989:より奥へ
ダンジョンで潮干狩りを
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除湿をかけたままの寝起きは最高に気持ちがいい。外が多少湿気っていても部屋の中だけは快適だ。おかげで汗もかかず朝シャワーが要らないぐらいだ。
今日も心地よい眠りをありがとうダーククロウ、そしてスノーオウル。いつもの念仏を唱えると朝食の作り始めだ。まずは朝食を食べて今日午前中分の血圧と血糖値を確保して、それからそのまま昼食と夕食作りの準備にも入ることにする。
夕食用のパスタを茹でるのは最後で良いな。張り付くことになるし、張り付いたら張り付いたではがすのに一手間かかる。コンロとスキレットは持ち歩いているので温めなおしや炒めなおしが出来ない訳ではないが、出来るだけ手間なく後の片付けもしないようにしておくほうがスマートだ。
いつもの朝食を食べる。本来なら今日の朝食もいつものトースト目玉焼きキャベツではなく、スーパーの弁当で済ませる予定だったんだが、昨日の一幕があり予定は変わってしまったのでいつもの朝食となる。
朝食を食べ終わると炊飯器をセットしたところで丁度お腹の調子がゴロゴロっとゴキゲンな音を立てるのでトイレへ。このタイミングで出てくれるとダンジョンに入って出るまで静かでいてくれるので非常に助かっている。
気持ちよく出すものを出したところで念入りに手を洗い、昼食と夕食の準備に入る。昼食は昨日の内に下準備をしておいたワイバーン肉を照り焼きにする。勿論付け合わせの野菜はキャベツ。後は見た目をよくするためミニトマトも添えておこう。
ワイバーン肉の片面を中火できっちり焼き軽く焦げ目つくまで焼くとひっくり返してしっかり火が通るように焼く。本来は鶏肉でやる手法なので、ワイバーン肉だと鶏皮に当たる部分がない。その分油を少し足してやって片面の表面がパリッと仕上がってくれるように仕向けるのがポイントだな。
火が通ったと感じるぐらいに焼けたら醤油、みりん、酒、砂糖を加えてタレを煮詰める。煮詰めて蒸発する泡が大きくなり始めたぐらいから肉全体にかけ回しながら焼き、更に煮詰めていく。
良い感じにたれにとろみがつき、肉にも完全に火が入ったところでフライパンからおろして一口大に切って皿に盛りつける。これで一品完成。昼食準備はこれでヨシ。ヨシかなあ。もう一品ぐらいあってもいいかもしれないが、今から作るとなると少々時間が足りないか。次回に多様な料理を作る際はもう一品何か作ることにしよう。
フライパンを一度綺麗にして、オリーブオイルとバターとニンニクで少し香りを立ち上げさせた後、かなり小さめに切った色んなキノコを焼いていく。こっちは火が通ればそれでよし。パスタを茹でた後で和風キノコソースに追いキノコする形でパスタを絡め、二人分タッパーに詰めたところで夕食も完成だ。後は炊飯が終わった時点で炊飯器ごと保管庫に入れて今日の食事の準備は完了となる。
柄、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。そういえば、昨日はミルコへのお供えを忘れていたな。結衣さん達に出会って昼食で盛り上がったおかげだったかもしれない。今日は忘れずにお供えしよう。ミルコがどのナッツに興味を引かれるか楽しみである。
◇◆◇◆◇◆◇
いつもの時間、いつもの電車、いつものバス。ダンジョン界隈は賑わえど、遠く離れたこの小西の地ではそれほど盛り上がらず、と言ったところ。まあ現地でもまだ一般開放はしていないのだから盛り上がるのはもう少し先になるだろう。
バスで芽生さんと合流。今日の昼食と夕食について伝えておく。
「夕食はともかくとして昼食は楽しみですね。ワイバーン肉は多分洋一さんのそばか高級料理店じゃないと味わえないでしょうから」
「レシピの幅が少ないのが申し訳ない所なんだけどな。もっと色々できるように頑張って見てはいるつもりだ。どうせ肉自体はスノーオウルの羽根を取りに行くついでにいくつか手に入るものだし、一個あたりの大きさもある。残弾はあるんだ、色々挑戦する余裕はある」
「そうですねえ……」
芽生さんとどんなワイバーン料理が食ってみたいかを言い合っている間にバスはギルド前に到着。ワイバーンは俺の中では鶏肉カテゴリなんだが、芽生さん的には未知カテゴリというところにあるらしい。つまり、何の肉に置き換えてみても面白そう、というポイントに置かれているそうだ。
何にでも合う肉か……なにか手持ちのレシピで置き換えをやってみるか。今日は今日でもう照り焼きを作ってしまったので、今度は鶏肉以外の肉として何かしら考えてみよう。
芽生さんが着替えてる間にいつもの冷たい水を仕事前に一杯。これで体をひんやりさせて、心地の良いままダンジョンに入る。芽生さんが到着したのでひんやりを維持したまま入ダン手続きに臨めそうだ。
「今日もいってらっしゃい、ご安全に」
「ご安全に」
「ご安全にー」
いつも通り見送られるとリヤカーを引いてきてしばしエレベーターの列に並ぶ。自分の番でリヤカーと一緒に乗り込むことであー満員ですよー次のエレベーターにお乗りくださいねーという感じを出すことで、ストレートに最下層まで向かうという格好をいつも演出している。
今のところ、こっちが費用持つから急ぎで乗せてくれ、と言われたことはない。エレベーターの次の箱がすぐに用意されるからだろうが、おかげで余計な摩擦が無く大助かりだ。
さて、いつも通り芽生さんはサイコロ本の続き、俺はクロスワードをする。今日の行程の打ち合わせは五十六層を移動している間にでも行おう。今やっておいても本に夢中になるおかげで内容を忘れたりするからな。
今は仕事の前のリラックス時間、お互いやりたいことをやる。その時間をきっちりとっておくことでこの後の流れをスムーズにするためには大事だ。さて、クロスワードの続きを……あ、答え解ってしまった。適当に埋めて次行くか。
◇◆◇◆◇◆◇
五十六層に無事着いた。五十七層への階段へ向かいつつ、今日の行程の打ち合わせを始める。
「今日は五十九層調査だ。五十七層を良い感じに回って暖機運転をするのが午前中。五十八層手前の回廊で昼食。その後は真っ直ぐ五十九層に潜って階段探し。ここんところ階段探しばっかりだがまあ仕方ない。六十層への階段を見つけた時点で残り時間を逆算して出来る限りの時間潜ってみよう。あ、出来る限りと言っても夜ギリギリまで、という意味ではなくいつもの時間に帰れるかどうかって意味ね」
「じゃあいつ階段を見つけられるかに進捗が関わってくるわけですか。これは私の責任がかなり重いですね。どっちに行けば早く階段を見つけられるかは洋一さんより私の勘にかかってますね」
芽生さんがろくろを回しながら解説する。どうやら伝染したらしい。
「そっちの勘のほうは任せるよ。まあ、急ぎで発見しなきゃいけないわけでもないが早く見つけても問題がある訳で無し。とりあえずいつも通り回廊を見つけてぐるっと回ることになるのかな? 」
「うーん、どうでしょうね。確かに回廊側に階段がある可能性もあります。五十七層がそうですし、他でも同じことにならないというのは誰も保証できませんからね。回廊に早く出られる道を探して回廊をぐるっと回るのを目標にしますか」
方針が決まったところで早速行動開始。五十七層に下りて適当に曲がり角を曲がったり小部屋を行き来したりして、今日の調子を確認するための戦闘を始める。ガーゴイルを二匹さくっと雷撃で吹き飛ばし、今日のスキルの様子も調整していく。
「うむ、今日も調子はいいな。どうやら今のところ体に不具合も無し、スキルのほうも好調。これは一日無事に動けそうだ」
身体をグルグルさせたり関節を伸ばしたり、腰を急激にひねってコキッと音を鳴らしたりして各部の稼働域や呼吸の深さなんかを確かめていく。
「まだ慣らし運転ですからねえ。五十九層の密度を予想するとちょっと苦戦するかもしれません。その辺は大丈夫ですか」
「今のところは何とも。午前中に一本でも多くポーションが出てくれれば査定が高くついてくれてうれしいなあってぐらいかな。後はまた指輪が落ちると嬉しいね。これもまたドロップ品としては高級な部類に入るだろうし、誰もが喉から手が出るほど欲しいはずだ。スキルオーブと違って指にはめるだけで効果が出るなら一般人向けのダンジョン装備としても需要はほぼ無限にあると言える」
念のためではめているだけで効果がある。ボディガード本人にも警護される側にも両方欲しいところだな。だとすればここをうろうろする間に十個ぐらいは出しておきたいところか。一個いくらで取引されるようになるのか楽しみではある。
「そんなこと言ってると物欲センサーが稼働して落ちるものも落ちなくなりますよ」
「おっと、欲望はほどほどにしとかないとな。さあ次へ行こう次へ。まだまだ時間はある」
そんな調子で一時間半ほど五十七層をうろつきながら距離と時間をうまいこと調整して、昼頃に目的にしていた場所に到着するようにした。
五十八層への直通への道がある回廊のちょっと広くなったところ。昼食を取るには絶好の場所だ。風景も相まってあまり豪華でない食事も豪華であるように錯覚することができる。
「さて、お昼にするか。今日はワイバーン照り焼きだ。前も作ったが前よりは多分美味しい」
「ワイバーン肉は美味しいですからねえ。お肌にも良いらしいと聞きますし、もしかしたら若返りの効果も確認されるかもしれません。洋一さんはちょっとだけ食べれば充分ですからね」
「俺だって多少若返りたいぞ。見た目はともかくとして、内臓が若返るならもっと重たいものも平気で食べ続けられるようになるし、体内年齢の若返りは望むところだ」
早速昼食の用意とばかりに机と椅子を出し、机の上には炊飯器とワイバーン肉の照り焼きとサラダ。炊飯器からご飯を盛り付け芽生さんに渡し、いただきます。
うむ、今日も甘辛タレが美味い具合に染み込んでいて胃に溜まる。喉が渇くほど辛く出来上がっていないのも高ポイントだ。もう一品何か作っても良かったかな? と思う程度ではある。もっと工程を早くするか、一品隙間に作れる料理を何か覚えるという方向性で攻めていこう。
「若返りが一枚、若返りが二枚」
丁寧に切られたワイバーン肉を一枚一枚食べながら芽生さんが呟いている。まだお肌の衰えには早いとは思うんだが、多分そういう話ではないんだろうな。いつまでも十代の肌でいたいのかもしれん。
「昼からは……そうだな、三時間ぐらいは五十九層で彷徨える時間が取れるかな。芽生さん次第だが、うまくいけば六十層の様子も見られるかもしれん。落ち着いて素早く手堅く行こう」
「なかなか難しいこと言いますね……ご飯もうちょっとください、これは食が進みます」
「あいよ」
お茶碗に一盛り半というところまでご飯を食べつつおかずに手を伸ばしている。今日は野菜のほうにも甘辛タレが乗っているのでごまだれやドレッシングを出していない。ミニトマトも口の中でプチプチと踊っている。その酸味が甘辛タレと口の中で合わさって更に美味しくなる。
今日の昼食も中々の出来。後は夕食のキノコ尽くしパスタが気に入ってもらえるかどうか、だな。今気にする話ではないが、飯は美味いに限る。
ワイバーン肉がでかいとはいえさすがに二人いると消費は早い。三人前のつもりで作った今日の昼食はあっという間に無くなってしまった。無くなってしまったが、もっと食べたいなあではなく満足した、と感じられるだけ充分な食事だったと言えよう。
後は小休止して、時間が程よく取れて胃がこなれたら本日の本番の戦闘になる。っと、ミルコへのお供え物をしておかないとな。
芽生さんが机に突っ伏しているのを横目にしながら食事の片づけをすると、ミルコ用のおやつ……おやつというより今日は酒のつまみナッツセレクションと言った方が正解に近い。それを並べてパンパン。お菓子は消える。これで今日のタスクをまた一つこなした。今日のコーラは多めに渡しておいたので次が多少遅くなっても大丈夫だろう。
さて、俺も一休憩して……そこそこ満腹なおかげで眠い眠気を抑えるためスノーオウルの枕を取り出してアラームをかけて飯寝することにする。三十分でもこの枕なら十分眠気を吸い取ってくれる事だろう。
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