967:再戦、エルダートレント
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
夏用布団に交換したおかげで寝起きはとても良い。汗も感じ取れるほどにはかかなかった。夏用布団は今年も大活躍してくれる予感がする。ありがとう、大事に使わせてもらうよ。
寝起きのシャワーを浴びたら髭をそりなおして鏡の前でキリッとキメ顔。今日もいつも通りらしい。それが終わるとまた半裸で朝食作り。今日の昼食は手軽に持ち歩けるもので済ませたいからサンドイッチだな。これなら橋を渡ってケルピーを焼きながらでも食事に出来るし両手が塞がってても食べられるし、一々机と椅子を出して座り込む必要もない。
具は何にしようか。サラダで一つ作るのは確定として、ハム卵かツナかそれとも肉か。二日連続になるがここは馬肉を両面軽く焼いてタタキにして、生姜醤油をかけたものをレタスで挟んでもう一枚といこうか。
馬肉を集めに行くのに馬肉を食べるという少々変わった流れになるが、それはそれ、これはこれ。ちゃんと数を集めて帰ってこれればいいのでヨシとしておこう。
サンドイッチは作る時間も短くて事前に用意しておくものも少ないのでいつもよりも料理時間も短く終わった。これなら一時間早く出勤できるな。せっかくなのでたまには早出出勤と行くか。
柄、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。酒は今回からチェックリストから外す。飲ませる相手も居ないのに毎回確認するのは寂しさを感じるからな。ただ一本、美味いであろう酒が常備されているということだけ覚えておけばそれでいい。
いつ出来上がって連絡が入り、探索者間でも情報が流れて世間が再賑わいするかまでは解らないが、その日を楽しみにしておこう。ガンテツとは会おうと思えばまた会える。こっそり熊本第二ダンジョンへ行ってセーフエリアで密会、というのも悪くないはずだ。それぐらいの出張なら、一回ぐらいあっても良いかな。
◇◆◇◆◇◆◇
いつもより一時間早いダイヤで電車とバスに乗る。通勤時間にもろ被りするためいつもより混雑しているが、スーツに混じってヘルメットをかぶっている俺だけが少し浮いている。ついでに言えば、周りと比べて明らかに良いスーツを着ているのでその点でも浮いている。そういえばそろそろ仮縫いの時期じゃないかな。連絡が来たらテーラー橘にもいかなきゃいけないな。予定が色々あって退屈しないのは良い事だ。
バスも普段使わない二本早いダイヤのバスに乗る。この時間だと駅から職場に向かうサラリーマンと探索者らしき集団とハッキリ区別がつく程度にはなっているし、俺のいつもの指定席である場所もおばあちゃんがどこぞへ行くために座っているため立ったままバスで移動することになった。これなら自転車取り出しても……いや、この時間帯は流石に人の目があるからこっそり保管庫から出すというのは難しいな。大人しくバスに揺られよう。
バスに揺られてる間他人のことをじろじろ見るのもアレなので今日の予定を確認する。今日は珍しく二十八層に到着してリヤカーを一旦下ろし、ノートを確認してエルダートレントのレイドの予定を確認。誰かが倒そうとしている雰囲気がないならばそのまま三十層まで真っ直ぐ歩いてエルダートレントに勝負を挑む。
倒し次第そのまま三十一層に下りて長い橋で馬肉集め。集め終わったら更に下りて三十五層経由で二十八層に戻り、エレベーターの中でドロップ品を整理して帰ってくる。昼食は食べられるときに食べる。三十一層の橋の手前ぐらいで時間が来ればベスト、というところか。
エルダートレントに何分間時間を割く必要が出てくるかまでは解らないし外野が居るかもしれない。つまり、三十層までは保管庫一切の使用が出来ない。そういう覚悟はしておく。久しぶりの保管庫禁止の狩りだ、バッグの中までは覗かれなくても誰かに見られているというつもりで探索はしていこう。
バスが【小西ダンジョン前】に着き、探索者らしき人たちが次々に降りていくので俺も後に続く。この時間帯に来る事はないけど、結構人がいるもんなんだな。普段通りの時間に比べれば二割ほど多いように感じる。中々の栄えっぷりだな。
朝一ならもっと行列が見られたのかと思うと、一度早起きして眺めに来るのも悪くないかもしれない。と言ってもバスのダイヤの都合上、本当の朝一は周辺に住んでる探索者の入ダンの列ということになるだろうから見る機会は無さそうだ。
入ダン手続きをする。前からいるいつもの受付お姉さんだ。
「あら安村さん、今日はお早いですね」
「お昼ご飯を簡単なものにしたんで、その時間が浮いたんですよ」
「その分稼ぐんですかね。行ってらっしゃい、ご安全に」
「今日は金額的にはそんな予定じゃないですよ、ご安全に」
なじみの受付嬢と軽く会話を交わす。昨日の金額に比べれば今日の金額はずっと少ないものになる予定だ。挨拶しておいて申し訳ないが、今日はそういう予定である。
リヤカーを引いて二十八層へ。二十八層へ来るのは久しぶりだな。いつ以来だろう? B+ランクが出来てすぐあたりかな? ともかく久しぶりに降り立った二十八層は前にも増してテントが増えていた。リヤカーを置きっぱなしに出来そうなスペースを探してそこに駐車。
二十八層に置かれているノートを確認して、ページを少し戻らせつつ、エルダートレントの討伐の募集や予定、そのあたりに関する記述を探す。直近二週間分ぐらいまでさかのぼったが、今日から一週間後にかけて倒そうとレイド、つまり複数パーティー集まっての討伐の募集の予定がある、という情報は無かったし、倒したという報告も無かった。
ということは三十層にはエルダートレントがうろついている可能性は高いな。倒す予定のものをとった! と後から言われたらどうしようもないが、とりあえず今日の日付でエルダートレントチャレンジしてみます、と書き残しておく。これで後から何で居ないの? と言われる可能性は小さくなるだろう。これはその為のノートでもある。
二十九層に下りてみるとやはりBランクがかなりの数増えたのだろう、索敵網にはあまりモンスターは引っかからない。もしかしたら橋の上でもケルピーが出ない可能性すらある。まあその時はその時だし、三十一層以降には基本的に誰も居ないだろうからすくなくとも馬肉が一つも拾えずに帰る、という可能性はない。
海外からのお客さんが居るならまた話は別だが、それならノートに何かしら記念書き込みしていくだろうし、その予兆も無かったので三十一層から先は俺が独り占めしても怒られない空間が待ち受けてくれているだろう。
途中ぽつりぽつりと湧いて出ているトレントを雷切で一刀で倒しながら進んでいく。同じタイミングで同じ方向に進んでいる探索者の姿はない。どうやらこのまま真っ直ぐ進めば橋の優先権はこちらに貰える、ということになるだろう。
一時間ほどトレントの相手をしながら二十九層の森をひたすら東北東方面に突き進む。うまく行けばこのまま橋までぴったりたどり着けるはずだ。
森の切れ目が現れ、川までの短いがスライム以外が出現しないエリアに到着する。まずは川に近づいて、それから橋の方向を確認する。どうやら方向感覚は失っていなかったようで、かろうじて見える範囲に橋が見えた。久しぶりなのによく覚えていたもんだ。
そのまま橋を渡る。前後を確認するがぱっと見誰も居ないので安心してモンスターに集中できるな。橋を渡り始めるといらっしゃいませ一名様ですか? とでも問いかけるように橋の下からケルピーが橋の上にバシャーンと躍り出てくる。そのまま地面に着地する前にバツッと一撃で葬り去り、地面にはドロップ品だけが残るのでドロップ品を回収して次へ。いつもの橋の光景がここで見られる。
バシャーン、バツッ、アイテム回収。バシャーン、バツッ、アイテム回収。
二十分間程集中してこの作業に没頭する。途中でドライフルーツを補給する必要もなく渡り終えることが出来た。さて、ここからどっちへ行けばいいんだったかな。二十九層の地図を開いて方向を確認。北東に少し歩けば階段が見えてくることを思い出した。
ここから二十分何もない所を歩いた。スライムでも出てくれればよかったものの、残念ながら遭遇すること叶わず。次回通り抜ける際は期待しておこう。
三十層への階段が見えたので水分を補給してから階段を下りる。階段を下りた目の前にエルダートレントは立っていた。
相変わらずでかいな。周辺のトレントをまず片付け、安全圏を作る。トレント以外にも反応があるが、固まって動いているところを見るに多分探索者グループだろう。
もしかしたら、エルダートレントが階段に近すぎて迂闊に近寄れないとかそんなことになっている可能性もある。ここはササっと倒して道を開けてしまうのがいいな。
雷切を最大限伸ばしてみる。エルダートレントを真っ二つにするぐらいの長さをイメージ。そして強化。紫色の光が収束し、白く輝き始める。これなら一発で切断できるか?
雷切に集中しながらエルダートレントの蔓を全部雷撃で焼き落とすと、そのまま雷切をエルダートレントの胴体にぶつける。
バチィッ! という弾ける音と共にエルダートレントの表面からゆっくりと内側へ雷切が沈み込んでいく。太くなるにしたがって徐々に雷切への手ごたえも何故か重く感じる。エルダートレントの蔓が激しくうごめきだし、蔓を伸ばしてはこちらへ伸びてくる。アレに捕まるとまた腕をねじ切られることになるな。
雷切の出力はそのままで、飛んでくる蔓を冷静に雷撃で弾き飛ばしながら、雷切にも意識を集中させる。そのままエルダートレントの中で雷切がはじけるようなイメージで、薄く、エルダートレントの表面を覆うように雷切を纏わせ続け、斬った後がくっついて再生しないように強く形を持たせ続ける。
並列思考は中々疲れるな。でも上手く出来てる辺り、成長したなあという気持ちでいっぱいだ。エルダートレントの蔓はなおも激しく再生してはこちらに向けて腕を伸ばしてくるが、そのたびに雷撃していく間に段々元気をなくし始めた。多分全体の半分は斬り終わったな。
手ごたえが段々軽くなってくるのを感じると、そのまま振り切って雷切を振りぬく。スポン、という感触と共に雷切はすっぽ抜け、エルダートレントは完全に切断された。エルダートレントはそのまま上半分以上が倒れていく。倒れながらも大量の黒い粒子をまき散らし、やがて完全に消えた。
流石に【雷魔法】が単発スキルであったころと三重化させた今では火力も範囲も応用力も違うらしい、ということを感じ取れる。俺、ちゃんと強くなってるぞ。
向こう側に居た探索者の集団はエルダートレントが消えると同時に動き始めた。そして、他の探索者の反応もちらほら見え始めた。どうやら、本当にエルダートレントに行く道を封鎖されてて困っていたように感じる。エルダートレントは倒れたし、階段に向かいだすだろう。
しかし、階段に詰まっていたようにも見えたエルダートレントは、誰かが手を出して追いかけられた結果ここにきたのだろうか。ドロップ品であるヒールポーションと魔結晶、種を拾いながら考える。これはこれで人助けになったのかな、とそう納得しておこう。
三十層の方向は……南西方向だな。そのまままっすぐ森がひらけるところまで進む。途中のトレントは他の探索者が倒しているらしく、ちょっと暇。三十層のモンスター密度の割には探索者が多い。橋から戻ってきているのか、それともエルダートレントが邪魔で駐留していたのか。
理由はハッキリわからないが、狩場が空くまでここに留まる理由はないので先に行くが、ちょっと運動が足りなくて不満ではある。そのまま橋のほうへ行くと探索者とすれ違う。探索する場所で他人とすれ違うのも久しぶりと言えば久しぶり。今となっては貴重な体験だ。
森を抜け、そのまま橋へ。橋の向こう側は見えている非常に短い橋だ。ケルピーの数もそれほど期待できないだろうが、数日分の食糧は確保できるはずだ。向こう側から来る人影も見当たらないので一人でケルピーを倒して肉を回収していこう。
バシャーン、バツッ、アイテム回収。バシャーン、バツッ、アイテム回収。
いつものテンポでアイテム回収。範囲収納で姿勢を変えずに立ったまま真っ直ぐ歩くということが出来ないので毎回拾うのが面倒くさい。贅沢かな? ドロップ品の重さはバッグに入れた時点で保管庫に転送しているので重くはないが、それでも拾う仕草をするたびに少しばかり腰をいわせないかどうか心配である。腰の心配をしながらも短い橋を渡り切り、少し進んで三十一層側の階段へたどり着いた。
ここで一旦お休みだ。早めの昼食と休憩を取ろう。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。