974:五十八層
ダンジョンで潮干狩りを
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食事を終えて休憩に入った。流石に大理石の床でごろ寝をして胃袋を休めることは出来ないので、ずっと保管庫に放置されていたエアマットを膨らませてそこで一時の休憩ということにした。芽生さんはエアマットの上で雑誌を読みながらゴロゴロしている。多分その姿勢のほうがリラックスできるんだろう。
俺は机と椅子を出しっぱなしにして月刊探索ライフの巻末についていたクロスワードパズルを熱心に解くことにした。探索者雑誌についているクロスワードだが、答えが探索に関係あるワードばかりがマス目を埋めるという訳ではなく、普通にクロスワードパズルとして答えて、特定のマスを並び替えてそのワードを答えると探索用語になっていて、応募すると抽選で何か当たるらしい。
今回の賞品は有名メーカーのマグポットだった。要らないから解答だけさっさと答えてしまう。ちなみに答えのワードはアルパインスタイルだった。多分ダンジョンを潜る方法の一つの名前だと思う。確か、極地法というのがセーフエリア毎に休憩して奥を目指すスタイルだったはずなので、今回のこれは一気に目的の階層まで下りて探索を開始する方法の事を指すのだろう。
しかし、エレベーターによるダンジョン探索が一般化してきた今にしてみれば若干外れてきた用語になるのかもしれないな。富士山五合目まで車で入ってそこから頂上を目指すような感じか。ダンジョン風に言うならエレベータースタイルというのがダンジョンの潜り方だというべきだろう。
続きはまた次回の昼休憩にでも楽しもうかな。一気に解いてしまうのも良いが今後の楽しみもある。最新号が出るまでに全部解いてしまうぐらいのペースでやっていこう。
程よく時間が過ぎ、階段からここまで来る間のモンスターもおおよそ湧き切ったかな? というタイミングで休憩を終えて、保管庫に物を片付ける。
「そろそろいこうか」
「そうですね、お腹もだいぶ落ち着いてきましたし、午後からゆっくりと確実な探索を心がけましょう。目標は五十八層到着で良いんですよね? 」
「そうだな。時間に余裕があれば五十八層もある程度見て回りたいというのが本音だが、そこはまあオプションということで。階段が発見できれば今日はもういいやぐらいの適当さでいこう」
スーツの襟をピッとしてビシッと正すと、またこの豪勢な廊下を歩きだす。次の曲がり角でまた内側に入って小部屋を巡りながら階段探し。小部屋のある関係上直進というわけでもなく適度に曲がりくねっており、その曲がり角にこっそりガーゴイルが設置されていたりするので索敵は欠かさずかけておく。出会って二秒で戦闘、なんてことになると近づいている分こっちのほうが不利だ。
いや、いきなり近接で対応というのも慣れておくべきか。二対多になった場合に二段階目のモンスターとは近接で戦う必要性が出てくる。その際の動き方なんかを考えるに訓練はしておいたほうがいいか。あまり警戒せずに近づかれたらその時の対応、ということで近接だけで処理するパターンも考えておこう。
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そのままぐねぐねと道をたどりつつ、道の真ん中に居るリビングアーマーを倒し、小部屋を覗いて階段がないかを確認しながらガーゴイルとリビングアーマーを倒していく。ポーションは三本目が手に入った。
全体の三分の二ほどを歩き回ったところで、妙な行き止まりのある道にたどり着いた。分かれ道なのだが、別れた先で上側が妙にくぼんで下へ行く毎に張り出している壁がある。
「これは……もしかするともしかするかな」
「階段ですか? だとすると裏側から回り込む必要がありますね」
「ここの裏側か……だとするとこっちから回るのが階段らしきものに出会えるルートかな」
それは多少大回りになるが、回廊へ一旦戻ってから内側の通路へ入る道だった。多分十五分ぐらいかかるだろうが、明らかにこの怪しい壁を無視して行けるほどぼやぼやしてはいない。
「まあ、思ったよりも早めに見つかったからこれはこれで有りってことでいいのかな」
「最後の一ピースを埋めるまで出現しない階段、とかじゃない分かなりマシだと思いますよ」
早速ぐるりと回り、道中の小部屋は記入しつつ無視して、道すがらに居たガーゴイルだけを倒して回廊へ出た後、その怪しい壁があったと思われる地点へ急ぐ。
確かに階段はあった。完全に道をふさぐ形で下りてきた時と同様に広い階段が目の前に現れた。
「これで今日の探索の目標はヨシ、と。後は追加要素でどれだけ金を稼いで帰れるかだな」
「その気になればまだまだ回れますからね。ここまで階段から真っ直ぐ来たとして……戦闘抜きで四十分ほどあれば五十六層に戻れるんじゃないですか? 」
「そのぐらいだな。よし、早速五十八層巡りと行こう。おそらく二対三の局面が多くなるとは思うが、うまく一体目と近接するタイミングを外しつつ臨機応変に行こう」
五十八層への階段を下りる。階段の幅広さはこのマップは全部同じで行くらしい。そのままスルッと段差の高さが小さめの、しかし幅広い豪勢な階段を滑らかに下りて、小部屋にたどり着いた。どうやら小部屋スタートのようだ。そして目の前に現れたガーゴイル三匹、早速戦闘開始だ。
一体のガーゴイルに二発、同時に二人のスキルが着弾し、ガーゴイルが三匹まとめて襲ってくるところを数秒遅らせる。その間にお互い近接攻撃でガーゴイルを仕留めると、最初にスキルを打ち込んだ一匹を今回は芽生さんが倒す。
「行けそうですね、二対三。結構まだ余裕があります」
「最悪極太雷撃でまとめて葬るつもりだったが今のところ使わずに済みそうだな。後は二対四の場面がこの階層で出て来るかどうかだな。出てきたらその時はまず極太雷撃でまとめて攻撃するところから始めよう」
「今のところは大丈夫だとは思いますが、流石に階層下りただけあってモンスター反応もチラチラと見えてますね。複雑じゃないと良いんですが」
とりあえず小部屋をでて細い廊下に出る。廊下には飾られるように一対のリビングアーマー。これも油断してると襲われる奴だな。油断はしてないのでこちらから雷撃しにいく。問題なく倒せた。
小部屋から廊下、廊下から小部屋を経由しての廊下……なんか作りが変だが、迷宮マップでも小部屋から通路を経由してまた小部屋に出る、というパターンは確かあった。作る時に適当に作ったんだろう、気にしないでおいてやろう。
どっちへ向かえば回廊へ出るのか、そもそも自分たちがどっちへ向いて歩いているかが方角以外不明なので、回廊があるなら回廊部分に接触したいところではある。
しばらく廊下をうろうろしながら地図を作ること二十分。ちょっと広めの部屋に出た。そこにはリビングアーマーが四体。予想より早かったが四体編成のご登場だ。前言通り極太雷撃でビームを出し続けるかのように雷撃を加え、順番に倒していく。
ズバババババっと出るビームで気楽にリビングアーマーを倒しきるとドロップを範囲回収。もしまた指輪を落としても良いように、このマップでは範囲収納できっちり拾えるものを拾っていくことにしている。今のところ指輪のドロップはない。
「出ませんねえ指輪」
「ポーションが出れば充分かな。指輪ばかり落ちてきてもしょうがないしな。そのうち金にはなるだろうけど今日の収入という面ではちょっと寂しさが残るかな」
とりあえずの五十八層の地図の描き方は真ん中スタートだ。これは家に帰った後五十七層の地図を描き直すついでに修正が必要になってくる奴かな。また外側に回廊があるなら回廊まで出たいところだが、今のところはそこまでたどり着いていない。
ガーゴイル三体には完全に慣れた。極太雷撃は必要なく、全力雷撃と雷切だけで完全対応できている。どうやらこの階層ではガーゴイルが四匹出てくることはないらしい。リビングアーマーのほうが実力的には下、ということなのかそれともダンジョンの製造コストの問題なのだろうか。
どっちにしろ五十九層に下りれば四匹出てくるのは確実だろうからここで二対三に完全に慣れておくことで余裕のある戦闘を維持したまま、更に心の余裕も持たせておくのは大事だな。
階段を下りてから一時間ほど経った。五十七層にもあった外側の回廊らしき部分には出ることが出来たが、五十八層の外側らしき広めの道には普通にモンスターが出る。上層ほど楽はさせてもらえないということだろう。その分モンスターの密度は濃いし、金にならないドロップも金になるドロップもそれなりに増えた。リビングアーマーのドロップ品である鎧の破片こと肩パッドも数を増してきている。ポーションは一時間で二本出た。
「今のところまだ余裕って感じですねえ」
「次の階層こそ厳しそうだ。逆に六十層は楽なんじゃないかと思ってる。ゴブリンキングが居た階層もそうだったし、エルダートレントの居た階層も比較的狭くて解りやすかった。ヒュージスライムは……まあそれなりの迷宮難易度だったかもしれないが、ボスが存在する階層はモンスターの密度もマップの難易度も比較的簡単にできているような気がする」
ボス階層はボスが居る分だけコストがかかっているので他を簡略化してボスでございます、というイメージを強く持つのはゴブリンキングの居る十五階層がどこのダンジョンも迷宮としては簡素な作りになっていることからも察することが出来る。
「言われてみればそうかもしれません。ここもあれですかね、ゴブリンキングみたいにボスの間があってそこに待ち構えている感じですかね」
「どんなボスが出て来るかもまだ解らないからな。もしかしたら巨大な動く鎧かもしれないし、巨大な石像かもしれない。もしくはもっと違う何か、例えばこの豪勢な城の主的なものかもしれない。楽しみだなあ」
「その前に後二階層分地図を作って深く潜る必要があるんですけどね」
「それを言われるとちょっと気の長い話になってしまうな」
ガーゴイル三匹とリビングアーマー三体のグループがかわるがわるに現れる。それぞれ五十七層と同じく小部屋に配置され、通路に出てくるのは二匹がメイン。代わりに五十七層よりも頻繁に現れるようになった。これも次の階層になったら三匹メインになってくるんだろう。徐々に増す密度の濃さに注意しつつ、五十五層でしっかり強くなっておいてよかったという実感を感じる。
新しい肩パッドを回収したところで午後四時。地図は、前の階層の範囲から察するに四分の一ほどは開いたような気がする。いつも通り、まだ階段は見つけられていない。
「そろそろ上がるか。戻って五十六層で夕飯食べてくなら食べて、それから一層に戻ればいい時間。チラ見以上の成果は出せたし充分だろうよ」
「もうそんな時間ですか。割と早く経ちましたね。収入のほうはどうですか? 」
「ポーションが十本。上等な成果だ。ただ、やっぱりリヤカーは要らなかったかもしれないな」
袋に入れて腕にぶら下げておけば終わってしまう量である。ただ、値段が決まっていないという理由でまだ査定にかけられないドロップ品はエレベーターを下りた先で保管してあるという建前になっているので、その間の分を運ぶためにリヤカーを使っているという言い訳には使えるからまあいいか。
「夕飯は何でしたっけ、回鍋肉でしたっけ」
「甜面醤と甘味噌の混ぜ仕立てだ。悪くはないと思う」
「それではさっさと戻りますか。道大丈夫ですか? 」
地図をひっくり返してそのまま従って進む。次回は回廊部分を一周ぐるりと巡って、全体図を把握するのを優先で行こう。戦闘込みで四十分ほどかけて階段まで戻り五十七層。五十七層はまず最短距離で回廊へ出て、安全地帯を移動しながら戻ることにした。戦いながら戻っても良いが、夕食をゆっくり食べたいという欲望のほうが勝利した。
五十七層でも四十分ほどの時間で五十六層へ戻り、現在時刻はほぼ五時半。夕食を食べて戻りながらゆっくり腹を落ち着かせて地上で査定。この予定通りに進めば問題あるまい。
夕食の準備をしながら炊飯器に残ったご飯を半分ずつ分けて回鍋肉と昼に食べきれなかったちょっとのカレーの残りと、おつまみキャベツをつまみながら殺風景な中での夕食とする。
「殺風景だな……五十七層へ戻ってそっちでご飯にするか? 」
「別に風で砂が舞い散ってきて食べづらいという訳でもありませんし、ここで良いんじゃないですかね。ただ、雰囲気としては洋風の建物で中華を味わうという形になるのでどっちにしろ場違い感は出ると思いますよ」
ご飯にカレーをちょい乗せしてコメを口に運び、おつまみキャベツで中華と洋食の中間の舌に戻してから回鍋肉に手を出す。コクのあるカレーとしっかり味噌の効いたウルフ肉が交互に舌の違う部分を刺激して、口の中はなんとも言えない満足さを称えている。
昼に比べれば落ち着いた少なめの夕食になったが、もうちょっと食べたいなと思ったら地上に出てからコンビニで買い足せばいいし、今はこれで充分だろう。ご飯を食べたら少しだけ休憩して地上に戻るかな。
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