964:きょうのおちんぎん
ダンジョンで潮干狩りを
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「さて、こんな中途半端な時間だが、この話が終わったらダンジョンに潜るのかね? 」
「いえ、今日はもういいかなって。午前中ギルマスに新規階層の査定依頼物を渡して午後から潜ろうとしたんですが、潜り始める前にこの新ダンジョンの話を聞いたもんですから急ぎで戻ってきまして。昨日も潜ってましたし、こんな中途半端な時間から潜るのはちょっとソロでやるのは難しい所なので」
「たまにはそういう日があってもいいだろう。ゆっくり休んでまた明日以降頑張ってくれたまえ。他に何かあるかな? 」
真中長官も報告を終えて少しリラックスモード。思い出せ、何か他に伝えることはあるかどうか。
「後はないですね。しいて言うなら収入に直結するので坂野ギルマスから届く予定の品物の査定を早く頼みますってところでしょうか。坂野ギルマスには渡しましたが、青色の魔結晶がドロップするようになりました。新規のドロップ品のカテゴリになるから今のところは査定拒否、という話らしいです。エルダートレントのドロップの魔結晶は別枠扱いで引き取っているという話は聞いてますが、この魔結晶を基準にして再確定するのかどうかはダンジョン庁の懐事情にお任せしますよ」
「魔結晶に関しては発電施設の発電効率から逆算してエネルギーをどのくらい保有しているかを見ることが出来るからね。ちょっと施設を借りて出力を計測してそこからいくらで買い取るかの見込みを出す。そういう感じで行こうと思ってるよ。なのでそれほど時間はかからないかもしれないね」
大体予想通りの回答が帰ってきたな。心配はなさそうだ。後は指輪に関しては……まあ任せるか。答えは知ってしまっているのでどういうプロセスをたどった後で物の価格や性能を決定しているのかは気になる所かな。
「じゃあ、報告は終わりということで。探索のほうは引き続き頑張ってくれたまえ。また進捗で何か問題が発生したり大きな変化が有ったりしたらその時は坂野課長経由で連絡よろしく。ではね」
真中長官はビデオ通話を切った。報告したほうがいいことは全部報告したかな。
「ありがとうございました。おかげでちゃんと報告出来ました」
ギルマスに礼を言う。隣で見ていたギルマスがパソコンの画面をいじり、元の画面に戻していく。
「今回のことは長官預かりの話、ということになったので私が今度の会議で何かしら発言する事はないと思う。長官の側から求められたら何かしら意見を言うかもしれないが、基本は長官しか知らない、ということになった。にしても、牛のションベンって何? 」
「あ、そこ気になりますか」
軽く話し、こっちの冷えたラガービールに比べたら向こうの醸造技術は稚拙であるという話と、ラノベなんかではよくそのせいでこれに比べたら今まで飲んでたビールは牛のションベンだぜ、と形容されることがあること、そして実際にそう発言されたということを伝える。
「なるほどね。確かに真中長官にとっては大事なことかもね。ま、そういうわけで私も仕事に戻らないと。色々あった分ちょっとだけ残業かな」
「お疲れ様です。俺は……なんか色々あって気が抜けたんで帰ります。今の気分で探索してもなんだかうまく回らない気がするので」
「そうかい、まあほぼ毎日仕事してるんだしそういう日があっても良いよね。気を付けて帰ってね」
ギルマスに追い出される形で部屋を後にする。そのまま一階に下り、休憩場所でしばし考える。本当に何もせずに家に帰るのは初めてではなかろうか。ダンジョンマスターについて情報が公開された当日でも、茂君だけは片道狩って帰った。今回はそれすらせずに帰る、というのは極めてレアなケースだ。どうしようかな、茂君だけでも狩って帰るか。流石に今から行けば一回分ぐらいは溜まっているかもしれない。
茂君だけ狩って帰るか。その分布団の山本に卸す羽根の量が増える。片道だけだが何もせずに手ぶらで帰ることを考えてもそれが良いだろう。茂君往復するだけならリヤカーも要らないだろう。
再度入ダン手続きをしてエレベーターで七層に下り茂君。今回はちゃんと茂っていたので刈り取って回収。今回はワイルドボアのドロップ品だけ査定して終わりになるかな。
退ダン手続きをして今日の稼ぎ完了。査定カウンターでワイルドボアの革二枚だけを査定に出す。五千七百六十円。初心に戻った気分だ。金額も安いので支払いカウンターで現金で受け取り、財布の厚みを増しておく。
さて、今度こそ帰るか。今日の夕食は昼に買ったおにぎりで済ませよう。昼に結構食べたしカロリーは充分に取れるはずだ。後はちゃんとお腹が膨れるか、だけを気にしておこう。もし足りなかったら家の近くのコンビニで何か見繕って追加。よし、その流れで行こう。
◇◆◇◆◇◆◇
side:ダンジョン庁
安村からの報告を文面に書き起こして要点をまとめた真中は、早速関係各所に連絡……というわけでは無かった。まずは情報を整理しそれを基にして必要な命令系統の整理、書類の作成、それぞれの連絡先の確認。やることは細かいが確実に、そして漏れがないように仕事をこなしていく。
「さて、大まかにはまとまったが、何をどこまで進めておくかが重要だよねえ。この際日本のダンジョン庁と一部のダンジョンマスターとの仲の良さをアピールしていくのも有りだが、ダンジョンが新しく出来るのを抑制できなかったのか、という辺りをつつかれると非常にまずいな」
実際にダンジョンが発見された時と同じようにまず周辺自治体へ連絡、了解を取った上で現場の封鎖。それから内部を探索して浅い階層からモンスターの発生の確認と種類の確保、地図の作成を行う即応部隊の編制、というのがダンジョン庁内での決められている流れである。新しいギルドマスターの選定はダンジョンについて調査が終わってから、ということになる。
「そうですね。普段ならそこまでで一日がかりの仕事ということになりますが、今回はダンジョン庁としても前の土地にまた復活した、ということでもう一騒ぎする可能性がありますね。いつ発生するかを監視する必要があるかもしれませんが、時間までは正確に解らないとはいえ前の土地に出来上がったことについてどう説明するか、ですね。事前に知っていたのかどうか、ダンジョンマスターとのつながりはないのか。いずれバレる事にはなるでしょうから、これを機にしてある程度までの情報は仕入れることは出来たが新しいダンジョンがどこに出来るのか、いつ出来るのかまでは情報として仕入れることは出来なかった、あたりで留めておくのがいいでしょう」
秘書である多田野が書類を確認してはハンコを押して提出すれば終わり、という段階まで書類を仕上げていく。新規ダンジョンの発見の際に必要になる関連書類を一回分ごとにひとまとめにしてあるおかげで書類棚をひっくり返して書類を探す必要はない。
「どこまで仲良くやってるか、か。つまりこっちで把握してるダンジョンマスターについての情報を公開する必要があるってことにもなるな。ダンジョンマスターはダンジョンに各一人居てダンジョンから出てくることが出来ない。ただし、ダンジョンを踏破されたダンジョンマスターは他のダンジョンマスターが居るダンジョンに出張することはできる。今回ダンジョンが新しく出来るかもしれないという情報を仕入れることが出来たのもそのおかげだ、ダンジョンマスターと連絡をつけられる探索者経由での情報により今回手早く出動することが出来た、ぐらいまでならまだ問題ないよね? 」
多田野から渡された書類に目を通し、ハンコを押していく。このハンコ文化もいい加減無くなってくれた方が便利でいいし腱鞘炎にもかからずに済むのだが、まだそうはなっていないらしい。
「そうですね……実際のところ我々が関与した範囲だとそのぐらいですからね。安村さんが色々と画策はしてくれていますが、そのあたりは伏せておいたほうがいいでしょう。彼に世の中のフォーカスが当たるとかえって進捗の遅れやダンジョンマスターのお目付け役がいなくなることにもなりますし、彼と一緒に居る文月さん、でしたか。彼女にも多大な負担がかかることになるでしょう。本当に彼女がダンジョン庁に入庁するという話になった場合、今の段階でそれが漏れることは避ける必要があると思いますよ」
「当時としては安請け合いしたなあとも思ってはいるが……実績を上げてくれているし、試験無しでも嘱託の扱いで雇うことも考えてはいたんだけど試験を正面から突破してきてくれるならそれに越したことはない。実際には安村さんの功績になるんだろうが彼はそれを望まないだろうし、文月君のほうも特別報酬が出るならまだしもそれ以上のことは望まないだろうからダンジョン庁が表になってその辺を受け止めてあげるだけの度量を見せる所だろうね」
そう言いながら真中は横に置いてあったダンジョン庁の新設組織についての書類を摘まみ上げてパラパラと中身をめくる。
ダンジョン庁探索部。ダンジョン作戦群とはまた別の、探索者を公務員試験段階から募集して新しく作るダンジョン探索部隊の創設。いつかは自前の力での探索が必要であるという理由で以前から新部署の立ち上げを考えていたものが来年から稼働する真中長官肝入りのプロジェクトである。
ただ、細かいことは何も決まっていない。官民共同ダンジョンや官専用ダンジョンをメインに探索を行っていくのか、それとも一般探索者とあまり変わらないように偽装して潜っていくのか。それすらも決まっていない。ただ、即応できる戦力として手元に用意しておくだけの経済的余裕も生まれた。このまま拡大するにしても数を絞って少数精鋭にするにしてもまずは第一歩というところだ。
「うまく行ってくれるといいなあ、ダンジョン庁探索部。防衛省から人員を借り続けているから出てくるレンタル費用の面もそうだけど、ドロップ品についての受け取り配分なんかを話す必要もなくなる。彼らも彼らで言い分はあるだろうからダンジョン作戦群の収入はそのまま防衛省へ流すとして、こっちはこっちで自前の戦力を持ち込んでダンジョン探索、というのも悪くはないよね」
「出だしはかなり悩むことになるでしょうね。戦闘力にも個人差がありますし、求人に引っかかった新卒が既に探索者なのか、今から探索者を始めるのかで開始時点ですでに実力差が出来ることになりますし。それを言えば文月さんなどは特記戦力になります。他の探索者とパーティーを組んで一層からまた順番に鍛えていってくれ、なんてことを注文すれば彼女からクレームが来ることは間違いないでしょう。そっちのほうは最初はダンジョン作戦群の引率が必要かもしれませんね」
真中が頭の後ろを掻きながら悩む。流石に募集要項に探索者ランクの一定基準を満たすことを条件にすることはできない。それではあまりに入庁してくる人間が少なすぎると考えたからだ。なので一から探索者を鍛え上げる前提で組織を組み上げてはいるものの、今度は既存の探索者出身の入庁者との差があり、引率の形で一層から順番に再度クリアさせていく、というのも問題があるというのは多田野が言うまでも無かった。
探索者という仕事があと数年で終わるような仕事なら現状維持のままでいい。しかし、この先社会インフラの維持も含めてダンジョンの産出する資源が支えていく可能性を考えると官庁として出来るだけ補助をしていかなければならない。そのためのダンジョン庁探査部創設である。
出来上がったばかりの官庁の更に出来上がったばかりの部署。問題が起きないはずはなく、この後試験や面接を経てどのような人材が集まるのかもまだ定かではない。どんな人材が手に入るのか、どう運用していくのか。その組織の総責任者は自分がやるとして、誰に細かい運用を任せるのか。
「まだ時間はある。その間に色々と仕込んでおくこともある。まずは目の前のものから片付けていくか」
「そうですね、新ダンジョンについては一仕事終えた、ということで価格改定の続きの話をしますか」
今回はちゃんと家に帰れて飯も食えるし風呂にも入れるしベッドで眠れる。安心して仕事を続ける真中であったが、家で眠るよりも長官室に併設されている仮眠室でダーククロウの枕で眠るほうが疲れは取れる。そう考えてもいた。流石に家に持ち帰って枕だけ……という訳にもいかない。真中は奥さんに枕の購入を打診しようか真剣に考え始めた。
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