993:ボス リッチ? 2/2
9000万PVだよ! やったね大正ちゃん!
まずは手首を外しに行く。その為には芽生さんをリッチの目の前まで送り込むことが必要だ。ちょっと動き過ぎるぐらいの移動で以て、注意をこっちに引き付ける必要がある。その為に射出を行ってリッチの意識をこっちへ少し向けることに尽力してみる。
が、ダメ。どうやら奴はこの広間全体をある程度俯瞰して見ているようだ。やはり弾幕と召喚のスキを狙っていくしかあるまい。
発狂モードと召喚をやりすごして最接近のチャンスを作り出す。芽生さんを先に行かせる形でリッチに肉薄、芽生さんが槍でぶっ叩いた後何かしらごそごそしている。しばらくすると芽生さんがこっちに向けて何か投げてくる。
骨の手だった。どうにか手首から外してこっちに投げてよこしたってことだろう。どうやったのかは解らないが無事に手首を奪い取ることに成功したので受け取った骨の手から指輪を次々に外していく。
目視で確認するが、確かに物理耐性の指輪と魔法耐性の指輪をきっちり複数個装備していた。指輪は摘まむだけでサイズが変化し外れるようになったので、外しておもいっきり入口のほうへ投げてやった。
全ての指輪を外してやると、むき出しの骨。この骨も……入口とは違う隅っこのほうへ投げておく。これで相手の防御力は半減ぐらいはしたはずだ。
リッチが発狂モードに入りそうな雰囲気を醸し出してきたため芽生さんがこっちへ戻ってくる。
「あれでどうですか。多少はやりやすくなりましたかねえ」
「次の弾幕が終わったら試してみよう」
リッチが弾幕を張り始めるが、さっきより数が少ない。手が無くなった分手数も少なくなった、ということかもしれんな。
さっきまでと違いかなり数の減った火の玉と水の弾を潜り抜け、相手の手がいったん止まったところで極太雷撃。数秒照射してみたが、うっすらと黒い粒子が立ち上るのが見えた。
どうやら指輪を複数個外したことで魔法耐性もかなり下がったらしい。さっきよりもダメージが入っている気はする。となれば、斬り込みにかかってもそれなりのものを期待できるとみて良い。
「もう片方の手も貰いにいくか。両手分の指輪を外せば何らかのアクションが変わるだろうしこっちもダメージを入れられるようになるはずだ」
「もう片方の手首、というと杖もついでに貰うことになるかもしれませんがそれはいいんですか? 」
「ついでに杖も没収したら何かなるかもな。もういっちょ手首から先盗んできて」
ちょっとした相談の間にリッチが召喚を始める。さっきまでと数は同じ。どうやら召喚には手首の数は関係ないらしい。手首、拾いに行かなくていいのかな。
召喚をさっきまでと同じ手順で片付けると、薄い弾幕がすぐにやってくる。弾幕を躱しながら接近して同時に斬りにかかる。
リッチ本体に斬りかかるが、さっきより斬れた! という感触が確実に得ることが出来た。その間に芽生さんはもう片方の手を外し、杖を部屋の端っこへ蹴り飛ばす。
芽生さんが続いて手首をコロンと手慣れた感じで外し奪い取るとすぐさまリッチから離れ、指輪を全て外しては指輪を入り口に向かって投げ捨てる。今更だが入口は開けっ放しのほうがおもしろかったかもしれないな。指輪と手首を取り戻すために部屋から出ようとするリッチという構図が見られたかもしれない。
両手と杖を失ったリッチに斬撃を加える。直刀の斬撃が当たったリッチの肩の骨は砕け、まるで一般スケルトンのように見える。そのまま相手が攻撃タイミングに移る前に、雷切状態でもう一度斬撃を加える。
雷切はそれほど効果がないようだが、きっちり刃は通っている。何をどこまで斬り付ければリッチを倒したことになるのかは解らないが、出来る範囲で色々やってみよう。
リッチは何もしてこない。もしかしたらだが、両手が無ければ弾幕を、杖が無ければ召喚が出来ないとかか?
これだけ指輪を外した状態ならスキルも充分に効かせることが出来るかもしれない。腹に刺さったゴブ剣に対して雷撃を流し、リッチを内側から焼こうと試みる。先ほどまでと違い、密着状態でスキルを打てばきっちり効果があるらしく、ゴブ剣の周辺から黒い粒子が漏れ始める。
芽生さんが入口方面から戻ってきた。こっちもいったん離れて攻撃の手を緩めて仕切り直しの時間。いくつか伝えることがあったので簡潔に伝え、戦闘態勢を維持する。
「ここからはもしかして楽勝だったりしませんかね」
「実際にどのくらいダメージを与えられるかが解らんからな。少なくとも相手の攻撃の手はある程度潰せたというか、弾幕も薄いしどうやら弾の威力も弱くなったみたいだぞ」
そういうと発狂モードのリッチから飛んでくる火の玉を直刀雷切で撃ち返したり切り刻んだりしてみている。威力的にはゴブリンシャーマンの魔法と大差ないぐらいまで落ちているのか。もしかしたら杖でバフをかけていたのかもしれないな。召喚がどうなるかは解らない……というところか。
「この弾幕が終わったら射出で対応してみよう。今ならあっさり通るかもしれない」
「ならこっちも【水魔法】がどのくらい通るか試してみますか」
発狂モードのリッチの弾幕が止んだ瞬間、射出三連、もう一度ゴブ剣をリッチへ射出する。今度も三本とも胴体に刺さり、刺さった分だけ黒い粒子が噴き出る。こうかはばつぐんだ。
芽生さんが合わせるように水魔法の塊とウォーターカッターをぶつける。塊に押し流され壁にまで吹き飛ばされたリッチはそこでウォーターカッターの追撃をうけ、マントはボロボロになり、足首も取れてしまった。ちゃんとスキルも効いている。
「と、ど、め! 」
極太雷撃を射出する。芽生さんの【水魔法】付着により通電が伴われたそれはリッチの全身を焼き続け、どんどん焼けた先から黒い粒子があふれ出ていく。おそらく刺さったゴブ剣の内側からも雷撃が空っぽの身を焦がしているのだろう。うめき声こそ上げないものの全身をピクピクと引きつかせながらリッチが徐々に黒い粒子に還り始める。
眩暈が起きるまで雷撃を止めずにいようと踏ん張っていると、リッチから最後のなけなしの弾幕が飛んでくる。が、芽生さんが俺の前に水の盾を展開してくれたおかげでその盾によって防がれていく。盾の内側から雷撃が飛び、向こうからのスキル攻撃を受け止めるというハーフミラーみたいな防壁になっているが、細かいことは気にしないでおこう。
やがて完全に黒い粒子に変わり切ったリッチは最後にスキルを撃とうとしてそれが構築し終わる前に消滅した。多分今頃、入口のほうに投げた指輪やその辺に転がっているであろう手足や杖も黒い粒子になって……と、ここでステータスブーストがまた一段階上がった。この言い方も段々言いにくくなってきたな。素直にレベルアップと言った方がいいのだろうか。
芽生さんのほうもどうやら来たらしく、この短い時間での二段階の上がり方を考えると、リッチがいかに経験値の塊であったかが解る。ボスであることに間違いはないと言ったところだろうか。
「終わりましたね。ギミックだらけのボスでしたが、最後は結構あっけなかったですね」
「指輪と杖にどう気づいてどう対処するか、がカギだったな。気づかなかったら撤退して再戦するところだったと思う」
「ドロップは何が出たんですかね。確認しておかないと」
「おっと、そうだな。何をくれたのかなーっと」
リッチが消えた地点をよく探す。そこには巨大な青い魔結晶とマントのようなもの、そして物理耐性の指輪が残されていた。使ったゴブ剣も無事収納。今回はポーションはないらしい。その代わりの指輪、ということかな。
これももしかしたらランダムで何かしらの指輪、ということになるとボス周回という活動が視野に入ってくるな。もしかしたら【火魔法】や【水魔法】の指輪なんてものも存在するかもしれない。二人でボス戦ではとても試す気にはなれないが、誰かが拾って誰かが検証してくれることを祈ろう。
マントは装備することで何らかの効果があるかどうかは解らない。装備して呪われる可能性もあるのでこれも保管庫の肥やしかな。一応討伐報酬ということで保管しておこう。青い魔結晶は査定され始めるまで放置、査定開始次第まとめてお願いする形になるな。
「いやーお疲れ様。よく初見で突破できたね」
聞き慣れた声が聞こえるので振り返ると、拍手をしながらミルコがこちらへ転移してきていた。
「ダンジョンにしてはギミック重視なボスだったな。気づくまでにちょっと時間がかかったぞ」
「安村なら指輪に気づくかなーと思ってたんだけど、見事に気づいてくれたね。後は文月の手首の外し方の手慣れた感じが素晴らしかった。あそこで苦労すると思ったんだけど」
「一応徒手でもそれなりに出来る身体ではありますからね。手首の外し方ぐらいならなんとかなってくれていたのが功を奏しました」
芽生さんは手首を簡単に外すことが出来る。俺、覚えた。
「ただ、流石に今回ばかりは手数不足を痛感した。二人で潜ってくるような階層じゃないなここは」
「それもそうだねえ。本来なら四人パーティーぐらいを想定して作ってあるんだけど、二人で突破したのはさすがってところかな。で、今回の報酬はどうする? ボスの討伐報酬があるわけだけど」
ボス討伐の報酬か。今のところ思い浮かぶ報酬はない。基本的に問題はダンジョンの外に転がっている。
「久しぶりの報酬だが俺は貸し一で頼む。さすがに疲れて今思い浮かべられるものがないや。むしろ逆に、俺が知らない内に借りを作ってたりはしないか? それならその借りを返したいところだけれど」
「そうだねえ……貸し一の形にしておいたままで、僕がうっかり何かした時にそのリカバーの形で使う、というのでどうだろう。それならお互い良い関係でいられる」
「私も貸し一で。同じような理由で何かあるかもしれませんし、そのために溜めておくのも悪くないと思いますので」
芽生さんも特に欲しいものはないらしい。欲しいものか……色々考えてみるがやっぱり今のところはないな。しいて言うならより高速で移動できるエレベーターが欲しいという所だが、深い所に潜る理由だけでそれが欲しいのだからそこは許容範囲というところだろう。
「二人の言い分は解った。溜めておくから使いたくなった時に呼んでくれればいいよ。この先も頑張って……と言いたいところだけど、ゆっくりでいいよ、ゆっくりで」
ミルコには珍しく深層へ向かうのをためらわせる形で説得に来ている。
「お、ということはついにダンジョンの最下層に追いつきつつあるわけか」
「まあ、そんなところかな。一度最下層がどんな形になっているかを見学される、というのも悪い気はしないけど、どうせ踏破するつもりはないんだろう? また真中みたいに誰かそっちの高官が訪れるかもしれないしね」
ふむ、最下層か。見学したいかどうかと言われるとかなりの確率でイエスだな。どんな場所かを知っておくのも悪くないと思う。
「最下層ってダンジョンコア以外に何か設置されてたりするの? おいでませ最下層みたいな看板とか、それ以外に何かミルコ君の私物が置いてあったりとか」
「あはは、さすがにそれはないよ。私物は私的空間に全部詰め込んでいるからね。君らやダンジョンを見渡すための部屋はまた別の次元にあるのさ。だから最下層は本当にシンプルにダンジョンコアが置いてあるだけ、と考えてくれていいね。もしかしたら君たちの中にも最下層まで到達した人が居て、その様子を僕らみたいに撮影、観察するって仕事をやっているかもしれないから気になるなら調べてみればいいんじゃないかな」
なるほど、そっちで見てみる、という手があったか。帰ったら探してみるか。
「じゃ、帰り道も気を付けてね。外のモンスターはほぼ湧きなおしてると考えてくれていいから、この部屋から出たら即戦闘だって覚えておいたほうがいいよ」
「忠告感謝しておくよ。少し休んだら今日のところは戻ることにする」
「またねー」
ミルコは帰って行った。コーラでも持たせて帰らせたほうが良かったかな。何にせよ、六十層のボス討伐は無事に成功した。今回はちょっと危なかったな。次回のボスは七十五層、一体どんなモンスターが出て来るやら。
ここまでのボスはこれまでのモンスターの何らかの上位種、という形で出てくることが多かった。ミルコが何層まで作っているかは解らないが、既に出会っている種類のモンスターの上位種、という可能性は捨てきれないな。次回をまた楽しみにしておこう。
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