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ROUND.23 決戦の朝

 その日は良く晴れた日で、朝から曇り一つない空が広がっていた。


「委員長、おはよう」

「おはよう、伏見君」


 晴れやかな空気とは裏腹に、どこか剣呑さすら感じさせる様子で、俺達は教室の机を挟んで向き合った。委員長とまともに言葉を交わしたのはそれこそ一カ月ぶりで、何だか懐かしさすら感じてしまう。


「今日の放課後、だね」


 重々しさを含んだ委員長の言葉に頷く。

 いよいよ約束の日が来た。三先の日だ。

 無言で見つめ合い、その空気に耐え切れなくなったのか、委員長が小さく噴き出して笑んだ。


「あははっ、何だかおかしいよね! 別に喧嘩してるってワケじゃないのに!」


 肩を揺らして笑う仕草に、俺もまたつられて笑んでしまう。


「そーだな。三先だからって、別に距離取る必要はなかったよな」

「ねっ。だけど、それだけ私も伏見君も本気なんだよね」


 そうだと首を縦に振る。

 委員長はやわく笑んだまま、真っすぐに俺を見つめた。


「私、この一カ月で猛特訓してきたよ。今日はその全部、伏見君に見せるから」

「おう。俺も最初から全力の、本気で行く」


 再びじっと見つめ合い、それからどちらからともなく「放課後、部室で」と頷きあう。去っていく委員長の背中を目にしても、不思議と心は落ち着いていて凪いでいる。そのシャンと伸びた委員長の背筋から、確かな自信を感じ取ったからだろう。


 一カ月前の様な、無礼た態度は二度と取らない。いや、それを取らせてくれない程に委員長は強くなっている。


 胸の奥が熱くなる。湧き上がる高揚感に口元が緩みかけ、隠れる様に机に突っ伏した。

 最早、この三先の理由を忘れかけている。

 単純に強敵と戦える事の喜びが、勝ってきているのだった。




 昼休みに部室に顔を出したのも、一カ月ぶりだろうか。

 弁当を抱えて尋ねるも、戸を開ける事に少しだけ躊躇を覚える。


 委員長と鉢合わせになりたくなくて部室とも距離を置いていたが、eスポ部員でありながら部室に顔を出さないのはサボりに等しく、部長である茶屋ヶ坂先輩に対して不義理を働いてしまった気がして申し訳なさが湧く。今更だけど。


「お疲れ様でーす……」

「おぉっ、伏見氏! おひさ~! 元気しとったかー?」


 恐る恐る戸を開けると、茶屋ヶ坂先輩の明るい声が飛んできてホッとする。

 いつも通りにゲーミングなパソコン一式が置かれた長机の一角を占拠し、お弁当を広げながらコントローラーを握る先輩の側に近寄って頭を下げた。


「一カ月も部室に顔出さなくて、すみませんでした」

「いいってことよ~。男の子の意地ってやつっしょ? アタイ、理解のある先輩よん」


 先輩の懐の広さに思わずホロリと来る。

 礼を告げてから頭を上げて、それから今日の放課後の事を話す。先輩も三先が今日であることは分かっていたようで、部室を個人的な事情で使う事を二つ返事で了承してくれた。


「あざっス。三先なんで、そんなに長時間占領するってことは無いと思うんですけどね」

「ほほーう。そりゃ、伏見氏がストレートで星ヶ丘氏に勝っちゃうから……ってコトぉ?」

「いやいや。流石にそんな甘い見積もりは立ててませんって。……でも、そのつもりっスよ」

「ぬっふふふふ。いいねぇ。伏見氏、本気じゃーん! そのやる気に敬意を表し、eスポ部部長として、出来る限りの舞台を整えておいてしんでよーぞ!」


 自慢げに胸を張る先輩に、そこまでしてもらわなくともと思わず戸惑う。しかし先輩は、俺の戸惑い何て気にする素振りもなしに豪快に笑うのだった。


「真剣勝負に遅延は天敵! 我が愛機とモニターで、完璧な環境を提供するのもまた部長の役目じゃい! まっ、放課後までには準備しとくんで、期待しといてね~」

「放課後までって……もう準備できる時間なんて、この休み時間しかないじゃないっスか」

「授業サボるからへーきへーき」

「サボんないで下さいよ!」


 俺の突っ込みも何のその。平然とした顔で、部長がお弁当を突っつく。

 部長は意外と頑固な性格をしている人だ。一度言い出したことは曲げないタイプだからこそ、俺がなんと言おうと先輩はこのまま部室に残ってセッティングを始めるだろう。


「先輩。俺も一緒にやります。セッティング」


 だったら俺がとるべき行動は一つだ。

 放課後の三先の発端は俺にある。そして、三先は俺の為のものでもある。ならば、当事者である俺も一緒に準備を行うのが筋というものだ。


「りょー。じゃ、ご飯食べたら取り掛かるぜよー」

「了解っス」


 授業をサボるのなんて初めてだが、腹を括って椅子に座り、堂々と弁当を広げて食す。久しぶりの部室の空気に慣れておきたくて。それに、委員長との決戦の場を自ら整えたいという思いがあった。


 昼食を終えた俺は、部長の指示に従ってセッティングを始めた。

 長机の上に、背中合わせに置かれたディスプレイが二つ。最新のゲーム機が一台――そこには当然ブラカニがインストール済みだ。アケコンも二台それぞれのディスプレイの前に設置した。

 

「……なんか、どこぞやの大きな大会の壇上みたいっスね」

「機材的には遜色無しよ。存分にやっちゃっとくれっ!」


 親指をグッと立ててきた先輩に向けて、力強く首を縦に振る。もう目前に迫るその瞬間に、胸を躍らせた。


伏見「どうして遅延は発生するんだろう?」

茶屋ヶ坂「モニターの性能差、オンライン環境の差。俺達格ゲーマーの高度なプレイスタイルの、いわばツケだな」

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