977:普段通りのフリ
ダンジョンで潮干狩りを
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さて、ダンジョンに入っていつも通り茂君。この時間だが茂ってくれていたので有り難く回収させてもらう。茂君から帰ってきて七層のエレベーターへ向かうと、急いで戻っていく探索者の姿が見えた。
チラッと聞こえた話を理解する範囲だと、どうやら上での騒ぎを聞きつけて実況の感想を見るために急いでエレベーターで戻るところらしい。野次馬は何処にでもいるものだなあ。
さて、今日は四十二層か四十九層か……気分的にスーツを汚したくないので四十八層に挑んでみるか。ダンジョンマスキプラとの格闘戦がどこまでうまく出来るか気になる所ではあるし、四十八層はまだ一人で挑んだことはない。マップ全体でドロップするダンジョンタンブルウィードの種も今後需要が増えるだろうし色々と仕入れておくのは悪くないだろう。
四十九層へのボタンを押してエレベーターを閉じる。エレベーターで暇になった時間を利用して、クロスワードの続きをやる。かなり前の号からずっとやっていなかったため、まだまだ在庫はある。古い順にやっていき、新しいのを後回しに。
しばらく悩んで答えを書きこみ、そして指定された順番に文字をピックアップする。しかし、ワードによっては途中で答えが解ってしまうのが面白くない点だな。そこについては毎回探索ワードで答えを指示してくる出題者側に問題があると言えよう。
だが、探索者雑誌で探索に関係ないワードを設定しても探索関係ないじゃん、と言われるだろうし、難しい所だ。面白いと言える範囲とこんな言葉があったのかラインをうまく反復横跳びしているのが出来のいいクロスワードパズルと言えるだろう。
クロスワードへの苦情はともかくとして、全部のマス目を埋める努力はすることにする。しかし、辞書を引きながらでないと解らない言葉が出てきた時は家までお預けになる。そして今そうなった。
仕方ないので次の号を出して……って、もうそろそろ時間か。残りは帰りか、明日以降の探索で一つずつ埋めていこう。家に帰ったら言葉を調べる、と軽くメモを残し、エレベーターは四十九層にたどり着いた。
四十八層への階段前まで移動した後食事にする。別にエレベーターの中で食事にしても良かったのだが、問題点が一つ。エレベーターの中で食事をすると、下りるまでずっと匂いがこもり続けるということである。流石にその辺に漂うニオイのもとをウォッシュで綺麗にすることはまだできない。
これもますます【生活魔法】を鍛えていく理由になったな。より快適なダンジョンライフに向けて修行する必要がある。
机の上に昼食であるボア肉の生姜焼きとご飯とキャベツを並べていただきます。既製品の生姜焼きのたれを使ったので、今日は特別美味しいであるとかそういう感想を浮かべることはない。ただ、自分の腹を満たすために生まれてきてそしてドロップ品を置いて黒い粒子へ還っていったワイルドボアに手を合わせるつもりでいく。
交互に食べ続けて舌を飽きさせないようにし、すべて食べ終えて満足したところで一休み。今日は大人しく四十八層をぐるっと回って適度に金を稼いで帰ることにするか。ちゃんと往復茂君して羽根の重さを稼ぐ必要も有る。しかし、俺が上に戻るころでもまだワイワイ騒いでいるんだろうか。
しばらく胃袋を落ち着けるためにクロスワード以外の一度読んだ覚えのあるような部分を適当に読みふける。そういえばこのころはこんな話があったな、等と考えながら過去の話を読むので退屈はしない。ただ、もしかしたら、もしかしたらだけど、ここを読むのは複数回目かもしれない。
自分の気づかないところで老化が始まっていて、既に読み終えて面白いと満足した記事を同じようにまた読んでいる。そんな自分が存在するのかもしれないと思うと、まだ老けるには早いと頭の中で思いを断ち切って、新しいほうの号を読みだすのであった。
そんな事をしている間に腹のほうが落ち着いたので、予定通り四十八層へ向かう。かなり久しぶりの四十八層だ。この間ツアーガイドを兼ねて来たのは四十五層だったので、本当に久しぶりになる。モンスターとの戦い方忘れてないかな、ちょっと心配だな。
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潜った四十八層では早速ダンジョンタンブルウィードことマリモ、いや逆か。マリモが六体。早速蔓を伸ばされ巻きつかれ放題になっているが、強さは感じない。むしろ引っ張ってこっちに引き寄せられる分手間が省けて楽だ。六匹まとめて引っ張って手元に寄せるとそのまま全身から雷撃を発射して感電させることで一気に倒す。
ダンジョンタンブルウィードは楽でいい。近寄って斬りに行く事なく近寄らせて手元で倒せるからドロップが拾いやすい。もう全階層こいつで良いぐらいだ。種も落としてくれるし周回の資金源としては中々のポテンシャルを持っている。ただ物理耐性がないと同じことをしようとすると体をねじ切られているんだろうな、という感想は出るので良い子は真似しちゃだめだぞ。
しばらくするとダンジョンマスキプラとダンジョンタンブルウィードを含めた五体編成。ダンジョンマスキプラの葉部分にはスキル攻撃が通用しないことは覚えている。ならば後は大丈夫だ。
俺を縛り付けようと伸ばしてくる蔓を逆に引き寄せ、手に届く位置まで転がってきたダンジョンタンブルウィードを雷撃か雷切で焼き飛ばし、ダンジョンマスキプラと一対一の形になる。ここにボムバルサミナが居たらもう一つ厄介だったが今回は無し。居たら雷撃で真っ先に吹き飛ばさないと種を飛ばしてくるので面倒な所だった。
ダンジョンマスキプラの伸びてくる葉をギリギリのところで回避し、刃のすぐ根元を雷切で断ち切る。よし、体はちゃんと覚えているな。伸びて来ていた葉の蔓を掴むとそこから感電する形で全力雷撃。ダンジョンマスキプラ沈黙、黒い粒子に還る。
よし、この一団が倒せるならここでそれほど苦戦はしないだろう。安心したところで次を探す。さて次はどんな組み合わせで来るかな。索敵をしながら次を見つけると、ボムバルサミナ二匹とマリモ四匹。まず全力雷撃二発でボムバルサミナ二匹を焼き切れば後は消化試合だ。
四匹同時に伸ばしてくる蔓を引っ張り空中にぽーんと飛び出たところで雷撃、空中で爆散。落ちてくるドロップを範囲収納。ほい終わり。四十三層ほどの周回効率が出せるかは解らないが、回ればそれなりの収入にはなる。気張っていくか。
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五時間ほど四十八層を回って階段のところまで戻ってきた。今日はここで上がりにしよう。茂君のこともあるし早め撤収早め茂君早め査定。夕食はコンビニで買って食べることにしよう。今日は家に帰ってから調べたいこともあるし熊本第二ダンジョンの情報も仕入れたい。
そうと決まれば帰りの準備。さっさと四十九層に上がって階段まで歩き、リヤカーと一緒に七層まで帰る。エレベーターの中で荷物の仕分けを終わらせる。
七層に到着し、いつも通りテントに荷物を隠して茂君。きちんと茂っていることを確認して収穫、収納。帰ってきて一層、退ダン手続き。
査定カウンターで査定。今日は品目はそれなり、量もそれなりに多い。でもいつも通り分けてから渡しているので短い時間で済むだろう。
五分待って査定完了。本日のおちんぎん、八千二十四万四千円。午後だけ探索のわりに儲かった。ヒールポーションのランク5が一本出たのが大きかったな。あれは四十八層ではなかなか落ちないんだ。妙な所でレアドロップ運を使ってしまったかもしれないが、それはそれでいいだろう。
支払いカウンターで振り込みをして、休憩所で冷たい水を飲む。流石に田中君はもう居なくなっていた。途中で飽きたのか、バッテリーが尽きて家に帰ったのか。あれから六時間近くたったんだし居なくなっていても不思議はない。俺も家に帰って実況の痕跡を探すことにしよう。
雨が降ってきていたのでコンビニで傘を買い、傘を差しながらのバス待ち。また家に傘が一本増えることになるな。バスの時間はもう少しだからコンビニの中でひたすら待つという選択肢もあったが濡れずにほっといて乗り過ごすよりは朝稼いだいくらかの中から傘代ぐらい出してもいいだろう。
しばらく待ってバスが到着し、いつもの指定席を乾燥してから座り込む。座席がちょっと濡れていたのでこれで尻が気持ち悪いことにならずに済む。安心して座ると、背中のバッグに傘を収納。せっかくなのでそのまま保管庫に入れておこう。
帰り道に揺られる間暇なので軽くスマホで調べてみる。ダンジョン発生の報は普通にニュースになっていた。今のところダンジョン庁からの声明はダンジョンが新しく発生しました、とだけになっている。現地にはD部隊が到着して早速探索を開始した模様だ。今日中に一晩巡って浅い階層の内部構造とドロップ品について協議をしている頃だろうな。
農協職員や何かに臨時で話を聞きに行ってドロップ品にどんな価値があるのかを鑑定して回っている最中であるかもしれない。どっちにしろ二、三日は動きは止まったままかもしれないな。もしくは俺が呼び出されるのが先か。明日は覚悟しておくか。と思ったら真中長官からレインが入ってきた。
内容は「通信できるはずだよね? ダンジョン」とシンプルなものだった。そのまま「試しにこちらから連絡を取られては? 」と返信しておいた。
続いて返事が届いた。「こっちから連絡するとまるで最初から知ってたかのように感じられるから自然な形でアプローチしたいんだよね」なるほどな。ダンジョン庁としては通信が出来ることを知っていたのではなく、偶然通信が出来ることを発見した形にしたいのか。
うーん……うまい事気づかせる方法が思い浮かばないな。「偶然スマホ付けっぱなしで潜ってる隊員のスマホに連絡入れるぐらいしか思いつかないですね、すいません」謝っておこう。
そのまま返事はなく、何かしら通信について上手く気付かせる方法がないかどうか向こうで考えているのだろう。バスが駅についても連絡が返ってくることは無かった。
そのまま駅から自宅へ。手前のコンビニで夕食を確保。今日はシンプルにコンビニチャーハンとホットスナックで済ませる。足りない野菜成分は野菜ジュースで補ったつもりになっておく。
家について片づけと着替えを済ませて風呂を沸かしておくと、早速夕食を食べながらネットニュースと掲示板をゆっくりとみる。ついでにクロスワードで解らなかった単語も調べる。なるほど、こんな言葉もあったんだな、と勉強になった。
ネットニュースでは早速速報を交えつつ、現在の熊本第二ダンジョンの様子がマスコミや一般探索者の手によって報道されている。
マスコミのほうは流石にリアルタイムで常時撮影、ということはやっていないが、記者をギルド内に待機させて情報が入り次第その内容を順次アップロードしていくスタイルらしい。しばらくはギルド建物を開放してそういった方面への情報提供も含めて扱っていくとのこと。
マスメディア専用でなく一般探索者にも開放しているあたりは、情報の偏りやいろんな視点からの情報分析を進めさせるためにも必要なことなのだろうな。
一般探索者のほうはスマホやノートパソコンを現地で開きながら聞こえてくる情報や話を拾い集め、現地では今こんな感じになっています、と映像を交えて生配信している探索者も居る。今現在までに分かっている情報は一層は相変わらずスライムで埋まっていることぐらいらしい。それより先は次の部隊が戻ってきて報告されるまではわからないのだろう。
掲示板ではダンジョンは同じ場所に再発するのか、とやはり話題になっていた。新熊本第二ダンジョンのスレッドも立ち、早速帰ってくるであろう探索者達や、今更帰って来いって言われても、と戻ることに抵抗を示している声もある。
そもそも新しいダンジョンと言っても前と同じだろ? だったら今のダンジョンへ潜りに行くのも大して変わらないから今のままでいいや、という声のほうが多いだろうか。
実際に声色が変わり始めるのはドロップが今までと違うものがドロップする、ということが判明、公開されてからになるだろう。それが明日の朝になるのかもっと先になるのかまでは不明だが、そうなったら旗色が少しは変わってくれそうなものだ。
新しいドロップは食い物。美味いのか不味いのか、それを確かめるだけでもちょっと行ってみようという気持ちにはなるはずだ。ギルドの査定はまだ始まらないにしても、どこかの企業が試しで潜らせてみてドロップ品の美味しさを確かめて、それが流通に乗るだけの代物だと判断されれば新しい商売になる。
その流れをじっくり外側から眺めて、もしも自分も食べたくなったらその時こそ熊本第二ダンジョンへ潜って、いい酒を片手にガンテツに会いに行こう。
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