994:サクサク帰り道
ダンジョンで潮干狩りを
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「さあ、今日のタスクも無事済ませた。ちょっと早いがさっさと帰って五十六層でゆっくり夕食のパスタを味わって帰るか」
「そうですね、長居をする理由もないですし、奥に潜ろうと思えばすぐに潜れる姿勢は作れましたし、ミルコ君のセリフを聞かなかったことにしてどんどん奥へ進む選択肢も取れます。ですが、明日以降の話です。いつでも来れる階層になりましたし今日のところは帰りましょう」
意見の一致を見たところでボス部屋から飛び出す。ボス部屋を封鎖していたから当然のようにボス部屋前のリビングアーマーは復活しており、比較的至近距離からの戦闘開始となったが、極太雷撃でまとめて処理。六体とは言えこっちの必殺技をしっかりと打ち込むことで全員露となって消えてもらった。
「さっきの戦闘に比べれば温いな。ボス戦でしっかり動かされたから腹も減ってきたし、カロリーバーでもかじりながらのんびり行くか」
「急ぐほどの時間でもないですしそうしましょう。私にも一本ください」
歩きながらカロリーバーを口にして、水で流し込んで一時的にお腹を満たすと帰り道に向けて真っ直ぐ歩き始める。後三回戦闘を終えれば五十九層へは戻れる。気楽な旅が始まった。
芽生さんのほうも石像相手に奮闘しているしこっちもガーゴイルやリビングアーマー相手に気楽に柄を振り回して確実に倒していく。
「あー、やっぱり素直にダメージになってくれる相手っていいなあ。さっきのボス戦の面倒くささがまだ体に残ってるや」
「そうですねえ。近寄ったり離れたりをしなくていいのもポイントですね。ひたすら殴れば倒れてくれるのは素晴らしいことです」
さっさと戦闘を終わらせて五十九層へ上がる。ここからは芽生さんが作った最短距離の地図を基にして行動する。無駄なく必要経路だけを記したその地図は、いざ帰り道となると少しだけ不安が残るが、それでも余計な力を入れずに回れるだけ気軽に戦闘が出来るという所だろう。
「そろそろ俺も石像相手に簡単に戦える方法を見出してみたいが、直刀じゃないとダメージが入りにくいというのが問題だな。そろそろ武器も新しいものに変えるか? 」
「直刀で欠けたりするならそういう話にもなるでしょうが、今のところその心配はないのでは? 」
直刀の刃の部分をよく観察してみる。折れず曲がらずエントリークラス、というのは本当の事らしく、長い事使ってきてはいるものの現状でそういった不満はない。まだこいつで行けるのかな。
「ま、石像殴って好き放題やってそれで壊れるならその時こそ買い替えだな。それまでは精々丁寧に乱暴に使わせてもらおう」
そういいつつ、直刀に雷切を纏わせながら石像を上から殴る。頭から綺麗に筋の入った石像はそのまま綺麗にぱっくりと腹の部分あたりまで左右に分かれた。手ごたえも変な感じはしないし、今のところ鈍器としてもそこそこ扱えるものではあるらしい。
「うん、まだ大丈夫。次のマップでどうなるかまでは知らないけど石像ぐらいならぶったたいても良い感じ」
「あんまり固いものばかり叩いてると本当にダメになってしまいますからそれだけは注意してくださいね」
専門家とまではいかないがそれなりに刀剣や槍の扱いに詳しい芽生さんから指摘が入る。素直に従っておこうと思う。ここの敵を一体二体倒したぐらいで支払える金額とはいえ、無駄遣いはしたくないからな。
五十八層の階段へ向けて歩く。内側では石像を含めたグループを相手にし、回廊側では石像こそ出ないものの石像が居ない分数が多いグループを相手取る。さっきまでのボス戦に身体が慣れたのか、それともレベルアップのおかげか、かなり楽に戦えていることは間違いない。
「いやーらくちんらくちん。ボス戦のおかげでここの階層も余裕で潜り抜けられるな」
「落差が激しいと言えばそうなんですが……そういえば、ボス戦のデータはどうやって保存しておくんですか? 五十六層のノートに書きこんで終わりとか? 」
「手持ちの指輪の件もあるし、まとめてUSBメモリか何かに入れてまたダンジョン庁に提出しようかなと思ってる。早ければ今日中にまとめて明日提出だな。指輪の画像も残ってるし、何の指輪かは解らないとしておくとしても、このマップではこれだけの情報を得ることが出来ましたーとちゃんと報告しておくのは大事だと思うし」
帰ったら情報の整理か。後はもう一回石像と出会えたら石像の撮影もしておかないと。
「次、石像見かけたら撮影で」
「解りました。雑魚はお願いします。出来るだけ引き延ばして戦ってみることにしますよ」
回廊から内側に抜けて、早速石像の登場だ。お供のリビングアーマーにはさっくりと居なくなってもらって撮影スタート。芽生さんに向かって拳を握り込んで走り込む半裸の石像。モザイクは……要らないな。腰には何かしらの服を着ているらしい形になっている。
芽生さんがサッサっと拳を避け続け、そのたびに軸線をずらしながら石像の動きを次にどういう形で攻撃に入ってくるかどうかを決めさせている。多分それなりに高等テクニックだと思う。相手に動きを制限させつつ誘導させる動きか。そういうのも身に付けてみたいな。
しばらく避けたところで芽生さんが反撃に転じ、頭と腕と胸を順番に突き込んで石像を破壊する。レベルアップで腕力もそれなりに上がったということだろうか。あっさり倒して撮影終了。
これが参考になるかどうかわからないが、魔結晶を拾って受け取って一戦闘終了ということだ。こんなモンスター出てきますよ情報は確実に共有されて各地に散らばるだろうから先行探索者としては必要な撮影行為だったのだ。
五十九層を抜けて五十八層へ。ここからはもう数回通っているので道も大体覚えている。最短コースを歩いて帰ろう。今日はよくやった。もう稼がなくていいんだ、稼ぎは充分ボスからもらったんだと自分を褒める作業をしつつ、よそ事を考えながら出てくるモンスターを片手間に処理していく。
ドロップはまだ金にならないがポーションだけは確実に現金として確保できるので美味しい。今日もここまでに八本確保できた。あと一本出れば満足ラインと言えるだろう。
五十八層から五十七層へ、曲がりくねった道と小部屋を行き来しながら帰る。真っ直ぐ帰るとは言ったが道中の小部屋のモンスターを相手していかないとまでは言ってないし、帰り道にぽろっと指輪が出れば今後の懐事情にも安心できる。
そう考えていたら、ガーゴイルから魔法耐性の指輪をもらった。物欲センサーは意外な所でオフになっていたらしい。
◇◆◇◆◇◆◇
五十八層から五十七層、五十七層から五十六層へと一気に進み、帰り時間としては少しだけ早い午後六時。ボス戦に結構時間を使ったからか、思ったよりも時間がかかった帰り道だった。ポーションはあの後さらに一本追加で手に入れることが出来たので、満足度は高い。
やっと一息吐けるぞとこの場で休むのはちょっとした罠。五十六層側の階段まで歩いて行って、それから休憩、夕食だ。
「今日は色々あったのでお腹が空きました。ご飯の量は大丈夫ですか」
「一応三人前を二つに分けてきたが、食べ足りなさそうな量なら俺のほうから持っていくと良い。小腹が空いた分は買い食いしながら帰ることにするよ」
ドサッと保管庫から出されるタッパー容器に入った和風だけどバターとニンニクがしっかり入ってるきのこ山盛りパスタ。その量を見て匂いを嗅ぎ、更に食欲が増したのだろう。くうっと胃袋が唸る音が響いた。
「……これは胃袋に来ますね、いけませんね。こんないけない食べ物はさっさと食べて処分してしまいましょう」
「今日のは中々いい出来だと思ってる。キノコの旨味たっぷりパスタだ。ゆっくりよく噛んで味わって食べてくれ」
ズルズル……とパスタをすする音が響く。飲み物は机に出しておいたので食べ物が喉に詰まるか喉が渇き次第消費されていくだろう。安心して俺も食事にかかる。
マイタケとヒラタケ、それとシイタケも入れたかな。保管庫に入ってる適当なキノコを刻んで炒めて絡めたので何を入れたかはもう全部は覚えてないが、いろんなキノコの食感と旨味が口の中に広がっていてとても贅沢だ。マッシュルームも入れればよかったかな。
キノコ尽くしのこの味にニンニクが更に食欲を増させようと追い打ちをかけてくる。何か追加で食べたくもなってくるが、今ざっくり食品としてお出しできるのは肉とキノコといつもの朝食セットキャベツ抜きぐらいだ。それなら地上に戻ってもう一食何か食べに行くという手段も取れる。今この場で食べたい、というわけでもないならこのままでいいだろう。
「うん、今日も美味しかったです、御馳走様でした」
あっさりと一人半にあたる量を平らげた芽生さんから感謝の言葉が伝わる。その一言で救われた気分になるので作り手としては非常にありがたい言葉である。
こっちも遅れて食べ終えるとしばしの休憩時間。その間にノートの様子を見に行く。ノートには、高橋さん達が六十層まで到達したことと六十一層の階段を見つけたことまでが書かれていた。日付は昨日。
今日の日付で、六十層ボス討伐しました。詳細は後日あった時にでも、とだけ書きこんでおく。一方的に書き記してネタバレされた! と言われるのを防ぐためだ。知りたいなら聞きに来るだろうし報告として上げる必要も出てくるだろうし……いや、報告は俺のほうから出すから別にいいのか。
とりあえず今日やる事の大半はすべてやり切った。後はエレベーターで帰ってポーションをいくつか査定に出して終わりだ。そう思うと少し疲れが出てきたかもしれない。緊張の糸が切れたって奴かな。
「なんかここにきてどっと疲れたな。探索し終わって食事もして、人心地ついてしまったのかも」
「だったら帰りのエレベーターの中で軽く仮眠取ったらどうですか。多分ですが、普段洋一さんが言っている見えてない疲れって奴が溜まってるんだと思いますよ」
「かもしれないな。よし、とっとと帰ってその見えない疲れを取るほうに力を入れるか」
疲れを取るために力を入れるという不思議なワードを放ちつつ、リヤカーをエレベーターに積み込んで一層へのボタンぽち。そのままリヤカーにもたれかかると枕を取り出してしばし睡眠の格好を取る。芽生さんにはサイコロ本を渡しておいたので続きを読んでくれる事だろう。
◇◆◇◆◇◆◇
「……さん、洋一さん、到着しましたよ。みんな見てますよ」
芽生さんの声に起こされる。どうやらリヤカーでガチ寝していたようだ。一層に到着して少し時間が経ってしまっているんだろう。エレベーターの乗降客がこっちを見つめている。
「これは失礼、すぐどきます」
急いで脳を再起動させて体を動かすと、枕をバッグに隠し入れてリヤカーをエレベーターから引き抜いて、使う人に回す。お疲れさまーなどと声をかけてもらってしまっている有様だ。久しぶりにやってしまった感がある。
「どうやらよっぽど疲れていたらしい。完全に寝落ちしてたよ」
「そうみたいですね。帰ったら今日はゆっくり休んでくださいね。そして明日ぐらいは休みにしたほうがいいかもしれません」
芽生さんのほうはまだまだ元気らしい。これが若さの違いというものか。それともたまたま今日が疲れっぱなしだったのか。まあいい、とにかく地上まで無事に帰ってこれたので今日の探索は成功だ。さっさと査定してもらって帰るとするか。
リヤカーを先に戻して退ダン手続き。今日の査定物はポーションが九本、それだけだ。エコバッグに分けてあるし、どうせ今日もポーションだけだと思われている節もあるだろう。気楽な査定を待って、今日の稼ぎをサクッと出してもらった。金額は七千七百七十六万円。
どうもこの階層に潜ってる間はキリのいい金額が出やすい。だから何だと言えばそれまでだが、小銭が出ないのはちょっと気持ちいいところ。
振り込みをお願いして、いつもの冷たい水。体の中に染み込む感じが仕事終わりを感じさせてくれて非常に気持ちいい。同時に、疲れが体の奥から湧き上がってくる感覚が味わえる。これで探索もある意味では一区切りついたと言える。
後一カ月もすれば価格改定だ。何が上がって何が下がるのか今回はまるで想像がつかないが、それと同時に五十三層から六十層までのドロップ品が一通り査定に出せることになる。一体何億になるのだろう。どんなに少なく見積もっても二億はくだらない現状だと思われるが、これでようやくインゴットの重みから解放されるというもの。査定の搬入の際には裏口から出入りさせてもらうことにしよう。
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