990:五十九層 動くダビデ
ダンジョンで潮干狩りを第二巻、早いところでは今日からいろんなサイトで取り扱いが始まります。
詳しくは活動報告のほうへまとめていく予定です。
Renta!では既に読めるようになっていますが、続刊のためにも何処のサイトでもご購入のほうよろしくお願いします。
アラームが鳴り、バチッと目が覚める。眠気は何処かへ飛んでいき、目元にも眠気の後は残っていない。同じアラームで芽生さんも目が覚めたのか、ゆっくりと起き上がった。
「何分ぐらい寝てました? 」
「四十分ぐらいかな。食休みとしてはほどほどに良い時間だったと思うよ」
「よかった……うん、ちょっとお肌のハリが戻ってきてる気がします。これもワイバーン肉効果ですかね」
「うん、いくらなんでも効果が出るのが早すぎるね。多分気のせいだ」
ご休憩セットを片付けて、軽くストレッチ。体は……よし、凝り固まっていない。そのまま維持しながら戦闘をすぐにでも開始できそうだ。とりあえずこっちの動く準備はヨシと。
芽生さんは槍を両手で持って頭上に上げてそのまま槍を前後に身体を動かし、体の柔らかさを確かめている。その運動が出来るということは胃袋のほうも落ち着いたということだろうな。
「さあ行きますか五十九層。新しいモンスター出ますかね? 」
「五十九層から出るのか六十層から出るのか、それとも出ないのか。気になるなら高橋さん達に聞いておけばよかったかな? 」
「まあ基本的には【索敵】で判明しますし、居たら居たで対策を考えましょう。それ以外は多分何とかなります」
「とりあえず細かいことは五十九層についてから考えるか。まずは進もうか」
荷物の忘れ物がないことを確認すると、そのまま内側に入り、ウネウネと巡りながら小部屋もしっかり通り、道中の狩り忘れがないようにしていく。
小部屋を飛ばして先に進むのを急いでも良いが、それはそれで道中の勿体なさが少しずつあふれてくる。もしここでスルーしたモンスターからスキルオーブが出ていたら、と考えるとスルーしづらい。
回廊から三十分ほどで五十八層に下りる。五十八層から五十九層の階段の間は前回最短ルートを探しておいたので非常にシンプルに通り抜けることが出来る。いや、それなりに曲がりくねっているのでシンプルとは言い難いか。
ガーゴイルもリビングアーマーも三か四のグループで出てくるので体が退屈することはない。いつも通り肉弾戦をする時は合図を送り合って肉薄し、そうじゃないときはスキルで対策。これでガーゴイルとリビングアーマーは問題なく戦えている。五十八層での戦闘面での問題は無さそうだな。
そのまま曲がりくねって戦闘して、道中の小部屋にもちゃんと立ち寄って四十分。五十九層への階段までたどり着いた。
「ここまでは予定通りってところですかね。さあ五十九層で我々探索班を待ち受ける者とは一体」
「視聴者に明かされる衝撃の一幕がそこにはあった! とかか。そんな衝撃はないほうが嬉しいわけだが」
階段を下りながら警戒する。階段を下りた時が一番危ないんだ。階段の段差で躓くことも考えて、索敵をしっかりとかけておく。
階段を下りた先五十九層は小部屋スタートだった。他のマップみたいな小部屋にモンスターが、ではなく、階段を下りたその先に出入口だけが存在する、小部屋の大半を階段で埋め尽くしたような場所であった。
「階段は安全と。さて、どっちへ行ったものかな」
「方向指示は私にお任せです。むむむ……こっちが回廊に近い気がします」
芽生さんが謎の電波を受信するポーズをとると、部屋を出て左に向かえとの指示が出た。こういう時に俺が悩むと大体外れて来たという過去の経験則からその指示に従うことにする。何も考えてなかったからその指示が当たるのかどうかは解らないが、仮に俺が右に行こうと言い出した場合でも、左に行くことになっていただろう。
少し進むと索敵に反応、数は三。反応位置まで移動してみると、ガーゴイルが二匹に石像っぽいものが一。石像みたいなやつが背筋を主張するようなポーズでたたずんでいる。ピクリとも動かない辺り、本人は背景に溶け込んでいると信じ込んでいるんだろう。相手が反応してくるまでにはもう少し距離がある。さてどうしたものかな。
「どうします? 石像のほう」
「どうしようね? スキルを遠距離からぶっ放して反応がないなら近接で対処、というのがセオリーだけど、本当に石像並みに固かったらその時面倒くさいな」
「ガーゴイルみたいに柔らかい可能性は? 」
相談できるうちに相談しておく。どうせ近づいたら全部戦闘になるのだ、その前に足を止めて戦闘相談が出来るということは大事である。
「両方可能性としてはある。ただ、わざわざ深い階層で出てきたモンスターがガーゴイルと同じ固さだったらあんまり意味がないからな。もしかしたら本当にゴーレムみたいに石でできているかもしれない。ここは射出で硬さの具合を判別しておこうと思うんだけどどうだろう」
「じゃあそれで。固くなければやりようはいくらでもありますからね。固かったら……水魔法のトンカチでぶん殴って様子を見るぐらいはしていいかもしれません」
とりあえずガーゴイルは放っておいて、先に石像のほうに注力することになった。さて、どのくらいの硬度を有しているものか。
ゴブ剣で良いだろう。試しに現状脳内設定している亜音速スピードで射出。プシュンという音と共に飛び出していくゴブ剣、そしてすぐさま聞こえる岩が砕けるような破壊音。ボゴォンという心に染み入るような低音こそ響かなかったものの、確かにダメージを与える音が聞こえた。
すぐさま目視で確認するが、ゴブ剣は相手の腹の中で止まっていた。ゴブ剣を腹の中に納めたまま、石像がこっちへ走り込んでくる。これはゴーレム並みに固いな。弱点も見当たらない。しいて言えば人間型だったら心臓に打ち込むべきだったのか、と反省点をすぐに思い浮かべつつ、ガーゴイルを芽生さんに任せて石像と一騎打ちとしゃれこむこととする。
雷切モードで石像と殴り合いの喧嘩になる。向こうは素手、こっちは雷切、射程の問題ではこっちのほうに利がある。しかし、相手の硬さと弱点をまだ見極められていないことを考えると勝負は五分五分ぐらいかもしれないな。
何処をどう攻撃すればダメージになるのかわからないので、伸ばしてくる手をそのまま斬りおとそうとしてみるが、雷切は相手の手首の中ほどまで到達したところで止まってしまった。そのまま殴りつけてくる拳を頭で受けて、衝撃の瞬間わざとらしく頭を揺らして衝撃を回避する。
こっちに物理耐性がある分こちらの内臓や頭蓋骨へのダメージは無さそうだ。目も散ったりしては居ないし脳にダメージも……うん、ちゃんと考えることが出来ている。
こいつは固い、とにかく固い。手加減して余裕をぶっこいていた数十秒前の自分に反省しろと言いつけながら、何処をどうすれば確実にダメージになるのかを考え始める。やはり心臓の位置か、それとも頭か。確実なのは頭だろうな。リビングアーマーでは頭部へのダメージはそれほど問題にならなかったがこいつは完全に人型だ。頭部を破壊されれば少なくとも視覚は失われるだろう。
次の殴り合いになる前にバックステップで距離を取り、その間に全力雷撃を打ち込む。雷撃は腹部のゴブ剣に反応し、そこから黒い粒子が漏れ出す。体内は人型モンスターと同じ……という訳ではないんだろうが、それなりのダメージを与えることが出来た。おそらく、ゴブ剣の周囲だけ魔法耐性的なシールドが剥げているんだろう。
少し動きの鈍くなった石像相手にもうちょっと考える時間が出来た。後できることは首を狙ってみるか、さっき斬りおとせそうだった手首をもう一度狙ってみるか、それとも雷撃でさらに追加ダメージを与えるか三択だ。
毎回射出で対応するわけにもいかないので、ここは普通にやるだけでは雷撃は効かないものだと判断しておこう。となれば雷切で……って、これも【魔法耐性】で威力が減衰している可能性があるのか。だとすれば、ここは直刀で一つ対応してみるのも手だな。
雷切を切って柄を収納すると直刀をすぐさま取り出し、こっちに雷切を付与。そのまま石像の手首に向かって撃ちこむ。確実な物理攻撃により石像の手首は落ち、そこから黒い粒子があふれ出す。なんて固い黒い粒子なんだろう。
こいつにスキルは悪手、それは解った。やり取りを続けている間に芽生さんはサクッとガーゴイルを退治し終わり、俺と石像が立ち会っている姿を観察しつつ、次のモンスターが現れないかどうか警戒してくれている。早めに終わらせたいけどどうするのが確実かな。
直刀で首を狙う。まずはもう片方の手首を狙って……とフェイントを入れての首への突き。直刀は見事に首の横を通り抜けた。そのまま手元に引き戻すような形で首を切り落とす。
首を切り落とされた石像はその場で膝をつき、膝を曲げないまま真っ直ぐ倒れていく。倒れた衝撃で全身が粉々になり、そして黒い粒子に還っていく。どうやら頭部が弱点、ということで良いらしい。
「大分ご苦労されてましたねえ」
「何分初めてなもので。でも得られたものは充分大きかった。後ほら、魔結晶もちょっとだけ大きい」
「言われてみればそうかもしれませんね。で、今のところの感想としてはこの石像のポイントは何ですか? 」
芽生さんがゴブ剣を拾って渡してくれたのでそのまま保管庫に収納。ゴブ剣は他のと混ざって収納されてくれたので欠けたりとかはしてないらしい。他にドロップは魔結晶以外には無さそうだな。とりあえずほぼ全裸だったし、装備品みたいなドロップはないと考えて良い。あるかもしれない範囲で言うならまた指輪かな。
「とにかくスキル攻撃が効かない。腹にゴブ剣を貫通させてそこからスキルを注ぎ込むというエルダートレントでもやった手段ですら確実なダメージとは言い難かった。物理でとにかく殴るのが正解なんだと思う。実際直刀で殴ったほうが雷切で殴った時よりも明らかにダメージがあった。おそらく雷切も少しは物理攻撃として認められてるのか、当たったところだけスキルが上手く働いてくれたのかは解らないが、とにかくこの階層では直刀を使っていくのが正解に近いらしい」
「なるほど。要するに遠慮なくぶっ叩けばいいわけですね」
「後、弱点は多分人間と同じで心臓か頭だ。ゴブ剣は腹のど真ん中に刺さったから効果が無かったのかもしれない。最初から心臓目掛けて撃ちこんでたら結果は違ったものになったかもしれない。でも弱点を的確に狙えば射出を使わなくても倒せるということが解った分、心臓を狙わなかったのは運が良かったのかもね」
欲しいのは戦闘情報だ。確実に倒せる手段が一つあるより二つあったほうがより楽に戦いを進めることが出来る。その意味では今のやり方は悪くなかったんじゃないかと自分を少しだけ許してあげることにする。
「じゃあ次でてきたら私が対峙してみる番ですね。また出て来るでしょうし楽しみにしながら次へ進みましょう。次はこっちですこっち」
芽生さんが先導しながらまだほとんど解っていない階層を進む。どうやら石像はレアポップのようで、出てくるモンスターはガーゴイルやリビングアーマーの四匹編成がほとんどだ。しばらくして、石像が一緒に出てくるグループに遭遇した。どうやらコスト的にも重いらしく、石像一体で他のモンスター二匹分ぐらいのコストがあるらしい。またガーゴイル二匹と石像の組み合わせが出てきた。
「よっし、やりますよ」
「じゃあガーゴイルは任された」
ガーゴイルを芽生さんの邪魔にならない範囲でササっと倒していく。ガーゴイルに接近されて腕を掴まれたが、掴まれた腕から全力雷撃で逆に攻撃することで近づく手間が省けたと納得しつつ、迂闊な接近までされたことに自分に反省を促す。
柄の代わりに直刀を再び使い始めたことで、振りの速さや体の動きに再度慣れるまでに時間がかかるらしい。久しぶりに使うと体が鈍るし、何より柄では気にすることが無かった、自分に当たると切れるという現象を味わうのは勘弁してほしいので真面目に剣術をやらなければならない。
柄に雷切だと自分に当たったところですべてが自分のスキルなので自分自身には何も影響はなかったんだが……いや、これは怠慢だな。今日を機にどっちも問題なく使いこなしていけるように心新たにしていこう。
思うところはあったが問題なく戦闘をこなしたところで芽生さんと石像の戦闘のほうに目をやる。槍を軽く振り回しながら自分の射程と石像の射程を確認するように槍を構えなおすと、石像が手を出してくるのを待つような形になっている。石像もゆっくりと芽生さんに近づいて行っている。
ボクサーのようにステップを踏みながらというわけでもなく、ゆっくりと芽生さんのほうに近づいている。こっちには意識が行っていない、奇襲をするなら今という感じだろうが、今回は芽生さんの腕試しだ。横殴りしたいところだが大人しく芽生さんの戦闘を余裕をもって見ることにしよう。
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