ただひたすらに黒
少年の視界を埋めるのは、ただひとつの色。
何もかも吸い込むような、全てが消えてしまう
ようなそんな漆黒だった。
そして、その漆黒が今、少年さえを
飲み込もうとしていた。
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白いカーテンの隙間から光が覗き始め、
人々はまた新しい日々を始め出していた。
そんな中、僕はただひとり、この世界に
踏み出すことが出来なかった。
幼少期に見たあの夢。
突如空に出現した漆黒。
そんななにかに親、友人、そしてその周辺の物体を全て飲み込んでいく。
そして最後には、自分までも飲み込んでしまう。
そんな夢だ。
親にはただの夢だと言われたが、僕には
そんなふうには思えなかった。
ただ黒いなにかに飲み込まれながら
泣き叫ぶ友人たちを、自分に早く逃げろと
泣きながら話してくる両親を、僕は偽物とは
思えなかった。
その夢を見たあの日から、
僕は外へ出れなくなった。またあの黒がやってくるのかと思うと、気が気でなかったのだ。
外へ出ず、日光をあびぬうち、髪の毛は
真っ白になり、肌も色素が抜けた。
ご飯も喉を通らなくなり、何に関しても
興味がわかなくなってしまった。
僕の生活を他人が見たら、死んでいるかのようだと
笑われてしまうだろう。
不意に、コンコンっとドアの方から音が聞こえた。
まだ食事には早すぎる時間だろう。
話しかけようか迷っている時に、ドアが開いた。
「やぁ、君が夢を見たっていう少年だね?」
...驚いた。僕の祖父母は両方亡くなって
しまっているし、両親は元々あまり社交的ではなく、
知り合いも少なかった。
「僕はアレク。旅人さ。早速だが本題に入ろう。」
アレクと名乗る男は話を続けた。
「君の見た夢。それ、ホントに起きるよ。
この世界は5年後、消滅する。突如出現した
真っ黒い物体に、全てが飲み込まれる。
君が見た夢は、予知夢ってとこだね。」
色々聞きたいことがあるが、久しぶりに喋るせいで
声が上手く喉を通らない。
「あぁ、焦らないでいいよ。僕はこれから
君とずっと行動することになってるから。」
頭が混乱したが、まず1番聞きたかったことを聞いてみる。
「あの夢は一体なんなんだ?
あの黒いものは一体なんだ?」
アレクは少し悩んだ素振りを見せ、
言いづらそうに口を開いた。
「...聞きたい?」
「教えてくれ!!」
アレクの言葉を聞き終わる前に
僕は大声で叫んだ。
...喉が痛い。喉を酷使しすぎてしまったようだ。
思わず喉を抑えると、アレクが笑いながら
僕に奇妙な瓶を差し出してきた。
「これ、飲んでみて」
受け取った瓶をマジマジと見ていると、
アレクが喋りかけてきた。
「これはのど薬だよ。
僕特製のね?」
アレクは薬を作れるらしい。
仕方なく飲んでみると、ミントのような
爽やかな香りがしたと共に喉の痛みが
すーっと引いた。
「すごいでしょ?
昔薬の勉強をしててね」
とても勉強が出来るようには見えないが、
アレクは色んなことに精通しているらしい。
色々話しているうちに、重要な話をするのを
忘れていた。
「そういえば、名乗るのを忘れていた。
僕の名前はリヒト。よろしく」
アレクは嬉しそうに笑うと、
手を差し出して満面の笑みで言った。
「よろしく!リヒト!」
アレクの手を取るとさっきの質問の答えが
帰ってきていないことに気がついたが
まあいいだろう。
どうせこれから一緒に過ごすのだから。