965:気分転換
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
暑い、少し汗かいた。朝からシャワーと行くか。眠気はすっきり取れているがシャワーを浴びて更にスッキリすると朝から良い気持ちで過ごせるに違いない。そうと決まれば早速風呂場へ。
温めのシャワーで汗を流し、冷たい水で完全に引かせる。昨年覚えたこのテクニック、今後も寝汗をかいたときには続けていこう。
そのまま服を着ずに朝食を作り、半裸で食べ終える。片づけを終えたところで夏布団の導入に踏み切ることにする。今後は多少肌寒くとも布団をすっぽりかぶればやり過ごせるだけの時期に来た。去年よりかなり早めではあるが、今後もこの布団には活躍することを期待するところ大である。
さて、今日の昼食のメニューは……じゃん、タンドリー何か肉。適度な大きさに切った肉にタンドリーチキンのシーズニングをもみ込んで焼くだけの簡単レシピだ。手軽に作れるのでその分副菜を豪華にしようかな。
さて、いつもの付け合わせのサラダは作るとして、冷やし中華の具風味にしたい。キャベツとトマトとそれからゆで卵。後はハムか錦糸卵を乗っける所だが、今日はハムにしておこう。後はスライスチーズをちぎって振りまいて一品完成。まだしっかり冷えてるうちに保管庫へ放り込み、メインディッシュのタンドリー肉を焼いていく。悩んだ結果馬肉にした。在庫がだいぶ減ってきたのでそろそろ馬肉も新しく仕入れに行ったほうがいいかもしれないな。予定に入れておこう。
さっくりと昼食を作り終わると、今日は何層に行こうか考える。いつも通り茂君に行くのは確定として、その後だ。そろそろ四十三層も卒業して他の階層で戦うのも悪くないと考えている。
他のダンジョンでも四十二層までたどり着いた探索者もほどほどに増えた所だろう。ここは供給を増やして市場へ色んなドロップ品を回すことを考えると四十八層か五十層を一人で回ってどのくらい戦えるかを確かめるのもいいな。
よし、今日は五十層へ行ってみよう。五十二層は怪しいが、あの密度なら俺でも一人で回れるだろう。いつもほど密度の濃い戦闘やスリリングな戦いはないだろうが、縦横無尽にとはいかずとも適当にうろついてシャドウバタフライの鱗粉とシャドウバイパーの牙を集めに行こう。
柄、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
酒、ナシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。酒は今後確認リストに入れておくかどうかは考え所だ。一度別れは伝えて渡せる分は全部渡したものの、また会う可能性もゼロじゃない。念のためということもある。もしかしたらもう一回ぐらいは会うかもしれないし、その時のためにお高いのを数本入れておくか。今日の帰りは買い出しだな。
◇◆◇◆◇◆◇
茂君経由で久しぶりに来た四十九層、やはり四十二層に比べて駐留拠点としての機能は少し劣る。あそこは暖かくて過ごしやすくて良かったな。ここは少しジメッとしていてあまり長く居たいという雰囲気ではない。しかし一時期はここを拠点にしていた分、慣れみたいなものはある。
いつも通りリヤカーをエレベーター前に停めると早速五十層に向かう。今日は久しぶりだし午前中はペースを上げずに体を慣らし直すことを主軸に置いていこう。久しぶり過ぎて戦い方を忘れているかもしれないしな。
まずは階段を下りる前に準備運動。あちこちの関節が音を響かせる度にこれからの戦闘に集中していく。手首、指、肩、首、腰、膝、足首。上から下まで一通り鳴らし終わってもう一度手首をブンブン。違和感のあるところ、ナシ。
早速五十層の階段を下りてモンスター探しに入る。地図を完全に描き切っている訳ではないので、ついでに地図埋めもかねてウロウロしようと思う。やることが複数あるというのは良い事だな。
とりあえず地図を拡張するのは午後の作業として、ひとまずは五十一層への階段へ向かいながら探索を開始する。早速現れたシャドウバイパー二匹に全力雷撃をお見舞いし、以前からすれば威力の上がったそれをぶつけることで確実に強くなっているんだという事を意識させられる。シャドウバイパーは一発で黒い粒子に還った。うん、火力は間違いなく上昇している。
これなら四十八層を走り回るのも問題なく出来るかもしれないが、ハエトリグサ……ダンジョンマスキプラだったか。あいつにはスキルの効果がないからその時だけちょっと警戒しなければならない分五十層のほうが気楽に戦えるかもしれないな。
シャドウバタフライの鱗粉がほの暗い階層の光を反射して綺麗に見えるが、毒なんだよなこれ。そして鱗粉が舞っていると言うことは近くに居るということでもある。多分ちょっと移動すれば……やっぱり居た。雷撃できっちり焼き切り、ドロップを拾っていく。鱗粉ゲットだぜ。
軽くてそこそこ高く買い取ってくれるので持ち運びにはちょうどいいドロップ品であると言える。この階層で戦うようになった探索者には嬉しい話だろう。ただ、常時毒を浴びるというこの階層の厳しさを乗り越えられれば、という但し書きが付く。
探索にあたって【毒耐性】がほぼ必須になったこの階層、【索敵】とは違いグループに一つではなく各人に一つというのがなかなか厳しい条件ではあるが、ここまで来れる探索者なら【毒耐性】を自力で入手するのも視野に入れて探索しないと難しいが、ここはモンスターの種類も多いし三階層分二種類のモンスターが【毒耐性】をドロップすることが解っている。つまり同じ時間軸上ではチャンスは八回分ある。
ここで【毒耐性】をひたすら集めてもう三ヶ月は経ったのでドロップテーブルは復活しているはずだ。今からまた一から集めるということも難しくない。案外俺が張り切ったらぽろっとドロップしてしまうかもしれないな。その時は使いそうな人を見繕って売りつけに行くか。
◇◆◇◆◇◆◇
五十一層側の階段まで回ってきた。ゆっくり歩いてきたおかげで稼ぎとしては相当少ないはずだ。実際に保管庫を覗いてみても、それぞれのドロップ品が四つずつという所。どちらも現金化出来るようになったのでちゃんと収入になってくれるようになった。前はひたすらため込んでいたが今は毎日コツコツと少ないが確実に査定にかけることが出来る。
真中長官の話だと、千個以上溜まっているインゴットについてもそろそろ査定が開始できるようになるとのことなので、査定可能になった段階でギルマスにお願いして今だけ関係者して、バックヤードに直接ゴロンと置きに来るような形にしたい。
インゴットが一個一キログラムだとしても一トンを超える量になる。今持ってきているリヤカーの最大荷重は大目に見ても三百キロが限界だ。目隠しのためにエレベーターを実質四往復して出し入れして毎回査定する、という手順を取るのは誰にとっても手続きが面倒以外の理由がないし時間の無駄だ。一回だけとはいえ、その無駄は省きたい。
シャドウスライムが現れた。二匹居る時は片方を確実に止めを刺した後、もう一匹はバニラバーで狩ることにしている。そうすることでキュアポーションのランク2とランク3が確実に手元に来る。スライム一匹で八十万円。非常に美味しいです。
五十一層側の階段にたどり着いたところで一旦ウォッシュ。ヘルメットの裾や襟元、それからスーツ全体にまとわりついていたであろう甘味と毒を取り去る。思えば、この【生活魔法】もかなり役に立ってくれている。
ちょっとした乾燥機代わりや少しだけ水が欲しい時も活躍してくれているし、今のところ出番はないが火を起こすこともできる。今、俺はスキル何個持ってるんだっけ。
まず【保管庫】、【雷魔法】が三つ分。それから【物理耐性】【魔法耐性】【索敵】【毒耐性】【生活魔法】【隠蔽】。結構色々拾ったな。他の人からすれば拾いすぎと言われるのは確かだろう。
そして【保管庫】はともかくとして、芽生さんもほぼ同じだけのスキルを取得している。四人パーティーだったとしたらこうもそろってスキルを習得する事も無かっただろう。もしくは、二手に分かれてスキルオーブを拾い集めるだけの作業に集中して集めていたかもしれない。
水を飲み、鼻から入って喉に張り付いていた甘味を胃へ押し流すと、ヘルメットをかぶりなおして再度四十九層側の階段へ向かう。今度は少しペースを上げて行き、シャドウスライムが現れたら確実に一匹はバニラバーする。よし、この方針で行こう。
◇◆◇◆◇◆◇
このマップのシャドウスライムはいろんな形になって襲ってくる。レッドカウの形になっているのが一番多いが、バトルゴートやダンジョンスパイダー、スケルトンなど様々だ。特徴を言うならあまりサイズが巨大すぎるモンスターや逆に小さすぎるモンスターに擬態することはないらしい。
後、空を飛んだりするモンスターにも擬態しないのでワイバーンやスノーオウルの形をしたシャドウスライムにも出会ってはいない。地上戦だけで済むというのは非常にありがたいことだ。
元々のシャドウスライムの大きさに限界があるということだろうな。今のところ元の形のシャドウスライムという物を目撃したことがないので断定はできないが、自分の大きさに見合った相手に擬態して襲ってくる、そしてそれぞれのモンスターの弱点っぽい所に核として存在している。
スケルトンなら同じく胸元、レッドカウやバトルゴートなら目、ダンジョンスパイダーは首元に赤く光る核が配置されているので、バニラバーを放り投げた後こっちに意識が向かないうちに他のスライムと同様に核を刈り取り潰すことでドロップが全部落ちる。
そしてここにきて重大な問題が発生した。ついにバニラバーが尽きそうだ。あれだけ箱買いしておいたから大丈夫だと思っていたのだが、流石にこの階層のシャドウスライムに与える分量としてはとても足りなかったらしい。
スライムの大きさと消化速度から言っていつものバニラバー半分ずつでは足りないだろうと考えて一本ずつ与えていたのが主な原因だ。残り一箱。貴重なバニラバーだが、同時に貴重な稼ぎ頭でもある。モンスター一匹で八十万円というのは現状最深層である五十七層でもおそらくはこれ以上の金額は出せないだろうと思っている。今日の買い出しで何軒か回って、バニラバーを買い貯めしに行くことにしよう。
最近バニラバーの売り上げ状況を観察してはいないが、行ってみて在庫がない、という騒ぎを最近聞かないので買い占め騒ぎになっている状況ではない。つまり、バニラバーをしていた探索者達は順調に実力をつけてもっと下の階層に潜り込んでいるはずだろう。今日はいつもと違う階層であることだし普段通りに順調に行く保証もない。違和感を感じたら早めに上がってしまうことにしよう。
四十九層の階段まで戦闘を続け、それなりの回数戦うことが出来た。この階層を一人で回るのは今のところ問題は無さそうだ。五十一層はどうだろうか。午後からは五十一層へ行ってみよう。流石に五十二層のあのぬるぬるとした戦闘は辛いと思うが、五十一層までなら行けるはずだ。自分の限界が何処までかを図るのは何もカニうまダッシュだけではない。一人で何処まで行けるかの最深層記録を持ち続けるのも中々面白いではないか。
それに何よりシャドウバイパーの牙とシャドウバタフライの鱗粉は需要はあるとみている。片方は武器や防具の素材として、片方は工場生産用の甘味料として。鱗粉が砂糖の五百万倍甘いということは、これを直接舐めたら舌が再起不能になるほどの甘さを味わえるということになる。
劇物だが、適度に薄めれば薬ということか。ちょっと試しに舐めてみたい気分にはなるが、その後障害を持ち続ける可能性があるので何とか心の中で舐めた気分になることで落ち着かせる。舐めたければこのマップに散らばる甘さを散々舐めておけばいいだろう。
四十九層に戻って再びウォッシュ、そして鼻をかむ。鼻から甘い香りがツーンと抜けていき、鼻で呼吸を数回して嗅覚が元に戻ったらしいことを確認する。ちょっと早めだが休憩だ。食事が終わったら休憩して。それから再チャレンジで五十一層へ行こう。まだ午前中しか回ってない。ダッシュをする必要なくそこそこの稼ぎを得られているので【隠蔽】を切ってダッシュ大会を始めようものならなかなか楽しいことになりそうだ。今のところは自信がないからやらないが、いずれ出来るようになりたいものだ。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。