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私だけ異世界転生しない件 1.チェン・リー

 異世界転生アプリ「リアル・メタワールド」略して「リアメ」の原因不明のバグにより、最初の犠牲になったのは、開発に携わったエンジニアのチェンだった。


 今月はじめのこと。オフィスで作業中、チェンの体が突然発光し、忽然と姿を消したのだ。

 突然の出来事に社内は騒然としたけれど、チェンの姿はどこにも見当たらず、警察に通報をしようかと思い悩んでいたとき、社内で情報共有をしているアプリにチェンからの書き込みがあったのだ。

『どうやらボク、"ローズ・ガーデンの秘密"のキャラに"転生"しちゃってるみたいです』

 その書き込みをみて社内はさらに騒然とした。「ローズ・ガーデンの秘密」とは、現在大流行している乙女ゲームのひとつで、ノベライズ、コミカライズのほか、アニメ制作、実写での映画化も決まっているというほどの人気ぶり。

 その乙女ゲームの中のキャラクターに転生をしてしまっているという。

「ローズって、ウチでメタ制作してたっけ?」

「してないしてない。もし作るとしても、もっと大手が参入してくるでしょうよ」

「ってか、どういう状況?」

「チェン、状況説明できる?」

『んー、いまわかる範囲で説明したいところなんですが…。あっ、ちょっと待っててください。また連絡します』

 ピコンと音がして、チェンからの連絡は途絶えた。

 その後、チェンから新たに連絡がきたのは3時間後。そこでわかったことをまとめると、だいたいこのようなことだった。

 原因は不明だが、乙女ゲーム「ローズ・ガーデンの秘密」の登場キャラクターであるヴィンセントとして転生をしてしまっているということ。

 社内情報共有アプリを使用すれば、あちらの世界と、こちらの世界でもやり取りができること。(ただしこれは、転生直後にチェンがシステムを再構築してやり取り可能にしたらしい)

 現時点では、元の世界に戻る術は不明のため、調査ゲームを進めていくことにした、ということ。

 そのため、急遽我が社では「転生者対処プロジェクト」なるものが即席で創設されることになった。

 私はそのプロジェクトチームのひとりとして、転生したメンバーと社内情報共有アプリを使ってやりとりをすることになったのだった。

 といっても作業じたいは簡単で、定時連絡としてアプリを通じて転生者たちの進捗を確認し、新たに分かったことなどの情報を整理し、それを社内メンバーや転生者たちに共有することが業務だ。

--まさか、今日で4人になるとは思いもしなかったけれど。


 さきほど立ち上げたアプリの、丸枠の中でピースサインをしているアイコンをクリックすると、待機音がしばらく続き、ピコンという音とともにチェンの声が聞こえた。

 チェンが異世界に転生してから早2週間。その間にチェンは、チャットだけではなく音声通話でもやり取りができるようシステムを構築してくれている。

 正直、ひとりめの転生者が優秀なエンジニアであるチェンでよかった、と、こういうときに心から思う。

『お疲れでーす』

「チェン。進捗はどんな感じ?」

『んー、まずまずといったところでしょうかねぇ…』

「なにか新たに分かったことはある?」

『とりあえずイロイロ試した結果、ゲームとは別の"ミッション"をクリアすることで元の世界に戻れる可能性があるという感じですかねぇ』

「ゲームとは別のミッション?」

『んー。これはたぶん憶測なんですけど…』

 そう言ってチェンは、いままでの経験を説明してくれた。

『乙女ゲーム"ローズ・ガーデンの秘密"は、主人公であるローズ姫が様々な試練に打ち勝って、真の女王となるというストーリーはご存じですよね?』

「うん。確か、薔薇の名前を冠した攻略キャラと親密度を深めながら、試練としてローズ・ガーデンの謎を解いていくのよね」

『そうです。ストーリーとしては謎解き要素もある典型的な乙女ゲームではあるんですが…ボクが転生したのは、主人公のローズ姫ではなく、姫の執事ヴィンセントじゃないですか。もしローズ姫に転生したら…って、ボクが姫に転生しなくてよかったとは思うんですけれど、主人公なわけですから、王道でローズ姫としてゲームクリアをすることで元の世界に戻れるかな、と思ったんですが』

「ですが?」

『執事であるボク、ヴィンセントがローズ姫の代わりにクリアすることはできないのです』

「そっか。あくまでも主人公であるローズがクリアするのがゲームの主流だもんね」

『ですです。ということは、転生したヴィンセントとしてゲームクリアすることで元の世界に戻れるのではないかという仮説を立ててみました』

「なるほど」

『で、いま、転生したキャラでクリアすべきミッションがないか、探している最中です。とはいえボク執事なんで、仕事量多いんですよ。なんすかコレ。執事って燕尾服着てお嬢様にお茶だすのが仕事じゃないんすか』

「いやそれ、執事カフェと勘違いしてるでしょ」

『…話がそれました。ちょっと仕事が多くてつい愚痴っぽくなってすみません。で、とりあえずいま転生者のミッションがなにかを探すシステムを考えているところです。進捗としてはこんな感じで』

「わかった。なにかこちらでできることはある?」

『できれば、"ローズ~"の公式設定集のデータを送ってほしいです。ヴィンセントのキャラ設定やその周辺情報がわかれば、ヴィンセントとしてクリアするミッションがわかるかもしれないんで。あと、もしローズのゲームをやったことがある人がいたら、その人とも繋いでください』

「わかった。データは少しずつ送っとくね」

『よろしくでーす。では。そろそろ姫からお呼び出しがかかりそうなんで…』

 チェンの言葉と同時に、画面越しにチリンチリンと鈴の音が響く。『じゃあ』と言葉を残して、チェンとの通信は切れた。


 とりあえず、チェンの仮説が正しければ、転生者が無事に帰還--こちらの世界に戻ってくる方法が分かったかもしれない。

 私は、残る3人の転生者にも情報共有をしようと、次のアイコンをクリックした。


 






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