969:緊急納品
ダンジョンで潮干狩りを
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寝起きに蒸し暑さがまとわりつくようになってきた。耳を澄ますと屋根を叩く雨音。どうやら梅雨の時期に入ったみたいだ。一ヶ月ほど覚悟が必要だろうな。まあ日中はダンジョンに潜っているので問題なく過ごせはするだろう。朝晩と寝てる間の我慢だな。
シャワーを浴びて身綺麗にして冷水をかぶって、そのまま半裸で朝食を作る。暑いと感じる間はこのスタイルで行こうと考えていたが、朝食を作るためにキッチンに立ってる間にまた汗を少しかく。これなら朝食を食べてからシャワーでも良かったな。次回からはそうするか。
いつもの朝食に今日はミニトマトと適度に散らしたチーズを付加してみた。こういうちょっとしたアクセントを加えることが変わらない日常に対するせめてもの抵抗と言ったところ。毎日同じものを食べても問題ないが飽きることもあるんだし、多少の変化で今日の気分も変わったりするんだ。たまには悪くないだろう。
もしかしたら今日を機に今後の朝食のキャベツには必ずミニトマトをつけるようになるかもしれない。そう言った日常の変化が積み重なっていけば、朝から豪勢な朝食を作るようになる未来があるかとも思うと、このたった二つのミニトマトにも無限の可能性が秘められているな。
忘れないうちに昨日作っておいたドライフルーツを保管庫から回収し、再度保管庫に入れることでひとまとめにする。久しぶりに補充したな。最近は減らしてばかりだが、まだまだ在庫はある。本当に厳しくなったら馬肉を取りに来るように三十一層あたりでうろうろしてトレントをひたすら倒す作業に従事する必要があるだろうが、現在の消費ペースからするとしばらくは必要が無さそう。
さて、食べ終わり片づけをしたところで今日は休みである。休みと言うことは、午前中は納品だ。いつも通り布団の山本にダーククロウの羽根十キログラムとスノーオウルの羽根四キログラムを納品する。
ニュースを見る限り、まだ熊本第二ダンジョンは解放されていないか認知されていない。ここで速報、とか言う文字を見ない辺り、まだ誰も気づいてないのか本当にまだ設置してないのだろう。
熊本第二ダンジョンは過疎という訳ではなくそこそこの人口を誇っていたし黒字のダンジョンだったはずだ。またダンジョンが現れたとすればスレが立つだろうし、賑わいを取り戻すのは間違いないと言える。
時間になったので布団の山本に電話。すると山本店長の声が嬉しそうな感触を受けた。
「実は緊急でお願いしたいのですが、ダーククロウの羽根の納品量を増やしていただくことは可能ですか」
「それは構いませんが、そこまで逼迫しているのですか? 」
「夏用の布団を欲しがるお客様が増加しまして、おかげさまでちょっと手持ちのほうが非常に怪しくなってきているのです。あるだけ全部とまでは言いませんが、出来れば持ち込めるだけ持ち込んでいただけると助かるのですが」
どうやら予想通り、夏用布団の需要が急上昇しているらしい。嬉しそうな感触というのは仕事が一気に舞い込んで大変だということと、その原料在庫が怪しいタイミングで俺から連絡が来た、ということで在庫の問題がある程度目途が立ちそうだという安心感からだったのだろう。
「解りました。では五キログラムほど多めに持ち込むことにします。今から出発しますので、いつも通りの時間あたりでお願いします」
「かしこまりました。従業員一同お待ち申し上げております」
待たれている、となれば急いで持ち運んで行きたいところだがそこは安全運転。後部座席がいつもより賑やかだがそこは荷物を運ぶ都合上仕方のないところ、バックミラーはギリギリ見えるので問題なし。
ちゃんと交通ルールを守って三十分、布団の山本に到着すると、既に山本店長が入り口で待ち構えていた。手を振って合図すると店の目の前に停める。中から従業員の集団が俺の車を取り囲みだした。
「まず、ダーククロウの羽根のほうから納入お願いします。助手席のはスノーオウルの羽根なので混同しないようお願いします」
「解りました。それでは失礼します」
次々に運び出されていくダーククロウの羽根。この天気の悪さで多少水分を含んでしまうのは仕方がないこととはいえ、出来るだけ商品を濡らしたくないというのはこっちもあっちも同じらしい。傘を差しながら羽根をしっかり気遣って中へと運んでいく。
「次、スノーオウルの羽根お願いします」
「解りました」
ダーククロウが終わったところでスノーオウル。こちらもいつも通りの数を納入してもらい、検品と計量をお願いする。その間に車をちゃんと駐車場に停めて店内に入り、いつもの羊羹と冷えたお茶を頂く。
「今回はありがとうございます。おかげ様でなんとか乗り切れそうです」
山本店長から深々とお辞儀をされる。奥で騒がしく働いているのを見るに、本当にカツカツだったみたいだな。
「暑くなってきたからそろそろかなとは思ってましたが、ちょっと予想以上ですね」
「左様です。予想はしていましたがここまでの人気になるとはちょっと思ってませんでしたね。もしかしたら冬用布団に比べて価格が抑えられているのも一つかもしれません。使う羽毛の量も違いますし、試しに買ってみて気持ちよかったら冬用もボーナスからお金溜めて、なんて考える人も居るのかもしれませんね」
「それはまた大きな需要がありますね。夏用布団が一段落したところでより羽根を消費する冬用布団が増え始めるわけですから」
正直これ以上ペースを上げてダーククロウの羽根だけを取りに行く、というのは厳しいので他の探索者からの仕入れで対応して欲しい、というのが個人的な感想だ。一日三回羽根を取りに行くというのは移動時間を考えると非常に無駄が多い。
午前中まるっと羽根集めに使う、ということもできなくはないが、今は俺以外にも羽根を取りに来る探索者が居て、お互い居なさそうな時間を見越して採取している状態だ。それをする場合は新しい茂君を探す旅に出る必要があるだろう。
「ともかく、今回の仕入れでしばらくは乗り切れそうです。本当にありがとうございます」
「また日々仕入れてまとめて持ってきますので、その時はまたよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、安村様のおかげで順調に商売を続けさせていただいておりますのでそこはもう感謝しきれません。あの日材料持ち込みでダーククロウの布団を作れないか? と相談に来られなければ今の忙しさも利益も出ていませんからね」
思えば、きっかけは俺だったのか。まだ一年少々の付き合いになるが、その間に一体どれだけの羽根を納品して何枚の布団を作り、何人の人が快眠を得られているのだろうか。そう考えると俺の功績は大きいな、と自分を褒めたくなる。いや、褒めて良い。偉いぞ自分。頑張ってるぞ自分。だから今日の昼食はちょっといいものを食べよう自分。
「そういえば、スノーオウルの羽根の次に何かこう、当社で扱えそうなネタなんかが有ったりはしますか? あれば是非また弊社を通して一儲けするネタとしてご提供できるかもしれません」
「今のところは……うーん……ないですね。最近は武具とか工具とか、食品関係に関してのものは色々ありますが寝具や服飾に関するものはかなり上層のネタになってしまうと思います。まあダーククロウもスノーオウルも今となっては自分にとって相当手抜きのできる探索、というレベルになってしまっては居るのですか」
スノーオウルだって、他の探索者が三十八層に潜り込めるようになってしまえば気軽に羽根を集めて歩き回る、というのは難しくなる。むしろダーククロウよりも難易度が上がってしまう可能性が高い。これはちょっと急いで数だけ確保した方がいいかもしれないな。
よし、午後からはちょっと一泊予定でスノーオウルの乱獲と行こう。体力も有り余ってるし、夕食も何処かで調達して、三十五層で眠気だけきっちりとった後で数時間ひたすらスノーオウルだけを狩りまくる。そういう流れで行くか。
「とりあえず今は毎日ダーククロウの羽根は取るようにはしてますが、これ以上ペースを上げて……となるとさすがに私も収入のほうに響くので出来る範囲での採取はしていきますが、他の探索者さんからの納品を優先してあげる事のほうが大事だと思いますね。同じ場所で狩っている可能性も高いわけですし、時間とモンスターの湧きなおす時間を考えればある程度以上のペースで戦い続けるというのは難しくなりますから」
「たしか、見ている間はモンスターは再出現しないんでしたか。だとすると複数のダンジョンからの……具体的に言えば清州ダンジョンからの買い入れを強化するほうが効率的だということになるんでしょうかね」
日々勉強、というか段々ダンジョンに詳しくなってきているな。そのうち自分で潜って取りに行く、なんて言い出さないだろうか。もしくは自社の部隊としてダーククロウ専属の探索者まで雇いだすのかもしれない。それはそれで有りだとは思う。
「はっきり言ってしまえばそうです。この辺りのダンジョンのすべてのダーククロウの羽根のドロップを御社に、という訳ではありませんが、そのぐらいの気概があるほうがスムーズに入手できると思います」
「そうですか……他の探索者さんにも相談してみることにいたします。安村様にはあくまで好意で羽根を取りに行ってくれているということを忘れてはおりませんので、そこを考えて布団の作成に関しても調節をしていこうと思います」
さて、長々と話しているのもあまりよろしくない。この辺で話を切って早速スノーオウルの羽根を集めに行くか。昼食と夕食も適当に……そうだな、今日は作る時間が惜しい。寂しい食事になるかもしれないがダンジョン横のコンビニで二食分の食事を買い付けて潜るとするか。
「では、私はそろそろ。こんな天気ですがダンジョン内はいつも晴れですので、安心して探索に赴けるのは良いところですね」
「行ってらっしゃいませ。またの納品をお待ち申し上げております」
深々と本日何回目かのお辞儀をされながら布団の山本を出る。さて、今日は何喰おうかな。あまり走り回る戦闘はしないと思うので胃に溜まるものが良いな。昨日はちょっと物足りない感じがしていたんだ。今日は大盛で何か良い感じのものを探してそれを昼食としよう。
家に帰って車を置き、探索者装備に着替えて出勤だ。今日は一泊二日、一晩かけてしっかりとスノーオウルの羽根を集めに行く作業。一晩かけた割に収入としては普段より少ないだろうが、それでも活動時間の長さでカバーできるだろう。
柄、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ナシ! ダンジョン前のコンビニで確保!
嗜好品、ヨシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。昼食と夕食はダンジョンに潜って階段に座って食べればヨシ。仮眠は潜ってすぐにスノーオウルの枕で寝て完全に睡眠欲を断てば戻ってくるまでに相当な時間潜ることが出来るだろう。
早速電車とバスでダンジョンへ向かう。しかしバス待ちのタイミングが悪く四十分ほど駅のバス停で待つことになった。今日はタイミングが悪い日のようだ。
いくら【生活魔法】で自分や持ち物への温熱乾燥がかけられるからといって、平然と濡れながら自転車で走ることはやりたくない。ここは我慢だ。一泊二日の行程ではあるし、このぐらいの待ち時間は誤差だと割り切り、バス停でバスが来るまでしばし読書をしながら待つ。
バスが来たところで乗車、そしてダンジョン前で下車。目の前のコンビニで昼食と夕食をまとめて購入。手軽なものでガッツリ食べられるものを仕入れるとダンジョンへ。
今日もたんぱく質多めでしっかり腹を満たせるサンドイッチ系を攻めることになった。昼食と夕食で上手く配分しながら食べることにしよう。今日の予定だと、どちらかが足りなくなった場合その分カロリーバーで補填することになる。それを考えてもう一つ、ちょっとお高いおにぎりを追加しておくか。
後は飲み物……飲み物はいいか。ミルコに渡す分を考えるともう一本何か欲しい所だが、カフェイン飲料か。ダンジョンマスターにカフェインがどのくらい効くのかちょっと興味が湧いてきた。二本買って一本はミルコに託してみよう。もしかしたら後日何かしらのアクションがあるかもしれない。
さて、これで準備は整った。後は一晩しっかり潜って稼いで帰るだけだな。まずは三十五層に下りて、ミルコにお供え物して、それから仮眠。スノーオウルの枕でひと眠りして眠気をきっちり飛ばして昼食を胃袋に納めてからの長めの探索だ。今日も頑張るぞ。
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