私だけ異世界転生しない件 3.佐々木亮介
二人目の転生者との定時連絡を終えると、私は二人とのやりとりを簡単にまとめたうえで、情報共有スレッドへの書き込みの準備をはじめた。
冷めかけたコーヒーを、カップの半分ほど飲んでのどを潤し、三人目の犠牲者--佐々木亮介のアイコンをクリックすると、ほどなくしてピコンという音ともに、画面が切り替わった。
『お疲れ様でーす』
「お疲れ様。その後、どう?リョースケ」
『どうもこうもないですよ…』
三人目となる佐々木亮介が転生したのは、一週間前のこと。
休日に彼女と部屋で寛いでいたところ、突然転生してしまったとのことだった。
そしていままでの二人と大きく違うこととして、リョースケの転生先は、彼女がハマっていた電子コミックのオリジナル漫画「ヴィランズ・ダンス~悪役令嬢の華麗なる逆転~」の主人公(そしてタイトルの通り悪役令嬢)であるエレノア・ド・ラヴァレットだというのだ。
『まさか俺、このトシになって女性に転生するとは思いませんでしたよ…』
「はは…」
これに関しては、私もかける言葉が見つからなかった。
「…とりあえず、現時点で共有できることを伝えておくね」私はそう言って、さきほど遥に伝えたのと同様に、チェンの仮説について説明をした。
「--というわけで、チェンの仮説が正しいとすると、リョースケの場合はエレノアとしてバッドエンド回避をすることがクリア条件となる可能性が高いと思う。チェンと同様、ヴィランズ~の資料をあとで送っておくから」
『わかりました。とりあえずチェンの仮説のとおりに動いてみます』
「うん、よろしく。あと、なにか共有しておくことはある?」
『いまのところはないですけれど…』
「けれど?」
『チェンの場合は、サブ・キャラだから別のミッションがあるという仮説ですよね。すると俺の場合は、主人公だから王道のゲームクリアがミッションだ、っていうのはわかりやすいんですが』
「その言い方だと、なにか気になることがある?」
『チェンの転生先は、乙女ゲームじゃないですか。ゲームだからクリアできる。でも遥ちゃんや俺はゲームの世界に転生したわけではなく、完結した物語の世界じゃないですか。その場合はストーリーをなぞるだけで、果たして本当に戻って来れるのかなって…』
「…う~ん。確かに…そう言われてみれば…。でも、そもそも根本の原因である"なぜ転生したのか"が解明できれば、解決策も見つかるんじゃないかな?って、私の希望的観測だけど」
『そうですね』
私の言葉に、リョースケは少し笑ってーーそれでも転生先が悪役令嬢のため、とてつもなく美しい微笑だったーー頑張ってみます、と呟いた。
「また、午後に定時連絡入れるし、その前にヴィランズ~の資料送るから、できるだけ早く戻って来れるよう、読み込んでおいてね」
『はい』
そう言うと通信が途切れた。
リョースケの懸念事項については、共有しておくべきことだなと頭の中に留め置きつつ、まずはつい先ほど転生してしまった高橋さんの状況確認をすることにした。




