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第1話 慈悲深い王女様

「んんぅ...」


目が覚めると、そこは森の中だった。太陽の位置を見るに、今は真昼間だ。


(病院にすら運んでくれないなん流石にひどいだろ...)


「よいしょっと..ん?」


起き上がろうとしたた時、俺は気がついた。いつもよりなんだか声が高い。それに、服も倒れた時と違う。そして短パンのようなものから生えている足には放置していたはずのスネ毛が1本もない。


(え?うそだろ?もしかして...)


俺はそこら辺にあった池の水面を見る。


「おいおいマジかよ...」


そこに映っていたのは1人の少女。そう、多分この少女こそ俺自身なのだろう。高校の頃、男が嫌になった俺は本気で女に性転換しようとしていたが、正直今は喜びよりも驚きや焦りの方が勝っている。夢であって欲しいと頬をつねっても痛かったので夢ではないだろう。


(とりあえず、交番にでも行って施設に預けてもらおう。)


そう思って歩き出した瞬間だった。なんだか変な音が聞こえだした。振り返ると、50メートルほど先だろうか、茶色い何かが走ってきている。


「ぎゃぁぁぁ!」


その直後、俺はソレから逃げるべく走り出す。そう、俺はアレについて知っていた。デブの友達への悪口として使い、コイツが出てくる漫画にはまぁ色々とお世話になった。そう、オークだ。

無論、現実世界にオークがいるはずがない。これが誰かのドッキリで俺はソレに引っかかっている、というのはまだ良い。しかし俺がオークのいる世界に転生していて、本物のオークに追われている、という可能性もある。だから俺は走るしかないのだ。


(ッッ!道だ!)


近づいてくる足音にビビりながらも木々の間を縫って逃げていると、明らかに整えられている道が見えた。その道の先には宮殿のような、どデカい館がある。俺は最後の希望をかけてそこに走り出す。


「グォォォォ!」

「ヒィィ!」


いつの間にかすぐ後ろにいたオークが、手を伸ばして俺の腕を掴んだのだ。そのままオークは俺を持ち上げ肩に担ぐ。


「誰か助けてぇぇぇ!!」


これが最後の希望。俺はこのままでは56されるかオークの慰め物になるかどちらかだ。転生初日で4にたくないし初めてがオークなのも嫌に決まっている。

次の瞬間、オークの胸に風穴が空く。そのオークは糸の切れた操り人形のように倒れた。何とか直前でオークが倒れる方向の逆方向に降りたが、足が痛い。


「そこのあなた、名を名乗りなさい」

「え?」


1人の少女が、高貴そうな服を身にまとってこちらに歩いてくる。やばい、めちゃくちゃ可愛い。白髪のロングで蒼眼の清楚系。俺の理想の女の子はこの人みたいな感じなのだろう。

後ろには従者のような人達もいる。身分の高い人なのか?

そんなことを考えていたら、その少女は既に俺の目の前に立っていた。


「...ではまず私から名乗りましょうか。」

「セリーナ・フォン・マターナル。ここマターナル王国の第2王女を務めさせていただいております。以後お見知り置きを」

「あ...えっあ"っ"...」バタッ


俺は気絶した。でも仕方が無いじゃないか。美少女に顔を覗きまれるだなんて男子校出身の俺の心臓が持つはずがない。


*


目覚めるとそこは、ベッドの上だった。ベッドの周りにはカーテンのようなものも付いていて、なんだか俺が来ては行けないところに来てしまったように思えて少し居心地が悪い。その時、俺は気が付く、枕の横に何かが置いてある事に。その横には置き手紙があり、その横には金属でできた楕円形の玉にピンが刺さった物が置いてある。形状は完全に防犯ブザーだ。


「...よしっ!」ピンッ!


覚悟を決めてピンを抜くも、反応はない。


(壊れてんのかこれ?)


そう思った瞬間だった。


コンコン


「失礼します」

「は、はい」


ガチャ


「起きられたのですね。おはようございます。先程は変に詰めてしまって申し訳ありません。よろしければ、貴方のお名前をお教え下さい」

「そっ!そんな!頭をあげてください!えっと、名前は...」


どうしようか。前世の名を出すべきだろうか。王女様が俺みたいなやつに頭を下げてまで聞こうとしているのだ。これで名を言わないのは不敬で56されても仕方がないレベルだ。ていうか緊張しすぎて王女様の目を見れない。男子校がバレる...!


「シュ、シュン、です」


俺の前世の名前は俊介だから、という理由で作った名前だが、案外女の子にもありそうな名前になった。シュン。うん、いい響きだ。もしかしたら自分が好きになれるかもしれない。


「シュン様、ですね。ではもうひとつお聞きします。シュン様はどうしてあの森に?ここの近くには村も町もありません。ご両親はどこにいらっしゃるのですか?」

「あっえっと、お、起きたらあの森にいて、家もどこか分からなくて...あと親も...」

「記憶喪失...という事ですか。すいません、私にそれを治す術はありませんが、出来る限りシュン様の要望に応えられるように努めます」


こういう人の事を聖人と言うのだろう。しかし要望、か。今後はとりあえず生きるために働くしかないだろう。さっき水面で確認した俺の顔を見るに、だいたいこの体の年齢は12歳くらいだろう。肉体労働はキツいがそれ以外なら何とかなると思いたい。


「えっと、あの、仕事の斡旋とか、で、出来ますか?出来れば住み込みで...」

「仕事の斡旋、ですか?できないことは無いですが、貴方はまだ幼いです。孤児院に引き取ってもらう、という択もあります。もしくは、この離宮に住んでいただいても構いません」


まぁ確かにこんな子供を働かせるのは怖いだろう。しかも記憶喪失付きだ。しかし中身は18歳。大学に入らなければバリバリ労働している年齢だ。


「オレ...!いや私は、働いて、自分の力で生きていきます!お願いします!私に仕事をください!」


深深と頭を下げてから前を見ると、王女様、いや、セリーナ様、と目が合う。改めて見ても顔立ちは整っていて、見ているだけで心臓が五月蝿くて止まない。気絶していない自分が誇らしい。


「シュン様。」

「はっはい!」

「貴方がそこまで本気ならば、良いでしょう。私が貴方の仕事を見つけます。それまで貴方には、この離宮で生活して頂きます。あっ私を呼び出す時は、その魔石を使ってください。そのピンが抜かれたら私が駆けつけます」

「あっはい。よ、よろしくお願いします」

「はい!よろしくお願いします、シュン様♫それでは、失礼しました。夕飯は19時を予定しております。準備が出来ましたらぜひ1階の食堂へ。」

「あっ!あの!」

「ひゃっ!シュ、シュン様?ど、どうなさいました?」

そう言ってセリーナ様がドアノブに手をかけた時、焦りと緊張のあまり手を掴んでしまった。ヤバい、これは不敬だ。


「あっえっ!ご、ごめんなさい。えっと、よ、呼び止めたのは言いたいことがあるからで...」

「言いたいこと...ですか?」

「はっはい。えっと、セリーナ様は私なんかよりずっと身分の高いお方なので、敬語も様付けもしないでください。わ、私もその方が接しやすいというか...」

「ごめんなさい。私は基本どのようなお方にも敬語を使ってきたのでそれを治すのは少し難しいです」

「あっそうですか...無理言ってごめ...」

「ですが」

「あっはい」


突然言葉を遮られて驚いた俺はセリーナ様の目を見る。あ、ヤバい近すぎる!


「敬称は外すようにしますね、シュン♬」ナデナデ

「あ"っ"」バタッ

「え?シュン?だ、大丈夫ですか!?」


また気絶してしまった。こんな美少女に頭を撫でられた経験など俺にはないのだ。そして呼び捨ての破壊力がエグすぎる。

これからも気絶するかもしれないが、とりあえず一旦住む場所を確保出来た俺は安心して意識を失った。

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