962:新ダンジョンの時期
ダンジョンで潮干狩りを
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「さて、私はそのまま戻って仕事するけど、安村さんはどうする? このままダンジョン潜る? 」
戻りながらこの後の仕事の話をする。
「そうですね、あと伝えておくような内容は……今のところ思い浮かばないからこのままダンジョン入って日常業務ですかね。もし緊急でこの素材が必要だとかそういう話があるならそっちに向かうことになりますが、そうじゃないならいつも通りドウラクの身集めですね」
茂君とドウラクダッシュは毎日恒例の行事となっているので、例えばシャドウバタフライの鱗粉を欲しがっている団体からオファーが来ているなんて話になっているなら、そっちを優先して集めるのもありだ。さすがにそろそろ一人で回っても問題ない実力はついてきているとと思うし、個人的にもどこまでならソロで潜れるのか、という記録も自分の中で残しておきたい。
「今のところはないね。それも今度の会議次第になると思うけど、まあ怪我だけはしないようにね。今のところ怪我人は無し、という流れで来ているから安全安心なダンジョンという触れ込みはまだ続けて居られてるんだ。これからもよろしく頼むね」
そう言い残すとギルマスは建物のほうへ帰っていった。とりあえず渡すものは渡したし報告することは報告した。やることは残りの今日のタスクを確実にこなすこと、ぐらいか。
せっかくダンジョンまで来て昼飯挟んで報告と相談をしてそれで終わり、では探索者の仕事とは言えない。スーツを着ているからそれが仕事みたいに見えるのかもしれないがそういう訳じゃない。ちゃんと体を動かして今食べた分のカロリーもちゃんと消費しないといけない。
しかし、昨夜頑張った分体に見えない無理をさせている可能性だってある。今日は軽めに回して終わりって事にしようかな。
入ダン手続きをしてリヤカーを引っ張って茂君……と思ったが、昼一で帰ってきた他の探索者が処理した後らしく、遠目から観察した茂君はまだ茂り途中であった。そういうタイミングもある、と六層を途中で引き返して行きの分を諦める。共用資源なんだから茂君は丁重に扱わないとな。
気分を新たにして四十二層まで下りて胃袋も落ち着いた。ここからは……と、少し眠気を感じてきた。やはり睡眠不足が軽く来ているのかな。睡眠欲はスノーオウル睡眠できっちり取り去ったと思っていたが、やはり細やかな不調まではうまく行かないらしい。
さて、どうするか。とりあえず机と椅子を出して座って考える。何も考えずに走りだすこともできるが、それで不調が来ても困る。悩んだ時は細かいタスクをこなしておいてそれから何かをし始めることにしよう。
まずはミルコにお供えだ。お菓子とコーラを取り出してパンパン、と手を二拍。すると、お菓子と入れ違えにガンテツがやってきた。
「よう、久しぶり。顔を見に来たぞ」
機嫌がいいらしいのでどうやら新しいダンジョンづくりは順調に進んでいるらしい。顔を見に来たってことはついでに酒のお代わりも必要だ、というところだろうか。
「会わない間に少し酒が溜まっている。ついでに引き取ってくれ」
保管庫からこれガンテツが好きそうだなと思う酒をいくつかピックアップしてはこまごまと買っていたものをドサッと渡す。
「おぉ、飲んだことの無さそうな奴が一杯……悪いな、なんか要求したみたいで」
「ミルコのおかげで人に美味そうなものを奢る、ということに楽しみを覚えてきたような気がしてきたよ」
まあ金は充分稼がせてもらっているので、そのお礼としては充分安上がりなものでもあるしな。日々の稼ぎに比べたらギルド税未満の誤差程度の金額だ。
これが交際費に入るとなるとまた別の気合が入りそうにはなるが、さすがにダンジョンマスターへの手土産は経費には入らないだろうし、入るとしてもダンジョンマスターに税金周りで査察が入る事もないだろう。そこからダンジョンマスターとのつながりを色々と勘繰られても面倒くさいことになる。これは個人の出費としておいたほうが良さそうだ。
「新しい階層にようやく入り始めたみたいだな。色んな意味で盛り上がってたみたいだぜ」
「耳が早いな。昨日の今日で。もしかして中継でも見てたのか? 」
「まあな。しばらく強くなることに主眼を置いてただけあって危なげない戦闘だったと思うぞ」
昨日の戦いはガンテツも見ていたらしい。やはり新しい階層となると見る側も気合が入るらしい。
「そうか。まあ暴れるように戦うのはもうちょい先だ。まずは偵察ありきだし、次何処に行くか解らない状態でうろうろするのも怖いからな。その内期待しててくれ」
「その頃には俺も佳境に入ってるだろうからな。そろそろお試しで一旦ダンジョンを立ててしまおうかと思っている」
もう新しいダンジョンが出来上がるのか。予想よりも数カ月早いぞ。
「早いな。もっとじっくり作ってから設置するもんだと思ってたぞ 」
「まあたたき台は今あるダンジョンだからな。階層弄ってドロップ弄ってモンスター新しく作って……まあモンスターを新しく設定するのは少々骨が折れたが、そこそこの深さのダンジョンまではもうできてるんだな。後は一回作ってみてお客さんの反応を見て、反応を確認次第一回踏破してもらって再度立て直す、というスクラップビルド方式で進めようと思う」
ダンジョン庁は混乱するだろうな。そしてそのスクラップビルドについて毎回踏破したパーティーにAランクの昇級を送るかどうかでまた問題になるに違いない。やはりどちらも立たせてうまく回らせる、というのは難しいのだろう。
「そうか、そうなるとこれが最後の顔合わせになるかもしれんのか」
ダンジョンが出来上がればダンジョンマスターはダンジョンに固定される。ダンジョンが出来上がると言うことは、ここでこうしてガンテツと他愛もない会話をすることも無くなるということだ。オッサン同士の会話が無くなるのは少し寂しい。
「なに、ダンジョンが無くなるたびに会いに来るからそう寂しそうにするな。お前さんの活躍は遠くからでも、いや他の探索者からすればよっぽど近くから見守ることが出来るんだ。そっちからは見えないだろうが、お前さんの周りには今も多分何人かのダンジョンマスターがこの会話を聞いていることだろうて」
なるほどな。そして食べ物や娯楽目当てで潰されたダンジョンのダンジョンマスターが寄ってくることも十分あり得るわけか。これはAランク探索者よりも上の責任を背負わされているような気がしないでもないな。その分ダンジョン庁から小遣いをせびっても良いぐらいだな。
国からもらえる小遣い……いやいや、今更収入が増えたところで微々たるもの。非課税のお金ならまあ貰ってやらんでもないが課税されるお金が増えたところで税理士さんの仕事が増えるだけ。なら貰ったところで知れた金額だろうし気にする必要はないか。
「そういえばお前さん、この間の戦いで指輪拾ってたのに装備せずにそのままダンジョン庁に預けるって言ってたな。良かったのか? あれ結構良いもんだぞ」
「ダンジョンに悪意あるドロップ品がない、というのは解ってはいるんだが、それでも特に身に着ける物は怖いからな。それに、最終的には誰かがダンジョン庁にドロップ品として渡してその金額を決めてもらう必要がある。なら、出来るだけスムーズに物事が流れるほうがいいからと思ったんだが。そこまでいいものなのか? 」
ガンテツはあの指輪について知っているらしい。というか本当に知りたければミルコに聞けば一発だったのだが、ドロップ品一つ一つに対して事細かくダンジョンマスターに説明をしてもらって、どういう意図でドロップ品として選ばれたものなのかを知る、というのはお互いに面倒な作業だからな。もしこのままダンジョンマスターとの共存という形で世の中が進めばそういう機会も増えるだろうが今のところそこまでは進んでいない。
「あれはな、【物理耐性】の付与効果を持つ指輪だ。流石にスキル一つ分ほどの威力はないが、それなりに効力のあるものだ。そうだな……三つでスキル一つ分ぐらいの効果はあるだろう。装備して自分の実力をアップさせたほうが良かったんではないか? それにスキルを持たなくてもその指輪は効力を発揮するからダンジョンに潜らない一般人にも効果があるぞ」
鑑定結果が回ってくる前に答えを聞いてしまった。三つで物理耐性一つ分、ということは三千万はくだらない品物だということになるな。割といいものをドロップするんだな、あの階層は。物理耐性の指輪があるということは、同じく魔法耐性の指輪も存在する可能性は高まる。ガーゴイルあたりがドロップするんだろうか。
逆に、物理強化の指輪やスキル強化の指輪も存在する可能性が出て来るな。ちょっとワクワクしてきたぞ。
「答えを聞いてしまったついでというわけではないが、新しいダンジョンの件、ダンジョン庁に報告しておいたほうがいいんだろうか。新しいダンジョンが近々前のダンジョンの跡地に出来上がるぞ、と」
「そこはお前さんに任せる。電波が通じるかどうかについても同じだ。上層部は知っていたけどダンジョンマスターからそういうサプライズがあった、という形にしておいたほうが世の中は盛り上がるだろうな。俺の言う範囲の世の中がどのぐらいの範囲になるのかは知らないが」
「ぐむ……うーん……」
そういえば電波の件で既に何度か真中長官には報告はしているんだったな。だとすると黙っていたことについて実際に罰が下る事はないにしろ何で黙ってたの? と問われる可能性はある。それを考えれば報告しておいたほうが良さそうだ。今日はダンジョンを上下して飯食ってしかしてないな。もうそういう日だと諦めるか。何もせずダンジョンに潜った日なんて、一層のエレベーターを動かした時ぐらいしかなかったが。
「これはダンジョンに潜っている場合では無さそうだな。今日は大人しく帰って報告するのを優先した方が良さそうだ」
「そうすると良い。何もない日がたまにあってもいいだろうしな」
決めたら即行動だ。ギルマスが帰る前に報告をして可能なら真中長官にも話を通す。
「場所については前の場所で間違いないんだよね? 」
「数メートルずれる可能性はあるが、約束する。そっちの施設もそのまま流用できるようになった方がいいと前に忠告してくれとるからな」
元の場所に建ててくれることは確定らしい。そこがハッキリしているだけでも混乱は防げるか。ダンジョン庁としても覚悟を決めるだけの少しばかりの心の余裕が出来る。
「そこが確定しているだけでも覚悟はできるってもんだな。じゃあ俺は地上に戻って今日は……今日は何もしないけどいろいろした日としておこうかな」
「がんばれよー、俺は最後の仕上げをしに戻る。機会があればもう一回会えるかもな」
ガンテツが先に転移していったので机と椅子を片付けてエレベーターで一層に戻る。七層に寄って行って茂り具合を確認して一回、というのも考えたがギルマスがその間に帰ってしまう可能性もある。出来るだけ早く報告しに来た、という格好を見せるためにもここは急いで戻ろう。
リヤカー今日は使わないどころか本当に何もしていないがたまにはこう、身体でなく頭を使うだけの日があっても良い。と言っても情報をあっちこっちに移動させるだけの日だが。
一層までのエレベーター数十分が長く感じる。これで時間つぶしのできるものが無ければストレスで数本髪の毛が抜けそうだな。手元の雑誌の最新号を読みつぶしながら一層へ急いでもらう。
もしエレベーターが無ければこの情報を持ち帰るだけでも丸一日作業になり、その間に荷物が増え、そしてヘトヘトになる、という行程を踏むのが当初考えていたダンジョンの仕様だと考えてみると、それに比べたらやはりそれなりに現代に近くなって良かったと考える。
報告だけで終わる話ならいつも通り四十二層でメールを飛ばして終わりになるんだろうが、その後相談事が発生するのが目に見えているので今回はちゃんとギルドに赴く。今日はギルマスの仕事はあまり進まないということになるだろうな。
適当に時間を潰しながら一層へたどり着いて退ダン手続き。受付嬢には手ぶらで帰ってきたのを驚かれたが適当に言い訳をしてその場を取り繕うと、査定カウンターにも支払いカウンターにもよらずそのままギルマスルームへ直行。ノックを三回して入る。
「あれ、安村さん。何か用事思い出したとかそれとも報告のし忘れがあったとか、そういうのかな? 」
「緊急……と言った方が良いかもしれません。真中長官にも話を通しておいたほうがいい案件なので可能ならそっちにも連絡を入れてもらえますか」
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