私だけ異世界転生しない件 11.高橋さんの帰還
2人目の帰還は、チェンが無事にこちらの世界に戻ってきてから3日後のこと。高橋さんがゲームクリアして、無事帰還できたのだった。
チェンは帰還後、システム開発部のメンバーと長い時間ミーティングを行い、残り3人の転生者の帰還のためにできることを、可能な限り洗い出しをしてくれた。
その中で比較的救出が可能だと判断されたのが、高橋さんだった。
彼女は、冒険型RPGの世界で戦士として転生をしている。帰還の条件はシンプルにラスボスである「リヴァンドラ」というドラゴンを倒すことだった。
そのためチート能力を上げることで、レベルアップの速度を速め、かつ課金して武器や防具、マジックアイテムなどを装備させることで無敵化し、ドラゴンを倒すことにしたのだ。
定時連絡の際に高橋さんにそのことを伝えると、わずかに不満そうに「わかりました」と返事があった。
本人はひた隠しにしているけれど、かなりやりこむタイプのゲーマーだから、もしかしたら自分の力だけでレベルアップしてドラゴンを倒したかったのかもしれない。
(そしてどうやら高橋さんは、転生先での環境を楽しんでいるようでもあった)
とはいえ、モンスターと戦って大怪我をしたり、あるいは瀕死の状態になった場合、こちらの世界に帰還がかなうのかという無念材料もあることから、高橋さんの早期帰還のために開発チームはありとあらゆるチート能力を高橋さんに付与し、Max上限までレベルや能力値を上げたうえで、ラスボスに挑んでもらうことになったのだった。
実際の戦闘シーンは、私にはよくわからなかったが、画面共有したモニターから、桁外れに強そうな装備姿の戦士・マリが、兇悪なドラゴンをものの見事に打ち倒すさまは、まるでファンタジー映画のようだった。
断末魔の声を上げ、ボスであるリヴァンドラが倒れると、モニター画面の中の戦士姿の高橋さんが、伝説の武器(これも課金して手に入れたらしい)を高々と掲げてポーズをとり、勝利宣言をする。とともに発光したかと思うと、モニター画面が真っ白になった。
数分後、高橋さんから電話で「無事、帰還できました」と連絡があったのだ。
通勤中に異世界に転生をしてしまった高橋さんは、転生したその瞬間にいたのとほぼ同じ場所に帰還を果たしたらしい。
「これから出勤したほうがいいですか?」という高橋さんに、小林さんは「今日は1日お休みしてください。可能であれば明日から出勤を。もし体調面で差しさわりがあるようであれば、数日休暇をとってもらっても問題ありません」と、事務的に淡々と言う。
「では、今日はこのまま帰宅して、もし明日お休みをいただくようであればまたご連絡します」
高橋さんは生来の真面目な口調でそう答え、通話は終わった。
翌日。
高橋さんは、いつものように始業15分前に出社した。
「高橋さん、おかえりなさい。お疲れ様でした」
「佐藤さん……無事、戻ってこられました。ありがとうございます」
高橋さんは深々と頭を下げる。
「私は何もしてないよ。本当に大変だったね、お疲れ様」
そう言うと、はにかむように笑みを浮かべた。
しばらくして、部のメンバーたちが出勤してくる。
小林さんが部に入るなり高橋さんの姿をみとめ、「おはようございます。おかえりなさい」とあいさつをした。続いて石川君が出勤し、高橋さんの姿を見るなり大声で「高橋さーーーんっ」と名前を呼ぶ。始業時間2分前になって、中村さんが走る足音が廊下に響き、「ぎ…ギリギリ間に合っ…った?」と言いながら着席すると、パーティション越しに高橋さんを発見して驚きのあまり椅子からずり落ちた。(彼女は昨日休んでいたため、高橋さんが帰還したことを知らなかった)
始業時間ちょうどになり、ようやく久々に部のメンバーが揃ったところで小林さんが朝礼を始める。
「まずは高橋さん、帰還おめでとう。お疲れ様でした」
「…ありがとうございます…?って返事で、いいのか…わかりませんが…。無事戻ってこられました」
なんとはなしに拍手が起こり、困惑した表情の高橋さんは、ぺこりと頭を下げた。
そこからはいたって普通の朝礼で、簡単に部内の共有事項の説明があり、各自業務をはじめることになる。
「高橋さんは、このあと、開発チームから今回の件でヒアリングがあるそうです。しばらくは開発チームのヒアリングに協力することが最優先の業務となります。その前に、転生していた間の部内の変更点の説明を少しさせてもらいますが、いいですか?」
「わかりました」
「では、奥のミーティングブースで」
小林さんはミーティングブースのパーティションに視線を送り、そのまま歩いて行く。後に続く高橋さんの背中を指で軽く突いて
「今日、ランチご一緒しません?」と中村さんが小声で言った。こくりと頷く高橋さんに、笑みを返すと中村さんは私を見、
「佐藤さんも」と続ける。短く頷くと中村さんは腕をぐるぐると回しながら
「さぁーーって。じゃあ今日は頑張ろう!!!」声高に宣言し、パソコン画面に向かった。




