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【短編】明日世界が滅ぶとしたら

作者: りおの古書店


「ねえ明日世界が滅ぶとしたらどうする」


 放課後の図書室で自前の本を読んでいた私の耳に、慣れ親しんだ友人の声が入ってくる。

「漠然とした話ね。またアニメの影響?」

 放課後という事もあって、部活をする者や帰宅する者が多く、図書室なんて場所には委員である私と、モノ好きな彼しかいなかった。

「えへへ。それで?」

 彼は肯定をするように笑うと、受付用の机に肘をついて、前のめりになって質問をしてくる。

「急に聞かれてもなかなか思い浮かばないわね」

 私は読んでいた本を片手で持つと、背もたれに体重をかけて「うーん」と声を漏らしながら、体を伸ばしながら考える。


「そうね。何も気にせずこの部屋に居るんじゃないかしら」

「ふーん。なんだかつまらない回答だね」

「あなたは私に何を求めてるのよ」

 私が絞り出した答えに彼は少し考えるような姿勢を見せるが、「つまらない」の一言で片付けてきて、私は少しイラっとしながら体制を元に戻す。


「そうだね……例えば大犯罪をしてみるとか、世界を救うために頑張るとか」

「そんなの誰かがするでしょうし、外は大パニックでしょう?」

「まあ。それもそうだね」

 彼は私の回答に不服そうなままで、口先を尖らせて不貞腐れてしまう。

 そんな彼の態度に、私は持っていた本に、仕方なくしおりを刺してから机の上に置く。

「だって考えても見なさいよ。外は大パニック、見たくないものや聞きたくないもので溢れるかもしれない。私だって最後ぐらいは静かな部屋で過ごしたいのよ」

「まあ。それもそうか」

 彼は私の話を聞いて納得したのか、両足でしっかりと立ってから腕を組んで、考えるように目を瞑ると首を縦に振る。

「で?」

「うん?」

「聞かれたかったんでしょ?貴方はどうするのよ」

 彼が納得する姿を見せた事に満足した私は、机に頬杖をついて面倒だと思っている事が伝わるように質問をする。


 ただ、そんな回りくどい方法では彼には伝わらないようで、嬉しそうな顔をした彼はまた考えるようにして目を瞑る。

「僕は……そうだね。僕もこの部屋に来るかな」

「えぇ……」

「そんな顔しないでよ」

「いや、するわよ。面白くないって言っておきながら、考える時間まであったのに同じ答えって」

 私があからさまに嫌そうな顔をすると、今度はちゃんと意図が伝わったようで、彼は拗ねた子供の様に潤んだ瞳を向けてくる。

「君の意見を聞いたら、僕だって最後ぐらいは選びたくもなるよ」

「ふーん……でもどうしてここなの? 私は静かな所が良いからってだけなのだけど」

「僕だって同じような物だよ。最後ぐらい好きな人と居たいって、ただそれだけだよ」


 彼の何気なく言ったその言葉に、私は目を丸くして頬杖をつくのを止めて、椅子の上で背筋を伸ばすと、髪を触りながら冗談交じりでその言葉に返す。

「なによそれ、新手の告白のつもり?」

「うん、そうだね。そのつもりだよ」

「はあ……どうしてあなたってこんな回りくどい事しか出来ないのかしら」

 確認を取った私は毛先を触るのを止めて、彼の目を見ていつもの様に苦言を申し立てる。

「好きです」

 だが、彼はそれを待っていたかのように、私の目をまっすぐに見つめて言い直してくる。

「……明日まで考えさせてくれない?」

「良いけど。明日世界が滅びてるかもしれないよ」

「そんなわけないでしょ」

「本当に?」


「……ああ、もう分かったわよ。私もあなたが好きよ。これで良いの?」

 彼の冗談交じりで格好の付けられない真剣な言葉に、私も覚悟を決めて同じように返すと、彼は嬉しそうに無邪気な笑顔で返してくる。

「はは。君も十分ひねくれてるよ」

「はぁ……明日世界が滅びています様に」

「そんなわけないじゃん。本の読み過ぎだよ」

「しね。バカ」

「よし、じゃあ行こうか」

「どこに行くのよ」

「僕は別に君と居たいだけだから、此処から君を連れ出すの悪くないかなって」

 私の悪口を聞いても何とも思っていなさそうな彼は、立ちやすい様にと私の目の前に手を差し伸べてくる。

「ごめんなさいね、一応これでも図書委員の仕事中なの。生憎世界最後の日は未だの様だしまた明日にでも来なさいよ」

 私はそう言うと、彼の手の奥にある栞の挟まった本を手に取ってその本を開く。

「はは、そうだったね。なら僕は今日は帰るよ。さようなら」

 私の行動を見た彼は、切なそうな表情をすることも無く。未だにニヤニヤと口角を上にあげたままで、差し伸ばした手を引っ込めると、近くに置いていたカバンを手に持ってドアの方に歩いて行ってしまう。

「ええ。さようなら」

 ドアの前まで言った彼に本を持っていない右手を振ると、彼は私の方を見ないままドアの向こう側へと姿を消してしまう。

 そのまま足音がどんどんと小さくなっていき、終には聞こえ無くなってしまう。それを確認した私は、空中で行き場を失っていた右手をギュッと握りしめてガッツポーズをとる。

「よっしゃ」


昔々。もう五年以上前に書いた自分の話のセルフリメイクです。我ながらこの話は好きだったので、同じ好きを共有できたらいいなーと思い筆を取りました。

何年も書いてないから、拙い部分があればご教授お願いします

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