963:報連相はきっちりと
ダンジョンで潮干狩りを
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「長官にも連絡を入れたほうがいい内容……それは私が聞いても良い案件なのかな」
ギルマスは自分の仕事が増えるのかな? という感じをしつつも真中長官へまずレインで連絡を取って、今話せるかどうか確認しているようだ。しばらくしてやり取りが終わったのか、パソコンのほうへ椅子を移し、ビデオチャットの用意をし始めた。どうやら時間が取れたようだ。
「安村さん、長官が出るから直接報告よろしく。私も横で聞いてるけど」
「わかりました……ご無沙汰してます、真中長官」
画面に真中長官が出る。髪型はビシッと決まってる辺り、ガチで忙しいという訳では無さそうだ。
「やあ安村さん、元気そうで何より。で、緊急の用件について早速聞こうか。急ぎなんだろ? 」
「大至急、というほどでもないですが。いつ発生する現象になるのかはっきりとは言えないのでお耳に入れておくのは早いに越したことはないと思いましてね。以前からお伝えしていた新しいダンジョンの話についてです」
漏れがないように言葉を選びながら慎重に報告をする。
「新ダンジョン、というと電波が通じるようになった新しい仕組みのダンジョンということで合ってるかな? 君とD部隊の人員と元ダンジョンマスターがそれぞれ知恵を出し合ってなんとか形になって、以前その領域から通信テストを求めてきた例の件だよね」
「そうです。メインに行っているのは熊本第二ダンジョンの元ダンジョンマスター。ガンテツという名前ですが、彼が今のダンジョンをある程度踏襲しつつ新しいダンジョンとして作り直したダンジョンということになります。今までの法則が全く通用しない、というわけではないようですが、それの公開にメドがついたと先ほど報告を受けまして、近々ダンジョンを発生させるので次に踏破されるまでしばらく会えなくなるという話をしたんです」
ダンジョンマスターはダンジョンが開いているうちはダンジョンに自分の所在座標を固定されるために気軽に会いに来たりすることが出来なくなる。よく解らんがそういう法則は破れないらしい。
「期日はいつ、というのはさすがに解らないんだろうかね」
「そこまではハッキリとは答えませんでした。ですが場所はハッキリ指定してきました。熊本第二ダンジョンがあったその場所に、多少のズレはあるにしろ同じ場所に再びダンジョンを開設するということでした」
「なるほど……で、電波が通じる以外に特徴は何かあるのかな? その辺を詳しく聞きたいところだね」
真中長官はそこまでの連絡はある程度予想がついていたのか、大きく驚くような仕草は認められなかった。
「聞いた範囲での変更なので実際の仕組みとは異なってくる部分が出てくる可能性がありますが、解っている範囲で答えます。まず、各マップの構成は四階層おきから二階層おきに変更するそうです。セーフエリアは今まで通り七層おき、ただしマップはセーフエリア専用のマップを用意するそうで、すべてのセーフエリアの見た目は同じになるそうです」
「なるほど、マップが同じ過ぎて飽きる、という話を聞いたことがあるからそれを多少緩和する目的もあるのかな? セーフエリアも同じマップを使いまわすことで確実に休憩所である、ということをハッキリさせることもできるんだろう。そこは好ましい変更だね」
真中長官はウンウンと頷きながらメモ書きでもしているのか、しきりに手元が動いている。確かに本来は文章で報告するような内容だ。それをまとめておくのも大事だろう。視線がこちらへ行ったり手元へ行ったり忙しそうだ。
「それと、今回は二足歩行モンスターをメインに推し進めていくそうです。なので、グレイウルフやワイルドボア、ジャイアントアントなどのモンスターが出なくなる可能性は充分にあります。その分は新しいモンスターを追加してみることでカバーするとは言っていました。ドロップ品も今までのものとは違うものをドロップするそうです」
「ドロップ品が別の物か。具体的には? 」
「ズバリ食品ですね。今回の新ダンジョンは色んな食品がドロップされるダンジョンをコンセプトに設計したみたいです」
「食品だらけのダンジョンか……魔結晶は落ちるのかな」
真中長官にとっては食品が落ちるかどうかよりも魔結晶が今まで通り落ちるかどうかのほうが関心度が高いらしい。確かに、食品は落ちるけど魔結晶が落ちない、そんなダンジョンばかりになってしまうと魔結晶の相場が上がって発電やらなんやらに影響を及ぼす可能性のほうを考慮しているらしい。
「魔結晶は落とす……とは言ってましたが、最終的にどうなるかは不明です。ただ、その現在のダンジョンの進捗から見るにそこまで深い階層までダンジョンが作れないので、踏破されたらまた細かい所を修正して再度出現させるような形にするそうです。なので今回は踏破したらそれで終わり、ということにはならないかと思われます」
「実際に食品にどれだけの価値があるか判断するために、ダンジョン庁が査定でいくらで引き取るかを考える時間も含めて、それだけの時間が稼げる、という風に判断されてるということだな? 」
「おそらくは。ダンジョンとしても魔素をドロップ品として搬出してもらう以上、消え物であることのほうが回転も速く消費される速度を考えてもそのほうが確実に需要がある、と考えたようです」
言葉を一旦切ると、真中長官は書き物を終えてこちらへ向きなおす。
「なるほどね。おおよその話は理解できた。質問だけど、この件がどうして私向けの話だと思ったんだい? 新しいダンジョンが出来るかもしれない、という話だけなら坂野課長が報告を受けてそれを次の会議で話題として提供しておくだけで済むんじゃないかな? 」
何故長官案件なのか、課長止めでも良かったんじゃないか、という話をされる。もっと言えば、ホットラインがあるからと気軽に連絡しすぎじゃないか? とも思われているのかもしれない。
「えっと、それはこうです。ダンジョンマスターの存在が明るみになっている以上、当人より新しいダンジョンが出来ることをあらかじめ聞いておくことが出来ていたのではないか。新しいダンジョンを増やすというのは、同じ場所だとはいえまた新たに増えるのでは踏破した意味がないのではないか、等の疑惑や困惑が出てくると考え、その為の言い訳……回答を考える時間が必要だと思いました」
「なるほど、確かにそれは声明を出すのは私の仕事になるから私に直接伝えるほうが確実ではあるね。他には? 」
真中長官は前半については納得してくれたようだ。自分の仕事をあらかじめ予測してその分の仕事を空けておくだけの時間準備と覚悟は必要だろう。
「新しいダンジョンでは通信環境の整った場所、つまり、各階層内部からリアルタイム通信を用いて地上とのやり取りが可能になります。これはダンジョン探索者がネット配信をおこなったり、現在行われているスキルオーブの取引の連絡をつけやすくする、という方面でもかなり進歩した形のダンジョンとなるでしょう。それが必ず他のダンジョンにも適用されるとは限りませんが、それだけの変更点を盛り込んだ新ダンジョンの出現をダンジョン庁が知っていてあえて知らせずにいるのか、それとも完全に知らなかったという表向きの理由で説明することになるか、それを考えてから説明をすることが出来ます」
「うんうん、確かに、事前に解っていて事細かに準備をしていて何も解っていませんでした、となると矛盾が生じるね。こんなこともあろうかと実働できる即応部隊を準備していました、という風が重箱の隅をつつかれる可能性は少なくなるだろうね」
「また、新しいダンジョンに現れるモンスターについて既存のモンスター事情とは変わってくるでしょうから、探索者ランクと階層の探索範囲についてまた別枠で考える必要が出てくるかもしれません。現在の二十一層に比べて新ダンジョンの二十一層のほうが明らかに難易度が高くなっている、なんて可能性もあります。そのすり合わせを考える時間も必要になるでしょう。それを早めに伝えておけばダンジョン庁全体の混乱を小さくすることが出来ると考えました。それに加えて突然ダンジョンが何処かに出来るという形ではなく旧来の場所に出ることを確実に伝えておくことで現地での準備時間が与えられます。その間に、熊本第二ダンジョン周りの設備を元に戻す事だってできると思いますし、内部確認のためのD部隊員を緊急派遣するための指示書をあらかじめ準備することもできます。具体的にいつ、と期限が決まってない以上、最悪明日にもオープンするでしょうから早急に対応する必要があると考えた、こんな所です」
「ふむ……しかし、思ったよりも早く出来るもんなんだね。もっと来年とかそのぐらいの時期に来ると思っていたよ。まずは報告ご苦労様、と言ったところかな。ところで、ガンテツだっけ、彼はどうやって君の周りにとどめていたんだい? 何かしら袖の下を融通していたんだろう? 」
きっちりバレているらしい。まあ隠していたわけではないからヨシとする、正直に話してしまおう。
「彼自身がこちらの技術と言うか科学レベルについて興味を持っていて、それを吸収するのに楽しみを感じていた部分もありますが、半分はコレですかね」
酒を飲むしぐさをする。すると真中長官の目がカッと開かれ画面に近づいた。
「と、言うことは牛のションベン発言は彼のものだったということになるのかね! それは貴重な人材だ。熊本第二ダンジョンについてはよく注視しておく必要がありそうだ」
そういえばそんな話もしたな。真中長官の中では大事な発言であったらしい。
「覚えてたんですね、あの内容」
「当然だとも。あぁ、できればダンジョンを作る前に一度顔合わせして酒の美味さについて語り合いたいところだったなあ。非常に残念だ」
「そのご様子だと、しばらく机に張りつけになっているようにも見えますが、ちゃんと休みは取れてるんですか? 」
少なくともここ数日家に帰れてない、ということはなさそうだと言うことは真中長官の髪がぴっちりそろっていて肌に修羅場特有のテカりなんかが見えないことからは察することが出来る。
「そうだね。そろそろ価格改定の時期に入るが今回はそれほど大きい変更なんかもない。しいて言えば五十三層以降にドロップするよく解らないインゴット、アレの値段がようやく決められそうだということぐらいかな、伝えられるのは」
お、こいつの値段ついに決まるのか。おいくらで買い取ってもらえるか楽しみだ。多分価格改定にタイミングを合わせてくるだろうから後一ヶ月ちょっと待てば金額が決まるってところかな?
「やっと文字通り重い荷物を下ろせそうですね。結構溜まってますよ? もしかしたらギルドの床が抜けるかもしれません」
「それは良い話だね。数が出回ればより目につくようになって更に新しい利用方法が生み出されて需要も増えるだろうし、そうなれば他のB+ランク探索者やAランク探索者に気張って取りに行けと後押しの声をかけることもできる。やはり供給が一定量あると言うことは大事なことだよ」
他のダンジョンの搬出量、というか深層探索はどうなっているんだろう。やはり四十二層ぐらいまではもう到達していて、四十九層にも届きそうなダンジョンはあるんだろうか。
「ライバル確認という訳ではないんですが、他のダンジョンの進捗はどうなんでしょう。順調に進んでいるんですかね」
「お、やはり気になるかね? 今のところ追いつかれているダンジョンはない。ただ、かなり良いところまで潜りこんでいる探索者は居る、とだけ言っておこうかな。焦らせて怪我されるよりは自分のペースでやって行って欲しいからね。他のダンジョンの探索者からすれば君らの進捗が焦る原因になるだろうが、まあそれは今更だな。切磋琢磨してもらうということで一つ頼むよ」
真中長官は柔らかい笑顔でこちらの目を見てくる。これからも進捗期待してますよ、という気持ちが伝わってくる。暗にサボるなよ、という意味でもあるらしい。
「一つ頼むよ、と言えば相棒の試験結果によってはダンジョン庁にお世話になることになるでしょうから、そっちの根回しも是非お願いしますよ」
「合格してたら、の話だけどね。トップ探索者がダンジョン庁のひも付きで居てくれる、というのはかなり大きいからね。収入の面で今より更に多くの収入を得つつ、とはっきり言い切れることではないができるだけ今の形を崩さないように配慮してあげることはできる……とは思っている。具体的には長官直下の実働部隊としていくつかのダンジョンに分かれてそれぞれのダンジョンで探索を行ってもらう形になるかな。これが上手く回れば防衛省から出向してもらっている人材を徐々に縮小しつつ、その中で人員配置を回せるようにしたいところだね」
ダンジョン庁としては防衛省に人を借りている現状をあまりよくは思っていないらしい。いずれはダンジョンのことはダンジョン庁で自己完結する形を望んでいる、という方針のようだ。どのくらいの採用を見込んでいるのかは解らないしその中に芽生さんが含まれるのかは本人次第だ。
「あまり多くは採用する枠はないけれど、順次拡大していく予定だし初年度は本当に試験運用の段階だ。それぞれ公務員探索者を目指すには理由があるだろうし人によってはホームを離れて地方のダンジョンに赴いてもらう可能性だってある。文月君についての配慮は充分行う。まあ、長官の肝入り、ということである程度無理筋の内容でも通してしまう予定ではある。今のところ心配しなくていい、とだけ伝えておこうかな」
それが聞ければ一安心かな。
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