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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十八章:新式ダンジョンの芽吹き
972/1206

972:奥へ、奥へ

活動報告にも書きましたが、2/28に第二巻発売予定です。

https://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/393666

是非とも友人引き連れてお買い求めください。マジで。

 湿度が高い、と部屋の中ですら感じる。昨日に引き続き雨である。目覚めは良いがこの湿気が問題だな。梅雨が明けるまで除湿をかけながら寝ることにしようか。寝ている間だけでも快適に過ごすのは必要な儀式である。羽毛布団に湿気を吸い込ませないためにも大事だ。


 いつもの朝食を食べた後でシャワー。除湿をかけながらの睡眠なら明日からはシャワーも要らなくなるかな? そうであると嬉しい。寝汗を気持ちよく流すとコメを炊き始めて昼食のカレーを鍋に戻し、強火で熱してグラグラさせた後、ちょっとだけ水を足して再び煮込む。コメは夕食も食べる分も考えてかなり多めにする。ちょっと味見をするが、充分なコクが得られている、カレーはこれで良いな。


 さて、夕食のレシピは回鍋肉らしい。今回は甜面醤と名古屋味噌を合わせて甘味噌二重奏で作る。肉はウルフ肉だ。カレーはオーク肉だし、肉が被ってしまうと舌が偏るからな。


 ウルフ肉を一口大に切ってヤキを入れた後でキャベツとピーマンを投入、調味料を順番に入れて行って最後にゴマを振りかけて完成。後は昨日二袋買っておいたおつまみキャベツも作ろう。時間はまだある。米が炊けるまでにもう二品、いつものサラダを全部おつまみサラダにしてしまう勢いでシーズニングを振りかけ、薄味だがコクと釣られる美味しさのある前菜としてのサラダが出来上がった。これだけあればお腹は満足するだろう。


 コメが炊けたら炊飯器ごと保管庫へ入れる。大皿も準備は出来た。スプーンも箸もヨシ。探索衣装に着替えて確認。


 柄、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、ヨシ!

 保管庫の中身、ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。今日の予定は五十七層、午後は出来れば五十八層にたどり着きたいなというところ。午前中の地図の出来具合と運の良さにかかっているだろう。午前中ダメだったからとて諦める必要はない。


 午前中に下準備を終えて午後から本格稼働、と割り切ってしまえば午前中にある程度範囲を絞り込んでしまうことで午後からの探索が楽になる、と思えばいい。気楽に行こう、気楽に。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 雨の中ダンジョンへ向かう。ムッとした湿気が電車の中を襲う。ツナギだったらこの時点で嫌な汗をかくことになっていただろうが、スーツ出勤なのでそれなりに通気性はある。それに、ダンジョンに着いた時点で【生活魔法】で乾燥をかけてしまえばチャラに出来る。やはり細かい所に手が届く【生活魔法】はいぶし銀の優等生スキルと言える。くれたダーククロウにも更なる感謝をしておこう。


 芽生さんとはバスで合流。座席が空いていたが濡れていたので乾燥させて二人分開けて座る。すると、同じ理由で座ってなかったであろう他の乗客からお願いが飛び出た。


「すまないがこっちも濡れてるんだ。乾かしてもらえないだろうか」


 二つ返事で承諾。全ての座席を乾燥させることは面倒くさいが、一つや二つなら了承しておこうと思う。ありがとうと感謝されての再び着席。お礼を言われる分だけ、気分は悪くない。


「生活魔法の練習兼ねてですか」


 芽生さんから茶々を入れられる。


「昨日家の掃除してたら途中で力尽きてさ。これも使い続けてよりきれいにより長時間使えるようになってくるんだと思うと細々と使おうと思って」

「では入ダン手続きしてダンジョンに入ったら早速乾燥させてもらいますかね。この雨ではリヤカーも濡れてしまうでしょうし」


 そうだな。路駐されてるリヤカーも屋根のない所へ置いてある分はしっかりと水分を味わっているであろう。俺のリヤカーだけ特別に屋根の下にあるというわけでもない。行きにちゃんと覚えておこう。


「話変わるけど夏用の羽毛布団、人気らしいよ。多めに納品してきたけど足りない足りないって大騒ぎしてた」

「それはそうでしょうね。急に蒸し暑くなってきましたし、両方持ってない人にとっては夏用は欲しいとなっているかもしれません。布団の魔力ですね。それを編み出した洋一さんに全ての責務があります。頑張って羽根の供給をしてあげてください」

「そのつもりでは居る。奥へ行かないときは毎日二キロ欠かさず集めて毎週届けることにしようかな」

「あの、お休みはないんですか……? 」

「しいて言えば納品する日が半休かな」


 バスがダンジョンに着いたので相合傘でダンジョン内へ……と行きたいところだが、お互い荷物を濡らしたくないのと芽生さんが着替えに行く都合でそれぞれ大きめの傘を持ってギルドへ。


 芽生さんが着替えてる間雨に濡れているのも嫌なので、中でいつもの冷たいお水をもらって体をひんやりさせておく。よく見ると結構減っている。そろそろタンクの交換時期なのかな? それとも暑いからとみんなが飲むから減りが早いのかもしれない。去年は定点観測をしなかったが今年はどのぐらいのペースでこの水が減っていくのかちょっと確認するのも面白いかもしれないな。


 ちょっとした考え事をしている間に芽生さんがスーツ姿に着替えてきたので入ダン手続き。手続きを終えるとリヤカーを引き、若干濡れながらダンジョン内部へ。


 ダンジョンに入ってエレベーターに乗ったところでリヤカーと芽生さんと自分に乾燥。ダンジョンに入ったから生活魔法も使い放題だ。


「あーやっぱり温風乾燥は良いですね。ちょっと暑いですけどジメッとしてないので気持ちいいです」

「これで、あと……十時間ぐらいはぬれねずみにならなくて済むな。傘持つよ」


 傘を保管庫に放り込み、探索の邪魔な荷物は無くなった。雑誌を読みながら打ち合わせ兼雑談を行う。


「そういえばあの指輪【物理耐性】が付与されているらしいよ。スキル一個分ほどの価値はないらしいけど、複数個はめればスキル分の効果はあるとガンテツが言ってた」

「【物理耐性】ですか。指に全部嵌めてボコボコに殴ると物理攻撃も上がるとかそういう訳ではないんですよね」


 何それ怖い。確かに耐性も上がればその分こっちの殴る力も上がるだろうから、高橋さんや平田さんあたりが装備するにはちょうど良いのかもしれないが、スキルオーブよりも出やすく数もそろえやすくお値段もそこそこ、と考えれば需要は確実にあるドロップ品だな。


「ガンテツさんと言えば新ダンジョンはいつ頃になるんでしょうかね。近々……という話は聞いてますが具体的な日付は教えてもらってません。最終調整に手間取ってるとかそういう感じなのでしょうか」


 最後のウィスキー、渡しておきたかったな。


「良い酒を仕入れてあったんだけど渡しそびれたな。ちょっと勿体ない事をした」

「まあ、二度と会えない訳じゃないですし、洋一さんが気が向いたらこっちから出向いて旅行気分で潜るのも良いんじゃないんですかね」

「それもありか。にしても、どのぐらいの評判になるかは俺も知りたいところだな。食べ物ばかりのほうが人気が出るのか、それとも旧来のほうが人気が出るのか」


 意見を出した一探索者としてはその評価で自分のおつむの中身も評価されるような気がしてなんとも期待値が高まっていくが同時に不安も襲い来る。


「やっぱりその食べ物がお金になるかどうか、じゃないですかね。色々案は出したんでしょう? 」

「まあ、スーパーで買いそろえられそうなものと、その食べ物がどういう方向性だと人気があるか、ぐらいは伝えた。品種改良するにしても何をどうするのかはさっぱりわからないが、美味しいものがドロップすると良いんだけどな」


 五十六層へたどり着くと、エレベーターの目の前に来客が居た。


「ワシならまだ居るぞ、想像通り最終調整中じゃ、そっちの時間で今日中にはダンジョンを設営する準備が終わる」


 ガンテツ、まだダンジョンは完成していなかったか。ちゃっかりエレベーター出口で待ち構えていた。


「じゃあ、これがしばらくの別れか」

「そうなる。で、最後の酒ってなんぞや。しっかり聞いておったからごまかしは出来んぞ」


 苦笑いしながら三十年物のウィスキーを取り出す。


「三十年、樽で寝かした逸品だ。ちびちびと味わってやってくれ」

「うむ、これからは在庫で対応しなくちゃいかんからな。酒を持ってくる探索者が居るかどうかはともかく、しばらくはこの美味そうな奴を頂いていくことにしよう。ではな」


 しばしの別れにしてはなんともあっさりと帰って行った。本当に酒だけせびって帰って行ったが、それもまた彼らしいと言えばそうなのかも。


「酒だけねだって帰って行きましたね。最終調整中に良いんでしょうか。あと、詳しい話は聞かなくてよかったんですか? 」

「ダンジョンの詳しい話を知りたければ実際に見に来いってことなんだろう。評判になったらこっそり覗きに行くことにするさ。とりあえず今日は……あぁ、ミルコの分も渡してしまうか」


 机と椅子を取り出してお菓子と飲み物をセット、パンパン。シュッと消える捧げもの。これでヨシ、日課は果たした。後は好き放題に何をしても良い時間だ。机と椅子を片付けると早速五十七層方面に向かう。


「午前中は五十七層にかかりっきりになると思う。午後からはまだ巡ってない所を巡って、出来れば五十八層にも踏み込んで何かしらの成果を出したいな」

「成果と言えば、そろそろ価格改定ですねえ。私たちの身の回りでも値段変わる品物、何かあるんですかねえ」

「多分関係ない所で色々値動きはするだろう。後、価格改定に際してインゴットの査定もスタートさせるそうだ。査定が開始したらまた今だけ関係者させてもらって直接納品する形にさせてもらおう。カニの時よりも重さが大変なことになっている」

「どのくらい溜まってるんですか? 」


 保管庫を覗いて確認。


「千二百二十五個。一個一キログラムと換算してもリヤカーで律義に往復してたら四往復、五時間ぐらい運びだすだけで時間が取られる。【保管庫】を隠す都合上仕方ないと考えるべきか、それともギルマスに正直なところを言って裏口を開けてもらうかだな。俺としては既に一回裏口を使わせてもらっている都合上、もう一回使わせてもらおうと思ってはいる。ダメだったら律義に運ぶ。それでいいと思うよ」

「それって二分割にする都合上私も付き合う必要がありますよね? 」

「まあ、そうなる。面倒だろ? 」

「面倒ですねえ。面倒ごとは出来るだけ避けて通りたい性分なので」


 五十七層への階段へたどり着いた。階段傍にはテント。高橋さん達は……居ないな。もしかしたらかなり先に進まれている可能性もある。六十層のボスは彼らが先に倒す可能性もある。焦るわけではないが、彼らもボス討伐報酬が欲しいだろうし、今のところのんべんだらりんとしていた我々がそこに口を出すことは出来ない。


 ここ一、二ヶ月五十五層で粘っていたおかげで今五十七層で楽が出来ているんだ。腕を見せたければ自力で追いついて来いという所だろうな。


「さて、高橋さん達も先へ行ってるだろうし、そのケツを追いかけて行くか」

「できればまた指輪のドロップが欲しい所ですね。後ポーション」

「今日はポーションしかドロップ品の収入のあてがないからな。金額は大分わびしいものになるだろう。青色の魔結晶の価格は……これも価格改定までお預けになるかなあ」


 収入に切羽詰まっていないとはいえ、保管庫に放り込みっぱなしというのは俺の精神衛生上あまりよくない。出来れば金額としてちゃんと早めに出してもらって、社会のために働くエネルギー源として役に立ってもらいたいものだ。


 そういえば商用炉の建設どうなってるんだろう。帰ったら調べてみるか。こいつが稼働し始めて、どれだけ安く効率よく稼働するかで魔結晶の買い取り価格も左右されることは間違いないだろうし、今の価格が維持されるのか、それとも段々安くなっていくのか。安くなる方の予想のほうが今は大きいんだったかな。


 ポーションのほうの値下がりはより大打撃だ。値段半分、なんてことになれば懐事情を直撃するのは間違いないし、ギルドの買い取りも価格の半分はポーション代として支払われていると少し前の雑誌で読んだ。


 ポーションの代替品と言えばダンジョンタンブルウィードの種か。広く出回るまでは落ち着いた値動きであることは間違いないだろうが、一定以上の高級ポーションについてはどうなるかまだ知れたところではない。もしかしたら次のポーションは値段変わらず引き取り、なんて可能性もある。


 先の先のことを見据えるよりまずは目の前の課題をこなしていくか。まずは五十八層への階段を探すべく、五十七層へ入った。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
> 除湿」 生活魔法や水魔法で対処できそうだが、温度調節と同じで、常に使用していないと効果が消えて行くのはつらい > 回鍋肉」 > おつまみキャベツ」 芽生「で、ビールは?」 > ダーククロウにも…
こんばんは。 芽生ちゃんみたく893パンチするかは一旦置いといて(笑) 転ばぬ先の杖…ってほどでもないですが、あって困るもんじゃないからもう少し欲しいですよね指輪。最低でも芽生ちゃんと結衣さん用の二…
用意が無駄にならずお酒をガンテツに渡せて良かったですねえ 味の感想はまたしばらく先になりそうだなあ
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