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ROUND.10 対戦、楽ありゃ苦もあるさ

 カカカッ、タンッ。

 真面目に一時間練習をしているからか、委員長の手付きは随分とこなれたものになっていた。右、下、右斜め……つまり623コマンドもきっちりと入力が出来ていて、画面上のミナヅキが軽快に剣を振り上げていた。


「ナイスナイス。これ、いろんな場面で使うから、いつでもきっちり出せる様にしとくと安心だな」

「いろんな場面って、やっぱりコンボとか?」

「おう。コンボの締めに使う場面も多いし、後は対空だな」

「えー? ミナヅキの対空は肘で十分じゃね?」


 異議ありといわんばかりに、植田が食いついてくる。

 ちなみにミナヅキの肘とは、6Aで出る肘を前方に突き出す技だ。発生も早く、判定もそこそこ強い。なにより上半身無敵が付いているので出しておくだけで強いという、ミナヅキの代名詞みたいなものだ。


「肘つえーけど、初心者はまず『水月』で対空の感覚掴むのが先だろ」

「変なクセつけるより、最初から肘対空出来た方がいーじゃん!」

「それは対戦やり込む前提だろ。委員長がそこまでしたいとは限らねぇよ。なぁ、委員長」


 委員長の顔を見れば、委員長は少しばかり狼狽えて口元に手を当てる。少しばかり考え込んだ様子を見せて、それから伏し目がちに俺を見上げてきた。


「まだ格闘ゲームも始めたばかりだから、対戦とか分からないけれど……。伏見君と植田君にとっては、対戦って楽しいのかな?」


 聞かれて、俺と植田は顔を見合わせる。

 対戦というものは、精神がガリガリと削られる苦行の様なものである。ランクマッチで負けがこんでポイントが減ると胃が痛くなり、めちゃくちゃ鬱になる。見せつけられる格上との実力差には泣きたくなるばかりだ。植田なんて見ての通り、ピノマンとの同キャラ対戦で狂う日々を送っている。


 苦行の様なもの……じゃねぇな、苦行だよ。


 だがしかし。俺達はそれでも今夜も格ゲーをしてしまうだろう。


「楽しいな。勝った時の快感が病みつきになる」

「分かる~! 特に前に負けた相手に勝てると、めちゃくちゃ嬉しいんだよな! 後、きっちりリーサル出来たときとか脳汁どばどば!」

「それな」


 植田に同意して大きく頷く。

 結局、どんなに苦しかろうと勝利の美酒を味わえば、そこから抜け出す事が出来なくなってしまうのだ。これぞまさに沼である。


 俺達二人の返答に納得したのか、委員長の顔に笑みが浮かぶ。どこか安堵した様な優しく柔和な笑みに、少しだけドキッとしてしまった。


「そうなんだね! 二人がそれだけ楽しめているなら、対戦、ちょっと興味持ったかも」

「対戦したいなら、俺達で良ければ、いつでも相手になるぞ」

「そう! 星ヶ丘ちゃんなら喜んで相手しちゃうー!」


 正直、対戦道とは修羅道なので軽率に誘うのはどうかとは思ったが、新規プレイヤーが増えるのは素直に嬉しい。いうて、昔に比べればライトに遊んでいる層もかなり多いので、初心者帯でわいわい遊ぶ分ならば素直に対戦も楽しめるだろう。


 そうこうしている内に、委員長は帰る時間だと席を立つ。

 覚えたことを家でもやってみるねと笑顔で立ち去る背中を、俺はまたなと声を掛けて見送った。


 部室に残った俺と植田はどちらともなく席に着く。アケコンをもう一つ引っ張り出して、本体に繋げる。そしてモードを変更し、当たり前の様に対戦を始めた。


「なぁなぁ、星ヶ丘ちゃんって、結構やる気あるっぽくね? めちゃくちゃ覚える努力してるのとか尊敬するわー!」

「だな。ちゃんと知識得てやろうとすんの、立派だと思うわ」

「オレもお前も、感覚だけだもんなァ~」


 あっははと拘束時間のクソ長コンボを決めながら植田が笑う。こんな時はレバーを後ろに倒して、コンボミスを祈るばかりである。


「生憎だが、俺はフレームを覚える努力はしてるんだ。悪いな、植田。お前、数字読めないだろ?」

「バッカ! お前! 数字くらい読めるわ! 覚えられねぇだけだわ! あ゛ー! コンボ落とした! 卑怯だぞ、伏見ィ!」

「勝負に卑怯もクソもねぇんだなぁこれが!」

「いやーッ! きっちり確反からのフルコンボ!」


 ワアワアと騒ぎながらアケコンを動かす手は止まらない。

 勝ったり負けたり。やはり、対戦は面白い。




 我らがeスポ部には、明確な活動時間と言うのは存在しない。

 部室の主である茶屋ヶ坂先輩が帰る時が解散の瞬間なのである。


「ほいじゃ、また明日~」

「先輩、今日は騒がしくしてすみませんでした」

「いいっていいって! 明るく楽しいeスポーツって感じじゃろい? 青春の熱も感じて、アタイ、にっこりしちゃう! 明日以降も、委員長ちゃんいつでも来てくれていいよォ~って伝えといておくんなまし」

「あざっス!」


 その晩、茶屋ヶ坂先輩からの伝言を委員長に伝えると、委員長からはとても喜んだ様子の返事が送られてきた。ブラカニのゲームソフトのパッケージ+ブラナイサントラの写真と共に。

 まだブラエクのアケモも全部見終わっていないだろうに……本当に行動が早いな。


星ヶ丘『ブラナイのBGM、すっごく良すぎてサントラ買っちゃった!』

伏見 『配信で全曲聞けるぞ』

星ヶ丘『知ってるよ~! でも、やっぱり物理で手元に置いておきたいじゃない?』

伏見 『うーん、沼ってんねー。今度、ブラエクの追加楽曲入ってるサントラと、ドラマCD貸すよ』

星ヶ丘『伏見君も沼ってるー!』


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