983:五十八層大回り
ダンジョンで潮干狩りを
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リビングアーマーの詳細な情報が取れたところで探索を再開する。戦いやすくなった分リビングアーマーへの対処はかなり楽になったと言える。これでモンスター当たりの精神的負荷はかなり軽減されたと言える。
ガーゴイルのほうは石像の振りをしているが、実際は肉体を持つ石像みたいな奴、という立ち位置で戦闘をしているし実際に色が変わる前に攻撃をしたところで手ごたえが変わらないことも解っているため、かなりこのマップの安全度は増したことになる。
時々四体出てくるリビングアーマーを極太雷撃と近接を混ぜ込んで倒している。毎回四体とも焼いても良いのだが、芽生さんが食後の運動をしたいとの事なので三体か二体を焼き、残りを芽生さんが倒すか一体を近接で倒すようにしている。食後の運動と言われると俺もカロリーを消費した方がいいのかと思い始めたのでほどほどにしている。
身体を動かすカロリーとスキルを使うときの魔力は今でこそ違うものだと解ってはいるものの、当初はどっちもカロリーを使うものだと考えられていたが、トレントのドライフルーツのカロリーがゼロなのに魔力が回復するという事象を確認出来た結果、お腹が空くのは気のせいで魔力は魔力、ということが解った。
しかし、そうなるとステータスブーストが担当する【身体強化】を使い続けるとお腹が空くのはどういう理論なんだろう? 魔力とカロリー両方をきっちり利用しているのか、それとも身体強化の副次的作用でカロリーを大幅に消費しているのか。まだ悩む所ではあるな。今後研究が進めばその辺の理解が深まるのだろう。
今のところは、ステータスブーストでカロリーを消費するのは間違いない、ということと、どれだけかは解らないが魔素を取り込んだ肉体が身体強化を発動することによって魔力も微量ながら消費しているということも確かだろう。
カニうまダッシュ中もそうだが、息切れを起こさずに走り続けていられるのは魔力のおかげか蓄えられたカロリーのおかげか。後者だとしたら、体がバキバキに出来上がってる高橋さん達の消費カロリー量や摂取するカロリー量は相当なものだろう。増加食とか普通に支給されていそうだ。
さて、物思いにふけりながらも回廊を歩き続ける。角まで来て、ほぼ直角に折れていることを確認すると、やはり正方形か長方形であることは確実らしい。横道がどこに入ってきているかを確認しながらの移動なので、回廊に普通にモンスターが出るこの階層は飽きが来なくていい。
ここまで考え事をしながらしてきたおかげで回廊部分は半分ほど埋めた。横道の先がどうなっているかまでは解らないが、描けるところまでは描いているつもりだ。
残り半周、戦闘込みで一時間半ほどあれば巡れるだろうか。目の前のガーゴイルを消し炭にしながら地図の続きを作り始める。ガーゴイルよりもリビングアーマーのほうがスキル出力を抑えて戦える辺り、やはりガーゴイルは多少魔法防御力があってリビングアーマーにはその分の物理防御力があるらしい。
つまりガーゴイルなら近接、リビングアーマーにはスキルでの対応がより消耗を少なくして戦えるということにもなるが、両手を空けて戦えると思えばスキルで全部対応するのが楽でいい。まあ両手が空くかどうかも結局保管庫で出し入れするだけなので大きく違いはないとは言えるが、出し入れすら面倒くさいこともたまにはある。
ガーゴイルを倒したところで範囲収納すると、いつもと違うアイテムが保管庫に入る。お、これは来たかな。
指輪 (ガーゴイル) × 一
「どうやら新しい指輪が手に入ったみたいだ」
「どう違うんですかね? 見た目とか? 」
モンスターの索敵をして周辺確認をした後で保管庫から指輪を取り出す。前に手に入れた指輪と同じく、完全に指輪という形ではなく少しひねって指の腹に当たる部分で離れているようなデザイン。多分指にはめるとここが自動的に縮んだりゆるんだりしてジャストフィットするのだろう。
それから、王冠部分に魔結晶のような黒い石が平べったくはめ込まれている。装飾を見るあたり物理耐性の指輪のほうがシンプルにできている気がする。この黒い石で魔法耐性を象徴しているのだろうか。
これもまたそれなりのお値段での取引になるんだろう。こういうレアドロップは出来ればもっと早く来てほしかったな。具体的にはゴブリンキング戦前あたりで拾えると非常にありがたいものではある。
ここまで深く潜ってきて物理耐性と魔法耐性……うーん、そうなると生活魔法のリングなんかがあるとより便利なんだろうな。攻撃手段として使えはしないものの日常の細かいところで役に立つものとしては生活魔法のリングというのはあってうれしいものかもしれない。
「ほほー……じゃあこっちが魔法耐性かもしれない奴ですか」
「かもしれない奴。物理耐性のほうとはデザインが少し違っていたから見間違えすることはなさそうだな」
「こっちもとりあえず提出ですかねー。指輪をプレゼントされるのはいつになることでしょうか」
どの指輪? と問いかけるのは止めよう。こんな所で痴話喧嘩をすることはない。そしてイチャイチャっぷりをダンジョンマスターに見せつけてやることもない。ここは聞かなかったことにしてスルーだ、スルー。
「だいたい一回の探索で一個ずつ手に入るぐらいの確率か。中々高く買ってくれるといいんだけどな」
「そーですねえ。後何回トライすることになるかは解りませんが精々一杯出してくれることを期待しますかねえ」
少しむくれているのが言葉尻から伝わる。気づかないふりをして、ここは鈍感的主人公おじさんを演じておこう。
「使いまわしが出来る点では高評価なんだ。スキルほどではないにしろ結構金になるはずだ。単品のドロップ品としては過去最高額になるかもしれないな」
「それは……楽しみですね。もしかしたらこのアイテムだけを拾い集めるためだけにここにしばらく滞在しろと言われる可能性すらあるかもしれません。そうなるとボス戦が遠ざかりますね」
金の話のほうに頭がいってくれたらしい。よかったよかった。
「せめてボスぐらいは倒してからゆっくりしたいところではあるが、な」
レアドロップを拾ってやる気を回復したところで回廊の探索は続く。真っ直ぐな道沿いにガッシャガッシャと歩いているリビングアーマーと固まっているガーゴイルがずっと続く道の先に見える。どうやら道は真っ直ぐ続いてくれているようだ。
ステータスブーストのおかげで遠くも良く見える。視力も随分上がった。この上がった視力の使い所のメインが今のところダーククロウ狩りというのがちょっと悲しい所だが、便利は便利だし世の中のためになっているのでヨシ。
手前から現れるガーゴイルを近接で対処し、奥から歩いてくるリビングアーマーはスキルで。タイミングによってはこうやって二グループが同時に現れることもある。リビングアーマーが現在城の警護をしておりますという様子で歩き回って、一定周期でグルグルと回っているのが主な原因だ。
遠くが見えている分タイミングも計りやすく、両方のグループの索敵範囲に入らなければそれぞれで対応できるが、回廊部分は三体三匹、そのぐらいの数のモンスターが多い。タイミングをずらしてやれば順次対応みたいな形で戦い続けられる。
しかし、この回廊いいな。回ってるだけでモンスターが補充されていくのは周回行為をするのに非常に便利だ。ポーションも落ちるし偶に指輪もくれる。後で青魔結晶の買い取りが始まれば理想的な探索ルートとしてご紹介できるだろう。
そして一つ解った事だが、この回廊に出現するリビングアーマーはおそらく時計回りにグルグルと回っている。ここまで歩いてきて逆方向に歩いているシーンを見たことが無く、こちらが反時計回りに回っているおかげで必ず正面を向いて対面している。
もしかしたら追いかけるように後ろにリポップしている可能性もあるが観測できないものは存在しないのと同じだ。そこを逆に考えて、モンスターと出来るだけ遭わずに移動したい場合は時計回りに回っていけばいいのではないか、という現時点の結論を出しておく。
実際に時計回りに巡ってリビングアーマーとほぼ出会わなかったらその仮説はかなり正しいということになる。仮説を定説にするためガンガン進んでいこう。モンスターもボリボリと貪り食って己の糧にしていくのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
全部で三時間ほどかけて回廊を大回りしてきた。回廊沿いに残念ながら階段は無かったが、指輪が出たことでドロップ的には充分美味しい思いをすることが出来た。
「さて、一周回ってきた訳だけど、怪しそうなところはあった? 」
「怪しいところだらけですね。ここに下りてくる階段みたいに、明らかに壁に怪しい跡があったわけでもないですし、やはり内側に潜り込んで探すしかないでしょうね」
二人で見て来たものを再確認。とりあえずこの階層に安全圏として退避できそうなところがないことも確認された。ここ五十八層は索敵に神経を研ぎ澄ませつつ、相手が移動しているか、固定されているか。
曲がり角を曲がったすぐに居ないかどうか、かなり離れたところに居ないかどうか、等それなりに意識して動かなければならない。
「今日の目標は五十九層への階段探しだが、ちょっと厳しいかもしれないな」
「そうかもしれません、そういう時は大人しくハードルを下げましょう。跨ぎやすくなるのは何よりですが、無理をしてしまうのが一番いけませんからね」
「そうだな。じゃあ今からの目標は地図を少しでも広げることを念頭に置いていこう。時間的にあと一時間ってところか。まだ巡ってない個所を重点的に回っていこう」
そもそも、地図を広げた範囲で言えば充分広い範囲をカバーできたし回廊の壁に階段はないという事を確認したので、徒労に終わった探索ではないのだ。そこは胸を張って探索してきたんだと言い切れるところだ。
回廊のすぐ後ろ側、回ってきた側のすぐ近くの三叉路から内側に入り、そこから再びグネグネとうねりつつ小部屋も確認して、何処に階段があるかを確認して行く。階段が幅広で段の高さが低いことからも、小部屋の中に出来上がるなら相当狭い小部屋になるはずだ。狭苦しさは充分に出てくると思う。
もし、怪しい小部屋を発見出来たらそこが階段であると言い切れるだろう。もしくは小部屋に入ったらその小部屋全体が階段になっているかもしれない。それはそれで見ものだな。
小部屋のモンスターと戯れつつ、しっかりとドロップを拾っていく。ここで今日の目標であるポーション十本には達することが出来た。後は帰り道で一本拾えれば御の字だな。そう思ってあたりを巡っていると、またも行き止まりにたどり着いた。行き止まりの壁の上のほうは少しスペースが出来ている。これは五十七層にもあった、裏側が階段で出来ている奴だ。
「時間的にはギリギリだが、階段を発見したらしいぞ。裏側へ回って確認しに行こう。思わぬ収穫だ、次回の楽さを考えてもここはちゃんとしておいたほうが良さそうだ」
「そうですね。次回ここに階段あったよな? って再確認しに来なくていい分次の楽を取りましょう」
早速、地図を見比べて裏側に回るにはどうすればいいかあれこれ意見を交わし合う。とりあえずすぐ横道にそれて、真裏へ回る道を探す。すると比較的早く見つけることが出来た。先ほど考えていた、小部屋に階段が出来てたら相当狭い小部屋がポコンとできてるはず……という情景を目にすることになったのである。
「これはまた珍妙な部屋ですね」
「部屋というか、ビルの非常階段みたいな配置だな。しかし、これで地図は繋がった。次は五十九層の探索に向かえる。さあ、そうと解れば次回は来る時に短時間で来れる道を探そう」
ここから真っ直ぐ五十七層への階段へ行く道はない。多少遠回りして回廊を経由してのルートだけだ。しかし、地図上の距離から言ってそう遠いわけではない。ちょっと道を探していけばもうちょっと短時間でここまで到着する道が見つかると思う。
「見つかればいいな、程度の気分だが、まだ迷っている時間はある。精々時間があるうちに迷って、予定時間を過ぎそうになったらそのまま真っ直ぐ帰るルートで進もう」
「ふむふむ……じゃあまずはこっちへ行くことから始めますか」
芽生さんはまだ図面の引かれていない、五十七層への階段から現在地である五十九層への階段への道をピっと指でたどりながら覚悟を決めたようだった。
地図を見ながら短距離ルートを模索していく。
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