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ROUND.09 基本は下、右斜め下、右

 俺が説明をすると、委員長は頷きながらメモを取っていた。

 委員長は随分とマメな性格の様で、手書きのイラストと文字で解説を書き加えていく。綴られていく文字の美しさについ見惚れていると、筆がぴたりと止まってしまった。


「そ、そんなに見られると恥ずかしいかも……」

「あ、悪ィ。委員長、字キレイだなって、つい」

「ううん! 自分用のメモだから走り書きみたいなもので、あまり綺麗じゃないよ」

「いやいや、日本語を筆記体で書く植田のメモと比べれば月とスッポン。てか、比べるのも烏滸がましいな。謝っとけよ、植田」

「ごめん!! ってなんでオレが謝るんだよ!? お前だってミミズがのたうち回った様なモンじゃねーかっ! 謝れよ、オレに!」

「うーし、じゃあ次は必殺技な。植田、コマンド入力のお手本、頼めるか?」

「えっ!? オレ!? 仕方がないにゃ~。OK~!」


 話しの前後の繋がりを失った植田が、委員長からアケコンを手渡される。いい加減で適当な植田ではあるが、コマンド入力の綺麗さに関しては俺よりも上だった。解せぬ。


「まずは『水玉(みたま)』、入力は……下、右斜め下、右で、ABCボタンのどれかを押すんだ」


 いつもの癖でテンキー入力を口にしようとして改まる。いきなり236なんて言われても分かンねーよなぁ。俺も最初は分からなかったし。


 俺の言葉に続いて、植田がコマンドを完成させる。画面上のミナヅキが剣を振り、顔程度の大きさはある球体状の水を真っすぐに打ち出した。各種ボタンで速度と大きさ、それと威力が変化。空中で発射することも可能なオーソドックスな弾だ。


「んじゃっ、星ヶ丘ちゃんやってみて!」


 植田からアケコンを渡された委員長は、レバーの側面に手の平を這わせるようにして軽く手を添えた。てっきりアケコンに不慣れな人ならではの上から握る様に持つかと思ったが、意外と様になる持ち方をした事に目を見張る。

 どこか恐る恐ると言った様子でレバーを入力して、委員長の長く細い指先がボタンを押す。


『ハッ!』


 台詞と共に、ミナヅキが弾を打ち出した。


「でたー! ミナヅキの弾!」

「お見事!」

「二人とも大袈裟だよ~」

「いやいや。このコマンドは基礎みたいなもんだから、しっかり入力出来てなんぼだ。ミナヅキには、このコマンドを二回入れて出すゲージ技もあるからな」

「二回……それはちょっと難しそうかも」


 心配そうに眉を寄せる委員長に、俺は思わず苦笑してしまう。

 何事も真面目に取り組むんだな、委員長って。

 何をするにしても半端になってしまう俺からすると、真剣に打ち込めるというだけで尊敬に値する。いうて、格ゲーに関してはそこそこ真面目に取り組んでいるつもりではあるのだが。


「ま、取り合えず先に必殺技の確認だ。次、『水月(みつき)』。右、下、右斜めとABCボタンのどれかだ」


 下入力を経由してからの、斜め入力。これが初心者第一の壁と言っても過言ではないだろう。

 コマンド成立と共に、ミナヅキが垂直に飛びあがり、剣を下から上へ振り抜く。各種ボタンで出るもの、そしてまだ委員長には説明していないが強化版を含めても、全体的に発生が速く優秀な対空技だ。


 再びアケコンを受け取った委員長は、早速レバーを握ってコマンドの成立に励む。

 しかし、画面上のミナヅキは飛び跳ね剣を振ったり、弾を出してしまうばかりだった。五回に一回くらいちゃんと『水月』が出るが、どうして出ているのか分からない。そんな顔を委員長はしていた。


「難しいね。斜め入力が上手くいかない……」

「焦らない事だな。意外とコマンドの入力受付時間は長いから、一つずつ正確にレバー動かせば出る」

「焦らない焦らない……丁寧に丁寧に……」


 ゆっくり一つ一つ確かめる様に。委員長はレバーを動かしていく。

 先程から思ってはいたのだが、委員長の指は随分と細く長く、そして色白だ。なんだっけ、こういうの。白魚の様な手、だっけ? しなやかな指先は、格ゲーよりも多数のボタンを押す音ゲー向けの手だとぼんやりと思う。


「そういや、委員長。日曜はゲーセンに何しに来てたんだよ」

「日曜日? あぁ、万梨阿に誘われて音ゲーで遊んでたの」

 

 万梨阿とは委員長の友人で、同じクラスの女子だ。言われて、彼女の鞄に音ゲーのキャラクターキーホルダーがぶら下げていたことを思い出す。


「あー、やっぱ委員長、音ゲー勢か」

「やっぱりって?」

「いや、手が音ゲー向きだなと思って。細くて長いし」


 ボタンを押す委員長の手がびくりと跳ねて止まる。どうした? 指痛めたか!?


「そっ、そんな事ないよっ、私の手、骨ばってるだけで……っ」

「おん? そうか? ンなことないと思うけどな」

「そうそう! 星ヶ丘ちゃんの手、キュートだよ! てか、何よ日曜日って! 伏見っ、あんたオレというものが在りながら一人でゲーセン行ったのかよォ! 誘えよっ、寂しいだろー!?」

「いや、お前は日曜、オンライン大会出てたんだろ?」

「あ。そーでした! ちなみにオレ、優勝したんだぜ~!」

「優勝! 凄いね、植田君!」

「古いゲームの永パ使用可能大会だから、大分異質ではあるけどな」


 優勝者。即ち、ゲームの破壊者である。

 大会動画のアーカイブを見たが、見事な永久パターンぶりであった。

 植田が委員長に大会の動画を見せようとするが、即座に阻止する。格ゲー初心者には刺激が強すぎるだろう……。


「二人とも、格闘ゲームが上手なんだね。私も頑張ろっと! もう少し、ここでトレモしていっていいかな?」

「おぉっ! 星ヶ丘ちゃん、やる気あるね! やる気ある人は伸びるよ~!」

「OK。付き合う」


 再び手を動かし始めた委員長を囲んで、俺と植田は出来る限りのアドバイスを送り続けるのだった。


■テンキー表記とは

レバーの入力方向を、キーボードのテンキー配置で表現する方法。

テンキーの5が、レバーのニュートラル位置に該当。


  ↑

↖789↗

←456→

↙123↘

  ↓


本文中に出てきたミナヅキの『水玉』なら

236+AorBorC


『水月』なら

623+AorBorC


といった表記になる。

格ゲーマーの間では、古から語り継がれている表記である。


※以降、作中でも頻繁に登場する表記となります。


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