961:密談は中華屋で
ダンジョンで潮干狩りを
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しばらく雑談にも似た話に興じていると、芽生さんから動画が送られてきたので二人で視聴。動画で動きとモンスターの形を確認。仮称に用いた名前と見た目がだいたい一致したことと、それほど苦戦していないということを認識してもらった。なお、追伸として「腰が痛い」とされていたことは見なかったことにしておく。
「なるほどね。大体の報告内容は理解したよ。それで、どんなものをドロップしてくれたのかな。そっちの方の成果はどうだい」
「実はそれが今のところ一番の問題でして。魔結晶の色が緑から青に変わったのはなんとなくそろそろかなーという認識で居たのですが、ドロップ品がこれとこれなんです」
保管庫から青い魔結晶と鎧の破片とリビングアーマーからドロップした謎の指輪を提示する。
「魔結晶はともかく、これは鎧の破片ってところかな? 色合いからしても間違いないみたいだね。それで、この指輪は一体……? はめてみてもいいかな? 」
指輪を天井の電灯に当ててキラキラさせながらしげしげと眺めるギルマス。頼むからはめないでくれよ。
「一生外れなかったり石化したり鎧になったりしない保証はないですが、それでもいいなら試してみてください」
「ふうん……なるほど、どんな効果があるのかも解らないからダンジョン庁に預ける、ということで良いのかな? 」
短いやり取りで察してくれたらしい。
「できれば、ダンジョン庁の伝手でどんな効果があるのか、あたりを調べていただけると助かります。体感上どうもレアドロップらしくて。今後いくつかは落とすでしょうし、早めに鑑定なり検証なりをしてもらって、出来れば返してくれると助かるのですが」
「そういうことなら承った。後は青い魔結晶だっけ? こっちの価格のほうも出来るだけ早く金額が決められるように対応することをお願いしていくことにしよう……さて、仕事が増えたな」
頭をポリポリ掻きながらギルマスがカタカタッとパソコンにメモを打ち込み始める。おそらく、予定していた内容がちょっと増えた、という所だろう。
「お手数をおかけしますね」
「なに、その分頑張ってくれていることの証明でもある。その辺は任せておいて頂戴……と、そろそろ昼か。安村さん、お昼は? 」
「一応コンビニでいくつか見繕ってきましたが、何処か食べに行くならお付き合いしますよ」
保管庫に放り込んであるのだ、買って放り込んである分は夕食に回せばそれで済むこと。食いに行くのが珍しい人と飯を食うというほうを優先してしまっても問題ないだろう。
「中華屋でいいかい? この辺でサクッと食べるならコンビニか中華屋ぐらいしかなくてね。今日は女房が忙しくて弁当が無かったんだ。ちょうど食べに行く予定だったから一緒に行こう」
予定外の外食だが、まあ財布に問題はないしギルマスと中華屋、というのは過去になかった気がする。それに、あそこのメニューを色々試したいと思っていたところだ。都合は良いな。
「じゃあ、出かけようかね。私が奢ったり奢られたりすると接待扱いになっちゃうから支払いはそれぞれになるけどいいよね? 」
「個人的には交際費というのを使ってみたくはある所ですが、法に引っかかりたくはないですからね。行きましょう」
ギルマスとお昼に出かけることになった。ギルマスと一階に下りる。
「ちょっと安村さんとご飯食べてくるから。その間だけよろしくね」
「あら、珍しい。いってらっしゃい」
支払い嬢がこちらをちらりと見る。話の続きを外でやってくるとでも思ったのか、あっさり承諾される。
そのまま外へ出て中華屋へ。暖簾をくぐると丁度昼時、そこそこの客入りだった。
「なんだ、珍しい組み合わせだな。兄ちゃん怒られてでもいたのか? 」
爺さんが顔を見せる。今日も忙しく働いているようで、声はすれども前まで来て挨拶、という暇があるほどではないらしい。
「ちょっと色々相談事が有って、ちょうど昼時だったんだよ」
「まあいいや、空いてるところ自由に座って注文決まったら教えてくれ」
半分すっぽかされるような接客をされるが爺さんは多分これが素なのか、こっちがもう慣れてくれていると思っているのかお客さんにお任せ、ということらしい。今日は二人なのでカウンターには座らずにテーブル席だ。
「安村さんちょくちょく来るみたいだね。なんかなじみって感じだ」
「始めた当初からまあ通い詰めというほどではありませんけどそこそこは通わせてもらってますし、新しい食材が出た時はいつも一品作ってもらっているんですよ。その程度の仲です」
「なるほど。つまりそこそこ仲が良いって事だね。地元の探索者と地元住民で諍いがないことは良い事だよ、うん」
地主以外はな、とその後に続くかと思ったがそこまではいわずともわかるだろう、といった感じだった。さて、何食べようかな。ここに来ると唐揚げと餃子を必ず頼みたくなるんだが、今日は他のメニューで攻めていこう。
回鍋肉か棒棒鶏か、麻婆茄子か。この辺にしていくか。レバニラもいいな。うーん、悩ましい。
「私日替わり定食ねー」
「じゃ、じゃあ俺はチャーハンと棒棒鶏で」
「あいよー」
早々とメニューを決めてしまったギルマスに押される形でつい注文してしまった。次回の選択メニューが一つ減ったからよしと思っておこう。
「で、あの指輪はどのくらいの割合で落としてくれるんだい? 相当レアっぽいイメージがあるけど」
「まだわかんないですね。倒した数が少なすぎてかなり運が良い段階で落ちてくれた、というところでしょう。もっと千体二千体と倒していって収束させていかないと一口には言えない状態だと思います。それ以外のドロップ……というか魔結晶は必ず、鎧の破片は二割ってところでしょうかね。こっちは割と素直に落ちてくれています」
周りが食事の会話で騒がしいがそのおかげでそこそこ会話の秘匿性が成り立ってくれている。なのでちょっとギリギリの会話でも周りには聞こえないだろう。
「インゴットの件だけどね。いくつかの金属メーカーが興味を示してくれているみたいなんだ。近いうちにまとめて引き取れるなら是非そうしたいという話でダンジョン庁に話が来ている。金額は期待してくれていい。どうやら未知の金属らしくてね。未知だからと言ってバカみたいな金額で引き取ることはできないらしいけど、君らが納得できるだけの金額は用意する、と言っているし、今後需要が伸びるのであればダンジョン庁としても金額の引き合いを釣り上げて行って探索者の利益になるように働きかけるつもりらしい。なのでその時が来たら搬送のほうを頼むよ」
そろそろインゴットも出荷の時期か。待ちに待った、というところだな。
「インゴットの搬入搬出だけで一日作業になりそうですね。リヤカーの加重限界を軽く越えた量ありますから、前みたいに今だけ関係者! で倉庫にこっそり置かせてもらうのが一番有り難いんですが」
「そんなに溜まっているのか。ちなみにどのくらい? 」
保管庫を眺め、メモ帳に数とおそらくの重さを書き記してギルマスに渡す。
「そんなにあるのかね。うーん……手間を考えるとまた今だけ関係者になってもらった方が良いかもしれないね。是非文月君と二人そろってる時に搬入をお願いすることになるかな……大丈夫かな、ギルドの床抜けないかな」
流石に日替わり定食、手際が違うらしく先に到着した。待っててもらうのもアレなので先にギルマスには食べていてもらう。
「他の納品実績のある品物についてはどうですか。今のところ新しく需要が有ったり、そういう話はありませんか。奥へ行くのもそうですが、需要があるドロップ品を出来るだけ多く査定にかける、というのも我々の仕事だと考えているんですが」
「んぐんぐ……それを確認するのが次の会議ってところかな。今のところ君らと高橋君達だけになるだろうけど、ドロップ品に関して大きな動きがあるような話があれば真っ先に伝えるよ。応えてくれるかどうかは君ら次第って話にもなってしまうから難しい所だけどね。こっちから伝えたら実質命令みたいなものになってしまわないかい? 」
ちゃんとその辺は気を使ってくれるようだ。高額になる商品ほどギルド税の面からは利益になるが、社会的な利益を考えるとその限りではない、というところは解っているが、それでもこっちの負担にならない程度には、と考えてくれている辺りありがたみを感じる。
と、ここで俺の棒棒鶏とチャーハンが届く。早速頂く。棒棒鶏のサッパリ具合とチャーハンの相変わらず油をどれだけ使ってるか解らないぐらいのパラパラ具合の米が口の中で混ざり合い、中々に複雑なハーモニーを奏でる。
「他のダンジョンの進捗なんかも次の会議でってことなんですかね。最近他のダンジョンの踏破の話もないのでそのまま深く進んでるものと察しはしますが……? 」
「そうだね。踏破しきったダンジョンもダンジョンマスターに深く作ってもらえるよう交渉して、深く作ってもらって長引かせている最中かな。多分君の耳にもある程度は入ってるだろうけど、日本の各ダンジョンは踏破よりも掘削方面に舵を切ってるよ。ただ、断るダンジョンマスターも中には居てね。そこに関してはタイミングを見計らって踏破、という形にしようかと思っている。少なくとも大手のダンジョンはみんな協力的でね。元々ドロップ品の搬出量が多くて深く潜ってるもんだから、より深くを望んで向こうのダンジョンマスターもそれに応えてくれている形だね」
ふむふむ。新しいダンジョンについてはとりあえず急ぎで作る必要は無さそうってところかな。今度ガンテツに会ったら……いや、彼の創作意欲を減退させるのは良くないな。この事は黙っておこう。
「これもエレベーターのおかげといえばそうになる。予想よりも深くまで探索者が素早く潜って攻略していくおかげでダンジョンマスター達も攻略されないために焦りだしたってことかな。お互いに刺激を与えあうのは良い事だよね。今のところ小西ダンジョン限定ドロップ品になっているいくつかについても、順次他のダンジョンで階層が作られて解放され次第供給が増えることになる。そうなれば社会的にもより広く門戸が開かれて有用なものがより確実に手に入るようになる。ダンジョン側もドロップ品の形で魔素がどんどん持ち出されて彼らの仕事が捗る。誰も損しない素晴らしい関係が築けるというものだよ」
一足早めに日替わりを食べ終えたギルマスが水を飲んで一息つく。
「ところで安村さん、改めて聞くけどAランクに興味ある? 」
「今のところないですけど……もしかして、ダンジョン庁の方針として踏破させない方向性に向かわせるから、Aランク探索者のなり手を増やしてより探索者間の競い合わせを活性化させる、という案でも出てるんですか」
「案だけは出されたけど、今のところ却下はされてるね。とは言っても安村さん達のこれまでの功績は非常に大きい。ダンジョンを踏破しなくても、既にAランク探索者以上の実力と実績は積みあげ終わっていると私と真中長官は判断している。興味が湧いたら申請してくれればすぐにでも発行する段階にはある、とだけ言っておこう」
Aランクか……その上を更に目指すという物が無くなるのは一つ寂しい所だが、それにこだわる理由はないな。
「芽生さんとも話し合って、今のところB+ランクで問題が無ければそのままってところですかね。例えば一定階層以下に潜るにはAランクである必要がある……なんて変更をかける予定があるならその時改めて申請しますよ」
「ま、そんなところだよねー。予想はしてたよ。念のため確認は取ったって事でこれでこの話は無しだ。無理に聞きなおすのは無しとしよう。これで一応私の仕事も一つ終わったことになる」
仕事が一つ終わった、か。Aランク探索者が何かしら問題でも起こしてるんだろうか。多分ダンジョン庁側の都合なんだろうが、今は首を突っ込むまい。首を突っ込んでも金にならんと芽生さんなら言い出すだろう。
「ふぅ、御馳走様。棒棒鶏も美味かった。次来たら何を食べようかな」
ギルマスから遅れて数分、チャーハンの最後の一口を食べ終わり、水を飲んでごちそうさまする。
「一日ダンジョンに籠ってると中華屋にもそうそう来ないんじゃない? もうちょっと頻繁に来てあげてよ。君なら深層のドロップ食品をこっそり納品できるだろうし」
「そういえばそろそろ何か新しいのが出てきても良さそうな階層ですね。カニの次は何が出てくるんでしょうね」
「楽しみだねえ。出たら私にも食べさせてね」
「覚えておきますよ。もっとも今の階層を見る感じしばらく先になりそうですが」
それぞれ会計をして店を出る。日差しと湿度から、もう暑い季節が来ていることを感じさせられる。探索者始めて二度目の夏か。ツナギで暑い中フル装備で来なくなった分、去年より幾分か涼しく過ごせると良いんだが。
作者からのお願い
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