あだ花ピンクブロンド戦記
「大聖女ナターシャ様!不吉なホウキ星が!」
「ええ、年老いた私でも分かるくらいの・・・ピンク色のホウキ星!」
ここは聖女修行の地の聖女山の星見台。
夜空に巨大なホウキ星が観測された。
「ついに、現れたのね。ピンク頭の大化生!ピンクブロンドが復活するかもしれません!ピンク石の封印の強化を!」
「「「「はい!」」」
30年前に東の王宮を騒がした伝説の男爵令嬢、先代の大聖女シルビア様と聖女300名と大勢の魔道士、騎士がやっと封印した伝説の大化生!
押さえ込むわ!
筆頭聖女の名にかけて!
しかし、現実は非情であった。
悲報が飛び込む。
「ナターシャ様!ピンク石が割れています!」
「そ、そんな・・・・」
ナターシュはガクンと膝を落とした。
「「「大聖女様!」」」
「私達で迎え撃ちましょう!」
「聖魔法の波状攻撃をすれば何とかなります」
「いいえ。ピンク頭は人外・・・私は先代のシルビア様には遠く及びません。
しかし、希望はあります。
ピンク頭には対抗できる令嬢がいます。今は力が眠っているけど、きっと、目が覚めるハズですわ。その令嬢を探すのよ」
「でも、大聖女様、その令嬢の特徴は・・」
「そうね。ピンク頭が恐れる唯一の存在・・ピンク頭は『悪役令嬢』と呼んでいます。それしか手がかりはありませんわ・・」
「分かりました。人相の悪い令嬢を探します!」
ピンク頭と対になる存在、悪役令嬢・・・先代シルビア様も悪役令嬢と言われていたわね・・・・
☆☆☆ノース王国貴族学園
「ペーター様、怖いわ。ピンク頭という人外が出たそうだわ」
「大丈夫だよ。エリザ、僕が守ってあげる」
私は、エリザベート・ザックス。侯爵家の長女、伯爵家のペーター様が婚約者よ。
卒業後、結婚して一緒に侯爵家を継ぐのよ。
「では、放課後に・・」
「ああ、今度のお茶会、楽しみにしているよ」
私は・・・白髪だわ。目は黒の瞳・・・子供の頃は不吉と言われていたけども、ペーター様は守って下さったの。
あら、回廊で人が・・・倒れているわ!令嬢ね。ピンクの服だわ。
「あの、もし、大丈夫ですか?保健室に連れて行きますわ!」
「お腹空いた~感じぃ~」
まあ、可愛い顔に金髪だわ。身長が低くて、殿方が好みそうだわ。
もしかして、貧窮している家門かしら。
これは聞いてはいけないわね。
私はカフェに連れて行き。食事を提供した。
「授業があるから失礼します。お金は渡して起きましたから、存分にお食べ下さい」
「ありがとうな感じぃ~」
どうしようかしら。生徒会長のヘンドリック殿下に相談する?その前に婚約者のイザベラ様に相談しようかしら。
明日、生徒会に行ったら相談しよう。名前くらい聞いておけば良かったと家に帰ったら、その令嬢はいた。
「エリエリ~、お帰りなさいみたいな感じぃ~」
「え、お父様、お義母様、どうしたの?」
「え、エリザのお友達ではないのか?」
「そうよ。今日からここに住むのよ」
え、え、あ、そうか、そう言えば、彼女は遠い親戚で、我家に滞在するのだったわ。
名前は、
「サリー・ガンツみたいな感じぃ~、サリサリ~と呼ぶみたいな~」
「そうわ。いきませんわ。サリー様と呼びますわ」
義妹のメルルと相性はいいかしら。
しかし、メルルとは火と油みたいに仲が悪い。
メルルは平民、来年、貴族学園の試験を受けるから私が勉強を見ている。
「お義姉様、あの男爵令嬢おかしいですわ。遠ざけた方がいいです」
「それは、お父様のお考えよ」
「私、義姉様が心配で」
「有難う。貴女は早く婚約者が決まればいいわね」
「やだ。お義姉様とずっと一緒にいるの」
何て、可愛い義妹だろう。
☆☆☆お茶会
今日はペーター様が来られる大事なお茶会。
なのに、サリー様は不躾に私の隣に座っている。
自分で椅子を持って来て座る厚顔ぶりだ。
「サリサリ~、ペーター様とお話したいかも~」
「ハハ、エリザの親戚の方か、場をわきまえてもらいたいものだな」
良かった。ペーターはなびいていないわ。
あら、メルル、メイド服を着ているわ。どうしたの、ポットを持っているわ。
「ちょっと、サリー様、ご退場下さい。ここはお義姉様とペーター様が愛を育む場ですわ!」
「サリサリ~、嫌かも!エイ!」
「キャア!」
ガチャン!
ポットが割れたわ。
サリー様が乱暴にメルルを押した。メルルは倒れ尻餅をついたわ。
「ヒィ、お茶が服にかかったわ!」
「メルル嬢、お茶、口に入っていないか?・・いや火傷が心配だ。すぐに、着替えてくるのだ!エリザ、ここは失礼するよ」
「ええ、もし、怪我をしていたら大変だわ」
ペーターは御姫様抱っこをして、メルルを屋敷の中に連れていったわ。
これは義妹に対する気遣いね。
さすがに、サリー様を叱った。
「サリー様、メルルは使用人の練習もしている健気な義妹です。いえ、本当の妹、家族ですわ!」
「サリサリ~、ごめんな感じぃ~」
「反省なさりなさい!」
それから、サリー様と口を利かない日々が続いた。
生徒会室でも、イザベラ様から心配された。イザベラ様には戦闘メイド6人常時護衛がついている。
イザベラ様は、『悪役令嬢』の候補だ。
失礼だが、目がつり気味で厳しそうに見えるわ。演劇の悪役令嬢に見えなくもない。
しかし、女神信仰圏の期待が一身にかかっている。
ただでさえ王太子妃教育もされているのに。
「まあ、大変ね。ピンク頭問題があるのに・・・貴女は少し休みなさい」
「いいえ。大丈夫ですわ。イザベラ様に比べたら」
「まあ、私は『悪役令嬢』候補だから・・・ヘンドリックも王宮に呼ばれているわ」
「でも、ガンツ家のサリー様、貴族年鑑でも、あったような。なかったような・・・ああ、思い出したわ。東方に由来する家門でしたわね」
「まあ、そうですの」
何故、お父様が引き取ったのか聞いて見よう。
次のお茶会はすぐに決まった。平日の夕方だわ。
メルルが自らお茶を入れてくれる。
平民から貴族になって2年、義母の連れ子。
最初は心配したけども、とても良い子、謙虚で自ら使用人になりたいと言ってくれているわ。
まだ、婚約者はいないわ。どこか良い家門の貴公子がいれば、貴族になってもらおう。
「フフフ、サリー様は部屋に閉じ込めておきましたからご心配なく」
「まあ、メルル有難う」
「さあ、可愛い義妹が入れたお茶はエリザが最初に飲むべきだ」
「ペーターそうするわ」
まあ、まだ、ぎこちないけど、丁寧にお茶を入れてくれているわね。
「メルル、有難う」
「いいえ。お嬢様、私の練習台で申し訳ありません」
「あら・・・」
カップの色が変わった。白磁から、灰色。
このカップ、ザックス家の秘伝の魔法カップ、お母様から受けついたもの。
毒が入ると色が変わるのよね。
大変だわ。これは毒だわ。メルルが何者かに騙されて、毒を仕込まれたのね。
灰色は、人を廃人にする毒だわ。
「お義姉様、どしたの?カップの色が・・」
「そうよ。これは、毒だわ。使用人の誰かが毒を入れたのよ」
そう言えば、最近、使用人が変わっていたわね。
あら、お父様、お義母様が植木の後ろから出てきたわ。
ガサガサガサ!
何故、こんな所にいるのかしら。
「お父様、お義母様、大変ですわ。毒ですわ!」
「「「「・・・・・・・・・・」」」
皆、無言?ペーター様まで?
ガサガサ!
更に、人相の悪い男達が庭木から出てきたわ。
「察しが悪いな。さすが、シャーロットの娘だ」
「お父様・・・これは何?」
お義母様の側にメルルが寄りそうわ。
「フフフ、義姉様、私は父が同じ・・・本当は異母腹の妹よ」
「ええ、そうよ。シャーロットでは息が詰まるから・・・私が旦那様を慰めていたの」
「君は、このお茶を飲んで、廃人になるのだ。何、貴族学園には病気療養で届け出た」
「そして、このペーターとメルルが結ばれるのだ」
「そんなー」
「そうだね。私の娘はメルルだけだ。ペーター君とメルルの子を君の子として届け出る。
君は、これから、お婆ちゃんになって死ぬまで何でも『ハイ、ハイ』とお返事人形になるのだ」
そんな。だから、前のお茶会で、サリー様がポットを割ったときに、大騒ぎになったのね。毒が口に入らないように・・・
「いや・・・」
「さあ、君たち、押さえて、毒を飲ませたまえ」
「「「はい、旦那様!」」」
「イヤー!」
私は抑えられて・・・・鼻をつままれ、口を開かざる得ない状況にされた。
息が続かない。
「サリサリ~もお茶を飲みたい感じ~」
その時、サリー様がやってきたわ。
「いつのまに、見張りをつけていたのに・・」
「サリサリ~もお茶を飲む感じぃ~」
「旦那様、この女、どうしますか?依頼料追加になりますが・・」
「いや、そう言えば、この女、どこの家門から預かったのだっけ?とにかく、殺すのは不味い。拘束しろ」
「ヘイ、依頼料、弾んでもらいますよ」
「おい、女、こっちに来い!」
「サリサリ~、剣を向けないで欲しい感じぃ~、怖い感じぃエリエリ~助けてぇ~」
「おい、こら、エリザベートの所に行くな!カップを奪うな。毒だぞ!」
サリー様はカップを奪って飲み干したわ。
「おい、この女!」
「馬鹿、この薬高いのだぞ!」
サリー様は異国の詠唱を始めたわ。
「プハ~~、効く感じぃ~、解毒!Head over heels in love!(全身恋まみれ!)」
ピカッとサリー様は全身鈍い青色に光ったわ。
まさか、聖女?
そして、口調が変わったの。
「あ~、クククク、
ピンクブロンド破れて山河あり。
王城春にして草木深し
時に感じては悪役令嬢にも涙をそそぎ。
別れを恨んではスパダリにも心を驚かす
婚約破棄騒動三月に連なり
ヒーローからのラブレター、オリハルコンに等し
ピンクブロンド頭をかけば更にピンクなり。
髪飾りより目立つピンク!
・・・と吟じてみたところで分からないだろうな~」
そして、サリー様が頭をボリボリとかくと、
金髪が・・・ストロベリー、いえ、ピンク髪に変化したわ!
「何だ。妖女!ピンク頭だ!」
「斬れ!斬れ!」
「フウ、前を望めば、ゴロツキに、右にゲス親に左に裏切り婚約者~、この世の修羅場を目の当たり~♩」
「やめて、サリー様を殺さないで!」
私は叫んだ。
すると、サリー様は、片手でドレスのスカートを少しあげて、ダンスを始めたわ。
「スキル!ピンクブロンドの無軌道なダンス!」
シュン!シュン!
「あれ、剣がすり抜ける!」
「何故、当たらない!」
「スキル!邪を討ち滅ぼせ!聖光破斬!」
ピカッ!とサリー様の右手が光ったわ。
手刀をつくり。
ゴロツキたちに向かって、斬りかかったわ。
あれは、まるで、聖魔法みたい。いえ、聖魔法よ。
聖魔法は凝縮すると危険と聞いた事があるわ。
まさか、それで剣のように斬ると言うの?
ゴロツキ達の体がバラバラになったわ。
「パラ~、あれ、おれ、飛んでいる。いや、頭が飛んでいるのだー!グワッ!」
「あれ、視界が広くなった。体が割れて・・・・開いていくりゅーーーーーー」
「何で、俺視界が木の上なの?ウギャアアーーーー、首だけにな・・・」
あっという間にゴロツキ達は切り刻まれたわ。
プシュ~と死体から血が吹き出ているわ。
「ヒィ、お前は、何者!」
「ピンク頭の悪魔!」
「ペーター助けて」
「いや、エリザ、やり直そう」
サリー様は家族達の前に仁王立ちになり。両手をあげて、天に向かって叫んだわ。
「Flower garden in the brain!(脳内お花畑!)」
光は、お父様、お義母様、メルル、ペーターを襲ったわ。
あれは、魅了!・・・
その時、私に膨大な記憶が流れ込んできたわ。
☆回想
荒野でサリー様が空高く浮かんでいる。
地面には、魔道師、聖女、騎士達の屍が多数・・・
私はシルビアという名で、手を組み詠唱をしている。・・・遠い異国の術式、封印の術だわ。
「・・・空即是色!空即是色!瞬!殺!斬!破邪顕正!外道よ!封印せよ!」
大気が渦巻きになって、ピンク頭が封印されていく。体が岩に溶け込んでいくわ。
岩は徐々にピンク色に染まっていくわ。
ピンク頭は叫ぶ。
「革命未だならず!努力せよ!同士たちよ!我!また、復活せん!悪役令嬢とピンクブロンドは表裏一体なり!また、出会うなり!」
そうだわ。私は東方の国の王子の婚約者で・・・王子に真実の愛に目覚めたと言われて婚約破棄をされ。追放されたのよ。そこで前世の記憶と聖女の力が顕現したわ。
そして、政治が乱れピンク頭討伐の軍が起きたのね。
「シルビア様・・・髪が・・白くなっております・・」
「力を使い果たしましたわ・・・しかし、いずれ、ピンク頭はよみがえるでしょう。
そしたら、私は転生して立ち向かいますわ!」
ガタン!
「シルビア様!」
「回復術士を・・・」
「ダメだ。もう、お亡くなりになられている!」
・・・・・・・・・・・・
「サリー様・・・貴女は・・・」
サリー様は、私の額に手を当てる。記憶を消すようだ。
「フウ、あの国は、国民が飢えていた・・・」
「ええ、知っていたわ・・・何故、あのゲス王子に懸想するか疑問だったの。貴女は、王妃になって、国を改革しようとしたのね。貴女は、これからどうするの?」
「どうもしない。悪役令嬢とピンクブロンドは表裏一体、エリザも聖女の力に目覚めたのね。だから、好きにするがいい」
ピカッ!私の手が青く光っている。
サリー様は手を下げたわ。
「聖女は状態正常のスキルがある。記憶は消せないな。教会に通報しな」
「では、提案があるの」
・・・・・・
あれから、私の家族と婚約者は自ら罪を認め。ペーターは廃嫡、伯爵家から多額の賠償金をもらったわ。
お父様は貴族の籍を抜けて、一般牢獄に。
義母と義妹は労役場送りになったわ。おそらく一生ね。
皆、涙を流しながら役人の前で罪を告白したそうよ。
魅了の影響だわ。サリー様の記憶はない。
今、サリー様は・・どうなっているかですって?
普通だ。私はサリー様と通学する毎日だ。
☆貴族学園生徒会室
「エリエリ~、生徒会経理になった感じぃ~」
「え、殿下、イザベラ様どうして?」
「・・・それはだな。こんな言動でも頭が良いのだ」
「そうね・・・不思議な数式を知っているのよね。もしかして、転生者の疑いがあるわ」
「エリエリ~、仕事を教えて感じぃ」
「サリサリ~、まずは生徒会の人の名前を覚える・・・のよ」
「サリサリ~、嬉しい。サリサリ言ってくれた」
「サリサリ!今は仕事中ですよ!キャア、また」
サリサリと思わず呼んでしまったサリー様の魅了のせいだろうか?
いや、私は聖女、状態正常のスキルがある。
きっと、サリーの正当な魅力のせいだろう。
最後までお読み頂き有難うございました。