968:馬肉祭り
ダンジョンで潮干狩りを
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階段に腰を下ろし、索敵を利かせながら一休みして食事にする。サンドイッチとコーラをほおばりながらさっきまでの戦闘の反省点を見出す。反省点無し。よし、反省終了。
エルダートレントを予想以上にあっさりと倒せてしまったので時間には相当の猶予がある。ここで長めの休憩を取るのでも良いし、ここで短く休憩を取って腹ごなしをしながら三十一層を歩き、あの長い橋を抜けた先でもう一度休憩という形でも良い。
三十一層に架かっている、東西の森を繋ぐ橋はおよそ四キロメートルから五キロメートルある。歩くペースを落とさないように、極力スキルをフル活用して体の姿勢をまっすぐ前へ向けたまま歩いたとしても一時間かかる。その間戦いっぱなしだ。以前通り抜けた時は途中で何度もドライフルーツのお世話になった。
今はどうだろう。あれから【雷魔法】を二つ習得し、持久力も威力もそれだけ上がっている。かなり弱めだと感じる雷撃でもケルピーを一撃で倒すことはできている。今回は何枚補給することになるだろうか。それとも補給無しで通り抜けることが出来るか。
地力試しにはちょうどいい。無理もしてないから芽生さんに怒られる事もないし、その食事は俺のこの間の努力で出来ているんだと口説き落とせば納得せざるを得なくなるだろう。
ちなみにこの森と泉のマップだが、橋を通らなけばいけないわけではなく、何もない森に向かってひたすら歩きとおすことで東西が、三十一層と三十二層に関しては南北がループしているらしい。ループしているということが解ったと言うことは、歩きとおした酔狂な探索者が居たということでもある。多分D部隊がマップ作りのために歩き回らされたのだとは思うが、ご苦労様である。
胃袋をしっかりと満たしたところで腹六分、というところ。今から動くんだし満腹にしないほうがいいだろう。階段を下りて橋まで約一時間森の中を彷徨うのだし、その間にこなれてくれることを祈ろう。
休憩を終了し三十一層へ下りる。ここから先はB+ランクしか入れないので探索者の反応が出ることは今のところ可能性として非常に小さい。安心してドローン飛ばしたり範囲収納したりできる。が、もしかしたら先日のように外国人観光客の振りをした探索者が紛れ込んでいる可能性もあるので、索敵にはより注意して進んでいくことにする。
地図で進む方向を確認。そうだそうだ、ここは北へ行くのが正解だったな。思い出したところで周辺のトレントを一蹴した後ドローンを飛ばして方角の確認。うん、確かに北側に切れ目が出来ている。そこを目指すことにしよう。
三十一層はモンスター密度が高いので暇つぶしを考えなくても常に戦い続けながら歩けるのがとても精神的に気楽である。何もない所をひたすら歩くのは結構心に悪い。索敵視界中に常に一本トレントが居るという状況は解りやすいうえに次を探さなくていいという気楽さで探索心を盛り上げてくれる。
一刀で真っ二つにされる哀れな存在だとしても、ドロップは確実にくれるので普段ほどの収入にはならなくても確実に懐が温まるのは悪くない。トレントの実も久しぶりに入手したし、今日は家に帰ったらドライフルーツを作って一晩寝かせる作業をしよう。
しばらく森を歩きとおして、森が開けてくる。その先には川。当然向こう岸は見えない。このマップに関わらず、このダンジョンの曲率から算出すると、視界内に見える範囲は一キロメートルが限度、ということが体感で確認されている。
川幅が四キロメートルほどあるので、対岸が見えるのはほぼ終盤戦ということになる。橋を渡り切るまでひたすら出てくるケルピー相手に戦い続けて、変化のない橋の上を歩き続けるのはそれなりに負荷があるが気にせず渡っていこう。索敵を広げて感知をしても、モンスター以外の反応は無さそうだ。これなら橋の上で保管庫で気楽にドロップを拾いながらいける。
さぁ、渡るぞ。前は二人で渡ったので少し寂しさもあるが、ケルピーが相手になってくれるらしいので甘えることにしよう。
バシャーン、バツッ、シュッ。バシャーン、バツッ、シュッ。
着地前に空中でアイテムに変わるケルピーを範囲収納で丸ごと収納。これでペースを落とすことなく歩き続けることが出来る。ここから一時間、ひたすら同じ作業を繰り返す。気楽にいこう。
◇◆◇◆◇◆◇
気が付いてみればあっという間の一時間だった。ケルピーを百体以上倒し、拾った馬肉は五十ほどになった。これで今後数か月分の馬肉のストックは手に入った。他の階層でもそれなりの数は拾えているので、今年いっぱいは来なくても済むかな。
持久力のほうも問題なくチェックは済み、一時間ひたすら雷撃を続けても眩暈が起きるような事は無かったことも確認。日々ドウラク相手にランニングしながら雷撃を浴びせ続けていた成果はちゃんと発揮できたようだ。今後はよほどの階層へ行かない限り眩暈を起こす可能性は低いだろう。
橋を渡り切ってドローンで念のため階段方向を確認して三十二層へ急ぐ。今日中に帰れるのは確実なので急ぐ必要はないのだが……そうだな、急がず落ち着いてモンスターの数を狩っていく方向で行くか。地図はもうできているんだ、焦る必要もないし、しいて言えば三十五層に到着した後二十八層へ向かってからのリヤカー回収だけ忘れないようにしないとな。
三十二層はこれまた短いマップ。三十層と同じぐらいの短さだが、モンスター密度は三十層よりも多い。充分な狩場と言えるだけのポテンシャルを持つ。三十二層まで通り抜けられるようにしても良いんじゃないかなとは思うところではあるが、三十一層の橋を抜けられるかどうかが一つの試練ではあるし、一日にあの橋を往復するのは結構な辛抱強さと地力が必要だ。
エルダートレントを討伐する力があれば潜り抜けられるだろうが、その辺は俺が心配するところじゃないだろう。また探索者からの要望が増えてB+ランクを解放するのか、それともBランクで潜れる階層を増やすのかまでは定かではないが、今後のダンジョン庁の動きに期待しよう。
三十二層をさっくりと南に抜けていく。トレントを五体ほど同時に相手にする局面もあるが、ターゲットに素早く近寄って一発で倒していけるので一対一を五回行うのとそれほど違いはない。むしろ橋の上の方がケルピーが同時に二体出没することがあるので厄介さはこちらの方が上だと言えるだろう。
短いがそれなりに密度のある戦闘をこなし橋へ。橋の上でも短いながらも濃い戦闘を味わうと三十三層への階段へたどり着いた。
一人で森と泉マップ踏破達成。さらに深いマップであるところの三十六層や三十八層をさんざんうろついていて今更下層を踏破してどうという物ではないが、持久力という面では一つの指標になったのは間違いない。
地図を覚えている記憶力のほうはちょっと自信がない所だが、この後は消化試合だ。三時間ほどかけて三十三層から三十五層まで真っ直ぐ上がってワイバーン肉以外の素材を拾い集めに行くことにしよう。ダンジョンウィーゼルやワイバーンは戦い慣れているし、三十六層に比べれば密度も薄い。
ドロップ品も魔結晶が赤から緑に変わるのがネックではあるが、査定の時に混ざらないように仕分けしておけばいつも通り査定の手間を省くこともできる。今日のドロップ品はそこそこ種類がある、とだけ覚えておけばいいだろう。
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三十三層と三十四層を乗り越え、無事に三十五層に到着した。特に語るべきことは無かった。ダンジョンウィーゼルも一撃で倒せたしワイバーンも問題なくブレスを潜り抜け、いつも通り地上に下りてきた時に全力雷撃一発。ワイバーンも一撃で倒せるようになった。これで三十八層に潜る時ももっと気楽に行けるようになっただろうという自信がついた。
さて、二十八層に戻るか。三十五層にテントが増えていないことを確認し、交換ノートを見る。最後の書き込みは随分前で、結衣さん達が到着した日時と時刻が書かれている。それ以来ここで出会うような人々が居ない、という証拠でもある。
もしかしたら俺の知らない内に誰かが潜りにきて足跡も残さずに去って行った、という可能性もあるが、まだしばらくは無人が続きそうなこの寂しく少しだけ冷えた感覚の残るこの階層では、基本的に俺以外はもう用事はないのだな、ということを再認識する。次来る時はスノーオウルの羽根集めのタイミングなのでその時にチェックしておこう。
二十八層にエレベーターで戻り、リヤカーを引いて七層へ向かう。この時間なら茂君一回やって帰れるな。茂っているかどうかは解らないが確認していこう。
七層に到着して茂君に向かうときちんと茂っていたので一キログラム分ほどの羽根を回収し、意気揚々と戻る。今日はしっかり動いたし金もそれなりに稼いだ。馬肉とトレントの実こそ査定に出さないものの、それ以外のドロップ品をきっちり仕訳けてあるので査定の品目や量が多くてもそんなに混雑することはないだろう。
一層に着き、退ダン手続き。受付もそうだが、今の小西ギルドは二交代制なので受付嬢は交代していた。特に細かいことも問われず言われずに手続きを完了すると、査定カウンターへ向かう。
種類ごとに仕分けされたドロップ品を渡して行き、後ろを混雑させることなく査定は十分ほどで終わった。今日のおちんぎん、三千万とんで千円。千円分惜しかったな。この中途半端な千円が無ければ非常に気持ちのいい振り込みができたかもしれないと思うと残念である。
支払いカウンターで振り込みをして、今日の業務終了。いつもの冷たい水を一気に飲み、今日一日の成果を思い出しながら一人感想戦に入る。
エルダートレントは思った以上に苦戦しなかった。芽生さんなら同じことが出来るかと言われると微妙な所だが、ソロで討伐できたのはなかなか面白い話のネタとして残しておこう。これで少なくとも一週間は三十層で誤爆で引っ掛けたり、邪魔で階段の上り下りに苦慮するようなことはないはずだ。
実際の討伐の目撃者は何人かいるが、ノートにも討伐云々は書かれているかもしれないし……しまった、討伐しておいたと書いておいたほうが良かったかな? 討伐待ちが居なかったとはいえ、あんなに目立つオブジェクトが無くなっていると多少の騒ぎになるかもしれない。
かといって今からその為だけに潜るのも……うん、ここは一週間やきもきしてもらっておこうかな。三十層の階段に居たエルダートレント、誰かが討伐したみたいですぐらいの書き込みは誰かがするだろう。そうなることを願っておく程度にとどめておくか。
さて、今日は早上がりだ。夕食は何食べようか。時間をかけて夕食を作ることもできるし外食でも良いし、選択する時間も悩む時間も迷う時間もある。久しぶりに外食……悪くないな。今の胃袋は何腹なんだろう。帰り道のバスと電車で胃袋との対話をしつつ帰ることにしよう。外食するにしてもどうせ家に着いてから車で出かけるんだ、その間に話し合いの決着がつくまで体を休めていよう。
あぁ、帰ったらドライフルーツを作る作業もあるんだったな。ドライフルーツを作りながら夕食に悩むのも悪くない。今日は昼が馬肉だったので出来れば別のものを食べたい。豪勢に牛ステーキというのも悪くない。それとも昨日のように買い出しに行ってスーパーのお惣菜コーナーで好きな物だけを選んで買って帰って食べるでも良い。さぁ、どれにしようか悩むな。
大論争の中で家に着いたが、胃袋と俺の身体の決着はまだついていなかった。胃袋が主張するには何でもいいということだが、じゃあこれはどう? と意見を促すとグルルっと胃袋が鳴り、今はそういう気分じゃないと言い返してくる。
頭の中で考えつく範囲で次々に意見を出していくが、胃袋君はどうやらゴキゲン斜めらしい。昼食が少なめだったのがそんなに不満だったのか、それとも何でもいいからまずは詰め込んで見せろ、と言わんばかりなのか。今日の胃袋君はとにかく不満顔だ。
こういう時は素直にファミレスでも行って、そのメニューの豊富さから胃袋に納得をさせる作戦で行こうかなと思う。店にいったん入ってしまえば、どれも気に入らないからとそのまま足早に出ることは他の臓器や肉体が許さない。店に入った以上何か食べて帰ろうと胃袋君を説得する方向性に持っていくことが出来る。
そうと決まればファミレスだ。ファミレスと言えば丘盛りポテトだ。まずは一品決まったな。後は胃袋君に言い聞かせてなんとか納得できるメニューを考えついてもらおう。さぁ、車を出すぞ。
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