987:いつものカニ、いつものメンバー
ダンジョンで潮干狩りを
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ギルマスと別れそのまま入ダン、リヤカーを引いて七層で茂君、そして四十二層で昼休憩という流れになった。いつもの午後勤ローテーションにすんなり入れたのは上々だな。
エレベーターを降りて周りを見渡すと結衣さん達が居る。向こうも丁度昼時らしい。こっちを見つけると手を振って呼び寄せて来たのでホイホイとついていってしまうのだ。
「おはよう、いやこんにちはかな。今日はこの時間から探索? 」
調子が悪いという風には見えない。順調、という所だろうか。
「午前中は羽根の納品と買い出し、それとギルドに提出物があったんで色々とね。タスクが積み重なってたのをこなしてたらこんな時間になっちゃった」
机と椅子を引っ付けてこっちも使ってどうぞと幅広く机を使ってもらう。もう、机と椅子が突然現れることに驚く人はいない。慣れてしまったんだろう。
「じゃあ今からお昼ご飯なんですね。ちなみに安村さんの今日のメニューは何ですか」
横田さんがこっちの食事をつつきたそうに質問してくる。
「ご期待に沿えないようで申し訳ないんだけど、買い出しついでに弁当買ってきちゃった。なので今日は出来合いですよ」
机の上に弁当を五種類取り出す。おぉっという声と共に喰っていいのか? という空気を全力で背中から押し出すあたり、相変わらずこのメンバーは食事にうるさいのは解っている。
「本当は数日かけて食べきるつもりだったけど……まあ、ここで食べてしまってもいいか。俺はどれにしようかな……俺が選んで残りはみんなで分けて食ってもらっていいってことで」
「「「「ごちそうになります」」」」
さて、何弁当にしようかな。どれもご飯は大盛だ。天丼、かき揚げ丼、牛丼、豚丼、鮭弁。今の俺は何腹なんだろう。
俺が悩んでいる間に周りの欠食児童たちはどれが食べられるんだろう、と興味津々だ。まあ結衣さん達には頑張って下まで降りてきてもらいたい気持ちで一杯なのは確か。これでやる気をみなぎらせてくれるならそれは効果のあることだろう。陣中見舞いみたいなものだな。
ここは肉類を提供するつもりで、俺はかき揚げ丼を選ぼう。サッと自分の分を取り分けると、残りをそっちへ渡す。ご飯大盛の弁当が四つに結衣さんの食事。本当に食べきる気なんだろうか。流石の俺でも満腹でしばらく動けなくなる未来が見える気がする。
そんな俺の目線に気づいたのか、結衣さんがこそっと話し始めた。
「たまには満腹になるまでダンジョンで食べるのも良いんじゃないかしら。時間はあるしゆっくり休憩する日もあってもいいし、おかげでちょっと手を抜けそうだし」
「まあ、最近ようやく自分なりの金の使い方ってものを考え始めたところなんだ。これはその一環ってところでもある。だからまあ、その、なんだ。あまり気にしないで」
「ええ、ありがとう。私も作り終わったらご馳走になるわね」
取り皿と使い捨てのスプーンを適当に出し、みんなで分けられるようにしておくと、俺は俺でかき揚げ丼の食事に入る。
大盛ご飯に若干蒸されているのでサクサク感こそないものの、しっかりと揚げられていて、なおかつ天つゆもふんだんに振りかけられている。これは最後まで米粒に味が染み込んでいてしっかりと食べきれる奴だな。
「安村さん、最近はどないです? 順調でっか? 」
平田さんが牛丼を自分の量を取り分けながら聞きに来る。いわゆる進捗どうですかだ。
「順調ですよ。とりあえず明日も潜りますけど、毎回一階層分ずつきっちり探索出来てる感じかな。ただ、もうすぐまたボスエリアだからいつ倒すかとかそのへんはまた六十層に潜ってから考えることにするかなってとこ」
「ほうほう。ではまた一歩遠い所へ行ってしまうってことですな。追いつくのは中々難儀ですなあ」
「なんですか、追いつく目標でも立ててるとか? 」
かき揚げのまだちょっと生の部分が残るタマネギをもきゅっとさせながらつついてみる。多分、今年中に同じセーフエリアで活動できるようにする、ぐらいの目標は立ててもおかしくはない。
「そうですわ。追い抜かれていった分追いつこうとリーダーが頑張っているところでして。今のところあと二階層分でっしゃろ? 前にガイドしてもらってからコツをつかんで頑張っているところでして。今日あたり四十八層あたりまで足を伸ばせそうだというところですわ」
四十八層まで足を伸ばせるようになったか、それは嬉しい話だな。あと一歩で四十九層、毒毒エリアだ。
「四十八層からはスキルの効かせづらいモンスターが一匹増えますから気を付けてくださいね。それ以外は純粋に数が多いので頑張って対処してください」
「それはまた厄介なのが増えますな。楽しみですわ」
「あれからどうです、何かスキルは拾えましたか」
「【風魔法】を拾ったんでリーダーが覚えて多重化しましたね。おかげで火力が更に増しました」
横田さんが鮭の皮をしっかり確保し、これは誰にも譲らないという自己主張をしながら横から参加する。身より皮派か。
「それはなにより。これでこの先もちょっとは……ってそうだな。この先は苦労するかもしれませんね」
五十層から先は毒霧エリアだ。実際に到着する前に先に伝えておいたほうがいいな。
「残念なお知らせですが、五十層より先は費用と手間と努力が必要なエリアになってくるのでかなり進捗が厳しくなる可能性があります。危険なことなので事前に伝えておくんですが、五十層より先は空気中に毒の成分が含まれる場所が、というか常時甘ったるい毒の鱗粉を放出するモンスターが出てきます。いきなり吸い込んでアウト、ということにはならないんですが、だんだん身体がしびれていくと思うので、一定以上吸い込んだら定期的にキュアポーションを飲んで体をクリーニングしていく必要があります。また、蛇型のモンスターに噛みつかれるとそれよりもさらに強力な毒を喰らうことになります。充分注意してください」
「先生、対処法はないんですか」
結衣さんが生徒役として質問をしてくる。
「良い質問です。私たちは【毒耐性】を気合で拾って毒そのものがたいして効かない体になりました。おかげでお酒もちょっと飲めるようになりました」
「おーおめでとー。今度一緒に飲もう」
多村さんからちょっとだけ気持ちのこもった拍手が送られる。
「そんなわけで、人数分【毒耐性】を出すまで頑張るか、五十層から五十二層にかけては駆け足で突破してその先の五十六層まで行くか、そのあたりをよく話し合う必要があると思います。【毒耐性】にしても拾うのか買うのか、そこをハッキリ決めておいたほうがいいと思います」
「安村さん達は二つ出したの? 」
「実は、以前に【毒耐性】を一個出してはいたんだけどその時は売却しちゃったんだよね。だからちょっとお高く金を出して買い戻して、一つは確保。もう一つは頑張って拾いました。ちなみに毒耐性、売った時は三千万円、買った時は三千五百万円だったのでご参考に」
値段を言うとちょっと場が静まる。そしてみんな弁当を一口。ムシャムシャして飲み込んだところで続きを話す。
「今ではBランクで【毒耐性】スキルオーブを拾える場所が広くなってるし数も出やすくなっていることを考えると買うのも拾うのもどちらも有りだと思います。ちなみにここより上の階層で【毒耐性】が出るのは……」
「二十二層から二十四層」
横田さんが答えを言う。
「その通りです。なので売りに出回る可能性は非常に高いと言えます。ただ、深く潜ってる都合上そうそう地上に戻ってこれないのでいざ【毒耐性】のスキルが出たって時に連絡がつかない場合があるので悩みどころではあります」
「じゃあたまたま一個手に入ったのは運が良かったってことですな。……と、そういえば新しく出来た熊本第二ダンジョンは通信が繋がるって話ですが、あれは安村さんが一枚噛んどるんですか? 」
平田さんがふと思いついたかのように話すが、おそらくはある程度の確信をもっての質問だろう。
「俺が、というよりはここ小西ダンジョンの探索者がってところかな。高橋さん達の協力のおかげでってところのほうが大きいかも。通信の細かい話やどういう周波数の電波を送受信できるようになれば繋がるようになるのか、なんかは俺じゃなく山本って人のおかげだし。それを報告した上で見逃してくれたダンジョン庁も知ってることだから熊本第二ダンジョンで出した、もしくはそこで活動している探索者はスキルオーブの取引に限らず色々と便利にはなりそうではあるよね」
むしゃり。話に夢中で食事が進まないのはいまいちよくないからな。食べながら話を続ける。
「ということはあの捕まった配信者は二層まで逃げ切ったわけじゃなくて泳がされていた可能性もあるってことよね。実は通信できるの知ってましたー、と今の段階でダンジョン庁から公表しちゃうとダンジョンマスターとの癒着もそうだけど、ダンジョンのあった土地の権利やら何やらで問題が再燃するのを避けた、というケースが考えられるわね」
「多分そういうことだと思うよ。ダンジョン関連の配信や動画は逃さずチェックしているようだし、犯罪とは言えダンジョンの所有権はダンジョン庁にあるんだから通報が行ったとはいえ実際に捕まえるのはダンジョンの外になる。だとすると配信者の……テツさんだっけ。彼が二層で実際に食品をドロップするのと、生配信が途切れないことを確認させて、新しいダンジョンでは通信が使えるようになってました、と事故を装ってバレちゃった方がダンジョン庁への信頼ダメージは小さくなるって考えたんだと思う」
新規オープンした当日に不法侵入者、しかも生配信中で生配信が出来てしまっていることがバレている。真中長官に連絡が行かないことはないはずだ。そこまで考えてあえて放送を止めさせなかったということになる。
「あの配信、結局最後パトカーに乗る直前まで流して百万再生行ったらしいでっせ。後半はひたすらD部隊に連行されながら文句を言われ続けるって流れになってましたが」
「ぐっすり寝てたから朝のニュース読むまで知らなかったんだよね。誰かに教えられて連絡が来てても起きる可能性は低かっただろうけど」
「ダンジョン庁は大変でっしゃろなあ。ここにきて新しいドロップ品らしきものが大量に増えるんでしょうし、これから食品として流通させていいものかどうか検査して色んな基準にパスして、それから価格を決めて流通に乗せる。何品目もあるやろうから一斉検査になる可能性は高いでしょうな」
「実際に食えるのは相当先になりそうですね。どれだけ美味いものを作り上げてくれてるか楽しみだ。不味かったら苦情を言いに現地までいかないとな」
とりあえずは現地のD部隊がどこまで潜りこんだ段階で発表をするのか、いつから稼働するのか。人員配置とダンジョンでの査定……食品はともかくとして普通に落とすであろう魔結晶の査定は行うはずだからもしかしたらしばらくは、青市みたいなものを開いてこれならいくらで買っていくかを客に決めさせつつドロップ品の食品を販売していく。
「とりあえずしばらくは向こうは様子見だな。もう酒をねだりに寄ってくる人物が一人減ったのは寂しい所ではあるけど」
「【毒耐性】の価格の参考資料みたいなものはありますか? 」
横田さんに問われたので、探索・オブ・ザ・イヤーの最新号のスキル相場予想表のページを開いて渡しておく。そういえばこのスキル相場予想、どうやって予想してるんだろう。
適当な金額でオファーだけ入れておいて上限と下限を見定めて、声がかかったら上限、かからなかったら下限、みたいな形で誰かが指値を入れ続けているんだろうか。
それとも、実際に購入したことのある探索者に直接聞いて相場を確認しているのか。もしかしたらこの表を参考にしてオファーを出すことで相場操縦でもしているのだろうか。疑い出すとキリがないがちょっと気になった。
かき揚げ丼を一通り腹に納め切ると、そこまで冷えてないコーヒーを一口飲む。そろそろアイスコーヒーを家で作って持ってくるか、家でキンキンに冷やしたペットボトルをアイスバッグに入れておくか、何かしら対策を考えよう。
とりあえずお家でアイスコーヒーが一番手軽かな。保温ポットに氷をひたすらぶち込んで適量のホットコーヒーを入れて急激に冷やすことで酸味が出ないようにすることが出来る。ダンジョン内だから外気温の事は気にしなくても良いとはいえ気分的には大事。明日からそうしよう。
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