98:結局八層大冒険
七層から八層へ向かう道を新浜パーティーの多村さんとともに歩いていく。結局ソロで向かう事は叶わなかったらしい。変に押しが強くても勘繰られるだけだろう。素直に援軍を享受する。
「何か八層以降に急いでいく必要があるんですか? 」
「いえ特には。ただ、小西ダンジョンの七層以降は明らかに人がいませんので、清州の八層で手こずるようでは小西じゃとても潜れないなと考えています」
「練習って事ですか」
「それに近いかもしれません。いえ、練習と言ってしまうとここをホームグラウンドにしている人たちに失礼になりますね」
「そこまでして小西ダンジョンにこだわる理由があるんですか? 」
正直な所、愛着がわいているというのが一番の理由だ。たとえ不便でも、良いところだ。ただ、それをうまく伝えるほどのトーク力を持ち合わせていないのでこう話すことにした。
「実家から離れられない性分でしてね。生来引っ越しをしたことも無いぐらいなんですよ」
「じゃぁ清州は別荘か親戚の家ってところですか」
「まぁそんな所ですね」
「で、今のところ親戚の家での不満は? 」
「上層では稼げない、に尽きますね」
「人が多いですからね。でも、八層以降なら安定して戦える実力があるなら魅力的な狩場になると思いますよ」
「それを確かめるためにも、まずは一歩目ですね」
話しながら八層へ移動する。八層側の階段近くの屋台は探索小物の店があるようだ。
六層側は食料の店や出張買い取りの店が多かったな。
「店にもよるんですが。ここより下の階層のドロップ品を買い取ってもらうにも、ギルド査定価格からちょっと割高に買い取る所までいくつか選択肢があるんですよ」
「業者に直接卸す人も居る、と? 」
「そうなんです。大手メーカーが直接買い付けに来る場合もありますね。その場合、企業に雇われた契約探索者がわざわざ潜りに来て買い取って、ついでに自分達でも狩りをして、要らない品物は更に別の業者に渡したり、と」
「色々儲け口がありますね」
毎回この手の中間業者には感心することひとしきりである。よくもまぁ考え付くものだ。そしてよく行動できるものだ。七層まで来るのも一苦労だろうに。
「私も一時期契約探索者だった時期があるんですが、ノルマが厳しくて辞めてしまいました。一日に二往復させられたこともありましたね」
「官用テントの中の人も往復するのは大変でしょうね」
「中の人と会話することがあったんですが、五日ごとに交代勤務らしいですよ。上司の目が無い分気楽な仕事だとぼやいてました」
「よくそんな内部事情聞きだしましたね」
「何、こんな所だと外部の目も少ない分袖の下がよく効いたりするんですよ」
多村さんが酒を飲むジェスチャーをする。なるほど、ここでは確かに贅沢品だな。
「冷たいビールは無くてもブランデーあたりなら十分な贅沢でしょうね」
「えぇ、それを見越してキンッキンに冷やしたビールを特定曜日に持ってくる業者が居まして、いつもその日のうちに完売して帰っていくんですよ」
「普段は皆さんは何泊ぐらいしていくんですか? 」
「大体五泊ぐらいですかね。嵩張るものは業者に売っ払ってしまって、密度の高い品物を持って帰るのが仕事ですね。たとえばキュアポーションのランク1ですとか」
「キュアポーションは、まだお目にかかったことは無いですね。何がくれるんです? 」
「九層から先、ジャイアントアントです。魔結晶か牙かキュアポーションをくれます」
奴か。復讐の機会が早速現れたな。
「じゃぁ、それを一本手に入れるのが目的……ってことでどうでしょう」
「いいですね。目標としては十分ありです。往復二時間かかるとして、五時間もあれば一本ぐらいは行けるかと」
「同時に何匹も来なければ良いのですが」
「来て一~三匹ってところですかね。後足元が見づらいですがワイルドボアも出ます。突進の危険は無いですが噛みつかれるのだけはどちらも注意を」
七層の階段付近の屋台を抜け、八層へ降りる。
八層は変わらずサバンナエリアだった。地図を確認する。
「そういえば、四層ごとにマップ形式が変わる気がします。これも定まった法則なんですかね? 」
「二十層ぐらいまではそうだと聞いたことがあります。それ以上は解りませんが」
四倍数の法則かな。そういえばセーフエリアも十四層にあったりするのだろうか。
「セーフエリアももしかして七の倍数ごとに存在してたりします? 」
「よくお気づきで。十四層にもセーフエリアが存在します。が、ここほど人口は多くありません」
「行ったことがあるんですね」
「一度だけ。尤も十五層を突破するだけの実力は我々にはありませんが」
十三層までは普通に行ける……つまり新浜さんたちはCランク冒険者という事かな。
「十五層に何かあるんですか? 」
「ざっくり言えばボスですね」
「ボスかぁ……ますます出来合いファンタジーだなぁ」
「出来合い……そうですね。そうかもしれません」
どこの階層でも同じ仕組み、同じボスだったなら、複数ダンジョンが存在する理由は何だろう?一個でいいじゃないか。
「とりあえず九層に向かいますか。確か木の間を通っていけばいいんでしたよね」
「えぇ、そしたらその内階段が見えてきます。ちょっかいかけてくるダーククロウには気を付けて」
木の間はそれぞれ三百メートルぐらいはあろうか。ちょっかいをかけなきゃ素通りできるな。
「ここは出来るだけ素通りしていきましょう。大勢で襲われたら対処できません」
「賛成ですね。尤も、ワイルドボアが襲ってこなければ、ですが」
我々以外にも九層へ向かう人は居るようだ。そっちはそっちで戦闘を行っている。これは思ったよりは早く進めるかな。
◇◆◇◆◇◆◇
襲ってくるワイルドボアは精々二、三匹。ダーククロウは二、三、四羽とあまりまとまった数ではなく、フンをかろうじて避けきったことで無傷で通り抜けることが出来た。
それでもパラパラと襲ってくるのは対空戦闘が万全ではないこっちにとってはただひたすらに面倒な相手だった。
魔結晶を三個ずつほど分け合い羽根を何十枚か拾って、九層への階段へたどり着いた。
「合計二十匹ってとこですね。羽根どうします? 」
「そちらで受け持つには嵩が大きすぎるって話なら、魔結晶譲るのでその分の羽根をこっちで持ち帰る、というのはどうでしょうか」
「それは有り難いですねぇ。良い値段では売れるんですが、いかんせん長期泊では……良いベッドにはなるんですけどね」
「自分で枕を作って寝ましたが、翌日から世界が変わりましたよ」
「知ってます? あれ、ギルドが回収した後百グラム千五百円で流してるらしいですよ」
は? 千五百円?
「あれ、我々って九百五十円ぐらいで査定されてませんでした? 」
「ぼったくりも良いところですよね。尤も、それだけ太い販売先を探す苦労とノルマを考えたら」
「まぁ仕方がないって事ですか。インフラを制するのがやはりうまい商売のやり方なのかなぁ」
「その点官営のダンジョン庁はパイプ作りが気楽でいいですなぁ」
「その代わり、赤字でもダンジョンの管理経営しないといけませんけどね、小西みたいな」
ギルドへの不満を投げつけ合いながら九層に降り立った。
富士の樹海、という風なイメージで受け取ってもらえるだろうか。鬱蒼とした森が広がる。地図を見ると、この森は東西南北を完全な絶壁に囲まれた封鎖された空間のようだ。
その山脈の端っこに階段が出来ている。これは最悪マップの端っこと端っこを歩かされることになるのかな。とりあえずこの階層はそうじゃないという事が地図からは確認されている。
ただ歩くだけなら直行ルートだが、三百六十度を敵に囲まれることを考えると、二人しかいない今取るべき戦術ではないな。
足元を見ると人がたどったような跡が続いている。
「人がよく歩く道の草は踏まれたまま元に戻らないんですね」
「切ったらリポップして元に戻るそうですから、草刈はマナー違反となっていますよ」
そうやって道を見失わずに進めるわけか。
「反対側は壁だから、一方向だけ注意して進めばいい訳ですね」
「そういうこと。九層なら安全に二人でも行けそうですかね? 」
「まずはやってみないと……早速来ましたね」
ワイルドボアがトコトコと草陰から出てきた。距離にして十メートルほど。突進してくる余裕はないな。
一気に距離を詰めるとワイルドボアの背中にグラディウスを突き立て、即刻黒い粒子になっていただく。
「なるほど、これなら六層や八層で苦労しなくても楽が出来そうですね」
「六層でも思いましたけど素早いですね」
「その分防御力にパラメータが振ってないと思っていただければ」
あ、革だ。よりによって嵩がまた多いものを……
「これは俺のお持ち帰りですね」
「ですな。どっちにしろ仕留めたのは安村さんですし。次、十一時方向蟻二」
そっちを指さしながら多村さんが戦闘態勢に入る。俺も革をササっと丸めてバッグに放り込むとそっちを見る。カサカサ……とあまり聞きたくない音と共に体長一メートルほどの蟻が二匹こちらに向かってくる。
さて、どう攻撃してくるかな。
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