表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十八章:新式ダンジョンの芽吹き
985/1206

985:次回は早く、待ち遠しく

ダンジョンで潮干狩りを

Renta!等いろいろなサイトで発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。

 十五分ほど休憩して、エレベーターに乗り込む。エレベーターでも四十分ほど休憩できることになるんだが、身動きできるだけの休憩は必要だったらしい。いつもよりちょっとだけ長い滞在時間になったが、閉場時間へはまだまだ余裕がある。


 四月以前は午後七時で閉場だったのが午後九時まで伸びてはいるが、ギリギリまで探索するぐらいならきっちり宿泊するのが我々のルールとして定められている。なので今日はちゃんと日帰りということになる。


 宿泊でこの先へ挑むことになるならば、おそらく六十層を踏破し終わりボスも倒して、六十一層以降のマップの様子を確認してからということになるだろう。


 エレベーターにリヤカーを入れて、角を嵌めてボタンをポチ。ここからは四十分間エレベーターで移動する。ふと気になったんだが、このエレベーターはちゃんと酸素を供給してくれているんだろうか。もし完全に密閉された空間の場合、エレベーターが移動している間に中の人数によっては酸欠を起こしてしまうことになる。


 ここが通常空間や普通のエレベーターなら問題ないだろう。だが、ここは異次元間の横断中だ。エレベーターの外の状態がどうなっているかはダンジョンマスターにしかわからない。もしかしたら気にしなくてもいいかもしれない。


 というか今まで酸欠になってないということと、そういう話を聞かないし、深層探索者間でそういう緊急情報共有もないことから、とりあえず今の階層まででそういう問題が発生していることがないことから、心配はないと思い込んでおいていいだろう。


 芽生さんもそういう考えを巡らせたことぐらいはあるかもしれないが、ダンジョンだしまあ空気ぐらい入れ替わっていても良いんじゃないか、というあたりで自分の心に区切りをつけていそうだ。


 俺はというといつも通りクロスワード。そうだ、クロスワード雑誌を買ってみようとするんだったな。メモっておこう。次の買い出しついでに探してきて一冊試しに入れて見て、本当に俺はクロスワードが好きなのかどうかを判断してみるのだ。


 もし俺がクロスワードが好きならその一冊を丁寧にやり遂げるだろうし、ただ単に暇つぶしの手段として雑誌の裏面を利用しているなら途中で飽きるだろう。


 今度のワードはキュアポーションだった。ポーション、までは早期に絞り込めたものの、それがヒールなのかキュアなのかを判断するまでには少しばかり時間を要することになった。


 芽生さんはまだサイコロ本の三分の二あたりをじっと読み続けている。俺も読んだから解るが、そのあたりから一気に面白くなるんだよ。そしてエレベーターの時間が来て途中が気になってやきもきする気持ちをしばらく持ち続けることになるんだ。


 エレベーターが一層に着いた。査定する品物は既に準備されている。芽生さんはやはり読み切れなかったのか、少し残念そうに栞を挟んでこちらにそっと本を返してくる。


「気になるなら持っていけば? 」


 その言葉にピクッと反応し、動きが止まる。


「うーん……いやでもそうなると時間つぶしが……何か他に読むものありますか? 」


 読み切ってしまったら暇つぶしが無くなると考えているのだろう。かなり悩みながら言葉を絞り出してくる。


「こち亀とその作者のシリーズなら基本的に一通り。だから大量にあると言える。デメリットは結局借りようがどうしようが、途中でやきもきした気持ちを味わうことには変わりないってことかな」

「とりあえず、明後日また暇なので潜りましょう。続きはそのときに読みます」

「お、えらく近いな。急な休講でも入ったか」

「そんなところですね。なので進捗を進めることが出来ます」


 明日は軽めに流して早上がりして買い出しに行くか、納品と買い出しで時間を使うことになりそうだな。


 退ダン手続きをして査定。今日の査定も短時間。


「ポーションだけなのですね。ただの確認なのですが、他のドロップ品はどうされてますか? 」

「まだ査定不可能品だということで、価格改定頃まではお預けだそうです。なのでダンジョンに置いてきました」

「そうなのですね、わかりました。査定のほうやっていきます」


 他所に出すなら出す、ないならないで確認を取る。おかしい手順ではないのでそのまま素直に答えておく。実際には何処かの次元に何処かの時間軸に置かれているんだが、詳しいことは俺にもわからない。


 査定は本数を数えて色味を区別して、終わり。本日のおちんぎん、一億三百六十八万円。 きっちり稼いで今日もお賃金はいっぱいだ。これでドロップ品も査定可能になれば、充分な旨味を発揮してくれるとともに、査定可能になったタイミングでの査定カウンターの大変になるであろう未来が見えてくる。


 芽生さんにレシートを渡し振り込み。振り込みが終わると芽生さんは急ぎで着替えに向かった。そのままスーツで居てもおかしくない年齢なんだし、スーツで一日過ごしたらいいとは思うんだが、それはそれで探索と私生活の区切りがつかなくなるから本人的には無しなんだそうだ。つまり、彼女にとってスーツとは完全な仕事着であるというのが窺える。


 明日はどうしようかな……保管庫の中のダーククロウの数を確認する限り、一度納品に出かけるだけの量はある。納品して昼から軽く探索して、帰って買い出し、という少々忙しい日になりそうだな。


 いつもの冷たい水を飲みながら明日明後日の仕事のサイクルについて考える。とりあえず、布団の山本に今の内に連絡をしておくのが良いかもしれないな。


 そう思い保管庫からスマホを取り出すと、布団の山本に電話連絡。羽根の在庫確認と、ひっ迫しているご様子なら一度そちらに向かいますがどうしますかという確認を取ると、あれば有り難いが、今週分ぐらいは持つ、というような微妙なラインの返事を頂いた。スノーオウルのほうは在庫がまだまだあるらしいのでそっちよりもダーククロウが優先できるなら是非そうして欲しいとのこと。


 これは明日向かうべきだな。午前中は布団屋へ。そのまま家に帰って通勤して仕事して……明日はカニうまでも良いだろう。最近リヤカー君の出番が少なくて寂しい思いをしているはずだ。たまにはこき使ってあげなければな。


 予定を立てたところで芽生さんと合流。バス停へ向かって歩き始める。


「明日は一日忙しいことになりそうだ。布団屋の羽根在庫が微妙にピンチらしい。スノーオウルはそれほどでもないらしいんだが、ダーククロウのほうは有ればあるだけ嬉しい、という状況みたいだな」

「こっちの進捗を考えると中々に需要と供給が合いませんね。在庫はあるんですか? 」

「明日もっていったらしばらくはいけない感じだな。まあ、前回も大量に納品したし、その分で頑張ってもらうしかないか。流石に布団屋に合わせて探索を変えるという方向にはいかない、というのは向こうにも伝えてあるし」

「確実に布団屋さんより稼いでますからねえ、洋一さん。そろそろもう一桁上がるってことは……今年の税金引かれてることを考慮しても後二週間ぐらいしたら達成しちゃうんじゃないんですか? 」


 バスに乗り込んでいつもの席に座り、頭の中で覚えている金額と、前回記帳に行った時からの記録を参照する。金額をスマホにポチポチと入力していく。


「そうだな、今月中に達成できそうだな。まさかこんなに稼ぐとは思わなかった。そしてこんなに金の使い道がないとは思わなかった」

「洋一さん本当にお金使わないですよね。だから貯まるのかもしれませんが、料理もアレですよ。お高いお弁当を買い込んで数日にわたって食べ続けるとかそういうこともできるんですよ。毎食百貨店の高級弁当とかでもいいぐらいですよ」

「そういうのがあるのかあ。今度名古屋まで出かける用事が有ったら試してみるか。色んな弁当買い漁って保管庫で寿命を延ばしながらちょっとずつ食べるってのも面白そうだ」


 ふむ、そういう楽しみ方もあるのか。趣味に活かせる味付けがあるかもしれないし、色々と料理にこだわるネタ集めにちょうどいいかもしれないな。名古屋駅に寄ったらデパ地下弁当を買い漁る……と、メモっておこう。


 駅で芽生さんと別れ、自宅近くの最寄り駅まで一人で電車に揺られながら考えの続きをする。


 やることがまた一つ増えた。楽しみではある。デパ地下弁当食べ比べ、なんてやった覚えはない。普段スーパーで弁当を買うときでも食べ比べをするために複数を買って幾日かに分けて食べるということもした覚えがない、というかそういう発想自体が無かった。


 芽生さんは若いからなのか金にうるさいからなのかそういう金の使い方の発想が色々あっていいな。俺は今までの生活で出来る範囲でやりくりするのに慣れ切ってしまったのか、それとも金があることに慣れてないのか、まだいまいちその稼ぎに身体や思考が対応しきれていない。


 これは結構深刻かもしれないな。まだまだ収入が伸びていく余地はある。これからの食生活に限らず生活全般そのものについて、気になったら試しに買ってみて、使ってみてダメなら中古に出すなり保管庫に放り込んでおくなりが出来る、ということでもある。


 まずは家電からか。美味しく米が炊ける炊飯器を求めて家電屋を漁り、ついでに掃除機も新しくしてしまうことが出来る。エアコンは……まだ使えるから今のままでいいや。部屋を勝手に掃除してくれるロボあたりも導入できる。やれること、金で解決できることが増えるというのはそれなりに楽しみもあるな。


 家に帰ったので片付けをしつつ、色々考えてみる。パソコンもそろそろ新しい奴に更新しても良い頃合いかもしれない。自宅サーバーを設置するところまでは必要ないが、気が向いたときにやれることをやれるだけのスペックのパソコンは一台用意しておいても良いとは思っている。


 まだまだ使えるとはいえ旧型に足を突っ込んでも良いぐらいの古いパソコンだ。これを機に新しくしてみることも考えておくか。


 一通り片づけをして食べ残したご飯を冷蔵保存したところで冷蔵庫。これも最近出番があまりない割りに古い。新しいほうが省エネ……いや、省エネを気にするほど財布を気にする必要はない。


 しかし、中身は昔に比べて少なくなったな。以前は冷凍食品でパンパンで、仕事が終わって疲れ切った身体では料理をすることもままならず、冷凍食品を解凍してそれを食べて疲れ切った身体で眠る、というサイクルでひたすら働いていた事を思い出す。


 今のほうが運動強度としては確実に上なのだが、ダンジョン内では身体強化されているおかげなのだろう。それほど体に負担があるという感覚はない。確かにダンジョンから出た瞬間どっと疲れが出てくるような感触はあるが、それほどでもなくなっている。


 そういう実質的な疲れの意味では、探索者は見た目や内容よりも業務的負荷は軽めの仕事になるかもしれない。それも売りの一つではあるな。ただし体験してみないと解らない上に、最初の三日ぐらいは腰の痛みや体の節々の筋肉痛と戦わないといけなくなるがそこは大目に見てもらう所か。


 風呂に入って今日の清算。今日も順調な探索が出来た。それなりにうろうろしたとはいえ行きも帰りも最短ルートを見つけられたおかげで次回五十九層に潜る明後日は五十九層でしっかり迷う準備が出来ている。


 このマップは回廊をぐるっと回ってから内側に入っていく方が階段を見つけやすいということも解った。五十九層、六十層でも同じようにしていこう。まず回廊まで出る、という解りやすい目標点が出来れば開拓も進む。次回も二回か三回かけて踏破していく形になるだろう。


 今月中に五十九層を回って来月には六十層、ボス撃破、その先はまたゆっくり……という流れになるかな。六十一層から先はどんなマップになっているんだろうな。まだ見ぬ近しい階層、というのは中々に楽しいシチュエーションだ。


 出来れば高橋さん達よりも先に奥を見たいというちょっとした先行者特典を味わいたいという気持ちもある。だが探索の回数や日々の密度から言ってそれは難しいだろうな。またそろそろ芽生さんが夏休みに入る……はずだ。


 しかし同時に芽生さんの試験の結果や各分野での入庁試験みたいなものもあるだろうし、去年ほど頻繁に潜ることは出来ないだろう。もしかしたら実際に潜ってその実力を確かめる、といった試験もあるのかもしれない。今年から増えた分野なのでどんな試験になるかもわからない。区分も詳しくは知らない。風呂から出たらちょっと調べてみるか。


 風呂から出て今年の公務員試験の区分を調べると、行政区分の中にダンジョン庁という区分が見つかった。倍率はどのくらいになっているのかは解らないし試験内容も解らないが、自信があるとは言っていたからそこは大丈夫と踏んでいるのかな。


 初めてできる省庁区分の試験だ、記念受験なんてのもあるだろうしそれなりに数は多そうだ。芽生さん大丈夫かな。合格者発表は……もうしばらく後か。今日は合格を祈りながら眠るとしよう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
デパ地下…高級食材…卸売れ! 鞄に入るくらいならバレない(バレる)
料理が半ば趣味と言えるくらいにはやってますしレパートリーの幅を広げる意味でもデパ地下行くのはありですよねー お惣菜とかお高いけども美味しいんだわ
時間進行100分の一で丸1日置いて15分くらいか、10日くらい行けるかな、弁当食べ比べ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ