの父、ピーター・ドラッカーさんです!」


(光の中から、グレーのスーツ姿の男性が現れる。落ち着いた足取り、知的な眼差し。その存在感は、他の三人とはまた違った重みを持つ)


あすか:「人類で初めてマネジメントという分野を体系化した現代経営学の巨人です」(ドラッカーが中央に到着する)「『マネジメントとは、組織をして成果を上げさせることだ』と定義された方です。ドラッカーさん、サイバー攻撃への備えも、マネジメントの問題でしょうか?」


ドラッカー:(落ち着いた、それでいて温かい声で)「こんにちは。その通りだ」(三人を見渡して)「技術も組織も文化も、全て必要だ。問題は、それをどう統合するかだ。そして、統合こそがマネジメントの本質なんだ」


あすか:「統合——キーワードが出ましたね。では、こちらへどうぞ」


(ドラッカーはテーブル右奥の席に着く。山本の隣、松下と向かい合う形になる。四人が揃い、コの字型のテーブルが完成する)


(あすかは中央に立ち、四人を見渡す)


あすか:「さあ、4人の巨人が揃いました!数学の天才、戦場の指揮官、経営の神様、マネジメントの父、これほど多彩な顔ぶれが、一つのテーマで語り合う。一体どんな議論が繰り広げられるのでしょうか!」


(四人はそれぞれ、他の三人を観察している。ノイマンは興味深そうに、山本は冷静に、松下は温かく、ドラッカーは分析的に)


あすか:(クロノスを見ながら、真剣な表情で)「それでは早速、お一人ずつお聞きします。『サイバー攻撃への備え』というテーマを、皆さんはどのように受け止められましたか?まず、ノイマンさんからお願いします」


ノイマン:(すでにホワイトボードに何やら式を書き始めている)「非常に興味深いテーマだ」(顔を上げて)「サイバー攻撃は、本質的には攻撃者と防御者の戦略的相互作用だ。つまり、ゲーム理論が適用できる」(ホワイトボードを見せながら)「攻撃者の利得関数と防御者の損失関数を定義し、ナッシュ均衡を求める。そうすれば、数学的に最適な防御戦略が導ける。これは解くべきパズルだ。そして、私はパズルを解くのが得意なんだよ」


あすか:(微笑んで)「さすが、数学者ですね。では、山本さんはいかがですか?」


山本:(腕を組み、深く息を吸ってから)「私は真珠湾攻撃を指揮した。『先手必勝』の恐ろしさを、身をもって知っている。一瞬の油断が、国の運命を変える」(ノイマンを見て)「サイバー攻撃も同じだ。攻撃者は必ず隙を突いてくる。しかし、防御する側も備えれば勝機はある。サイバー攻撃は現代の情報戦だ。『敵を知り、己を知れば、百戦殆うからず』——この原則は、時代が変わっても変わらない」


あすか:(頷いて)「実戦経験に基づく深い洞察ですね。では、松下さん、いかがでしょうか?」


松下:(穏やかに微笑みながら)「いや、お二方の話を聞いて、勉強になりましたわ。私は学がないから、難しいことはよう分からんのですが——一つだけ言わせてもらいたい。企業のシステムが止まったら、誰が困るか、ということです」


(松下は指を折りながら)


松下:「お客様が困る。商品が届かへん。取引先も困る。仕入れができへん。従業員も困る。仕事ができへん。そして、社会全体が困る。これは、企業の社会的責任の問題やと思うんです」


(松下は三人を見渡して)


松下:「技術がどうこう、組織がどうこうの前に——『なぜ守らなあかんのか』を、全従業員が心から理解することが大事やないでしょうか。その心がなければ、どんな立派なシステムも動かんと思います」


あすか:(感心したように)「心——とても大切なキーワードですね。では最後に、ドラッカーさん、お願いします」


ドラッカー:(三人を見渡してから、落ち着いた声で)「私は40年以上、企業を研究してきた。20世紀に企業が直面した数々の危機——大恐慌、世界大戦、オイルショック、バブル崩壊——それらと、今日のサイバー攻撃。表面的には全く違う。しかし、本質は同じだ。危機に直面した時、企業はどう対応すべきか?技術で解決するのか?組織力で乗り越えるのか?企業文化で支えるのか?」(三人を見て)「答えは——全てだ」


ドラッカー:「技術は必要だ。しかし、技術だけでは不十分だ」(山本を見て)「組織も必要だ。しかし、組織だけでは硬直化する」(松下を見て)「文化も必要だ。しかし、文化だけでは具体性に欠ける」


(ドラッカーは両手を広げて)


ドラッカー:「マネジメントの原則は、時代が変わっても変わらない。目標を設定し、組織を構築し、人を動機づけ、成果を評価し、人材を育成する。そして——」(力強く)「これらを統合し、継続的にイノベーションすることだ。それがサイバー時代にも必要なんだ」


(四人の初期回答が終わり、会場には緊張感が漂う)


あすか:(クロノスを操作しながら、明るく)「なるほど!早くも4人の立場が鮮明になってきましたね。数学で解決するノイマンさん、実戦経験の山本さん、心を説く松下さん、そして統合を主張するドラッカーさん」


(あすかはカメラに向かって)


あすか:「この4つの視点が、これからどう激突し、どう融合していくのか——」(両手を広げて)「それでは、本格的な議論に入りましょう!ラウンド1、スタートです!」


(照明が変わり、テーブルの中央に「Round1」の文字が浮かび上がる。四人の表情が引き締まる。戦いの火蓋が、今、切って落とされた——)

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