976:高級ウルフ肉とダンジョン設置
ダンジョンで潮干狩りを、本日からRenta!で二巻が発売されているはずです。二巻までで一章分という形になっています。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
また、活動報告に詳細は記載させてもらってありますが、amazon、楽天books、ヨドバシ、yonto、紀伊国屋kinoppy、bookwalker等でも本日より一巻が発売されます。こちらも奮ってよろしくお願いします。
割とよく眠れた。なんだかんだで睡眠に対する引力はさすがのものらしい。ダーククロウの布団でなかったら眠れない夜を過ごしていたかもしれない。ありがとうダーククロウ。そして俺の気持ちは朝からワクワクで一杯だ。そろそろダンジョン見つかったかな?
昨日と打って変わって今日は晴れ模様。何か起きそうなそんな予感がする天気だが、昨日夜半まで降り続いたらしい雨のおかげで湿度は非常に高い。蒸し暑いを地で行く形だ。
期待を胸にシャワーを浴びてスッキリしたところで朝食を作って食べるついでに米も早めに炊いておく。今日の昼食はシンプルにボア肉の生姜焼きにしよう。キャベツも値段が下がってきたしたっぷり使える。高くてもキャベツはたっぷり使う。そのほうがキャベツにしみこんだ味が更に口の中を喜ばせてくれるからな。
さて、今日は昼食を手軽に作ってしまったので時間が余った。早く行くのもアレなのでちょっと調べてみよう。速報、まだ反応なし。掲示板、反応なし。ソーシャルメディア、まだ話っぽいものは無し。人に見つかるにはもう少し時間がかかるか。予定通り午前中ウルフ肉を集め回って、午後から下に潜る。そういう方針で行こう。
◇◆◇◆◇◆◇
いつもより早い電車とバスでダンジョンにたどり着き、少し早めの入ダン手続き。
「今日はお早いですね」
「午前中は浅い所でちょっと用事。本番は午後からの予定です。一回帰ってきますよ」
「そうなんですね、どうぞご安全に」
早速二層に向かう……前に潮干狩りだ。ちょっとだけやっていこう、ちょっとだけ。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
久しぶりのスライムの感触に手も喜んでいるのが解る。あぁ、この感触が何とも言えないなつかしさと、そして探索者であるという自意識を覚醒させてくれる。やはり、適度に潮干狩りをすることで自分を律することは必要だな。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
スライムゼリーが出た。大事にしまっておいてちゃんと査定してもらおう。重さ単位で二十五円ほどだとしても笑ってはいけない。それはきちんと市場に流されていって誰かのお肌のためになる。それが巡り巡ってダンジョンのためになり、そして日本経済を回していくのだ。
さて、このぐらいにしよう。やることは決まっているので考える事もない。ただ、自分を見つめなおすためだけにちょっと潮干狩りをしてみただけだ。早速二層へ行ってウルフ肉集めと行こう。
久しぶりの二層はそこそこ人がいる。偶にすれ違う人を見ると大体骨を持っているのでお互い目的は同じらしい。早速二匹出てきたので骨を目の前に転がす。
コロッ、ガブッ、コロッ、ガブッ、グッ、スパッ、グッ、スパッ。
このリズムも久しぶりだ。二匹相手なら二匹に、三匹相手なら一匹を普通に仕留めた上で骨を喰わせ、骨に夢中になっている間に首を刎ねて倒しウルフ肉のドロップを確定する。
そういえば、三層から二十七層までの間にドロップが確定する事案は無かったな。見つけられなかったのか、それともそもそもドロップ確定なのが想定外なのか。前にもこんなことを考えたっけ。
骨を喰わせて肉を断ってウルフ肉を確実にドロップさせるやり方はダンジョンのバグではなく仕様だと思う。スライムはバグだとハッキリミルコが答えを提示してくれていた。
四十五層から出てくるダンジョンタンブルウィードは伸ばしてくる蔓を全部切り落として中身が何もなくなった時に死亡判定が為されて、その時種を確定で落とす。
コロッ、ガブッ、グッ、スパッ。コロッ、ガブッ、グッ、スパッ。
シャドウスライムはおそらくスライムと同じバグを内包しているから、キュアポーションを両方ともくれる。もし、同じようなバグがガンテツのダンジョンにも存在したらそれはそれで楽しそうだ。
イチゴを必ず落とす戦闘パターンとか、メロンがもらえるパターンとか。可能性はあるっちゃある。現地の探索者にお任せして俺は俺で出来ることをやろう。飯代を安く上げるため……いや、違うな。別にウルフ肉を使わなくても金は有り余ってる。しかし、俺はこのウルフ肉の食感と味わいを気に入っている。
コロッ、ガブッ、グッ、スパッ。コロッ、ガブッ、グッ、スパッ。
金銭効率だけを考えたら、どこかの会社経由でウルフ肉をそのまま買い取ってしまうことも出来るんだ。だが、探索者は自分の食い扶持は自分で稼ぐのが流儀というもの。ウルフ肉百個集める間に一千万円稼ぐことが出来たとしても、いや実際できるんだけどそれでも自分で取った肉のほうが美味しく感じることが出来るなら、それは美味しさのための贅沢だと言えよう。
同じく金銭効率で考えて自分でウルフ肉を取った場合、ウルフ肉一個に十万ほどかかっている計算になる。十万の肉。そう考えれば贅沢なお肉だと言える。シャトーブリアンも真っ青のウルフ肉だな。
コロッ、ガブッ、グッ、スパッ。コロッ、ガブッ、グッ、スパッ。
しかし、細かいことを探索者は気にしないのだ。ウルフ肉を日常的に食べたいから、自分で取ったウルフ肉だからこそ料理のやる気も上がろうというもの。やはり店で買ったウルフ肉では楽しめない、加工済みの物を買うのとはまた違った理由でそれなりの楽しさという物が味わえることになる。
コロッ、ガブッ、グッ、スパッ。コロッ、ガブッ、グッ、スパッ。
楽しみを時間で買う。それは今の自分にはかなり贅沢な行為であると言える。こうしている間にも茂君は茂り、下層のモンスターはリポップを終わらせて俺に狩られるのをただひたすらに待っている。そんな中で俺がやっているのは上層も上層、Fランク探索者がやるようなグレイウルフを倒すという行為。
モンスターに焦らしプレイを強要しているようなこの背徳感。これも中々食事のスパイスになりえる。あぁ、この肉を取るための時間で俺は他のモンスターを何匹屠れるんだろう。カニうまダッシュするにしても次のグレイウルフを探す時間でカニを四匹は捕まえることが出来ているだろう。
カニうまダッシュの期待値は一匹あたりおよそ十六万円。それが一パック二百五十円のウルフ肉にコンテンツ力で負けている。ドウラクにとっては屈辱的な話に違いない。あぁ、楽しいなぁ。
◇◆◇◆◇◆◇
二時間半ほど二層に張り付き、二百パック程のウルフ肉を手にすることが出来た。魔結晶もついでに五十個ほど出ているが、これも午前中にスライムゼリーと一緒に査定にかけてしまおう。
一旦ダンジョンを出て涼しいであろうギルドに戻る。退ダン手続きを済ませると何やらギルド内で不穏な空気。幾人かの探索者が寄り集まって何かを確認している模様。これ始まったかな。
査定カウンターでグレイウルフの魔結晶だけを査定に出す。
「肉集めですかー? 」
「そうですよー。ほぼ毎食使うので定期的に補充しないと食べる物が無くなってしまいますので」
「個人的には深く潜って稼いだお金でお肉を買いに行く方が効率的だとは思うんですけどねー」
査定嬢に釘を刺される。仕事しろということか。今やってきたじゃないか。
「腐らないってのがポイントなんですよ。他に腐らないお肉が存在するならそっちを買い求めることにしますよ」
「それもそうですねー。っと、終わりましたよー」
本日午前のおちんぎん、一万二十二円。支払いカウンターで現金でもらう。さて、ざわざわしている中に田中君を見つけたので話に混じろうと手を挙げて近づいていく。そのまま向かうふりをして先に冷たい水を飲むことにした。水を汲んだところで田中君と合流。
田中君は今にも飛び出しそうな感じでこっちへ近づいてくる。
「あ、安村さん大変ですよ。ダンジョン復活ですよ」
と開口一番。田中君は昼で一旦上がってきて今ここに居るのか、それとも探索休みの日にダンジョンの話題が出たので振りまきに来たのかは解らないが、とりあえず彼がここに居ることで事態がそれなりに大事件であることを物語っている。
「復活ってことは、前に有ったダンジョンが……具体的に言うと、白馬神城と熊本第二のどっち? 」
「熊本第二のほうですね。いつもダンジョン前を散歩してる人がダンジョンが復活してるのを警察に通報して、今現場確認と内情確認の部隊が向かってる途中だそうです」
妙にリアルタイムな事態の進行になっているな。誰か実況でもしているんだろうか。
「実況みたいに語るなあ。誰か実況配信でもしてるの? 」
「近所に住んでる探索者が実況配信で現場の様子を映してますね。流石にまだ立ち入りは許可されないらしいですが、外から様子を実況してますね」
田中君がスマホの画面を見せてくれた。ここが熊本第二ダンジョンか。現物を見るのは初めてだ。警察官がダンジョン庁のD部隊が到着するまでの間なのか、敷地内に規制線を張っていて中に入ることは出来なくなっている模様。ただ、ギルドの建物のほうには立ち入りが許可されているらしく、そちらで様子をうかがう探索者らしき人物も数名観察することが出来た。
「見つけてその日の内に民間探索開始とはならないと思うんだけどなあ」
「それでも新しい物好きや野次馬は発生するもんじゃないですかね。実際配信してる彼らも野次馬の中の一部ですし」
とりあえず今日のところは動きは何も無さそうである。ただ珍しさだけで集客が出来ているということだろう。流石にダンジョンが出来た瞬間をとらえた訳ではないのだろうし、もしそうなら世界中から注目が集まって再生数を稼げそうなものだ。
試しに自分のスマホで調べてみたが、ダンジョン発生の瞬間をとらえた映像という物は無さそうだった。有ったとしても何処かに提出を求められているかもしれない。ダンジョンが設置される瞬間も、消える時みたいにシュッと設置されるんだろうか、シュッと。
「とりあえず今のところ何事も起こら無さそうだし俺は昼飯食って潜りに行こうかな。何か面白いことでも起こるなら別だろうけど」
「そうですね。でも今後他のダンジョンでも同じように復活するんでしょうかね。だったらダンジョンを踏破していくことに意味が無くなってしまいます。でも、そうなると外国のダンジョンで新しく出来たって話を聞かないのも不思議ですよね」
つまり外国にダンジョンを作ったダンジョンマスターはサボっているか、ガンテツのダンジョンが上手く運営できるまで様子見をして、うまくいきそうなら一枚噛みに来るかもしれない、と言ったところだろうか。ダンジョンマスター界隈の情報はさすがに得ることは出来ないので断定はできないが、いい方向に向かってくれることを祈るか。
「続報を待つしかなさそうだね。今回たまたま同じ場所に出来たのか、今後はダンジョンも増えていくのか、色々知りたいことが一杯だな」
田中君は興味深そうにうんうん頷くと画面に食い入って見つめたままだ。スマホにはバッテリーも接続され、ここで実況を眺めて一日を過ごす気満々である。多分小寺さんや相沢君達が通りすがっても同じように話しかけて意味深そうな顔をするのだろう。
とりあえず、今のところギルマスから俺が来たら顔を出すように、という話は来ていない。話が来ていないということは、ギルマスには俺が新ダンジョンについて絡んでいるであろうことが伝わっていないのか、もしくは現段階で呼び出して話を聞いても無駄だと判断されているか、今ダンジョンが新しく出来たという情報が届いてないかの三択だ。
どれを選択するにしてもわざわざ俺からギルマスに話しに行って事態が進展するようなことは何もない。よってそのまま午後の作業に移ろう。ちょっと遅めになるが、茂君して下に潜って昼飯、それからいつもの活動に入ろう。
「じゃ、俺は日常業務に戻るから。田中君もほどほどで引き上げて探索した方がいくらか建設的だと思うよ」
「飽きてきたらそうしますよ。では、ご安全に」
「ご安全に」
田中君と別れ、再び入ダン手続き。
「午後からは深くへ行かれるんですか? どうぞご安全に」
「ご安全に。ちゃんとリヤカーに積み込めるだけのものは取ってきますよ」
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