966:五十一層一人旅
ダンジョンで潮干狩りを
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今日の昼ごはんはタンドリーホースとちょっと豪華なサラダ。しっかり野菜を食べてバランスの良い食生活を心がける。心がけていないとすぐに崩れるのが食生活なので、年齢のことも考えてきちんと意識的に野菜を取ることにしている。
タンドリーホースの味わいは米に確かな満足をワンクッションさせつつ、サラダで口の中の脂っぽさをリセットしながら順調に進む。一口肉を口にするたびにサラダで毎回舌をリセットしながら食べ続けるので毎回美味しい。サラダもいつもより豪華な分だけ食もさらに進む。二パック分作っても良かったぐらいだな。
やはりタンドリー何か肉は肉を何にしても美味しいな。何十人もの人が味を確認し、何十時間何百時間をかけて開発されたこの魔法のパウダーの成果が俺の口の中で見事に具現化されている。うむぅ、美味い。
このほのかな明かりだけが存在する四十九層では、昼食と言うよりもオートキャンプ場で星空の下で夕食を取っている気分になる。そう考えると毎回夕食を食べるということになって、毎回豪華な食事をしたくなるな。一人で食べているからこそわかる気付きもあるということか。
タレと脂のおかげでご飯がどんどん進むが、少し多めに持って来たのでちょうどいいぐらいになったかも。もし途中で切れるようなことが有ればちょっとだけ気分が下がる所だった。馬肉は買い取りは安いが取りに行くのもそう難しい場所ではない。
明日あたり、二十八層から三十五層に真っ直ぐ抜けて三十一層と三十二層で馬肉を集めて、ついでに三十三層三十四層でワイバーン肉も補充する、というルートで進んでみるかな。馬肉はいくらあっても困らないし何の肉に置き換えてもそこそこのパフォーマンスを発揮してくれる美味しいお肉だ。疲れも取れるし労働者の味方である。
丁度いい感じにご飯とおかずがそれぞれ無くなったところでコーラを飲み干し、残ったコーラとお菓子を机に用意してパンパン。シュッと消えるお供え物。日課のお供え完了だ。今日買い出しにもいくし、その時に面白いものがあればまた用意しておくとしよう。
しばらく休憩した後、再び五十層へ戻る。目的は五十一層での安定した活動。五十一層のほうが遥かにつらく厳しく甘ったるい階層だというのは解っているが、五十層で安定して戦える以上、どこまで行けるかが気になるところ。カニも良いけど甘味も気になるし、なにより気分転換は必要だ。
いくら常夏の青い砂浜が好きだったとしても、時には暗く湿ったところでうじうじとしていたくなるというのが人間というもの。たまには良いじゃないか。危なさを感じたらすぐに五十層に帰る。それだけはハッキリ決めておこう。
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五十層を午前と同じペースで歩き抜け、五十一層に下りた。ここからはモンスター密度が上がる。シャドウバイパーもシャドウバタフライも三匹で出てくるようになるし、シャドウスライムだって頻繁に現れる。今日中にバニラバーは使い切るつもりで戦おう。
早速現れたシャドウバイパーに極太雷撃で迎撃、まとめて黒い粒子に還す。極太雷撃も照射時間が短くて済むようになったのはスキル三重化のおかげだ。今ならエルダートレントも一分かからずスキルだけで対応しきることが可能になっているかもしれない。
試してみることは……でも他のパーティーが挑む邪魔になるといけないからな。エルダートレントについてよく調べて他に挑んでいる探索者が居ないかどうかをノートで確認して、それから空いてるようであれば一人でエルダートレント退治としゃれこんでみるのも有りだろう。
今の自分がどのくらい強くなっているのか? という答えを一つ恵んでくれるはずだ。やっぱひとりじゃ無理となったら逃げればいい。そういうアクションが取れるボスでもある。ダメだったらまた今度、ということにしておこうか。
明日の予定が決まったところで今日の探索に集中する。ここだって油断すれば毒を喰らう危険な階層だ。シャドウバイパーのそれなりに素早い動きに対応できなければ体のどこかに被弾して毒を受ける可能性は低くない。
シャドウバイパーが三匹連れで現れたら容赦なく極太雷撃で反応して確実に倒せる方向に持っていこう。バニラバーは余裕があれば、だな。
五十二層の階段に向かうルート上でどんどん戦っていく。今更地図を更新しようと躍起になるよりも解ってる範囲で行動するほうが無理が少なくて済む。一人でいるときに冒険心を持つ必要はない、臆病でいこう。
◇◆◇◆◇◆◇
五十一層を四時間、一時間おきにウォッシュをかけながらグルグルと階段と階段の間を行き来した。他に誰も居ないので場所を新しく探す必要がないってのが、今のところの良いところだ。暗くてよく視界も切れるおかげかリポップも結構早い。
芽生さんと二人でここをギリギリで通り抜けた時と同じようなペースで回れている。持久力のほうも問題なく、ウォッシュのタイミングで水分も補給して五分休憩して……という流れで充分に稼ぎが出来ている。これは出来高にも期待できそうだな。さて、時間を見ると良い時間、そろそろ戻るか。
五十一層から五十層、そして四十九層と順調に戻ってこれた。残念ながらスキルオーブのドロップこそなかったものの、ドロップ品のほうもしっかり確保することが出来た。シャドウバイパーの牙もシャドウバタフライの鱗粉も五十個ずつ程確保することが出来た。
これでどれだけの製品として世間一般に流通させることが出来るのかまでは解らないが、買い取り先が存在して相場がある以上そこに需要は確実に存在する。需要があるものを適切に……とまではいかないかもしれないができるだけ供給するのも探索者の仕事だ。今日もしっかり仕事をしたなという気分がぐっと出てくる。
四十九層に上がって最後の全身ウォッシュ。スーツも体も綺麗にして、においを確認。まだ少し甘い臭いが立ち込めるが、地上に戻って苦情が出たらもう一回かけてみるぐらいでなんとかなるだろう。
リヤカーをエレベーターに押し込むと荷物整理をしながら七層へ。今日の収入は普段のカニうまダッシュよりも多めだ。今後は五十一層にも潜れるということが解ったのでカニに飽きたら蛇と蝶、選べる場所が増えたことになる。次次回以降は四十八層を一人で回れるかどうかにもチャレンジしてみよう。
七層に到着するといつも通りリヤカーを隠して茂君、ざっと狩ってざっともどってきてこれで往復分の茂君はキッチリ確保できた。冬用のダーククロウ布団を買った人が夏用も欲しくてそっちも購入したい、というリピーター客がこれから増えることになるかもしれない。そのための多めの茂君確保はしていきたいところ。
今のところ納品二回分のダーククロウの羽根が溜まっているので近々布団の山本にも寄ろう。同時納品しているスノーオウルの羽根も在庫はまだある。焦って納品しなくてはいけない事態になれば布団の山本のほうから連絡が来るだろうから、連絡の来ない内に納めに行こうかな。
エレベーターで一層に戻って退ダン手続き。
「何か甘い匂いがしませんか? 」
受付嬢は少し甘い臭いを感知したらしい。やはりまだ体の周りに残ってはいたか。
「そういうモンスターが居るんですよ。これでも綺麗にはしてきたんですが」
「そうなんですね。お疲れ様でした」
深くは追及しないらしい。さて、匂うのは身体か服か、どっちだ。念のため出来るだけ香りの発生源を取り除くイメージで両方ウォッシュして綺麗にとまではいかないものの、再度綺麗にした。そういえば周りに臭う、というデメリットがあったんだったな。
査定カウンターでは毎回素材は分けているので手早く済ませてもらい、時間がかかるのは個数を数えることと魔結晶の重さを量ってもらうぐらいになっている。最近は俺の真似をしてか、事前に種類ごとに分けて持ってきてくれる探索者も居るらしい。みんながみんなそうできるわけではないが、出来る人はやったほうが他人のためになるのは確か。俺を参考にしてもらおう。
五分ほど待って結果発表。本日のおちんぎん、一億九百三十六万八千円。中々の利益を出せた。支払いカウンターで振り込みを済ませると、いつもの水を一杯。喉の奥に張り付いていたらしい甘さが胃の中から口に戻ってくる。
もしかして、さっきの甘い匂いというのは俺の口の匂いだったのかもしれない。流石に体内まで綺麗にするイメージは難しいので、水分を取るなり鼻をかむなりするしかなさそうだな。
バスの時間が近かったので急いでバス停に行き、そのまま真っ直ぐ家に帰ると着替える間もなく買い出しに行く。今回買うものはいつもの食品とミルコのおやつ、それからもしももう一度ガンテツに会うなら渡しておきたい三十年物のウィスキーを一本。メモを確認して他に買いだすものを確認して行く。パンはそろそろ切れそうだから今の内に。卵は大丈夫。キャベツは今買った。シーズニングはまだまだ大量にある。
そして、忘れてはいけないバニラバーだ。カロリーバーが並んでいるコーナーへ行くと、三勢食品のバニラバーと海外メーカーのバニラバーが並んで売っている。海外メーカーのバニラバーはスライム用に特化しているのか、半分の大きさで価格も半分。個包装に対応して初めからダンジョンで利用されることを前提としているらしい。確かにこのほうが便利で使いやすいだろう。
三勢食品のほうはラインを切り替えたり個包装の半分バージョンを作ることなくそのまま耐えきった結果の今があるようで、以前と変わらない包装、変わらない大きさ、変わらないカロリー表示がされている。
両方買うのは申し訳ないので三勢食品のほうを全部買い占めることにする。この一軒だけではちょっと量が心許ないな。同じ系列のスーパーをもう二、三軒回って大量に買い占めに行こう。
会計を済ませてパン屋で朝食用のパンを補充。その後車で同系列店をはしごすること三回。とりあえず十二箱合計二百四十本のバニラバーを買い集めることに成功。これだけあればまたバニラバーの儀式をしてもしばらくは持つだろう。その間に他の味の消費も進めて行かないとな。
家に帰ってきて買ったものの整理をして郵便物の確認をしていると、健康診断の検査用のキットが届いていた。そういえば申し込んだんだったな。日付は認識していたが、結構ギリギリに到着したなというイメージだ。会社で受けてた検診とほぼ内容は同じ。なら書く内容も同じだろう。
と、ここへきて夕食を買ってくるのを忘れたので調達をしに行く。せっかく何軒もスーパーに立ち寄ったのだからその中で買いそろえておくべきだった。時間も時間だし腹も減っている。最近頼りがちだがコンビニ弁当でサクッと済ませることにしよう。
せっかくバランスよく食事をとったので今日は一日そのままバランスの良い食事を続けたい。サラダとたんぱく質が取れるサンドイッチ、それと板チョコがまるっと一枚挟まっているデニッシュパンを買い、それで夕食とする。
家に帰ってきて食事を終えると早速健康診断の問診票に記入開始だ。喫煙歴は無し、酒は機会があれば……これも去年までは全く飲まなかった状態だったので改善したのか悪化したのかは悩ましい所だが、飲めるようになったというのは健康的になった範囲に入るのだろうか? ちょっと微妙なところだ。
週に何日働いていますか……週六勤務ということにしておこう。実質毎日仕事だが休めるときは休める仕事でもある。
これまでの病歴……記入されている病気に関しては特になし。体重がここ一年で十キログラム以上変化しましたか……はい。軽く健康になったのは間違いない。むしろここから先は筋肉がつく分だけ増えそうな予感すらある。
薬は飲用していますか……いいえ。ポーションが薬に入るかどうかはともかく最近は飲んでないな。身体無事なのは良いことだ。
三十分以上の運動を毎日行っていますか……三十分どころか常時行っている。今日も七時間は確実に運動をした。
食事はよく噛んでいる。食べるのは速いほう。就寝前に食べることは……時々あるな。
睡眠は十分以上にとれている。
特定保健指導を受けたこと……記憶にないし、生活習慣の改善について指導を受けるつもりもない、と。
ざっとこんなものか。後は検便と当日朝の検尿。そして前日夜早めに食事をして絶食。それさえ忘れなければ大丈夫だろう。
記入が終わった検査キットと書類一式を目立つところに置いておこう。検便はトイレにそのまま置いておこう。家のトイレは日当たりが悪いので冷暗所と言えなくもない。それに忘れるといけないからな。
片付けをして風呂に入って、ようやく今日が終わったという気分になる。明日は一人で七階層を歩きとおすというちょっとした自己鍛錬だ。きっちりやっていこう。風呂から出たらスーツの手入れと洗濯して、それからニュースを見て寝ることにしよう。
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