995:日常は続く
ダンジョンで潮干狩りを
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帰り道に芽生さんと話し合いをする。価格改定で何がどれだけ値上がりしたり値下がりしたりするかを予想しあっている。
「やっぱりメインはBランクまでのドロップ品になるでしょうから、カメレオンの革あたりは供給過剰で値下がりしそうですね。後はどうでしょう、供給が有り余ってそうな品目は何かありますかね」
「もしかしたらダンジョンスパイダーの糸あたりは値下がりするかもしれない。値下がって業界に素材が行きわたって、そこからさらに需要が増えて再度値上がりするって流れになるかもね」
最終的にいくらになるかは需要と供給の中間点で落ち着くことになる。それまでに供給が足りなければ値上がり方向にもなるが、高すぎて手が出ないから需要が伸びないというマイナス点も出てくる。その為供給元としては値段を下げて市場を広げるという手段を取る必要も有るわけだ。
そうなるとそれを拾って帰ってくる探索者のほうに締め付けが来るわけだが、CランクBランクほどの探索者になれば締め付けというほどの価格設定がされるわけでもないだろう。一応の上下最高ラインとして二割という内部ルールも存在するらしいからな。
例えばダンジョンスパイダーの糸なら一個あたり八千円、という採算ラインになる。材料としてはそれでも充分高い範囲になるだろうが、二割安くなる分だけの需要の掘り起こしはあると考えられる。テーラー橘みたいな高級スーツ店だけでなく、もっと他のブランドにも広がっていく可能性が詰まっている。そう考えると値下げが常に悪い、とは言い切れない訳だ。
「こっちの懐に響くような内容はないんですかね」
「スノーオウルの羽根やワイバーン素材の値下がりがあるかどうかだな。そういえばワイバーン素材でできた装備品やなんかの話を聞かないから、値段の都合で上手く製造開発が出来上がってない、という可能性が割と高い。値下がりしても仕方ない所かもしれないな」
スノーオウルの値段の下がり具合によっては布団の山本への卸し価格もこっちから率先して値下げを提案していくべきだろう。ダーククロウのほうは採取難易度の低すぎる点から言っても今のままでいいかな。仮に値段が上がったとしても今のままで通そうかと思ってはいる。
正直なところを言えば今更ダーククロウの卸価格が数百円変わったところでこちらの財布にはたいして影響がない、という理由のほうが大きい。要するに面倒くさいのだ。
だが、スノーオウルのほうはかなりお高い金額で引き取ってもらっている都合上、価格が下がるならそれに伴って下げていく。それだけ安いなら、と需要が生まれてくる可能性があるためだ。それ以外で値段に引っかかりそうなものは……と考えると、ボア革の需要やトレントの樹液と枝、このあたりが値下げの対象になるんじゃないかなと思っている。
バスが駅に着いたので芽生さんとお別れ。電車で自宅近くのコンビニに立ち寄っておやつと自分のおやつを購入して会計、家に帰って片付け、掃除。そして早めのお風呂。今日は疲れているからな、早めに休んで明日もきっちり働けるようにしていこう。
そして頭が暇になったので再び価格改定について色々考える。後はトレントの樹液だな。しばらく前に、モンスターに対して効果がある塗料が開発されたとかなんとか言っていたっけ。実際に販売されたり研究結果の検証が行われるようになったら在庫がだぶついているであろうこいつにも値段の上下がかかるのだろうが、今のところ下降気味ではあると思う。
例えばこの樹液を加工した塗料を塗った製品なら一層に置いておいてもスライムが近寄らずに残っていくし、その効果が何カ月も続くというならば、これは大きな発明と言える。既存のダンジョンでもアンテナにその塗料を塗って……あぁ、今それの実験中なんだろうな。何カ月ほど持ち続けるのか実際に試してみる。保管庫があればその時間を短縮できるのに、世の中は何とのんびりしているんだろうか。
いや逆に考えてみよう。保管庫の本来の持ち味とはその未来の結果を手軽に引き寄せられる、ということにあるのではないか。本当なら半年かかる実験が一日と半分ちょっとで成果を出すことが出来る。保管庫内でどのように変化していくのかは俺自身にもわからないが、物の継続時間や自然減衰の程度を測ることが出来るならこれ以上便利な能力はないな。
その辺の実験どうなってるのかなーと風呂に入る前にちょっとネット検索。すると、とある塗料メーカーの現代、未来における塗料開発の先駆けとして動物が忌避する塗料の開発という名目でダンジョン産の物質を基に化学合成した塗料を開発し、それを塗布した物質を今何処かのダンジョンで耐久試験中だということが解った。
実験の都合上人にいたずらをされたくないだろうから、あまり人のいない、それでいてちゃんと管理されているダンジョンを選んで実験をやっているんだろう。現在何日目、というのが毎日カウントされている。スライムが機器を溶かすことに成功した場合自然に電波が途切れるのでその時点で実験は終了、と遠隔操作に近い形での実験を行っているらしい。
この実験がいい結果を出せば、広いダンジョンでも狭いダンジョンでもかなり物理的に無理矢理の形ではあるものの、電波の供給や電気インフラの投資が出来るようになる。さすがにメインターゲットが多い二十一層や二十八層までずっと続けていくというのは難しいかもしれないが、ダンジョン内で電波が通じるというのはとても便利になることは間違いないが……が、だ。
新しい熊本第二ダンジョンのようにデフォルトで電波が通るようになるなら、一旦ダンジョンを踏破して作り直してもらった後で同じ形のダンジョンを作ってもらえるようにダンジョンマスターに願い出るほうが手間がかからず良いと考えることもできる。
何ともタイミングが悪い話だが、スライムに限らず野生動物にも効果があるとなれば農業方面にも期待が出来るならそれに越したことはないと思う。是非そのまま研究を続けて行ってもらいたい。
続報が出るのが楽しみではある。別に電波装置に限った事ではない。どんなモンスターでも忌避する塗料が開発できたのなら、セーフエリアじゃない所で優雅にくつろいでいても邪魔をされないことになるし、休憩だって落ち着いてできるようになる。
今のところ研究対象がスライムだけのようだが、スライム以外にも効果があるならそれはかなりの効果を発揮することになるだろう。実に楽しみな実験だな。企業もただドロップ品をそのまま加工するだけではなくその特性を生かして何らかの品物を生み出して市場を開拓していっているということになる。
風呂が沸いたので風呂でゆっくりする。今日は全身をくまなく使った……と思う。あれだけ弾幕避けたりダッシュしたりと、体力テストのような事をやらされたのはいつぶりだろうか。そして、それに耐えうる身体を作り上げていた自分たちを褒めるべきなのか。
いつもより各部を丁寧に洗いながら、体に変なコリや筋肉の疲れが残っていないかを念入りにチェックしていく。もしかしたら明日になって昨日の反動で筋肉痛に、なんてこともあるかもしれない。
ふくらはぎをよく揉んで、柔らかくなっていることを確かめると足首をコリコリと回してちゃんと稼働するか確かめ、太ももの状態を確かめる。足をブランブランさせて痛みはないか確認。下半身はこれでいいだろう。
上半身。背中の痛みはないかどうか。背中で手をつなげるかどうか、左右でチェック。握手とまではいかないが指同士でつなぎ合うことは出来た。背筋を人差し指の付け根で擦って疲れていないかを確認。
後は二の腕からその先等その他いろんなところをチェックして、今のところ問題がないことを確認すると泡だらけになった自分からさようなら。湯をかけて綺麗に洗い流し、洗い忘れがないかどうかも確認するとざぶんと湯につかる。
残りの疲れは睡眠と、明日の俺次第ってところだな。とにかく今日はよく働いたという感想が漏れる。ボス戦はなかなか楽しかったな。もう一回挑みたいかと言われると今のところはノーで返したい。物理やスキルで推し通るのではなく、ギミックを解除してから倒していく形のボスは初めてだった。
かといってあれがもしギミック解除無しで物理で押し通すようなボスだった場合、果たして向こうの攻撃の頻度や召喚の量はどれほどだったんだろうかと考えると、ギミック解除型で良かったというところか。あれで更に物量で押されるようなモンスターだったらお手上げだったかもしれない。
もしそうなら……もしそうなら、こっちのほうが指輪を山ほど装備して防御をしっかりと固めてから挑むタイプのボスになっていたかもしれないな。そうなってた場合、一体何日の間ボスへ挑むためだけに指輪を探して大理石のマップをうろつくという作業に取り掛かる必要があっただろうか。
今回一発で通れたのは運と勘によるものが大きい。芽生さんの勘と、俺が指輪に気づけた運。どちらが欠けていてもボスまでたどり着くことは出来なかっただろう。これもお互い支え合って探索を続けてきたおかげだな。支え合っているならたまには芽生さんの料理も食べてみたいところではあるのはおいておく。
ボス戦感想戦終了。運が良かっただけかもしれないが、それでも突破できたのは実力の内。ミルコへの貸しを何に使おうか考えつつ、今後のダンジョン攻略のペースと攻略深度について考えていこう。
まずは明日、報告だな。ボス倒しました。こんなドロップ出ました。今後はとりあえず価格改定まで実力を溜めつつ、深い所へ潜るかは気分で決めます。そんな所だろうか。
ザブンと風呂から上がると、冷水をピシャッと浴びて汗を引かせてから体を拭く。これでかなり楽に体についた水分をふき取ることが出来る……いや、ここでウォッシュをすれば全身綺麗になれるのでは?
試しにウォッシュ。すると、黒い粒子はほとんど見当たらない。綺麗に体が洗えている証拠だ。ちゃんとできてるな、という確認にはなったし水分も吹き飛んだ。かなり便利だな、今後も風呂上りにはウォッシュで体の洗浄チェックをやっていこう。
せっかくなので風呂掃除にそのまま応用してみる。洗面器二杯分のお湯をどけておくと風呂の栓を抜いて、その残りの湯船に向けてウォッシュ。どうやら体の洗浄後に湯船に浮かんでいた垢や水垢、その他老廃物や体にそれでもへばりついていたであろう汚れが黒い粒子になって消えていく。
試しに湯船を擦ると、キュッキュッという気持ちのいい音が聞こえる。簡単な湯船の掃除ならこれで充分だな。今後は基本これでやって、大掃除したくなった時に洗剤を使って更に磨いていく方向性で行こう。また掃除が一段落便利なものになったな。
風呂から上がってネットの続き。たまには海外のサイトの読めそうなところを翻訳をかけながら情報を仕入れていく。どうやら海外では順調にダンジョンの数が減っているようで、ダンジョン探索者からはその分日々の糧が稼げなくなったとか遠くまで行かなきゃいけなくなったなど、ダンジョンが消失したデメリットが徐々に声が大きくなってきているようだ。
ダンジョンが有ったほうがいいのか、無かった方がいいのか。ダンジョンによっては踏破禁止を掲げて探索者にはダンジョンコアのある階層までたどり着いても壊さないようにさせるとともに、ダンジョンマスターとの話し合いの機会を設けて深くもっと改造して欲しいと要望を出そうと試みているらしい。
餌付けに成功しているダンジョンでは、その分の「お供え物」を供出することで上手く深層を作ってもらって運営を行っているダンジョンも出来ているらしい。ミルコみたいなやつが他にも居るってことだろう。
また、日本で新型のダンジョンが出来たことも海外の掲示板では話題になっており、これはダンジョンマスターが暇になった分何処かに新しく同じ作りの新式ダンジョンが出来上がってるんじゃないかと、国を挙げてダンジョンの探索に乗り出している場所もあると聞く。
ガンテツ自身も他のダンジョンマスターへの伝手はあると聞くので、ガンテツがダンジョンを作ったことを聞きつけて海外ダンジョンを担当していた暇な元ダンジョンマスターがガンテツの元で構造を勉強して新しく作り出す、という流れも出来ているのかもしれない。
ただ、出てくる食品の種類や傾向から、熊本第二ダンジョンが最初に出来て他のダンジョンはそれを真似て後から出来た、というのはバレていくのだろうなあという予想はつく。
二層で米が出ると言ってもそこまで米を食べるのはヨーロッパでも一部地域と東南アジアぐらいだ。そっちに同じダンジョンが出来上がれば需要はあるだろうが、それ以外の野菜やキノコの類はどうなっていくのか、その辺は割と気になる所だな。
ダンジョン業界はまだ発展途上の段階にあるのかもしれない。そもそもダンジョンの拡張に限界があるのかどうかもまだわからないし、流石に新しく階層を作り出すのに疲れたり、マップの元ネタのストックが切れたとかそういう理由でダンジョンはある一定の階層で止まるかもしれない。
それを最初に見られるという保証は誰にもできないし、その内いつまでもBランクであることに我慢が出来なくなった探索者がB+にさせろとダンジョン庁に陳情を出すようになるかもしれない。そうなったら四十二層の階層だけ電波の送信が出来ることもいずれ公にされていくんだろう。
その時まで探索者をやっているかどうかは解らないが、今この時だけはおそらく世界のダンジョンの最深部にたどり着いているんだろうなあという予感はなんとなくする。後ろをついてきているのは今のところ二パーティーだけだが、これもその内拡張されるかもしれない。
まずは、次回六十一層に挑むかどうか、そこを芽生さんと相談しながら決めていこうか。ダンジョンは逃げも隠れもしないんだからゆっくり決める時間はある。芽生さんも公務員試験の結果とその後の就職活動の結果によっては、もしかしたらしばらく地方のダンジョンへ飛ばされることになるだろう。
そうなったら俺がポーターやってるとはいえドロップ品の持ち帰り量が異常だということも外部に漏れるだろう。保管庫が正式バレする時期は芽生さんにかかっていると言えるかもしれない。
とりあえず、今日はもう寝よう。きっといい夢が見られるはずだ。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。