傷跡パート3
「しっかし、よく起きれたな!朝は強い方か?(笑)」
彼は笑いながら話している
「なんとか起きたよ。別に朝は眠いよ」
僕は今彼と一緒に電車に乗っている。朝は6時出発だと連絡が来たときは起きれるか不安だったがなんとか起きれた。
「でも、朝の空気感は俺好きなんだよねぇ~。わかる?この何とも言えない冷たくて静かな感じ」
彼はキメ顔なのかどや顔なのかよくわからない顔でこっちをチラチラ見ながら言う。
「まぁわかるっちゃわかるな。でもやっぱり眠いや」
僕はまだ眠い目を擦りながら言う
「でも、めっちゃ良いとこ連れてくから安心してくれ!」
彼は嬉しそうに言う。
なんだか久しぶりに彼の笑顔を見たような気がする。
僕らは朝6時発の電車に乗って向かった。途中なんどか乗り換えをしたが、彼は慣れているらしく滞る事なく目的地に着くことが出来た。見たことの無い土地で僕は少し心が浮かれていた。
「やっと着いたな~。長かったぜ~」
彼は大きなあくびをしながら大きく伸びをしていた。
僕も釣られてあくびが出てきた
「とりあえず飯食いに行こうぜ!行きつけのところがあるんだ!アレルギーとかは無いよな?」
彼は聞いてくる
「特に無いよ。安心して」
そう僕は返す。
「良かった!めっちゃうまいから期待してて!」
時間的には朝ごはんなのか昼ごはんなのか微妙な時間だが、朝食べ損ねたので、お腹は空いていた。
「そっか、期待してるよ」
僕は少しの笑みを浮かべながら返した。
目的地が海辺だったのできっと海産物だろうと予想をしていた。
駅からは歩いて向かったのだがその間彼はニコニコと笑っていた。その笑顔は学校でする作り笑いとは違い心の底から笑っているように見えた。
なんだか僕も嬉しいような楽しい様な気持ちになって笑っていた。
着くまでは色々の話をした。
あのマンガはどんな風になるのか?とか新作のゲームが楽しみだとか他愛も無いような話なのだが、何故か彼と話していると楽しい気持ちになってしまう。彼が色んな人に好かれるのがよく分かる。
一緒にいて窮屈さもなくただ楽しい気持ちでいられるのは、こんなにも魅力的な事なんだと気付いた。
そうこうしている内に彼の目指していたお店に着いた。外観は新しくもなく古すぎもしないよくある感じの定食屋さんだった。
戸を開けて中に入ると
「いらっしゃいませ!」
と男の人の声がしてきた。
彼は笑いながら
「おっさん久しぶり!飯食いに来たぜ!」
と大きな声で笑いながら言う。
「おお!音鳴か久しぶりだな!元気してたか!」
「見ての通りぴんぴんしてるわ!お前こそ元気か!」
「俺も見ての通りだ!はっはっはっ!!おっ隣の彼は友達か?」
「そうそう!一番の親友だぜ!うまい飯食わしたくてよ!頼んだぜおっさん!」
「任しときな!親友君もがっつり食ってってくれ!はっはっはっ!!」
元気のいいおじさんだなと感じた。がたいもよく髪は短くて清潔感があった。
「あの人うるさくてごめんね。とりあえず座りな」
女将さんらしき人がそう言う。申し訳なさそうではあるが、よくある事なのか笑いながら席に案内してくれた。
「女将さんも久しぶり!」
「音鳴が元気そうで良かったよ。しかも今日は親友君も連れてきてくれるなんて感動したよ、あんた!今日は記念だからタダでたっぷり上手いもん作ってやりな!」
女将さんは男の人に向かって言う。
「おうよ!任せとけ!音鳴も待ってな!すぐ作ってやるよ!」
記念?どういう事なんだ?まぁでも嬉しいが
「あ、それは申し訳無いのでちゃんとお金払いますよ!」
僕は慌てて言う
「いいのよ!あの音鳴が親友を連れてくるなんて嬉しいのよ!今日はたっぷり食べてって」
あの音鳴が?余計にわからない。
「まぁまぁ歩、今日はせっかくだしご馳走になっちゃおうぜ!」
彼はとても嬉しそうに言う
その後沢山のご馳走が出てきた。
海辺の店という事で魚介類が多かった。どれもとても美味しく、またオーナーの人と女将さん、音鳴の四人で色々と話をしながら食べてとても楽しかった。
食べ終わった頃に音鳴が
「ちょっとトイレ行ってくる。大の方だからゆっくり待ってて」
と言ってトイレに行った。
「そういえば音鳴君とはどうして知り合いなんですか?」
と座っている男の人に聞くと
「んーそうだな、話せば長くなるんだが、まぁあいつもトイレに行ったし、話しても良いか」
男の人と女の人は少し真面目な顔つきになって話始めた。
「結構前の話なんだが、俺がちょっと散歩に出たとき、いつも海沿いを散歩するんだが、そこで音鳴とは会ったんだよ。」
男の人は少し悲しそうな顔つきになり
「初めて会ったときの事は今でも覚えている。あいつ、とんでもなく不幸そうな顔しててさ、今はこんだけ明るくなったけど、最初の時はほとんど口も聞かなかったんだぜ。」
女将さんも話初めて
「そうそう、この人そういう子をほっとけなくて、嫌がる音鳴を無理やり店に連れてきたのよね。最初はびっくりしたわよ。こんなに小さな子が、こんなにも悲しみを背負ってたなんて。」
どういう事なんだ?
「体には痣とか傷があって、目の下にはくまもあったな。ほっといたらたぶん死ぬんじゃねぇかって心配になったんだよ。」
男の人の目には少し曇りが見えた。
「ご飯を作っても一口二口でごちそうさまだったな。体も今よりもずっとガリガリで、育ち盛りの筈なのにな。」
「でも一番驚いたのは、ここまで一人で来てた事だったよ。」
女将さんはお茶を一口飲み話す
「この子をこのままほっといちゃいけないって思ってね。最初は本当に心配したよ」
男の人が話す
「無理やりでも話を聞いたらびっくりしたよ、DVにネグレクト、いわゆる`育児放棄`ってやつだ。親をぶん殴りたかったね。」
「うちはあたしのせいで子供は出来なかったんだよ。それなのに、こんな子供に何をしてるんだってね、世も末だね。」
男の人はお茶を一口飲み話す
「でも、意外だったのはその後もまた来てくれたことだな。来てもやっぱりほとんど口もきかないで、ご飯もろくに食いやしねぇ。お金は払わなくて良いって言ってもちゃんと置いていきやがる。」
女将さんは話す
「あの子がここにきてちゃんと食べきったのはいつだったっけね?十回目とかだったっけ?それはそれは嬉しかったね。」
「そうそう、あんときあいつには見せなかったが嬉しくて俺は泣いちまったよ」
「その頃からかね、あの子が話すようになったのは」
男の人が話す
「しかし、その話もまた驚きの連続だったな。話を聞くに初めて会ったときあいつ自殺しようとしてたらしい。」
!!?!
僕は驚きを隠せなかった
「驚くのも無理はないな、今はあんなに明るいしな。」
女将さんは話す
「なんでも、もう人生に疲れたって言ってたね。まだあたし達の半分も生きてない少年がだよ。本当に驚いたし心配になったよ」
「でも、その気持ちもわからなくは無かったのがまた辛いところだったな。母親からは育児放棄されて、連れてくる男からはよく殴られてたらしい。助けても誰にも言えなかったらしい。」
二人の目には涙が見えた
「しまいには、ほらあいつって男のわりには可愛い顔してるだろ。どうやら男によっては性的な事もされてたらしい。」
耳を疑った。そういうのはドラマとかの中だけの話かと思ったが、本当にあるのか。
「おまけには友達もいなくて担任からも見捨てられてたらしいしな。」
「そんな状況じゃ自殺だって考えない方が不思議だよ。あのとき声かけてくれてこの人には本当に感謝したね」
彼にはそんな壮絶な過去があったのか。
生きやすいってそういう事か。
「俺達はあいつに本気で相談したよ、うちの養子にならないかって。でも、あいつは頑なに「それでもあの人を独りにはさせられない」ってたぶん母親の事だろうな」
女将さんは手を組んで話す、その手はどこか怒りすらも感じられた
「世の中にはあんなにも優しくて純粋な子もいるのに何もしてあげられない自分が情けなかったし、その優しさや純粋さを利用する悪い奴もいる。情けないし悔しかったね。」
「それでもあいつはここに通ってくれた、それで次第に明るくなってきた。だからあいつに親友が出来たことが本当に嬉しかった。君名前は?」
男の人が訪ねる
「歩って言います」
「歩君か、歩君本当にありがとう。あいつの親友になってくれて。俺達は心の底から感謝してる」
二人は僕に頭を下げて感謝している
「いえ、僕は彼には何もしてあげれてません。事実、彼には何も出来てません」
男の人は言う
「そんな事は無い。あいつが親友って言うのは初めてだし、誰かを連れてきたのも初めてだ。それだけあいつが歩君を信頼してるってことだよ」
「そうですかね…」
僕はその後何も言えなかった。
「ふいーすっきりしたぜ」
音鳴がトイレから帰って来た。
「なんか俺の悪口言ったりしてねぇだろうな(笑)」
音鳴は笑いながら言う
「そんな事は言わねぇよ。」
男の人は笑いながら言う
「そしたら歩行こうぜ!おっちゃん達も今日はご馳走さまな!」
音鳴は笑いながら言う
「おう!また来いよ!歩君もな!」
男の人は言う
「はい、ありがとうございました」
僕は頭を下げてお礼を言う
「二人ともまた来てね」
女将さんは言う。
そして僕達はお店を後に音鳴の言う目的地に向かった
そこは海辺だった。
おそらくさっきの話に出てきた海岸だろう。
「二人から聞いた?」
「何を?」
察しはついていた。
「俺の昔話」
「聞いた」
音鳴は砂浜に座って話始める。
僕も隣に座る
「俺さ昔、まぁ今もたまにあるんだけどさ。母親から育児放棄されたり殴られたりしたんだよ。連れてくる男からも」
「らしいね」
「しまいにゃ無理やり体を要求されたりな、笑えるよな」
「…笑えないよ」
音鳴は遠くを見ている
「あのときここで本当に死のうと思ってたんだけどさ、おっちゃんに無理やり連れてかれて。最初はこいつもか、って思ったんだけど違くてさ。ご飯はおごってくれるし、黙って話を聞いてくれるし。びっくりした。」
僕は黙って話を聞く
「最初の頃は疑ってたけど、すぐ違うと気づいて、この人達はあの人達と違うんだって。」
彼は海の向こうを見ている
「なんでか安心しちゃってな。それからあそこには通うようになったんだよな。」
「そっか」
「それから、よくここ来るときはあそこに行くようになったんだよ、優しいよなあの人達」
「そうだね」
「ここに来るとなんか全部どうでもよくなって、色々と忘れられるんだよ。なんつーの?こう広い海見てるとさ、俺の悩みなんてちっぽけだなぁって」
「なんとなくわかるよ。」
「そんで気持ちリセットして帰るんだよ。」
「そうか、なんかわかるなその気持ち。僕もまた誘ってよ」
彼は嬉しそうにこっちを見て言う
「本当か!?ありがとう!」
彼は嬉しそうな顔をして言う
「また絶対誘うよ!」
彼は笑顔で言う。
そして、突然立ち上がり海に向かって叫ぶ
「将来絶対しあわせになるぞー!!」
僕も立ち上がったが叫ぶ勇気がなかった。
「それじゃ帰りますか。日も暮れてきたしな」
それから僕達はまた電車に乗って帰った。
家に着いて
「また明日な!」
彼は笑顔で言う
「うんまた明日」
僕達はそれぞれの家に帰った。
次彼と会ったときはもう会話を交わす事が出来ないと知らずに。
次の日学校に行くと担任の先生から告げられる。
音鳴が死んだと。
タバコは雨の夜に吸うとより美味しく感じます。
皆さんはいつ吸うのが好きですか?




